上 下
21 / 45
「ここは異世界だよ」編

二十一話めぇ~ 「田中という男」

しおりを挟む
「あら、早かったのね。カードならできているわよ」

 ギルドに入って受付に行くと西久美さん声のネリー・モヒが声をかけてくれた。

「あっ、サンドシャーク倒してきました」
「ああ、知ってるわよ」

 俺が言うとネリー・モヒは「わかっていましたよ」というラーメンマンばりの笑顔を見せる。
 え? 知ってるの? なんで?

「昨日反応が消えたからね」

 どうやら討伐指定されているモンスターには事前に生体反応を確認する装置が取り付けられているらしい。
 マーカーってやつだな。銃で撃ってつけるそうだ。

「シゲキ君、ペット禁止だよ」
「だから入れろよ!!!」

 主人公入れないのっておかしいだろう!!
 って、このツッコミ何度やらせるんだよ!!

「戦闘に参加しているヒツジなら大丈夫よ」

 ほら、ほら!! モヒだってそう言っているじゃんか!!
 なあ、いいんだよな!?
 主人公、入っていいんだよな!?

「シゲキ君、必死すぎなのキモいよ」

 お前がハブるからだろうぅうううううう!!!
 俺だって好きでヒツジじゃねえんだよ!!
 ギルド入りたいぞ、おい!!

「あれ? シゲキ君ってギルドに入りたかったっけ?」

 …たしかに。
 いつの間にかそういう流れになっていたから気がつかなかったが、俺はべつに冒険者やりたいわけじゃなかった。

 でもなんつーのかな。
 ちょっとRPGの真似事してみて「これ、面白いかも」なんて思ったりしたんだわ。

 そりゃ、死ぬのは嫌だぜ。何度死んでも好きになれない。
 が、俺だって男だ。冒険は嫌いじゃない。
 男は何歳でも少年ボーイなんだよ。

「少年とボーイって同じ意味だよ」
「お前がツッコムな!!」
「シゲキ君は、自分の領域に入ってくる者に容赦なく厳しいね」

 まるでおぼっちゃまくんのような台詞だが、こいつにだけはツッコまれたくないのだ。
 現状のすべての災難はこいつから生まれているからな。


「じゃあ、これで本格的に冒険者だね。晴れて無罪だよ」

 そうだな。冒険者だ。
 犯罪歴を消すためになったんだよな。
 ほんと、そんな話聞いたことないよ。

「一応言っておくが、無実ではないからな」

 ここは俺も一言厳しく言わねばならない。
 法律で裁かれずともやったことは変わらないのだ。

 無罪だから赦されるわけでもない。これが現実の厳しいところだ。
 俺たちは一生十字架を背負って生きねば…

「ひゃっほー、最高の気分だね! この金で豪遊しようよ!」

 だから無実じゃねええって言ってんだろうぅうううううううう!!!
 少しは反省しろよな!!

「シゲキ君、所詮すべては道具だよ。割り切らなくちゃ」

 お前は割り切りすぎるんだよ!

 ぷるんの精神力は半端ない。
 俺が何を言おうと相手が何をしようと常に笑っていやがる。
 こいつは笑いながら敵を殺せる女だ。

 しかも戦闘中にダメージを負っても痛がるそぶりもない。
 大量出血したときも動じてなかったしな。
 ヒツジ戦士自体がタフなのかもしれんが、実に恐ろしい。

 でも、本当に消えたのか?
 一応確認してみたいな。

「あんたたち、犯罪歴なかったわよ」

 え? 嘘!?
 じゃあ、あれは特に犯罪じゃなかったの?

「でも、俺たちやっちまったんですけど…」

 あまり言いたくはないが、とりあえず申告しておこう。
 ここはちゃんと確認しないとな。

「シゲキ君、黙っておこうよ。ないって言っているんだからさ」
「お前は黙ってろ!!」

 なんつーか、もう完全に犯罪者の思考だよな、こいつ。
 普通の小説だったら脇役で出てきそうな性格をしておる。


 で、俺たちの一件を話してモヒに調べてもらった結果。

「うーん、田中って人知ってる?」

 残念ながら知っている。
 ついさっき仲間になった無職の人だ。

 とりあえず無職なので外に置いてきた。
 いや、べつに無職なのはいいんだが…正直あまり会いたくないよな。

 気まずいというか、ちょっと性癖変だし。
 自分のことを棚にあげるようで悪いが、キモいんだよな…リアルで。
 完全に変態だもんな。

「それなら田中がお金持ち逃げしたって書いてあるわよ」

 田中さぁあああーーーーーん!!!
 キモイって思ってごめんなさーーーーい!!

