10 / 18
Case.4 慎と澪 第1話:二十歳の再会と、狂わされる計算
しおりを挟む
地元の成人式。
懐かしい顔ぶれが並ぶ市民ホールの前で、俺は一際輝く「白」を見つけた。
清楚な白い振袖に、少し背伸びをしたようなアップヘア。
中学、高校と同じクラスで、俺、蓮山 慎(はすやま しん)がずっと……それこそ狂うほど追いかけてきた椎野 澪(しいの みお)だ。
美しい彼女に、思わず目を奪われる。
「慎ー! 何ぼーっとしてんだよ、次行くぞ!」
地元の悪友たちに肩を叩かれ、俺は「分かってるって」と微笑み返して、彼女から視線を外した。
俺は、地元の仲間はもちろん、大学の同級生にだって、見た目通りのチャラ男だと思われている。
それでいい。
そうでもしてないと、彼女と同じ大学に合格するために、ガリ勉して必死に追いかけたなんて……重すぎて引かれるに決まっている。
彼女が法学部の1号館によくいることも、学食ではうどん派なのも、全部知っている。
中高時代は、クラスメイトとして、それなりに親しくしていたと思う。
でも、大学では一度も話しかけられていない。
***
「……椎野、それ以上飲むな。お前、酒初めてだろ」
二次会の居酒屋。
チャラついた仲間の輪から抜け出し、俺は一人でカクテルを空けている彼女に声をかけた。
真面目な椎野のことだ。
どうせ今日が「酒解禁」の日なんだろう。
「……ん、……はすやまくん? ……ひさしぶりぃ……」
ふわっと笑った彼女の頬は林檎のように赤く、瞳はトロンと潤んでいた。
「あ、蓮山くん! 澪と同じ大学だよね?」
隣にいた女子グループの一人が、俺に気づいて声をかけてきた。
「この子、このまま都内のアパートに帰るって言ってるんだけど、かなり酔ってて……。悪いんだけど、一緒に送ってあげてくれない?」
「え、実家に泊まるんじゃないのかよ」
俺が訊き返すと、「なんか明日、どうしても外せないバイトがあるらしくてー」と困り顔で返された。
偶然……いや、必然か。
俺ももともと実家に泊まる荷物を持ってくるのが面倒で、大学近くの部屋に戻るつもりだった。
「……分かった。俺も向こう戻るから、見ておくわ」
「ありがとー! 助かる!」
女子たちが去り、俺は改めて目の前の「酔っ払い」を見下ろした。
「え、何それ。……お前、一口でそれかよ」
「……しんくん、お酒、おいしいねぇ。……みて、ふわふわするの……っ」
椎野が、無防備に俺の腕に抱きついてくる。
密着した場所から伝わる、柔らかい感触と甘い香りが、俺の理性をじりじりと削っていく。
おい、周りの男たちがこっち見てんぞ。自覚あんのか。
「……帰るぞ。都心まで二時間半、このままじゃお前、絶対駅で潰れる」
俺は、自分の上着を椎野の肩に無理やりかけ、もう帰るのかよーと悪態をつく友達を振り切り、彼女を店から連れ出した。
各駅停車の長い帰り道。
ガタゴトと揺れる電車内で、俺の肩に頭を乗せ、太ももを無自覚に撫でまわしてくる椎野。
「……しんくんのにおい、……落ち着くぅ……」
「……椎野。……いい加減にしろ。俺、お前が思ってるほど善良な奴じゃねーから」
俺の低い声さえ届いていないのか、椎野は俺の首筋に熱い吐息を吹きかけ、メロメロに甘えてくる。
終着駅まで、あと二時間。
俺の、人生で一番長い「介抱」が始まった。
***
ようやく辿り着いた、都心の最寄り駅。
二時間半の「拷問」のような電車移動で、俺の理性はすでに風前の灯火だった。
「……椎野、歩けるか? ほら、住所言え。送ってやるから」
「……んん、……しんくん、……だっこ……」
「……はぁ? ふざけんな、重てーよ」
口では毒づきながらも、フラフラと線路に落ちそうな彼女の細い腰を抱き寄せる。
柔らかい身体の感触がダイレクトに伝わってきて、心臓に悪い。
だが、何度問いかけても椎野の口から住所が出ることはなかった。
挙句の果てには俺の胸元に顔を埋めて、すやすやと寝息を立て始める始末だ。
「……クソ。マジでどうしろってんだよ」
放置するわけにもいかず、かといって泥酔した彼女を連れて夜道を彷徨うわけにもいかない。
俺は結局、最寄り駅から徒歩五分の自分のマンションへと、椎野を連れ帰るしかなかった。
