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第一章 黒翼の凶鳥王編

第二十四話 魔導剣士ロイ、かつてない危機感を覚える

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 大きく迂回して、隠し通路の蓋から内部を覗く。人の気配はないので、小声で「OKだ」と告げる。

 一同、内部への潜入に成功するが、ここからが正念場だ。自分たちの脱出口になる可能性があるので、隠し通路はまだ閉鎖しないでおく。ナンシアの言っていた、不気味な詠唱が聞こえてくる。

 まずは、サンに扉の向こうへ聞き耳を立ててもらう。OKサインが出たのでそっと開けると、通路が伸びており、右側に曲がっている。

 ちなみに、パティの重装備は非常に目立つうえに、ガチャガチャうるさいので俺の無限収納ポーチに入れさせてもらっている。肝心の防御力がまったく期待できないが、致し方ない。不幸中の幸いと考えるべきか、フード付きローブのおかげで彼女の羞恥心は抑えられているのが救いか。フランの聖印盾も、同様に収納中。

 サンを先頭に、忍び足で前進していき、曲り角に差し掛かると、義妹いもうとが小さな手鏡で、角の先の様子をうかがう。しばししてGOサイン。あっけなく、大部屋と思われる場所の扉の前にたどり着けてしまった。

 ううむ、なんだか用心した割には、拍子抜けだな。いや、用心したからこそ、拍子抜けできる結果になったのだろう。この商売、何ごとも用心しすぎて悪いことはない。ともかくも、ここからが正念場だ。

 鍵穴からサンが中を覗き込み、ハンドサインを送ってくる。誘拐被害者が生存。人数一人。教団メンバー三十人。被害者は無事なのはいいが、三十人というのは、なんとも厳しい人数だな。戦力差が五倍。これは点け火して、どさくさに紛れて救出するパターンだな。ハンドサインでその旨を伝えると、火打ち石とおがくずで先ほどの隠し通路に続く部屋に火を放つ。

 火勢が十分になると、ロッジ裏口の見張りを背後から奇襲し瞬殺! 裏口ここにも、さっきのように火を放つ。続いて表口の見張りも、同様の手段で仕留める。こちらは侵入者ありと告げられてしまったが、もうすでに時遅し。準備は既に、終わっている。

 表口から出て、「火事だー!!」と大声で叫ぶ。すでに黒煙がもうもうと立ち込めている。表口から飛び出してくる教団メンバーを、一人、また一人と確実に仕留めていく。いやはや、我ながら手堅い仕事だと感心するが、それにしても、ちょっと簡単イージーすぎないか? 作戦が見事だったとうぬぼれたいが、どうも引っかかるな。考えすぎだといいが。

 敵を切り伏せること、すでに二十人。六人で一人ずつ各個撃破していればそれは確かに楽勝な道理だが、やはりどうにもあっけなさすぎる。こんな連中に、エーデルガルド一の冒険者チームが、返り討ちにされたのか? 辻褄が合わない。かえって、何か嫌な予感がする。

 撃破数、二十五。これで、数の上では確実に有利になった。あまりもたついていると、被害者まで火事に巻き込んでしまう。突入だ!

 中に再突入すると、煙いわ熱いわで、えらいことになっている。いや、俺たちがやったんだけどさ。大部屋に突入すると、魔法陣の上で縛られて、猿ぐつわされている被害者の女性が一人。プラス、情報資料にあった肥満体のダイアーと、残りの教団員が、なにやら重そうな袋を持ち出そうとしている場面と、ご対面エンカウント

 向こうも、荷物を放り出し応戦してくるが、混乱に乗じたとはいえ、やはり動きがド素人のそれ。なんだか嫌な予感がするぞ!

厄禍呪言殺カース・ワード!」

 ダイアーが魔導書を取り出し、暗黒魔法を放ってくる! 呪言文字でダメージを受けるが、即座にクコから命活癒術草ヒーリング・ハーブが飛んできて回復!

 さすが首魁、一味違うということか。だが、手下は文字通りの意味で全滅。さらにいえば、以前戦ったワイト王ほどの圧もない。我々が当時より強くなったのもあるが、何とも微妙な感じだ。変な言い方だが、さっきから感じている嫌な予感を満足・・させる相手ではない。

 それがむしろ、何かとてつもなく『嫌』だ。

 やつを、難なく斬り伏せる。それでもなお、嫌な予感が止まらない。冷や汗が、額から伝う。

凶鳥王……召喚儀コール・ロード・シャックス……!」

 ダイアーが最後の力を振り絞り、謎の呪文を唱えると、魔導書がバラバラとめくれ、非常に矛盾した表現だが、眩い黒色光が魔導書からあふれる! これか、嫌な予感の正体は!!

「被害者を連れて退避ーッ!!」

 被害者を六人で抱えて、急いで外に出る!

 魔導書から、何か・・が出てくる! 圧! 圧倒的な圧!!

 これから、今まで味わったことのない、壮絶な戦いが始まる! そう予感せざるを得ない、禍々しい気配だ!!

 外に出ると、ロッジは大炎上真っ盛り。被害者の解放をサンに任せ、パティとフランに盾を返し、自分も剣を構えて、魔導書をいつでも使える状態にしておく。もちろん、邪魔くさいローブなど脱ぎ捨てる。パティも襲いくる驚異を感じ取っており、恥ずかしさよりも戦慄を覚えているようだ。

 ダイアーがいたあたりの天井を、内側から崩しながら、巨大な黒い影が姿を現す!

 それは、あまりにも奇怪な存在だった。少なくとも、この世界サーズベルラーの概念では、それの姿を理解することが出来ない。異界の知識も用いるならば、飛行ゴーグルと飛行帽を装備し、背中に二本のボンベを背負い、黒い金属でできた、翼長六メートルほどある巨鳥。

 自分でも、それらの概念がどういうものなのかわかっていないが、異界知識を用いて、直感的にこう表現するしかない。異界知識など持ち合わせていない他のメンバーには、もはや、謎の巨大な金属鳥としかわからないだろう。

 こんなやつ、少なくとも俺の脳内魔物辞典には存在しない。俺とて、別に世界中の魔物を知っているわけではないが、こいつはあまりにも奇妙奇天烈な代物だ。

 とりあえず他にわかることといえば、やつは確実に今まで遭遇したどの敵よりも、圧倒的に強い・・・・・・! それが、直感で確信できる!!

 固唾を飲み、メンバーに飛び道具を渡す。とりあえずその容姿から、飛ぶことだけは予想できるからだ。

 巨鳥が俺たちをひと睨みする。こいつが我々に抱いた感情はどういったものだろうか。ゴーグルに隠されて見えない、目と硬いくちばしからは、それを読み取ることができない。

 やつが羽ばたくと、炎が一層燃え上がり、予想通り宙へ舞う。建物に隠れて見えなかった脚部に、飛行機の車輪が確認できる。これも、よくわからない代物だ。雑に、異界にある何かとしか理解できない。

 さあ、ここが真の正念場だ!!
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