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第十二章 ブレーメンの音楽
191.狼に噛みつく犬のように
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「ねえ、シーちゃん。お茶会に行かない?」
ある日、グィネヴィアがそんなことを言って来た。
それに私は即答する。
「行かない」
「シーちゃん!?」
グィネヴィアが驚いた顔をするけど、私からすれば、グィネヴィアがそんなことを言ってきたことに驚く。
なぜなら、グィネヴィアは『行かない?』と言ってきたのだ。
『来ない?』と言ってきたわけではない。
つまり、グィネヴィアが主催するお茶会ではない。
おそらくは、どこかの貴族の令嬢が主催するお茶会だろう。
そんなものに、私は招待されていない。
そして、招待されていないところに行くほど、私は常識知らずではない。
・・・・・
そういえば、招待状もないのに、城の舞踏会に行ったことはある気がする。
でもあれは、行ったというより、忍び込んだという表現が適切だ。
常識知らずじゃなかったかと言われたら、常識知らずな行動ではあったけど、あれは分かっていてやったのだ。
だから、ノーカウントだろう。
それはともかく、そんなわけで常識人である私は断ったのだけど、グィネヴィアはしつこく誘ってくる。
「お茶会で、シーちゃんに会ったことがないって言っている娘がいたから、今度連れて行くって言っちゃったの」
『いる』というか、お茶会を開くような貴族の令嬢は、全員、私に会ったことはないだろう。
なにせ、私が貴族の令嬢に会ったことがない。
せいぜい、見かけたことがある人間がいるかも知れないという程度のはずだ。
「お願い。私を助けると思って。ね!」
それを理由に、グィネヴィアは私を誘ってくる。
確かに、王女ともあろう者が約束したことを実現できないなんて、恥をかくことは間違いないだろう。
だから、必死に私にお願いする、というのは理解できる。
けど、『連れて行くって言っちゃった』か。
あり得ないだろう。
王女としての教育を受けているはずのグィネヴィアが、そんな不用意な発言をするはずがない。
絶対にわざとだ。
グィネヴィアは、必死に私にお願いする、という状況を作るために、わざと私に事前に確認せずにそんな発言をしたのだ。
おそらく、私が断ることを予想して、私が断れない状況にしたのだ。
個人的にはグィネヴィアが恥をかこうと、どうでもいいのだけど、この国を訪れている他国の王女に恥をかかせるのは、あまりよいことではない。
ハーメルン王国の王様やグィネヴィアを見ている限りでは、そんなことくらいで外交問題になるとは思えないけど、他の人間はそうは考えないだろう。
他国の王女に恥をかかせたことを理由に、面倒なことを言ってきそうな気がする。
「・・・・・わかったわ」
私は諦めたように、そう答える。
「ありがとう!」
その答えを聞いて、グィネヴィアは花が咲いたような笑顔を見せる。
けど、その笑顔を素直に信じることはできない。
やはり、グィネヴィアは油断がならないようだ。
*****
そんなわけで、グィネヴィアに連れられてお茶会に来たのだけど、
「シンデレラ様、お茶のおかわりはどうですか?」
「いただきます」
はっきり言って退屈だ。
参加者は、見たこともない貴族の令嬢が数人とグィネヴィア、そしてオマケの私。
貴族の令嬢は王女であるグィネヴィアのご機嫌取りで忙しく、積極的に私に話しかけるような奇特な人間はいない。
私も積極的に話をしようとは思わないから都合がよいのだけど、することが全くない。
することがないからお茶を飲んで、空になったら気を遣った人が注いでくれる。
さっきから、それを繰り返している。
けど、
「先ほどから何杯も飲んでいらっしゃいますが、よほど気にいられたのですね」
「ええ、まあ・・・」
このお茶があまり美味しくない。
手持ち無沙汰で飲んでいるだけだ
いや、美味しくないというのは語弊がある。
やたらと甘いのだ。
しかも、お茶菓子も甘い。
見栄を張るために、高級品である砂糖をたくさん使っているのだろうけど、とにかく甘さしか感じない。
百歩譲ってお茶菓子が甘いのはいいだろう。
でも、それならお茶は甘い方が合うと思う。
シルヴァニア王国で飲んだ緑茶なんかが合いそうだ。
そんなことを言ったら、お茶会を開いた人が恥をかくことになるから、言わないけど。
気を遣うつもりは全くないのだけど、プライドの高い貴族に恥をかかせて絡まれたりしたら面倒だ。
