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第二章 南海の海魔王編
第三十六話 魔導剣士ロイ、己を売る
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さあ、困ったことになった。
困った事態だが、金は稼がにゃいかんし、腹だって減る。
そんなわけで、軽い依頼をこなして、いつもの「蒼い三日月亭」でラムステーキなど食べていると、馴染みの人物が、扉を開けて入ってきた。
「探したよー、ロイ氏ー! てか、噂通りのイケメンガール、キタコレ!」
なんで、俺の噂広まってんすか。
何となくクコを見ると、目をそらす。……犯人は、お前か。
しかし、イケメンガールキタコレと言われても、どう返したものか。
「ありがとうございます。ところで、俺を探していたとのことですが?」
とりあえず、愛想は返しておこう。
「うんうん。なーんか間が悪くて、いっつも君ら外出中なんだもん。でさ、ロイ氏。絵のモデルやってみない?」
モロオ邸応接室の、やたらシナを作ったメイドさんが想起される。
「お断りします」
「金貨で、これだけ出そう」
と、卿が指で提示したのは、かなりの額。
「え? モデルするだけで、こんなもらえるんですか!?」
「もちろん!」
ここで、ハッとなる。
「……いかがわしい絵じゃ、ないでしょうね?」
「ノンノンノンノン! 極めて健全! ちょーっと、ポーズには凝ってもらうけどね」
まあ、あのメイドさんぐらいのシナは作らされるということね。
「……やっぱり、メイド服だったりしますか?」
「もちろん!」
モロオ卿、サムズアップ。
「モロオ家特有の、あの?」
「もちろん!!」
さらに、サムズアップ。
今、俺の両耳で、それぞれ天使と悪魔が囁いている。
「……ぬ~! じゃあ、これでどうだ!」
額を上げる卿。
悪魔が、勝った。
◆ ◆ ◆
「モロオ卿、その、動かないというのも、しんどいですね……」
「喋らないで。絵がおかしくなっちゃう」
卿に注意され、無言になる。
いやはや。格好だけでも恥辱だが、長時間同じポーズを取り続けるのが、ここまでしんどいとは。
「いやー、ロイ氏みたいな、イケメンメイドさんを描くのは、初めてだよ。僕、そっち系に目覚めちゃうな、これ。こういう感じの子、新しく雇おう」
卿は好き勝手に喋るが、動くなと言われてるので、言葉を返せない。
やれやれ。
◆ ◆ ◆
「フィニッシュ!」
筆を置く。
「もう、動いていいよ。どう?」
イーゼルの向こうに回り込み、自分自身を見てみる。
……美人だ。凛々しい美人がいる。
いや、ナルシストか俺は。
「これは、目立つところに飾ろう」
「飾るんですか!?」
トンデモ宣言に、手をワキワキさせる。
「飾るよー。そのために描いたんだもん。いやー、会心のデキだね!」
うう……俺のあられもない姿が、この屋敷の目立つところに……。
「あ、約束の報酬ね」
ずしりと、重い袋が渡される。この重みと引き換えに、とても大事なものを失った気がする……。
◆ ◆ ◆
懐は重いが、心も重い。なんとも沈んだ気持ちで帰ると、クッコロさんがコーヒーを飲んでいた。
「クッコロさん? いかなご用で?」
「おお、その声。君が女子になったという噂は、本当だったか!」
コトリと、コーヒーカップを置き、こちらにやってくる。両頬を手で支えられ、ドキドキしてしまう。
「君に伝えておきたいことがある。たとえ君が女になろうとも、私の気持ちは変わらん! 私は、君の内面に惚れたのだからな」
吸い込まれそうな、純粋な碧い瞳で見つめられる。
「む……。しかし、跡取りを残せないのだけが問題だな……。まあ、それは養子でも迎えるとしよう!」
パッと手を離し、好き勝手な持論を展開しながら、カラカラ笑う彼女。
「ええと、それだけでしょうか?」
「うむ、それだけだ! なんなら、父上との約束を破ることになってしまうが、夜のデエトと洒落込むかい?」
いい笑顔で、こちらを見る。
「いや! いやいや! 色んな意味でまずいでしょう、それは!」
「ははっ! 冗談だ! いつでも、我が家に来てくれたまえよ!」
カラカラ笑いながら、台風娘二号・クッコロさんは帰っていった。
