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第二章 南海の海魔王編

第四十三話 魔導剣士ロイ、女王のもてなしを受ける

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「姉貴~。女王サマのパーティーに行こうぜ~」

「郵便の手配をしてからな」

 現在、パティと一緒に、急ピッチでベイシック卿への手紙を書き進めている。

 パティはイラスト担当だが、元から丸っこいやつだったので、そう実物と変わらないデキになるだろう。

 「ベイシック卿に報告する」「女王様の歓待にも応じる」

 「両方」やらなくっちゃあいけないってのが、「冒険者」の辛いところだな。

「ロイさん出来ました!」

「サンキュー! こっちもフィニッシュだ! みんなは、一番早い馬車を手分けして手配してくれ!」

「わかりましたわ!」

 フランを筆頭に、皆が外へ出ていく。

「おつかれ-」

 手紙を書き終えたので、パティと、手のひらをぺしっと打ち合う。

「いえ、ボク大したことは」

「しかしなんだな、この状態の俺だと平気なんだな」

「あ、そうですね……。やっぱり、女性だというのが重要なんでしょうか」

 複雑な心境だな。

「ロイくん、ルンドンベアまで六日で行ける馬車が見つかったよ!」

 おっと、戻ってきたパティから吉報が。

「でかした! 素性は信用できるのか?」

「馬車ギルドのAクラス証持ってた!」

「よし、そいつに依頼だ!」

 さっそく、フォルネウスのゴーグルとヘッドフォン、そして手紙を預ける。

 卿への要求は、シャックスの報酬と同じだから、嫌とは言うまい。

「さて、女王サマの歓待に応じる用意ができたぞ」

「ロイさん、まさかその出で立ちで出席なさるつもるじゃありませんよね?」

「え……?」

 フランが、ジト目で見つめてくる。

「やーっておしまい!」

「ほいほいさー!」

 しゅびっと、敬礼するサン。

 フランの号令の下、身ぐるみ剥がされる俺でした。あーれー。


 ◆ ◆ ◆


「ほんとに、この格好で出席するのか……?」

「当たり前でしょう」

 フラン師匠の有無を言わせぬ言葉に。とほほ。

「お初にお目にかかります。『スティング・ホーネット』のリーダー、ロイ・ホーネットでございます」

 階段を上がり、女王様の眼前で、黒いパーティードレスに身を包み、カーテシーをする。いつの間に、こんなの用意してたんだ、こやつら。

 以下五名、観劇の際に用いたドレスで、女王に礼をする。

「いや、しかし。女ばかり六人のチームとは、女性をたっとぶパルピアとしては、愉快な限りよ。着席せい」

 齢三十半ばと思われる陛下が、微笑みながら、促す。

 陛下の命で、一同着席。人魚姫たちも、高きに満たされたプールで、シロンたちとともにくつろいでいる。地上から、宮殿まで水を満たす仕組みがあるのだろう。

 しかし、女性にカウントか……。まあ、無駄に場を乱す必要もあるまい。

「ありがたきお言葉に存じます。パルピアは、女性の地位が高いのでありますか?」

「うむ。古来より、ロード・カナロアと心を通わせる存在だとされている。本祭も無事終わり、一息吐いておるところだ。さて、英雄殿たちをもてなさなくてはな。持って参れ」

 女王の言葉とともに、料理と酒が運ばれてくる。

 女性を尊重とはいうが、兵長は男性であったし、女尊男卑ではなく、男女平等の国なのだろう。

 この国に感じる、開放的な感じは、きっとそのおかげだ。

 それはさておき、卓上の料理を見ると……?

「城下町でいただいた料理とは、ずいぶんと趣が異なるようですが?」

 なんというのか、いかにも土着の料理と言う風情。

「左様。よく気づいたの。城下町で好まれているのは、ラドネスブルグやバーブルなどとの国交から生まれた、比較的新しい料理でな。今回は、英雄殿たちに、古典的なパルピア料理を愉しんでもらおうと思っての。さて、前口上はこんなものかな。愉しもう」

 まず運ばれてきたのは、なにかの肉を細かく割いたものと、紫のペースト。

 肉は……豚だ!

