白雪姫は処女雪を鮮血に染める

かみゅG

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009.森での生活(ポテトとベリー)

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 夕食の支度には火を使う。
 それを使うのはモモだ。
 火は暖かい。
 冬に凍えないためには、絶対に必要なものだ。
 けど、火は怖ろしい。
 一瞬で何もかもを灰にしてしまう。
 だからモモは、火を使っている間、決してその側を離れない。
 トマトとチェリーは、今日も外へ薪を拾いに行っている。
 ピーマンとユズは、別の目的で外へ行っている。
 今、建物の中にいるのは、私とモモ以外には、ポテトとベリーだけだ。
 私は、ふと、二人が何をしているのか気になった。
 食いしん坊の男の子、ポテト。
 可愛い妹分の女の子、ベリー。
 二人は一緒にいることが多かった。

 モモに尋ねると、疑問は簡単に解消した。
「掃除をしているのよ。ベリーは年下だから、森に連れていっても、みんなより歩くのが遅いの。はぐれるのが心配だから、孤児院の掃除をしてもらっているのよ」
 それで、ポテトと一緒に掃除をしているらしい。
 それは納得したのだけど、二人一緒にする意味はあるのだろうか。
 手分けしてやった方が効率的だと思う。
 けど、それにも理由があるらしかった。
「ほら、ポテトって食いしん坊でしょう? 目を離すと、つまみ食いをしようとするのよ」
 ポテトが食いしん坊なのは、私も思っていた。
 食事も一番多く食べる。
 でも、お腹が空くと、料理していない食材まで食べようとするらしい。
 それで、ベリーに見張ってもらっているという訳だ。
「どっちが年下か、わからないわね」
 私の言葉に、モモは苦笑いで答えた。

 私はポテトとベリーを捜してみることにした。
 特に用事があったわけじゃない。
 けど、掃除をしているのなら、手伝ってもいいかなと思ったのだ。
 モモはちょうど料理を始めたばかりで、すぐに手伝うことはあまり無い。
「どこにいるんだろう?」
 孤児院はそれほど大きな建物じゃない。
 けど、いくつかの部屋があり、中に人がいないときでも、部屋の扉は閉じられている。
 これは、外の寒い空気が、少しでも入らないようにするためだ。
 だから、二人を捜すためには、それぞれの部屋を確認する必要がある。
「……んっ……」
 いくつめかの部屋の前に来たとき、中から声が聴こえてきた。
 小さな女の子の声。
 ベリーの声だった。

「ポテトお兄ちゃん、おいしいよ」
 そう聞こえた。
 どうやら、ベリーが何かを食べているらしい。
 食いしん坊のポテトのお目付け役だという話だったのに、そのお目付け役がつまみ食いをしているのだろうか。
 私は孤児院の食糧事情が心配になった。
 ぴちゃ……ぴちゃ……
 ベリーは何かを舐めているようだ。
 子猫がミルクを舐めるような音が聴こえてくる。
「甘くて、おいしいよぅ」
 ぴちゃぴちゃぴちゃ
 ベリーは夢中になって舐めているらしい。
 水音が扉の外まで聴こえてきている。

「こんなに大きいもの、お口の中に入りきらないよぅ」
 ちゅ……ちゅ……ぴちゃ……うむぅ
 入りきらないと言いながらも、ベリーは一生懸命に舐めているようだ。
 ときおり、それを咥えるような、くぐもった声も聞こえてくる。
「ベリー、僕も舐めたいよ」
「うん。ポテトお兄ちゃんも舐めて」
 水音が二倍になる。
 子猫がミルクを舐めるように。
 親猫が子猫を舐めるように。
 様々な水音が混ざり合い、甘く蕩けるような音が、響いてくる。
「ベリー、もっと……」
「うん。ポテトお兄ちゃんも……」
 絶え間ない水音は、いつまでも続いていた。

 私はそっと扉の前から離れた。
「白雪姫、ちょうどよかった。お皿を並べてくれる?」
 食堂に戻ると、モモが私に声をかけてきた。
 モモの優しい声が耳に響く。
「わかったわ」
 モモにお願いされて、私はテーブルにお皿を並べていく。
 モモは料理をしている間、決して食堂を離れることはない。
 だから、料理をしている間、他の部屋で何が行われているのか、知ることは無い。
 それは事実だと思う。
 けど、ふと思った。
 もしかして、何が行われているか知っているから、食堂を離れないのだろうか。
「今日の料理も美味しそうね」
 私は、その疑問をモモに尋ねることは無かった。
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