やれやれ。女になってからというもの、余計な気苦労が増えた気がするな。
困った事態だが、金は稼がにゃいかんし、腹だって減る。
そんなわけで、軽い依頼をこなして、いつもの「蒼い三日月亭」でラムステーキなど食べていると、馴染みの人物が、扉を開けて入ってきた。
「探したよー、ロイ氏ー! てか、噂通りのイケメンガール、キタコレ!」
なんで、俺の噂広まってんすか。
何となくクコを見ると、目をそらす。……犯人は、お前か。
しかし、イケメンガールキタコレと言われても、どう返したものか。
「ありがとうございます。ところで、俺を探していたとのことですが?」
とりあえず、愛想は返しておこう。
「うんうん。なーんか間が悪くて、いっつも君ら外出中なんだもん。でさ、ロイ氏。絵のモデルやってみない?」
モロオ邸応接室の、やたらシナを作ったメイドさんが想起される。
「お断りします」
「金貨で、これだけ出そう」
と、卿が指で提示したのは、かなりの額。
「え? モデルするだけで、こんなもらえるんですか!?」
「もちろん!」
ここで、ハッとなる。
「……いかがわしい絵じゃ、ないでしょうね?」
「ノンノンノンノン! 極めて健全! ちょーっと、ポーズには凝ってもらうけどね」
まあ、あのメイドさんぐらいのシナは作らされるということね。
「……やっぱり、メイド服だったりしますか?」
「もちろん!」
モロオ卿、サムズアップ。
「モロオ家特有の、あの?」
「もちろん!!」
さらに、サムズアップ。
今、俺の両耳で、それぞれ天使と悪魔が囁いている。
「……ぬ~! じゃあ、これでどうだ!」
額を上げる卿。
悪魔が、勝った。
◆ ◆ ◆
「モロオ卿、その、動かないというのも、しんどいですね……」
「喋らないで。絵がおかしくなっちゃう」
卿に注意され、無言になる。
いやはや。格好だけでも恥辱だが、長時間同じポーズを取り続けるのが、ここまでしんどいとは。
「いやー、ロイ氏みたいな、イケメンメイドさんを描くのは、初めてだよ。僕、そっち系に目覚めちゃうな、これ。こういう感じの子、新しく雇おう」
卿は好き勝手に喋るが、動くなと言われてるので、言葉を返せない。
やれやれ。
◆ ◆ ◆
「フィニッシュ!」
筆を置く。
「もう、動いていいよ。どう?」
イーゼルの向こうに回り込み、自分自身を見てみる。
……美人だ。凛々しい美人がいる。
いや、ナルシストか俺は。
「これは、目立つところに飾ろう」
「飾るんですか!?」
トンデモ宣言に、手をワキワキさせる。
「飾るよー。そのために描いたんだもん。いやー、会心のデキだね!」
うう……俺のあられもない姿が、この屋敷の目立つところに……。
「あ、約束の報酬ね」
ずしりと、重い袋が渡される。この重みと引き換えに、とても大事なものを失った気がする……。
◆ ◆ ◆
懐は重いが、心も重い。なんとも沈んだ気持ちで帰ると、クッコロさんがコーヒーを飲んでいた。
「クッコロさん? いかなご用で?」
「おお、その声。君が女子になったという噂は、本当だったか!」
コトリと、コーヒーカップを置き、こちらにやってくる。両頬を手で支えられ、ドキドキしてしまう。
「君に伝えておきたいことがある。たとえ君が女になろうとも、私の気持ちは変わらん! 私は、君の内面に惚れたのだからな」
吸い込まれそうな、純粋な碧い瞳で見つめられる。
「む……。しかし、跡取りを残せないのだけが問題だな……。まあ、それは養子でも迎えるとしよう!」
パッと手を離し、好き勝手な持論を展開しながら、カラカラ笑う彼女。
「ええと、それだけでしょうか?」
「うむ、それだけだ! なんなら、父上との約束を破ることになってしまうが、夜のデエトと洒落込むかい?」
いい笑顔で、こちらを見る。
「いや! いやいや! 色んな意味でまずいでしょう、それは!」
「ははっ! 冗談だ! いつでも、我が家に来てくれたまえよ!」
カラカラ笑いながら、台風娘二号・クッコロさんは帰っていった。
やれやれ。女になってからというもの、余計な気苦労が増えた気がするな。
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