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第一章 黒翼の凶鳥王編

第三話 魔導剣士ロイ、戦慄する

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 翌々日の昼過ぎ、ルンドンベアから徒歩で二日かかる、ドッカノ村のさらに外れ、村から徒歩半日ほどの森の奥にそびえ立つ、不気味なでかい館に、俺たちはやって来ていた。

 聞くところによると、村人が最近ここを発見したが、どうやら邸内をゾンビが徘徊しているらしく、特に被害があるわけではないが、不気味だし、今後何かあっても困るので、退治してくれということらしい。

「早く突入しましょう! さあ! さあ!」

 一昨日から、やたら意気込んでいるのがこのフラン。ふんすふんすと、鼻息が荒い。

「お、おう。開けるぞ」

 大きな扉を押し開けると、早速広間で、腐臭を撒き散らすゾンビ一体とご対面!

「イイイイイィィィハアアアァァァァッ!!」

 剣を抜こうとすると、奇怪な雄叫びを上げてゾンビに襲いかかる、一つの白い影! 気づけば次の瞬間、フランが鎚鉾メイスでゾンビの脳天をストライクしていた。

「オラァッ! ゾンビ風情が、現世をうろついてるんじゃあねーですわよッ!! ウリィィィィヤァァァッー! ぶっつぶれよォォッ!!」

 鎚鉾メイスで、何度も何度も何度も何度もゾンビを打擲ちょうちゃくするフラン。返り血ならぬ、返り脳汁 (物理)を浴びようがお構いなしだ。百年の恋も冷めること間違いなしの、ドン引きシーンである。せめて人間らしく。

「フゥーッフゥーッ! イヒイッッ! 粉砕イイイッ……! トドメの死霊浄化術ピュリファイ・アンデッドォォォォッ!!」

 彼女が、恍惚絶頂の叫びとともに盾を掲げると、聖印から光が溢れ、もはや原型を留めない肉塊と化したゾンビを灰にする。いやもう、初めからそれでいいだろ。この数分間の光景は、見なかったことにしたい。残虐行為手当という、意味不明な単語が頭をよぎった。

「うふふふふ……この感じ、まだまだいやがりますわねェ。ヒョホォッ! 悪霊滅すべし! 慈悲はなァァァいッ!!」

 舌なめずりしながら、袖口で頬の汚汁を拭う神官サマ。やっぱ無理、俺はこの光景を一生忘れることはできないだろう。夢に出そう。

 もはや暴走状態にある神官サマを追う形で、館を突き進む俺ら。リーダーって何だっけ。

 野獣と化したフランの快進撃にも、ついに壁が立ちはだかる。館の最奥部には、二十体近いゾンビが待ち受けていたのだ!

「ヒャハァッ! こいつァ潰し甲斐がありますわよ! 死霊浄化術ピュリファイ・アンデッドォッ!!」

 流石の神官サマも、無闇に突撃するようなことはせず、初手は聖なる光でゾンビを消滅させる。

 よかった、まだひと欠片の理性が残っていたんだな……。しかし、スタミナを消耗しすぎていたためか、効果は今ひとつのようで、四体ほど消すにとどまった。

「こりゃ、さすがにまずいな。みんな、フランを援護するぞ! 雷衝撃滅波ライトニング・ウェイブ!」

 魔導書を開いて詠唱すると、ページが幾多もめくれて雷撃がほとばしる。これでさらに六体撃破! 続いてパティが手斧を、サンがダガーを構えて突撃し、俺も抜剣する。

賦術火炎刃バーン・ブレイド!」

 魔法で剣に炎を宿すと、魔導書を腰のバインダーに納め、前線に突入する。あとはもう、大乱戦だ。

 不意に、頭に痛みが走る。さすがに敵が多すぎて、パティのカバーが間に合わなかったようで、後頭部を爪で攻撃されたみたいだ。頭部からの流血を、手で確認する。

「フラン! 治癒魔法を頼む!」

「えっ!? そんなモノ使えませんわよ?」

 は? ……はああああ!?

わたくし、魔法はすべてアンデッドと、悪魔を滅ぼすためのものしか授かっていませんもの。オラァッ!」

 息切れしながら笑顔で返答し、ゾンビをしばき倒す神官サマ。なんてこった、こいつただのエクソシスト系バーサーカーじゃねえか! やべえ、この戦い負傷できねえ!

 壮絶な死闘の末、やっとの思いでゾンビの群れを全滅させることができた。

 念のためにと買っておいたヒーリング・ポーションを、師匠に餞別せんべつとして貰った無限収納ベルトポーチから取り出して飲みながら、「街に戻ったら、今度こそマトモな治癒術師を仲間にしよう」と、心に誓うのであった。

 ◆ ◆ ◆

 再び二日かけてルンドンベアに帰ってきたら、日が沈みかかる頃になってしまった。これでは仲間探しは難しいな。

 村の依頼を解決して小金が入ったこともあり、初の冒険の成功を祝い、今日は例の店で豪遊……とまでは行かないが、宴を開くことにした。

 まず出てきたのはエールと茹でソーセージの温野菜添え。まずはソーセージを楽しむ。歯ごたえのある皮がはじけ、肉汁が口の中に広がる。胡椒の刺激がまた良いアクセントだ。

 これを、エールで流し込む。爽やかな苦味が腔内をさっぱりとさせ、さらにもう一口とエンドレスな欲求が発生する。

 しかし、ここであえて温野菜。ブロッコリーと人参、じゃがいもなどを咀嚼そしゃくすると、ほくほくとした口当たりと、ほのかな甘味が滋味深い。

 他のメンバーを見ると、パティは相変わらず器用に鎧兜のまま飲食し、サンはがっつき、フランは清楚おしとやかに頂いている。三者三様な光景だ。……フラン、お前の狂態は忘れたくても、絶対忘れないからな。

 一同がソーセージを平らげる頃合いに、次の品が運ばれてきた。おなじみマスだが、今回はきのこと一緒にムニエルにされている。ここできのこ。良い品が入ったということか。まずはこれを頂いてみよう。

 このきのこ、一般的なきのこと違い、縮れていて毛玉のようだ。どんな味なのだろうか。まずはこいつだけ試してみよう。変わったきのこを口に入れると、縮れた部分にバターと調味料が染み込んでおり、とても深い味を蓄えていた。なんだこれ、うまいじゃないか!

 続いて、マスと一緒に。うん、美味い。丁寧に骨抜きされたマスの切り身の、淡白ながら適度に脂の乗った味わいと絶妙に噛み合う。これは酒が進んでしょうがない。

 ラストを飾るのは、ステーキと赤ワイン、スライスしたパンだ。見たところ、ステーキの味付けは塩胡椒のみ。これは、かなり肉に自信がなければできない所業だ。期待が高まる。

 肉にナイフを入れると、スッと抵抗なく肉が切れる。一口放り込み噛みしめると、口の中に豊かな肉汁が広がっていく。シンプルな味付けが、レアに焼けた素晴らしい肉の舞台を演出する。

 追い打ちに、パンをちぎって口に入れる。ふわっとした食感に、シンプルながら芳醇な土台が、肉の後味をしっかりと受け止める。

 そして、赤ワイン。甘みとコク、爽やかな香りと酸味が一体となり、いくらでも飲める。

 この店の料理は、本当に素晴らしい。女将さんは、どこかで修行をしたのだろうか。とにかく、素晴らしいひと時だった。

 酔いも回ってきたところで、宴はお開きとなり、皆、寝床へと引き上げる (フランは教会に帰った)。明日も頑張ろう。
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