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「ここは異世界だよ」編

一話めぇ~ 「異世界だよ! その証拠に…」

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 【俺】と【ぷるん】はそこにいた。
 気がついたら広い草原にぽつんと立っていた。

 どうしてここにいるのか思い出そうとした。
 覚えているのは、俺が幼馴染みのぷるんを家に誘ったこと。
 誘い文句は「お医者さんごっこしようぜー」だったのはかろうじて覚えている。

 いや、違うんだ。変なことをするつもりじゃないんだ。
 単純に興味があっただけだ。何の?
 いやそれは…そりゃお前、中二にもなれば毎日が素敵な妄想の中にいるようなもんだ。
 聞くのは野暮だな。

 しかし、それからの記憶がない。
 なんでないんだ!
 どうしてここにいるかより、そっちのほうが重要なのに!!

 うぉおおお! 思い出せない!!
 パラダーーーーーーイス!! カムバァァアアーーークッ!!

「ねえ? シゲキ君なの?」
「何言ってんだ、お前。当たり前だろう」

 空に向かって叫んでいた俺ことシゲキがそう言うと、幼馴染みでお医者さんごっこの相手であったぷるん(本名)が俺を見つめて「シゲキ君」を連発している。

 そんなに連呼されたら照れるぜ、ベイベー。
 まあ、悪ガキ仲間からはやんちゃなやつってことで「刺激君」なんて呼ばれているけどな。読み方同じだが。

「へー、シゲキ君かー」

 それから何回か顔を触る。
 おいおい、いくら幼馴染みだからってそんな積極的でいいのかな?

 俺だって男。男は獣だよ。
 場合によっちゃ吠えるぜ。

「ふーん、そうなんだ」

 ぷるんはラズベリー色の髪の毛を揺らしながら何かを納得したようだ。
 まあ、いまさら俺の魅力に気がついても遅いけどな。

 ぷるんは家が隣の同い年の女の子だ。
 同じ一四歳、中二だな。

 歳のわりにはまだ小学生みたいな顔つきで身体も小さい。胸以外は。
 こいつ、やたら胸がでかいから、俺じゃなくても変な妄想をするかもしれないな。

 あくまで俺視点だが顔も可愛いからけっこう学校じゃ有名だ。
 有名なのは顔というより、その奇行のせいかもしれないが…。

 可愛いがちょっと思考回路が変な女の子ってやつだ。
 まあ、そうじゃなければお医者さんごっこには付き合わないよな。

 カモォオオオン!

「シゲキ君、ここ異世界だよ!」

 いきなりかよ!!! どんだけ飛躍だ!!

 まただ。またこの妄想が出た。
 ぷるんはこうした【異世界物】の小説が好きで、よく俺に話を聞かせてくれる。
 だが、その内容のほとんどはまったくもって俺には興味がなかった。

 だって異世界だぜ? ハーレムじゃないんだぞ。
 自慢じゃないが、俺の興味はそんな空想よりも下のほうに向かって一直線だったからな。
 【下】をどう読むかは、みんなの想像に任せるぞ。

「じゃあ、異界だよ」

 全然違う!!!!? 響きが全然違うよ!!!!!
 それなら異世界のほうがいい。
 つーか、二者択一なのか!?

「はーっははは! ぷるん、それはないよ。きっと一緒に駆け落ちしたんだな」
「えー、シゲキ君とはしないよ。あはははは」

 言っちゃったよぉおおおぉぉおぉおおおおお!!
 ストレートすぎる!!
 しかも乾いた笑い付きだ!!!

 異世界なんて、そんな簡単に来れるものじゃないだろう。
 それに自分たちの世界だって俺からすれば十分異世界だけどな。

 鉄が空を飛んでいたくらいだ。
 もともと不思議がいっぱいだったぞ。

「異世界だよ! 絶対そうだよ!」
「おいおい、何か証拠でもあるのか?」

 仕方ない。少し付き合ってやろう。
 付き合ってやれば、お医者さんごっこの続きをさせてくれるかもしれないし。

 へっへっへ。

「証拠? あるよ」

 意外だがあるらしい。ぜひ聞きたいね。

「シゲキ君、あそこに池があるでしょ? それが証拠だよ」
「は? 池?」

 ぷるんが指さした場所には、たしかに池がある。
 小さな池で、幅は二メートルくらいだ。

「まさか押すつもりじゃないだろうな? やめろよ。言っておくが振りじゃないぞ」

 芸人なら「押すな」=「絶対に押せよ」だが、俺はそんな趣味はない。
 こんな野生味溢れる草原地にある、あんな池には寄生虫とかいそうだから冗談でも嫌だ。

「押すな! 絶対に押すなよ!! お前ならやりかねんからな!」
「押さないよ。早く、早く!」
「わかったよ、まったく…」

 俺は仕方なしに池を見た。
 池には青い空と一緒に間抜けな顔をした【ヒツジ】が映っていた。

 眠そうな目、たるんだ顔。
 なんというか落ちこぼれって顔だ。
 たまにいるよな、こういうやつ。

「ははは。見ろよ、アホみたいな顔をしたヒツジがいるぜ」
「ヒツジだね」
「ああ、ヒツジだよな、どう見てもさ」

 俺が笑うとヒツジも笑う。
 こいつ、俺を見て笑いやがった。
 生意気なやつだ。

「ねえ、ヒツジって誰だと思う?」

 ぷるんが謎かけをしてきた。深い、深すぎる問いだ。

 ヒツジが誰かだって?
 そもそもヒツジさんを誰という段階ですごい発想だ。

 ヒツジなんて物だぞ。器物損壊扱いだ。
 あんなものは誰とは言わない。

 それでもぷるんは、じっと俺を見つめてくる。
 その視線は非常に好奇心に満ちたものだ。

 少し嫌な予感がした。

 ぷるんがあの表情をしたときは【面白いもの】を見つけたときなのだ。
 俺はもう一度池を見る。するとヒツジも見る。

 俺は笑う。ヒツジも笑う。
 ウィンクしてみた。ヒツジもウィンクする。

 さだまさしの関白宣言を歌ってみた。
 なんとヒツジも歌った。

 まさか…

「ヒツジ…オレ?」

 その俺の問いに、ぷるんは笑顔で答える。





「ヒツジ、オマエダ」





「ヒツジ、オレダヨ!!!」


 ヒツジ、こいつだ。




 俺だけヒツジかよぉおおおおおお!!!



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