「ところで、グィネヴィア様はアーサー王子とご婚約されないのですか?私達、今か今かと楽しみにしておりますのよ」
そんな感じで時間を潰していると、いつの間にか話題が恋愛関係に移っていた。
貴族の令嬢がグィネヴィアにアーサー王子のどこが好きかを聞いて、グィネヴィアがそれに答える。
その流れで、今の質問になったようだ。
グィネヴィアはハーメルン王国にいたときから、アーサー王子への好意を隠そうとしていないから、今さら私も驚いたりはしない。
ハーメルン王国はアーサー王子に夜這いをしかけてきたグィネヴィアだけど、この国にきてからは工房に通うくらいで大人しいものだ。
私に迷惑がかからないなら、好きにしたらいいと思う。
私はそう考えているのだけど、貴族の令嬢はそうは考えていないようだ。
今の質問も、私を挑発するような雰囲気があった。
まあ、婚約者の前で、別の女性にその相手との婚約を勧めているのだから、意図は分かる。
私がアーサー王子の婚約者として相応しくないと主張しているのだろう。
貴族は言い回しが面倒くさい。
後々不利にならないように、持って回った言い方をして明言を避けるくせに、主張はしっかりとする。
「うーん、シーちゃんがアーちゃんと正式に結婚した後かな。ねえ、シーちゃん。早くアーちゃんと結婚しない?」
貴族の令嬢の言葉に対して、グィネヴィアはのんきにそんなことを言う。
グィネヴィアは王女の割に、持って回った言い回しはしない。
そこは面倒くさくなくてよいのだけど、私に話を振らないで欲しい。
案の定、貴族の令嬢は、私の反応に注目している。
私は持って回った言い方なんてできないけど、なんて答えようか。
「アーサーが望むならね」
とりあえず、責任をアーサー王子に押し付けておく。
こう言っておけば、アーサー王子を立てていることになるし、私にしつこく言ってくることもないだろう。
そう思ったけど、私のことをアーサー王子に相応しくないと考えている貴族の令嬢にとっては、今の言葉は格好の的だったようだ。
「つまり、シンデレラ様が今だにアーサー王子と婚姻を結んでいないのは、アーサー王子のご意志ということですね」
どうやら、アーサー王子も私が婚約者として相応しくないと思っているのだと主張したいようだ。
「そうですね」
でも、否定して言い合いになるのも面倒なので、肯定しておく。
言葉の真意は分かるけど、相手も明言していないわけだから、否定しようが肯定しようが私も明言していることにはならない。
そのはずなのだけど、貴族の令嬢は言質を取ったとばかりに、さらに饒舌になる。
「グィネヴィア様、シンデレラ様もこう言っておられますし、気を遣って遠慮なさる必要はございませんわ。アーサー王子に婚約を申し入れてはいかがでしょう」
強引にグィネヴィアにアーサー王子との婚約を勧めている。
必死なようにも見える。
ここまで来ると、私にもなんとなく分かった。
これは、ただ恋愛話で盛り上がっているわけじゃない。
グィネヴィアとの縁を強固にしたいという意図があるのだろう。
グィネヴィアは王族とは言っても他国の人間だ。
だから、せっかく縁ができても、得られる利益は少ない。
そこで、グィネヴィアをこの国の人間にして、得られる利益を増やそうというのだろう。
王族と親しいということになれば、グィネヴィアから直接何かを貰えなくても、その立場を利用するだけで、得られる利益は大きいのだと思う。
「うーん。けど、順番は守らないといけないしね」
でも、これで話の中心はグィネヴィアに戻った。
私はのんびり見学させてもらうことにする。
このお茶会はやることが無くて暇だけど、喜劇を観ているとでも思えば、時間を潰すことはできそうだ。
劇を盛り上げる滑稽な主役は、グィネヴィアに婚約を勧めている、名前も知らない貴族の令嬢だろうか。
グィネヴィアを脇役にするなんて、なかなか大物だ。
「気になさることはありませんわ。婚姻を結んでいないのはアーサー王子のご意志なのですから、そういう状況も想定されているはずです」
「うーん。でも、後から好きになったのに、順番を抜かして割り込むなんて図々しいよね」
「それこそ気になさることはありませんわ。そもそも、アーサー王子にシンデレラ様は相応しくありません。グィネヴィア様の方が相応しいです」
おお。
持って回った言い方を好む貴族にしては珍しく明言したな。
けど、そんな性格には見えないから、話に熱中して、うっかりといったところだろう。
しかも、本人を前に相応しくないとか、大胆な発言だ。