「それは、バナナの葉ごと食べてくれ」

 葉も……。しかし、しょっぱいな。

「その、紫の『ポイ』と一緒に食べるのだ」

 ほうほう。……これは、芋のペースト? なるほど、塩辛さが中和される。

「最近はロコモコ人気で牛肉に押されつつあるが、パルピアでは豚のほうが伝統的食材での。こうして、吉事に振る舞われる」

「なるほど。これは良い味わいです」

 なんだろうな。やはり土着。現地で親しまれてきた味を感じる。特に、このポイなんかそうだ。ほかではちょっとお目にかかれない。珍しい体験ができたなあ。

 「紅い珊瑚亭」の食事も良いが、こういうのも、まさにオツ・・

 ここで、酒をいただく。……カクテルではなく、ココナッツそのものの酒だ!

「お気に召したかな?」

「はい。どれも、ラドネスブルグでは味わうことのないもので……。大変美味しいです」

 続いて出てきたのは、緑色のペースト。

「こ、これは……」

 フランが固まってるが、こちらは構わずいただく。

 ……なにかの葉を蒸したものと、タコやイカ。それをココナッツミルクで和えている。

 見た目のわりに、コリコリしてて美味い。酒が進むな、これは。

 躊躇していたフランも、美味そうに食べる我々を見て意を決したか、えいやっ! と口に運び、その美味を理解したようだ。

「陛下、こちらはなんという料理ですか?」

 まさしく、食いついたフラン。

「スクイッド・ルアウという。ルアウ……タロイモの葉を蒸して、柔らかくしたものだな。それにタコやイカの細かく切ったのを入れ、ココナツミルクで和えたものだ。見た目の割に美味かろう?」

「こほ……はい。正直、最初躊躇しましたが、食べ物は見た目で判断してはいけないと理解いたしました」

 フランさん、すっかり気に入ったようだな。

 次に出てきたのは、何かの葉包み。

「それは、一枚目の葉だけを除いて、全部食べてくれ」

 中には、更に葉包みが。鶏肉に豚肉、後は、カツオか? これを、先ほどのルアウ……こちらはペースト化してないが、それで包んでいる。

 シンプルに、肉の三重奏が美味い。しかし、このルアウというのはいい香りがするな。

「それは、ラウラウという。外国人にも食べやすいと思うぞ」

「はい。実に美味しいです。城下町の新興料理もいいですが、伝統食も良いものですね」

「そうだろう、そうだろう。私は、この味が失われつつあるのが、悲しくてな」

 すこし、座がしんみりする。

「いや、これは失敬。盛り下げてしまったな。まだまだ、料理は続くぞ」

 こうして我々はパルピアの伝統料理を堪能していく。どれも美味い。たしかに、これが喪われるとしたら、悲しいことだ。

 人魚姫たちのほうに目をやると、我々と同じものを愉しんでいた。なにか食べさせてもらうたび、シロンと仲間たちが、目を椎茸の切り込みのように十字に輝かせ、喜んでいる。

 こうして、王城での一夜は楽しい夜会となった。


 ◆ ◆ ◆


 しばらくパルピアで沈没船探検などの冒険に明け暮れていると、ベイシック卿よりの報酬とともに、「ルンドンベアに戻って欲しい。西のアハ=イシュケに同行してもらいたい」という書簡を受け取った。

 西か。そろそろルンドンベアも寒さが和らぐ頃か。

「というわけだ、諸君。故郷を経由して、西へ行くぞ」

「いやー、パルピアから離れるのがもったいないっすね~。でも、女将さんの手料理も恋しいっす」

 などと言いながら、旅支度を整える。

「お姉サン、行っちゃうノ……?」

 精算を終えて出ていこうとする我々を見て、ヒカタが悲しそうな顔をする。

「そう、悲しそうな顔をしないでくれよ。また、冬に来ようと思っているからさ」

「じゃア、チョット顔を下げテ」

 言われた通りにすると、不意打ちでキスされてしまった。唇同士で。

「また会えル、オマジナイ! 元気でネ!」

 寂しいだろうに、気丈な子だ。しかし、ファーストキス、奪われてしまったな。

 後ろで、サンとナンシアが、なんかブツブツ言ってて怖い。

「やれやれですわね。その体も、元に戻しませんと」

 フランが、呆れたように言う。

「ボクは、今のロイさんのほうが、親しみやすいかなあ」

「わたしは、どっちでもイケますよ?」

 クコは黙っててくれ。

 こうして、いつものゆるい調子で、我々の冒険は続くのであった!
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