 ええええええぇぇぇえぇ!!
 田中さんが身代わりになってたの?

 いや、たしかにそういう状況にも見えるけど、ちょっと想定外だって。
 田中さん、まさか俺たちのために…

「シゲキ君、あんなの田中でいいよ」

 恩人に呼び捨てするなよぉおおおお!

「もしくはエテ吉でいいよ」

 ターちゃんのアニメを久々に見たからだろ!!
 エテ吉やっぱりキャラ立ってるな、とか思ったからだろ!!

「なんだ、じゃあ無理してやらなくてよかったね。損したなー」

 あんな変な触覚で五百万を手に入れておき、しかも罪を他人が被ったのを知ってもこの態度。
 なんて恐ろしいやつだ。

 まあ、サンドシャーク戦ではけっこうダメージ受けたし、がんばってはいるんだけどな。
 少しは痛い目に遭ったからいいのだが、思えばすべては保身のためだったりもする。

「血が出ると面白いよね。なんていうか血がたぎるっていうかさ。燃えるよ。相手を殺したくなる」

 違う。何か違う。
 俺とはまったく感想が違う。
 なにこのバトルジャンキー。怖い。

「やっぱり関係者だったのね。はい、田中の分のカードもあるわよ」

 ええええ!? いらない!!
 それすごくいらない!!
 それをもらっちゃったら、あの人仲間確定になっちゃわない!?

 しかも田中さんはさっき改名したばかりなのに誰もがすでに最初から田中であるような口振りだ。
 やはり田中は田中なのか。

「おい、田中。お前のカード、いくらで買う?」

 売るなよぉおおおおーーーー!
 こんだけ迷惑かけているんだからあげろよ!!

「はぁはぁ、焦らしプレイ最高!」

 喜んじゃった!!
 この人、本当につらい! いろいろな意味でつらいよ!!


「なあ、これからどうするよ」
「そうだね。素材売ってもいいけど、まずはシャワーとか浴びたいよね。宿屋行く?」
「いや、そうじゃなくてさ…」

「あっ、シゲキ君は外で洗うんだよ。みんなの迷惑になるからね」
「いいから聞けよ!!」

 こいつはいちいちヒツジであることを強調しやがる!!
 なんてやつだ!!

 俺が言っているのは、田中さんとかこういう部外者を入れていいのかって話だ。
 やっぱり異世界だからさ。

 こっちの情報とかあまり知られないほうがいいと思うんだ。
 本当は仲間にしたくないし。

「いいんじゃない。アイテムだし」

 ん? アイテム?
 何がアイテムなんだ?
 すまん。もう一度言ってくれないか。

「田中さんってアイテムだよ。ほら、見て」

 ぷるんがステータスの道具欄を見せる。
 そこには「アイテム『無職田中』」と書いてあった。

 ええ? どういうこと?
 田中さんってアイテムなの?
 でも人間だよ?

「NPCとかって従属させると召喚アイテムになるんだよ」

 牧場物語では町中のNPCを雇ったり、特定のイベントをこなすとアイテム化して持ち運べるようになるらしい。
 ゲームにおいては牧場経営の際の人手にしたりするそうだ。

 えーーー、じゃあ田中さんっていつでもしまったりできるの!?
 なにそれ、いいの?

 ねえ、田中さんはいいの?
 袋とかに入れられたり、ポケットに入ったりするんだぞ? いいの?

「はぁはぁ、ご主人様のポケットの匂い…全身でエクスタシーー!」

 ダメだ。この人ダメだ。
 もうできるだけ関わらないようにしたい。
 というか初めて人に対して死んでほしいと思った。

 関係ないが、牧場物語ってゲームが本当にあるんだな。
 この前ヨドバシ行ったら売っていてびっくりしたよ!!

 きっと牧場経営しながら魔王を倒すゲームなんだと思う。
 みんなもぜひやってみてくれ。

「じゃあ、宿屋行こうね」

 俺たちはアイアムタウンの中にある宿屋に向かった。
 宿屋もいくつかあって、ボロ屋から高級宿屋までピンキリだ。

 金があるのでシャワーのある普通の宿屋で今日は泊まることにした。
 といっても俺は馬小屋なんだが…

 まだ昼間なので、これからどうしようか。

「私はシャワー浴びてから合流するから、シゲキ君は先に田中と市場に行っててよ」

 サンドシャーク戦ではアイテムを全部使ったわけではないが、その使い方で課題が出たのは間違いない。
 何より俺は回復ドリンコを開けられないという致命的欠陥が判明した。
 これは緊急で改善しないといけない問題だ。

「武器欲しいね」

 認識が違う。
 やはりこいつとは考え方が違う。

 とはいえ、ニッキーを失ったときの攻撃方法がないのも困るな。
 篭手はあるが、あのレベルのボスではちょっと心許ない。

 鉄のナイフは回収できなかったし、代わりを買わねばならないのはたしかだ。
 それに俺の武器もなんとかしたいよな。


 俺と田中さんはぷるんと別れ、市場に向かう。
 二人で歩く。
 一人と一匹で歩く。

「……」
「……」

 気まずいーーーーーー!
 何かとても気まずい!
 ほとんど初対面だしさ、ぷるんみたいな関係じゃないしさ、難しいよな。

 リアルだったらさ、普通に「仕事どうですか?」とか「どこに住んでいるんですか?」とか話せるけど、無職確定だしな。
 しかも俺たちのせいで犯罪歴までついちゃってさ、本当に申し訳ないんだよ。

 そうだよな。何か話さないと…

「あの、田中さん…」
「私のことは田中と呼び捨てにしてください」

 もっと気まずくなったよぉーーー!
 なんかさ、こういう対応されると言うことなくなるよ!!!

 しかもガチガチの敬語だし、正直あまり話したくないよ。
 顔怖い。いっさいの表情もないよー。
 NPCなんだろうけど、嫌だよー!

 俺はひどくつらい十分間を味わって、ようやく市場に着いた。
 ここに来たら少しは話題くらいあるだろう。

「田中さ…じゃなくて、田中、服買います?」

 そういえば無職だから汚れた服を来ているんだよな。
 金はあるから少しはましなものを買ってあげたい。
 もともとは田中さんが勤めていた店の金だし。

「汚いので大丈夫です」

 汚いのは認識してるーーーー!
 それでも身につけている理由も薄々わかるから、ここはツッコまないでおこう!

「ぷるん様からシゲキ殿の手助けをするように言われております。何なりとご命令ください」

 シゲキ殿?
 俺は今、コミケで聞いたある人間の会話を思い出した。
 買い物が終わると無線機で「○○殿、ミッション、コンプリート! 繰り返す、ミッション、コンプリート!」と言って去っていったやつがいた。

 おそらく分担で並んでいたんだろうな。
 そんな感じのキモさがここにはある。

「回復ドリンコを何とかしたいんだけど、わかります?」

 うう、やっぱり敬語になっちまう。
 だって年上だしさ、気になるよな。

 俺はぷるんとは違って良識人なんだよ。
 いきなり呼び捨てとか難しいんだよ。

「では、あれなどどうですか?」

 田中さんが指さしたのは、水色の水筒だった。
 ストローが付いていて、チューチュー吸えるらしい。

 ぷるんは傷にかけていたが、飲んでも効果はあるらしいので、最初から何本か開けて入れておけばいいとのことだ。
 おお、それはいいな。ぜひとも欲しい。

 つーか、田中さんけっこう使える!!
 この世界の住人なので、システムを知っているから使える!!


「じゃあ、買ってきます」


 チャチャッチャーーーン♪
 田中の交渉が開始

 田中は値下げを要求。
 相手は拒否。
 田中は威圧した。

「おい、さっさと下げないと酷い目に遭うぞ」

 店主はびびった。


 何か始まった。
 唐突に何かが始まった。

 音楽も変わったし、明らかに違うものが動き出したようだ。
 雰囲気的にはロマサガ3のトレードっぽい感じだ。

「あれは田中の交渉スキルだよ」

 いつの間にかぷるんが来ていた。

「ぷるん、知っているのか?」
「あれは四千年前、中国で発祥したという伝説のスキルだよ。こんなところに使い手がいるとは思わなかったけど、私たちはとんでもないやつを仲間にしたもんだよ」

 ぷるんの顔は驚愕の色に染まっていた。
 俺にはただの交渉に見えるが、すごいスキルなんだな!!
 田中さん、がんばれ!!!


 田中はさらに威圧した。

「おい、さっさとそれをよこせ!」

 店主は応援を呼んだ。
 サングラスをかけた人たちがやってきた。

 田中は連れていかれた。




 ガスッ ボコッ











 田中は死んだ。











「田中さぁああーーーーーーん!!」



しおりを挟む