というより、私なんか目に入っていないんだろうな。
舐められているのだと思う。
まあ、物理的に舐められでもしない限り、私に迷惑はかからないから、かまわないけど。
そんなことを考えながら、盛り上がってきた喜劇を観劇する。
「シーちゃんが、アーちゃんに相応しくない?」
「はい」
「なんで?」
この国における私の立場を知らないのか、グィネヴィアが首を傾げる。
でも、おかしいな。
貴族の令嬢はもとより、城のメイドとも交流があるグィネヴィアが、私の立場を知らないなんてことがあるのだろうか。
てっきり、そのあたりの情報収集も兼ねて、色々なところを出歩いているのだと思っていたのだけど。
そんなことを考えている間にも、喜劇は続く。
「シンデレラ様は貴族ですけど、田舎の小さな領地を治める家の出身です。しかも、家では使用人と同じ扱いを受けていたと聞きますから、教養があるとも思えません。本来、アーサー王子とは出会うことすらできないはずの人なのです」
よく調べているな。
ぽっと出でアーサー王子の婚約者になった女が何者か気になって調べたのだろうか。
「ふーん」
それを聞いたグィネヴィアは、相槌こそ打っているけど、さほど驚いた様子はない。
知っていたのだろうか。
そうだったとしても、おかしくはない。
「きっと、女性に慣れていないアーサー王子を誘惑して、婚約者の立場を手に入れたに決まっています」
事件を解決する探偵のように断言する貴族の令嬢。
しかし、残念、はずれだ。
私はまだ処女だし、そんなことはしていない。
それにしても、本人である私を前に、言いたい放題だな。
さすがに何人かは言い過ぎだということに気付いて気まずそうな顔をしているけど、言っている人間はそれにすら気づいていないようだ。
グィネヴィアに、彼女の味方であることを、必死にアピールしている。
「なるほど、あなたは、そう考えるのね?」
グィネヴィアが、貴族の令嬢に笑顔でそう尋ねる。
「はい!」
貴族の令嬢が、笑顔でそれに答える。
自分の主張がグィネヴィアの耳に入って満足なのだろう。
その返事を聞いて、グィネヴィアは笑顔のまま頷く。
「つまり、あなたは、我が国の危機を救ってくださった彼女を、この国の王子の婚約者として相応しくないと言いたいのね?」
「は!・・・・・い?」
気高い狼に擦り寄って媚びていたつもりが、誤って噛みついてしまっていた哀れな野良犬のように、貴族の令嬢の笑顔が固まった。
ある日、グィネヴィアがそんなことを言って来た。
それに私は即答する。
「行かない」
「シーちゃん!?」
グィネヴィアが驚いた顔をするけど、私からすれば、グィネヴィアがそんなことを言ってきたことに驚く。
なぜなら、グィネヴィアは『行かない?』と言ってきたのだ。
『来ない?』と言ってきたわけではない。
つまり、グィネヴィアが主催するお茶会ではない。
おそらくは、どこかの貴族の令嬢が主催するお茶会だろう。
そんなものに、私は招待されていない。
そして、招待されていないところに行くほど、私は常識知らずではない。
・・・・・
そういえば、招待状もないのに、城の舞踏会に行ったことはある気がする。
でもあれは、行ったというより、忍び込んだという表現が適切だ。
常識知らずじゃなかったかと言われたら、常識知らずな行動ではあったけど、あれは分かっていてやったのだ。
だから、ノーカウントだろう。
それはともかく、そんなわけで常識人である私は断ったのだけど、グィネヴィアはしつこく誘ってくる。
「お茶会で、シーちゃんに会ったことがないって言っている娘がいたから、今度連れて行くって言っちゃったの」
『いる』というか、お茶会を開くような貴族の令嬢は、全員、私に会ったことはないだろう。
なにせ、私が貴族の令嬢に会ったことがない。
せいぜい、見かけたことがある人間がいるかも知れないという程度のはずだ。
「お願い。私を助けると思って。ね!」
それを理由に、グィネヴィアは私を誘ってくる。
確かに、王女ともあろう者が約束したことを実現できないなんて、恥をかくことは間違いないだろう。
だから、必死に私にお願いする、というのは理解できる。
けど、『連れて行くって言っちゃった』か。
あり得ないだろう。
王女としての教育を受けているはずのグィネヴィアが、そんな不用意な発言をするはずがない。
絶対にわざとだ。
グィネヴィアは、必死に私にお願いする、という状況を作るために、わざと私に事前に確認せずにそんな発言をしたのだ。
おそらく、私が断ることを予想して、私が断れない状況にしたのだ。