「……よっと。……ほら、着いたぞ。ここ俺の家。とりあえず寝ろ」
ベッドにそっと横たわらせ、せめて窮屈そうな上着だけでも脱がせてやろうとした……その時だ。
「……っ、……いかないで、……しんくん……」
ガシッ、と。
寝ていたはずの澪の手が、俺の首にしがみついた。
そのまま力任せに引き寄せられ、俺の視界は彼女の白い肌と、甘い酒の香りでいっぱいになる。
「……椎野、お前、……これ以上はマジで……」
「……しんくん、…なんで大学で、話しかけてくれないの?」
「……っえ?」
驚きで動きが止まった。
隠し通してきた俺の執着。
追いかけていたのは俺だけだと思っていたのに。
無防備に俺を求める瞳と、潤んだ唇。
俺の中で、数年分の理性が音を立ててぶち切れた。
「……あー、もう……。……知らないからな。明日、泣いて謝っても許さねーぞ」
俺は、自分を誘うように見つめてくる彼女に覆いかぶさり、その唇を強引に奪った。
懐かしい顔ぶれが並ぶ市民ホールの前で、俺は一際輝く「白」を見つけた。
清楚な白い振袖に、少し背伸びをしたようなアップヘア。
中学、高校と同じクラスで、俺、蓮山 慎(はすやま しん)がずっと……それこそ狂うほど追いかけてきた椎野 澪(しいの みお)だ。
美しい彼女に、思わず目を奪われる。
「慎ー! 何ぼーっとしてんだよ、次行くぞ!」
地元の悪友たちに肩を叩かれ、俺は「分かってるって」と微笑み返して、彼女から視線を外した。
俺は、地元の仲間はもちろん、大学の同級生にだって、見た目通りのチャラ男だと思われている。
それでいい。
そうでもしてないと、彼女と同じ大学に合格するために、ガリ勉して必死に追いかけたなんて……重すぎて引かれるに決まっている。
彼女が法学部の1号館によくいることも、学食ではうどん派なのも、全部知っている。
中高時代は、クラスメイトとして、それなりに親しくしていたと思う。
でも、大学では一度も話しかけられていない。
***
「……椎野、それ以上飲むな。お前、酒初めてだろ」
二次会の居酒屋。
チャラついた仲間の輪から抜け出し、俺は一人でカクテルを空けている彼女に声をかけた。
真面目な椎野のことだ。
どうせ今日が「酒解禁」の日なんだろう。
「……ん、……はすやまくん? ……ひさしぶりぃ……」
ふわっと笑った彼女の頬は林檎のように赤く、瞳はトロンと潤んでいた。
「あ、蓮山くん! 澪と同じ大学だよね?」
隣にいた女子グループの一人が、俺に気づいて声をかけてきた。
「この子、このまま都内のアパートに帰るって言ってるんだけど、かなり酔ってて……。悪いんだけど、一緒に送ってあげてくれない?」
「え、実家に泊まるんじゃないのかよ」
俺が訊き返すと、「なんか明日、どうしても外せないバイトがあるらしくてー」と困り顔で返された。
偶然……いや、必然か。
俺ももともと実家に泊まる荷物を持ってくるのが面倒で、大学近くの部屋に戻るつもりだった。
「……分かった。俺も向こう戻るから、見ておくわ」
「ありがとー! 助かる!」
女子たちが去り、俺は改めて目の前の「酔っ払い」を見下ろした。
「え、何それ。……お前、一口でそれかよ」
「……しんくん、お酒、おいしいねぇ。……みて、ふわふわするの……っ」
椎野が、無防備に俺の腕に抱きついてくる。
密着した場所から伝わる、柔らかい感触と甘い香りが、俺の理性をじりじりと削っていく。
おい、周りの男たちがこっち見てんぞ。自覚あんのか。
「……帰るぞ。都心まで二時間半、このままじゃお前、絶対駅で潰れる」
俺は、自分の上着を椎野の肩に無理やりかけ、もう帰るのかよーと悪態をつく友達を振り切り、彼女を店から連れ出した。
各駅停車の長い帰り道。
ガタゴトと揺れる電車内で、俺の肩に頭を乗せ、太ももを無自覚に撫でまわしてくる椎野。
「……しんくんのにおい、……落ち着くぅ……」
「……椎野。……いい加減にしろ。俺、お前が思ってるほど善良な奴じゃねーから」
俺の低い声さえ届いていないのか、椎野は俺の首筋に熱い吐息を吹きかけ、メロメロに甘えてくる。
終着駅まで、あと二時間。
俺の、人生で一番長い「介抱」が始まった。
***
ようやく辿り着いた、都心の最寄り駅。
二時間半の「拷問」のような電車移動で、俺の理性はすでに風前の灯火だった。
