転生悪役令嬢オディールは、オデットに恋してる! ―スワンレイク少女歌劇団・恋物語―

みなはらつかさ

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転生悪役令嬢オディールは、オデットに恋してる! ―スワンレイク少女歌劇団・恋物語―

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 中秋のとある日。

 私は土下座していた。それはもう、エクストリームな土下座を。

 なんでこんなことをしているかというと――。

 私、転生者だったみたいなのです!


 ◆ ◆ ◆


「スワンレイク少女歌劇団・恋物語」

 かの、白鳥の湖をモチーフとしつつ、少女歌劇団と融合させたノベルゲーム。

 一本道なんだけれど、もう、シナリオがすごいよくてよくて! あ、キャラデザも神!

 で、主人公のオデットちゃんがとてもいい子なの~。素直だし、女子力高いし、もう完璧!

 理事長の娘・悪役令嬢オディールの妨害にもめげず、見事女役主人公プリンシパルの座を射止め、そして、男役のスター、ジークフリーデと恋仲に……。

 もう、オデットちゃんLOVE!! 世界一愛してる!

 オディール? 元ネタ同様、負けヒロインですよ。


 ◆ ◆ ◆


 そしてワタクシ、よりによって、そのオディールになってしまったみたいなんです!

 脳裏に浮かぶ、「スワンレイク少女歌劇団・恋物語」の物語の数々。今までの悪行と、そしてこれからの落ちぶれ街道。

 よりによって、愛してやまないオデットちゃんに、そんな事をするオディールになってしまうなんて!

「あの、オディールさん。頭を上げてください」

 ああ、天使オデットちゃん!

「いえ、それだけは! 今までの悪行の数々、どうやって償えば……」

「ええと、誠心誠意謝罪してくださっているのは伝わるのですけど、床に頭をこすりつけるのはいかがなものでしょう……」

 はっ! そうだ、ここはある種異世界! 土下座なんて風習は、きっとない。

「どうしたら、許してもらえるでしょうか……」

 土下座姿勢から、彼女を仰ぐ。ああ! まばゆい! 天使の後光が私には見える!

「謝罪をいただいたのは確かなので、わたしにわだかまりはありません。どうか、立ってください」

 ああっ! 大天使っ!

「ありがとうございます、オデットさん」

 スカートの埃を払いながら、一礼。

「あの、オディールさん。急にどうしてしまったんですか……?」

 取り巻きーズから、どうしたものかという眼差しを頂戴する。

「私は! 愛に生きると決めたの! 誠実に! 真心を込めて!」

 天を仰ぐポーズを取りながら、脳内で紙吹雪を散らす。

 周り、ドン引き。オデットちゃん含む。でもいいの。私は生まれ変わるのだから!


 ◆ ◆ ◆


 食堂でサラダとチキンを食んでいるオデットちゃん。ああん、一所懸命食べてる姿も、ハムスターみたいでキュート! 彼女、食べるの遅いからねー。

 いや、それはそれとして、私には重大なミッションがあるのです!

「こんにちは、オデットさん!」

「こんにちは、オディールさん。なにかご用でしょうか?」

「ご、ごごごごごご」

「ご?」

 いけない。どこかの漫画の擬音みたいになってる。

「ご……ご一緒してよろしい!?」

 言えた! 偉い、私!

「構わないですよ」

 やったー! 脳内で、りんごんりんごんと祝福の鐘が鳴るぅー!

「あ、ありがとう」

 隣に、ちょこなと座る。

 あ、いい匂い。オデットちゃんのシャンプー? 爽やか~。お日様のように輝くブロンドが、とても綺麗。

「あの、わたしの顔に、なにかついてます?」

「いえいえいえいえいえ! ただその、ごにょごにょ……」

 そんな私に、微笑みを投げかける彼女。ずきゅうううん!

 はあん、腰が砕けそう……。

「早く食べないと、冷めてしまいますよ?」

「そうですね!」

 もっしゃもっしゃと、モンテ・クリストサンドを頬張る。これ、「私」とオディール、どっちの好物なんだろう?