個人的にはグィネヴィアが恥をかこうと、どうでもいいのだけど、この国を訪れている他国の王女に恥をかかせるのは、あまりよいことではない。
ハーメルン王国の王様やグィネヴィアを見ている限りでは、そんなことくらいで外交問題になるとは思えないけど、他の人間はそうは考えないだろう。
他国の王女に恥をかかせたことを理由に、面倒なことを言ってきそうな気がする。
「・・・・・わかったわ」
私は諦めたように、そう答える。
「ありがとう!」
その答えを聞いて、グィネヴィアは花が咲いたような笑顔を見せる。
けど、その笑顔を素直に信じることはできない。
やはり、グィネヴィアは油断がならないようだ。
*****
そんなわけで、グィネヴィアに連れられてお茶会に来たのだけど、
「シンデレラ様、お茶のおかわりはどうですか?」
「いただきます」
はっきり言って退屈だ。
参加者は、見たこともない貴族の令嬢が数人とグィネヴィア、そしてオマケの私。
貴族の令嬢は王女であるグィネヴィアのご機嫌取りで忙しく、積極的に私に話しかけるような奇特な人間はいない。
私も積極的に話をしようとは思わないから都合がよいのだけど、することが全くない。
することがないからお茶を飲んで、空になったら気を遣った人が注いでくれる。
さっきから、それを繰り返している。
けど、
「先ほどから何杯も飲んでいらっしゃいますが、よほど気にいられたのですね」
「ええ、まあ・・・」
このお茶があまり美味しくない。
手持ち無沙汰で飲んでいるだけだ
いや、美味しくないというのは語弊がある。
やたらと甘いのだ。
しかも、お茶菓子も甘い。
見栄を張るために、高級品である砂糖をたくさん使っているのだろうけど、とにかく甘さしか感じない。
百歩譲ってお茶菓子が甘いのはいいだろう。
でも、それならお茶は甘い方が合うと思う。
シルヴァニア王国で飲んだ緑茶なんかが合いそうだ。
そんなことを言ったら、お茶会を開いた人が恥をかくことになるから、言わないけど。
気を遣うつもりは全くないのだけど、プライドの高い貴族に恥をかかせて絡まれたりしたら面倒だ。
「ところで、グィネヴィア様はアーサー王子とご婚約されないのですか?私達、今か今かと楽しみにしておりますのよ」
そんな感じで時間を潰していると、いつの間にか話題が恋愛関係に移っていた。
貴族の令嬢がグィネヴィアにアーサー王子のどこが好きかを聞いて、グィネヴィアがそれに答える。
その流れで、今の質問になったようだ。
グィネヴィアはハーメルン王国にいたときから、アーサー王子への好意を隠そうとしていないから、今さら私も驚いたりはしない。
ハーメルン王国はアーサー王子に夜這いをしかけてきたグィネヴィアだけど、この国にきてからは工房に通うくらいで大人しいものだ。
私に迷惑がかからないなら、好きにしたらいいと思う。
私はそう考えているのだけど、貴族の令嬢はそうは考えていないようだ。
今の質問も、私を挑発するような雰囲気があった。
まあ、婚約者の前で、別の女性にその相手との婚約を勧めているのだから、意図は分かる。
私がアーサー王子の婚約者として相応しくないと主張しているのだろう。
貴族は言い回しが面倒くさい。
後々不利にならないように、持って回った言い方をして明言を避けるくせに、主張はしっかりとする。
「うーん、シーちゃんがアーちゃんと正式に結婚した後かな。ねえ、シーちゃん。早くアーちゃんと結婚しない?」
貴族の令嬢の言葉に対して、グィネヴィアはのんきにそんなことを言う。
グィネヴィアは王女の割に、持って回った言い回しはしない。
そこは面倒くさくなくてよいのだけど、私に話を振らないで欲しい。
案の定、貴族の令嬢は、私の反応に注目している。
私は持って回った言い方なんてできないけど、なんて答えようか。
「アーサーが望むならね」
とりあえず、責任をアーサー王子に押し付けておく。
こう言っておけば、アーサー王子を立てていることになるし、私にしつこく言ってくることもないだろう。
そう思ったけど、私のことをアーサー王子に相応しくないと考えている貴族の令嬢にとっては、今の言葉は格好の的だったようだ。
「つまり、シンデレラ様が今だにアーサー王子と婚姻を結んでいないのは、アーサー王子のご意志ということですね」
どうやら、アーサー王子も私が婚約者として相応しくないと思っているのだと主張したいようだ。
「そうですね」
でも、否定して言い合いになるのも面倒なので、肯定しておく。