「……椎野、歩けるか? ほら、住所言え。送ってやるから」
「……んん、……しんくん、……だっこ……」
「……はぁ? ふざけんな、重てーよ」
口では毒づきながらも、フラフラと線路に落ちそうな彼女の細い腰を抱き寄せる。
柔らかい身体の感触がダイレクトに伝わってきて、心臓に悪い。
だが、何度問いかけても椎野の口から住所が出ることはなかった。
挙句の果てには俺の胸元に顔を埋めて、すやすやと寝息を立て始める始末だ。
「……クソ。マジでどうしろってんだよ」
放置するわけにもいかず、かといって泥酔した彼女を連れて夜道を彷徨うわけにもいかない。
俺は結局、最寄り駅から徒歩五分の自分のマンションへと、椎野を連れ帰るしかなかった。
「……よっと。……ほら、着いたぞ。ここ俺の家。とりあえず寝ろ」
ベッドにそっと横たわらせ、せめて窮屈そうな上着だけでも脱がせてやろうとした……その時だ。
「……っ、……いかないで、……しんくん……」
ガシッ、と。
寝ていたはずの澪の手が、俺の首にしがみついた。
そのまま力任せに引き寄せられ、俺の視界は彼女の白い肌と、甘い酒の香りでいっぱいになる。
「……椎野、お前、……これ以上はマジで……」
「……しんくん、…なんで大学で、話しかけてくれないの?」
「……っえ?」
驚きで動きが止まった。
隠し通してきた俺の執着。
追いかけていたのは俺だけだと思っていたのに。
無防備に俺を求める瞳と、潤んだ唇。
俺の中で、数年分の理性が音を立ててぶち切れた。
「……あー、もう……。……知らないからな。明日、泣いて謝っても許さねーぞ」
俺は、自分を誘うように見つめてくる彼女に覆いかぶさり、その唇を強引に奪った。
0
あなたにおすすめの小説
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
御曹司の極上愛〜偶然と必然の出逢い〜
せいとも
恋愛
国内外に幅広く事業展開する城之内グループ。
取締役社長
城之内 仁 (30)
じょうのうち じん
通称 JJ様
容姿端麗、冷静沈着、
JJ様の笑顔は氷の微笑と恐れられる。
×
城之内グループ子会社
城之内不動産 秘書課勤務
月野 真琴 (27)
つきの まこと
一年前
父親が病気で急死、若くして社長に就任した仁。
同じ日に事故で両親を亡くした真琴。
一年後__
ふたりの運命の歯車が動き出す。
表紙イラストは、イラストAC様よりお借りしています。
年下研修医の極甘蜜愛
虹色すかい
恋愛
医局秘書として市内の病院に勤務する廣崎彩27歳。普段はスマートに仕事をこなすクールな彼女だが、定期的にやって来る「眠れない夜」に苦しんでいる。
そんな彩に、5年越しの思いを寄せる3歳年下の藤崎仁寿。人当たりがよくて優しくて。仔犬のように人懐っこい笑顔がかわいい彼は、柔和な見た目とは裏腹に超ポジティブで鋼のような心を持つ臨床研修医だ。
病気や過去の経験から恋愛に積極的になれないワケありOLとユーモラスで心優しい研修医の、あたたかくてちょっと笑えるラブストーリー。
仁寿の包み込むような優しさが、傷ついた彩の心を癒していく――。
シリアスがシリアスにならないのは、多分、朗らかで元気な藤崎先生のおかげ♡
*****************************
※他サイトでも同タイトルで公開しています。
ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。
イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。
きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。
そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……?
※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。
※他サイトにも掲載しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる