白雪姫は処女雪を鮮血に染める

かみゅG

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002.回想(幼少期)

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 私は小さい頃、両親の愛情をあまり感じたことは無かった。
 母は鏡を見るのに忙しく、父は私以外の子供の相手をするのに忙しかった。
 だから、両親が私のために裂いてくれる時間は少なかった。
 でも、私がそのことに我儘を言うことは無かった。
 母の美しさは、私にとって誇りだった。
 父の優しさは、私にとって誇りだった。
 だから、我儘を言うことができなかった。
 でも、だからこそ、たまに父がお風呂に入れてくれるのが、嬉しかった。
 仕事で執務室に居るときや、視察で孤児院に行くときに、私の相手をするわけにはいかなかったのだろう。
 そんな中で、私のために時間を確保してくれたのが、お風呂だったのだと思う。
 当時の私は、そう考えていた。

 父はまるで、私に寂しい想いをさせていることを詫びるように、身体をすみずみまで洗ってくれた。
 髪。
 頬。
 唇。
 肩。
 腕。
 胸。
 股。
 足。
 髪の尖端から指の先端まで、すみずみと洗ってくれた。
 私はそれが気持ちよかった。

 父が私をお風呂に入れてくれる日。
 父は私を寝室に誘う。
 絵本でも読んで、寝かしつけてくれるつもりだったのだろう。
 でも、私が父の寝室を訪れることは無かった。
 訪れようとはした。
 けど、そういう日に限って、母が先に父の寝室を訪れていたのだ。
 本心を言えば、それならそれでよかった。
 私は母とも一緒に寝てみたかった。
 父と母に挟まれて寝てみたかった。
 だけど、その願いは叶わなかった。
 叶えることは許されなかった。

 母が父の寝室を訪れる日。
 そういう日は、きまって寝室から猫の声が聴こえてきた。
 甘えるような声。
 甲高く響き渡る声。
 いつまでもいつまでも聴こえてくる声。
 そういう声が聞こえるとき、私は父の寝室を訪れることを許されなかった。
 私も猫を撫でてみたい。
 周囲の者にそう漏らしたことがある。
 けど、みんな困った顔をして、それは無理だと諭してきた。
 父と母は、とてもとても大切なことをしているのだと言われた。
 私は猫が羨ましかった。

 父は時々、孤児院から子供を連れてくることがあった。
 男の子もいた。
 女の子もいた。
 父はその子達に食事を振るまい、お風呂に入れ、寝室に呼んでふかふかのベッドで寝かせた。
 子供達は、経験したことの無い夢のような体験に、みんな悦んでいた。
 みんな父に懐いていた。
 全身で父にしがみついた。
 身体を父にすり寄せた。
 猫のような甘えた声を上げた。
 懐かない子供はいなかった。
 孤児院に戻らない子供が、ほとんどだった。

 孤児院に戻らなかった子供には、仕事が与えられた。
 父の身の回りの世話をする仕事だ。
 朝起きたときから、夜寝るときまで、父に奉仕する仕事だ。
 みんな献身的に奉仕していた。
 お風呂や寝室でも奉仕していた。
 だから、私が父と過ごす時間は、さらに減った。
 寂しかったけど、我儘は言わなかった。
 だって、仕事なら仕方がない。
 父の仕事の邪魔をするわけにはいかなかった。
 孤児院に戻った子供が、その後どうなったのかは知らない。
 そういう子供には二度と会うことが無かったから、知りようが無かった。
 それに、特に興味は無かった。
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