「オディールさん、なんだかハムスターみたいで可愛い……って言ったら、失礼でしょうか」

 いえいえそんな! という意味を込めて、首をブルブルと横に振る。

 慌てて飲み込もうとすると、喉につかえてしまった。

「大丈夫ですか!?」

 彼女が差し出してくれた水を流し込み、ぷはっと一息。

「ありがとう。オデットさんこそ、そのハムスターみたいで……」

 もじもじ。

「ふふ。似た者同士なのかも知れませんね、わたしたち」

 またしても祝福の鐘、イン脳内!

 ああ~愛しのオデットちゃんに、似た者同士なんて言ってもらえるなんて~!

 そんな私たちを見る、一人の視線に、私はこのときまだ、気づかなかったのでした。


 ◆ ◆ ◆


 ダンスの訓練が終わり、更衣室で着替えていると、「ちょっといいかな」と話しかけられました。

「はい?」

 声の主は……ジークフリーデ! ある意味、私にとっては恋敵。彼女も負けヒロインにした、夢小説とか書きましたもん、黒歴史ノートに!

 容姿は、イケメン女子! これまた、ブロンドが美しい。うう……私もブロンドが良かったなあ……。と、自分の黒髪をなでつける。

「放課後、テラスでお茶でもいかがかな?」

 ほえ? お誘い? ジークフリーデが? 私に?

 このあとは自由時間だけど、お茶ならオデットちゃんとしたいなあ。でも、お誘い断るのも感じ悪いし……。

「はあ、構いませんが……」

 というわけで、テラスに着いたわけですが。

「僕はエスプレッソを。君は?」

「はあ、じゃあ、その、アップルティーで」

 ウェイトレスさんが、下がる。

「ええと、スターであるジークフリーデ様が、私めになんのご用でしょうか?」

「やっぱり君、変わったよね。いい方向に。なんていうのかな……僕は、君に惹かれ始めている」

 はァッ!?

 ちょっと待って! ジークフリーデの矢印が向くべき相手はオデットちゃんで、いや、それはそれで困るけど、少なくとも私ではないでしょう!?

 いやもう、飲み物を口にしてたら、盛大に吹いていたよ……。

「知ってるよ。掃除も庭の手入れも雑用の数々も、甲斐甲斐しくやっていることを。以前は、父であるロットバルト理事長の威光を傘にきて、威張り散らしていたけど、一体どういう変化なのだろう? そう考えたらもう、興味津々でね」

 いやまあ、なんというか、罪の精算を心がけていただけなのだけど……。あとは、オデットちゃんに好かれたいという下心も。

 でも、ジークフリーデの方を射止めてしまうなんて……。

 いや、いやいやいや。惹かれ始めてるだから、ギリセーフ! ……セーフなの?

「どうかな。今度の休み、ブティック巡りとランチでも」

 ひょえ! いきなりデートのお誘い!? 距離感バグってるぅ~!

「えと、あの、そう! 予定が入ってまして!」

 口からでまかせ!

「そうか。それは残念だな。じゃあ、その次の休みにでもどうかな」

 はう~。食い下がってくる~! 私なんかのどこがいいの~!?