言葉の真意は分かるけど、相手も明言していないわけだから、否定しようが肯定しようが私も明言していることにはならない。
そのはずなのだけど、貴族の令嬢は言質を取ったとばかりに、さらに饒舌になる。
「グィネヴィア様、シンデレラ様もこう言っておられますし、気を遣って遠慮なさる必要はございませんわ。アーサー王子に婚約を申し入れてはいかがでしょう」
強引にグィネヴィアにアーサー王子との婚約を勧めている。
必死なようにも見える。
ここまで来ると、私にもなんとなく分かった。
これは、ただ恋愛話で盛り上がっているわけじゃない。
グィネヴィアとの縁を強固にしたいという意図があるのだろう。
グィネヴィアは王族とは言っても他国の人間だ。
だから、せっかく縁ができても、得られる利益は少ない。
そこで、グィネヴィアをこの国の人間にして、得られる利益を増やそうというのだろう。
王族と親しいということになれば、グィネヴィアから直接何かを貰えなくても、その立場を利用するだけで、得られる利益は大きいのだと思う。
「うーん。けど、順番は守らないといけないしね」
でも、これで話の中心はグィネヴィアに戻った。
私はのんびり見学させてもらうことにする。
このお茶会はやることが無くて暇だけど、喜劇を観ているとでも思えば、時間を潰すことはできそうだ。
劇を盛り上げる滑稽な主役は、グィネヴィアに婚約を勧めている、名前も知らない貴族の令嬢だろうか。
グィネヴィアを脇役にするなんて、なかなか大物だ。
「気になさることはありませんわ。婚姻を結んでいないのはアーサー王子のご意志なのですから、そういう状況も想定されているはずです」
「うーん。でも、後から好きになったのに、順番を抜かして割り込むなんて図々しいよね」
「それこそ気になさることはありませんわ。そもそも、アーサー王子にシンデレラ様は相応しくありません。グィネヴィア様の方が相応しいです」
おお。
持って回った言い方を好む貴族にしては珍しく明言したな。
けど、そんな性格には見えないから、話に熱中して、うっかりといったところだろう。
しかも、本人を前に相応しくないとか、大胆な発言だ。
というより、私なんか目に入っていないんだろうな。
舐められているのだと思う。
まあ、物理的に舐められでもしない限り、私に迷惑はかからないから、かまわないけど。
そんなことを考えながら、盛り上がってきた喜劇を観劇する。
「シーちゃんが、アーちゃんに相応しくない?」
「はい」
「なんで?」
この国における私の立場を知らないのか、グィネヴィアが首を傾げる。
でも、おかしいな。
貴族の令嬢はもとより、城のメイドとも交流があるグィネヴィアが、私の立場を知らないなんてことがあるのだろうか。
てっきり、そのあたりの情報収集も兼ねて、色々なところを出歩いているのだと思っていたのだけど。
そんなことを考えている間にも、喜劇は続く。
「シンデレラ様は貴族ですけど、田舎の小さな領地を治める家の出身です。しかも、家では使用人と同じ扱いを受けていたと聞きますから、教養があるとも思えません。本来、アーサー王子とは出会うことすらできないはずの人なのです」
よく調べているな。
ぽっと出でアーサー王子の婚約者になった女が何者か気になって調べたのだろうか。
「ふーん」
それを聞いたグィネヴィアは、相槌こそ打っているけど、さほど驚いた様子はない。
知っていたのだろうか。
そうだったとしても、おかしくはない。
「きっと、女性に慣れていないアーサー王子を誘惑して、婚約者の立場を手に入れたに決まっています」
事件を解決する探偵のように断言する貴族の令嬢。
しかし、残念、はずれだ。
私はまだ処女だし、そんなことはしていない。
それにしても、本人である私を前に、言いたい放題だな。
さすがに何人かは言い過ぎだということに気付いて気まずそうな顔をしているけど、言っている人間はそれにすら気づいていないようだ。
グィネヴィアに、彼女の味方であることを、必死にアピールしている。
「なるほど、あなたは、そう考えるのね?」
グィネヴィアが、貴族の令嬢に笑顔でそう尋ねる。
「はい!」
貴族の令嬢が、笑顔でそれに答える。
自分の主張がグィネヴィアの耳に入って満足なのだろう。
その返事を聞いて、グィネヴィアは笑顔のまま頷く。
「つまり、あなたは、我が国の危機を救ってくださった彼女を、この国の王子の婚約者として相応しくないと言いたいのね?」
「は!・・・・・い?」
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