白雪姫は処女雪を鮮血に染める

001.プロローグ

　美しい母だった。
　常に鏡を見て、自分の美しさを保っていた。
　流れるような髪。
　水晶のような瞳。
　熟れた果実のような唇。
　絹のような肌。
　そして、それを飾るドレスも、当たり前のように美しい。
　全てが完璧だった。
　私は母がその美しさを誰のために保っているのかを知っていた。

　優しい父だった。
　自分の子供に対してだけでなく、どの子供に対しても優しかった。
　子供が泣いていれば頭を撫でる。
　子供がお腹を空かせていれば食べ物を与える。
　子供が心細そうにしていれば側に寄り添う。
　子供が震えていれば抱きしめて温める。
　どのような子供に対しても、分け隔てなく優しかった。
　その優しさが尽きることは無かった。
　私は父が子供に優しくする理由を知っていた。

　私は王女だった。
　美しい母と優しい父を両親に持つ、この国のお姫様だった。
　母譲りの美しさは、白い雪のようだと言われた。
　母譲りの美しさを持つ私に、父は優しかった。
　母譲りの美しさは、周囲の人間に嫉妬を抱かせた。
　母譲りの美しさを持つ私に、周囲の人間は優しかった。
　私は白雪姫と呼ばれた。
　白い雪のような美しさを褒めた呼び名か、白い雪のように何も知らない無知を貶した呼び名か、どちらかは知らない。
　でも私は、林檎を食べた直後に、口から溢れ出す血の理由を知っていた。