「考えておきます」

 出た、必殺「考えておきます」! ただの回答引き伸ばし。我ながら、ずるいな~。自分が嫌になる。

「前向きな返事を期待しているよ。ちょうど、お茶が来た」

 なんともビミョーな空気で、ちょぼちょぼ舞台について、茶話をするのでした。


 ◆ ◆ ◆


「あの、オディール様。失礼ながら、最近お付き合いしてくださらないなと……」

「そうです。なんというか、人が変わってしまったみたいで」

 ぎぎくり。ある日、取り巻きーズに詰問されてしまいました。

「あー、その……。付き合いの悪さに関してはごめんなさい。私、気付いたの。すごく嫌な女の子だったって。みんなを、いじめに巻き込んでごめんね?」

 ざわつく取り巻きーズ。

「本当に、どうしてしまったんですか、オディール様」

「人間、ふとしたきっかけで変わることもある。それじゃ駄目?」

 みんな、「はあ」と気の抜けた返事。

「とにかく、オデットさんへのいじめは、もうやめましょう。私から、皆に彼女に謝るように言うのは違うよね。改めて、皆のぶんも謝っておく」

 うち、一人が言った。

「その……私、強気で気丈なオディール様が好きだったんです。それがなんだか、丸くなりすぎて……」

「ごめんなさい。それしか言えない」

 頭を下げる。

「今の私が嫌だと言うなら、離れてくれて構わない。私は、心を入れ替えたの」

 一同を、真剣な眼差しで見渡す。

「いえ、オディール様への忠誠は変わりません!」

 さっきのとは別の子が言う。

「忠誠だなんていい方、よくないわ。お友だちとして付き合ってほしいの。それじゃ駄目?」

 彼女、しばし逡巡しゅんじゅんした後。

「オディール様が、そうおっしゃるなら」

「様付けはナシ。同期生なんだから、呼び捨てでいいよ」

「それは畏れ多いです! ではせめて、オディールさんで……」

「急には難しいか。うん、今はそれでいいよ。改めて、よろしくね」

 彼女の名を、さん付けで呼ぶと、たいそうびっくり。

 ほかの三人も、最終的に対等な友人としての第一歩を踏み出してくれました。

 これからは、取り巻きーズなんて呼び方も駄目だね!


 ◆ ◆ ◆


 寮室に戻ると、考え事にふける。

 オデットちゃんはいい子だから、すんなり私を許してくれた。たぶん、友達たちも許してくれることでしょう。

 ただ、困ったのがジークフリーデ。まさか、私に矢印を向けてくるようになるなんて。

 彼女が好きか嫌いかでいえば、人間として嫌いではない。だって、あのオデットちゃんが心惹かれるような人なんだもの。

 ただ~、ただ~! 私、オデットちゃんLOVEなの! かといって、こっぴどく振るなんて酷いことしたくないし。そりゃね、こっぴどく振られる辛さは知ってますよ。天下御免の負けヒロイン、オディールですもの。

 ああ~! どうしたらいいの~!?

 ……とりあえず、シャワー浴びて寝よう! すっきりして寝たら、きっと名案も浮かびますって!


 ◆ ◆ ◆


 浮かびませんでした。

 ジークフリーデの影に怯えるように、こそこそ入室。こんな接し方……というか避け方、良くないとわかってるんだけど、いざとなったらどうしたらいいものかと。

 そしてランチタイム。

「オデットさん、今日もお隣よろしい?」

「ええ、どうぞ」

 はあ、至福の時間……。いつものように、モンテ・クリストサンドを、もっしゃもっしゃと頬張ります。

「やっぱり、オディールさんの食べ方可愛い……」

 頬が熱い! はぅ~ん……。

 その時ふとひらめいた!

「あの、オデットさん。知り合いの話なんだけれど……」

 でたー! 必殺・知り合いに例えた身の上話!

「知り合いの子が、Aちゃんっていう子を好きなのね。その、ライクじゃなくてラブな意味で。でも、Bっていう子が、知り合いの子を好きになっちゃって……。どう助言したらいいかな?」

 深慮する彼女。はぁ~ん、そのくりくり考える姿もカワイイ~!

「お知り合いの方は、Bさんに対してどういう感情をお持ちなんですか?」

「それは、ええと……人間的には嫌いじゃないけど、諸般の事情で……上手く言えなくて、ごめんなさい!」

「要するに、嫌いではないのね」

 再び考え込んでしまう彼女。ああ、その横顔も美しい……!

「わたしだったら……Bさんに心を込めて謝って、諦めてもらうかな」

「えっ! オデットさん、結構ドライ!?」

「そういうわけではないけれど。ただ、どっちつかずが一番不誠実だと思うの」

 そっか……。それもそうだね。

「わかった! そう助言してくる!」

 急いでモンテ・クリストを詰め込むとまた喉につっかえてしまい、オデットさんの差し出したお水に助けられるのでした。

 ……そういえば私たち、互いに少し、喋り方がフランクになったような?


 ◆ ◆ ◆


「えーと、あの~……」

 ジークフリーデを前に、もじもじ。

「この間のお誘い、予定が空いたから、OKしようかなって……」

 って、なに言ってんのバカ~! 断らなきゃでしょそこは!

 すると彼女、太陽のような明るい笑顔で。

「ありがとう! 嬉しいな。思いっきり楽しもう!」

 と、イケメンスマイル。おもわず、くらっときてしまう。ダメダメ! 私はオデットちゃん命!

