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痴漢退治13

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「おい! はなせよ!」

 捕まっている痴漢が暴れます。
 しかし、捕まえている手を振り解くことはできません。
 これは捕まえている方が特別に力が強いということではないと思います。
 捕まっている方が非力なのです。
 なぜなら、背丈がとても小さく、腕も細いからです。
 ついでに、ランドセルも背負っています。

「小学生?」

 やんちゃそうな男の子です。
 この子がスカートめくりの犯人のようです。

「子供のイタズラだったみたいだね」

 ソラが言います。
 その通りのようです。
 でも、だからと言って無罪放免というわけにはいきません。

「イタズラした子にはお仕置きしないとね」

 小さい頃から女の子のスカートをめくる、つまり、パンツに興味を持つなど、ろくな大人になりません。
 この子が成長して犯罪者にならないためにも、調教、もとい、教育しないといけません。

「な、なんだよ。まさか、ちょっとスカートをめくったくらいで、ぼうりょくをふるうつもりか? ようじぎゃくたいだぞ!」

 男の子は少し不安そうな顔をしましたが、まだまだ強気です。
 反省の色が見られません。
 逆ギレというやつです。
 これは、お仕置きの前に、自分が悪いことをしたのだと教えなければならないでしょう。
 理由を説明せずにお仕置きすると、単なる暴力になってしまいます。

「ねえ、なんでスカートめくりなんてしたの?」

 私は目線を合わせて尋ねます。
 普通に立ったまま話すと、こちらが上から見下ろす形になるので、子供は威圧的に感じるのです。
 すると、怯えるか反抗するかして、素直に話してくれなくなります。
 後からお仕置きするとはいえ、まずは話をしなければなりません。
 私の問いに男の子が答えます。

「……がっこうではやってるんだよ」
「スカートめくりが?」
「ああ」

 無邪気な子供にありがちな、悪ノリというやつでしょう。
 先生が気付いていたら注意すると思いますが、この年頃の子供はなかなか言うことを聞きません。
 反抗期というやつです。
 でも、子供同士の悪ノリだとしても、学校の外でやってはいけません。
 下手をすれば事故や犯罪に繋がります。
 事実、今回は痴漢騒ぎになりました。
 そのことを教えなければならないでしょう。

「どうして、学校の外でスカートめくりをしたの? 同学年の女の子のパンツじゃ、物足りなかったの?」
「ち、ちがう! パンツをみるのがもくてきじゃない!」

 ませた子供が大人のパンツに興味を持ったのかと思ったのですが、男の子は強く否定してきました。
 しかし、スカートめくりをしておいて、パンツに興味がないというのは、無理がある言い訳だと思います。
 私が信じていない顔をしていることに気付いたのでしょう。
 男の子が慌てて補足してきます。

「うそじゃないぞ! ほんとだぞ! パンツがギリギリみえないところをねらうんだ!」
「……なぜ、そんなことを?」

 意味が分かりません。
 私の認識ではスカートめくりというのは、パンツを見るための行為です。
 なぜ、わざわざ、ギリギリ見えないようにするのでしょう。

「ギリギリみえないようにすると、まるではいていないようにみえるんだ! しょくにんわざなんだぞ!」
「…………」

 ダメです。
 この子は手遅れです。
 もはや抜け出せない闇に足を踏み入れてしまっています。
 教育は無理そうです。
 そしてそれは、この子だけの話じゃありません。
 学校で流行っていると言っていましたから、この子の通う学校全体がダメかも知れません。
 将来を担う子供がこんな様子では、日本の未来はお先真っ暗です。
 私が絶望を感じていると、後ろで声が上がります。

「わかる!」
「ソ、ソラ?」

 私は自分の耳と目を疑いました。
 ソラが嬉しそうに男の子に同意していました。

「そうだよね! 安易に下着や裸を見せたらいけないよね! 最近はブルーレイで湯気や光を消したりするけど、邪道だよね! そんなものに頼らないで、ギリギリの描写をするのがいいんだよね!」

 どうも、ソラはアニメのことを言っているようです。
 幼馴染のはずですが、こんなこだわりを持っているとは知りませんでした。
 いえ、私も色気を強調するだけの魔女っ子モノは、邪道だと思っていますが。
 同志を得たと思ったのが、男の子も嬉しそうな顔をします。

「おねえちゃん、はなしがわかるな!」

 この場に女性は私だけなのですが、『おねえちゃん』というのは私ではなくソラのことです。
 ソラが女装をしているので、そう思ったのでしょう。
 今のソラが美少女なのは事実なので、とりあえず否定しないでおきます。

「おねえちゃんは、わかるひとだ! こっちのパンツが見えそうなおねえちゃんとはおおちがいだ!」

 私は『パンツが見えそうなおねえちゃん』らしいです。
 魔女っ子衣装は確かにスカートが短いですが、ひどい評価です。
 心の中でお仕置きポイントを+1しておきます。

「でも、キララの魔女っ子衣装は可愛いでしょ?」

 フォローのつもりはソラが可愛いと言ってくれます。
 けれど、男の子は残念そうな人を見る目をこちらに向けて、首を横に振ります。

「かわいいけど、ふつう、でんしゃのなかできないよね。みんな、ひいてたじゃん」
「は、ははっ、そんなことないよ。きっと、可愛くて近寄りづらかっただけだよ」

 …………

「そんなことあるって。おねえちゃん、ともだちはえらんだほうがいいよ。おねえちゃんまで、ちじょのなかまだとおもわれるよ」
「キ、キララは痴女じゃないよ」

 心の中でお仕置きポイントを+10しておきます。
 
「あ、あの、姐さん。子供の言うことですから、お仕置きはほどほどに……」

 男の子を捕まえている男子学生が、おずおずと私に言いました。
 それに対して、私は答えました。

「なぜ?」
「なぜって、えっと……なんでもありません」
「そう。納得してくれて嬉しいです」
「納得したわけじゃ……いえ、なんでもありません」

 さて、お仕置きの時間です。
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