 ともかくも、デートが決定してしまいました。


 ◆ ◆ ◆


「お待たせして、すみません!」

 失礼があってはいけないと丹念に身だしなみを整えていたら、待ち合わせに遅れてしまった。本末転倒!

「大丈夫だよ。こうやって、爽やかな秋風の中で風景を眺めるのもいいものさ。隣においでよ」

 ベンチで、彼女の隣に腰掛ける。

 ちらと彼女を見ると、すごくハンサム。ブロンドが、秋風になびく。ぱっと見、イケメンとデートしてる女に見えるんだろうな。

 とくん。

 うそ! え、今の反応なに!?

 いやいやいやいや! 私はオデットちゃん一筋!

「僕の顔に、見惚れているのかな」

 うっ! 見事に心中当てられた!

「そろそろお昼時だね。混む前に、ランチにしよう」

 彼女に手を引かれ、町中をお散歩。

「イタリアンは好きかな?」

「はい!」

「じゃあ、イタリアンと洒落込もう」

 そして、本格的なトラットリアイタリアン・レストランに着きました!

 案内され、着席。

「ここはピッツァ、とくにマルゲリータが絶品なんだ。シンプルさ故に、ごまかしが効かないから、シェフの腕のよさがわかるよ」

「では、私もそれで」

 ウェイターが来ると、マルゲリータと炭酸水を注文する。

「ねえ。僕とオデット、どっちが魅力的かな?」

「ほえっ!?」

 変な声を出してしまう。

「君がオデットを好いているのはわかるよ。彼女、優しいものね。僕は、君にとってどう映ってる?」

 ど、どうしよう! そんな真摯な瞳で見つめられたら、直視できない!

「ええと、その。それぞれに良さがあるといいますか……」

 まさか、ここで揺らいでしまうなんて。

「困らせてしまったみたいだね。申し訳ない。ピッツァがきたよ。僕が切り分けよう」

 ああ、ジークフリーデ……いえ、ジークフリーデ様に心惹かれ始めている。

 私の浮気者……。


 ◆ ◆ ◆


 寮室に帰ってきた。デートは至極大成功。

 食事はサイコーで奢ってもらったし、服のチョイスもいいし、いちいち褒めてくれるし。まさにイケメン。オデットちゃんが惚れるのも、無理ないわ。

 逆に……はたと考えた。私はオデットちゃんにとって、恋人足りうるのだろうかと。

 今は、最悪の関係から軌道修正して、いい友人。

 でも、そこから先に行けるの……?

 友人から恋人へ。本来、ジークフリーデ様とくっつくぐらいなんだから、同性愛者なのは間違いないし、そこのハードルは低いけど。

 私の、ジークフリーデ様に勝っているところって何? 勝ち負けの問題じゃないけど、何もかも見劣りする気がする。

 オデットちゃんの好みのタイプがイケメンだとしたら、私もそう攻めるべき?

 に、似合わない……。やっぱり、ああいうムーブはジークフリーデ様みたいな人じゃないと似合わない。

 そもそも同じ土俵で戦って、勝てる気がしない。

 どうすればいいのか……。

 そのとき、ドアがノックされる。

「はい……って、オデットさん!?」

「こんばんは。キッチンを借りて、アップルパイを焼いてみたんだけど……お裾分けしようと思って」

 じ~ん……!

「ありがたくいただきます!」

 思わず拝んでしまう。ここでは伝わらない謎ゼスチャーに、きょとんとする彼女。

「ふふ。オディールさんって、ほんと変わったよね。なんていうか……すごく親しみやすくなった」

「ありがとう。でも、肝心のパイは?」

「大人数用に作ったから、キッチンに。お友達も誘って?」

「よろこんで! あの子たちも、喜ぶと思う!」

 取り巻きーズ改め友達ーズと、いつの間にやら打ち解けてたようで。よかった……。

 みんなを誘い、キッチンへ。

「いただきます!」

 合掌。また謎ジェスチャーに、くすっとなる彼女。

 ぱくっ。

 美味しい……! パイはサクサク、りんごはジューシィ。シナモンが、文字通りいいスパイス。

 あ……。

「どうしたの、オデットさん!」

「ごめんなさい。なんか、涙が」

 お昼のイタリアン、美味しかった。でも、オデットちゃんのアップルパイとは次元が違う。

 そんな言い方失礼だけれども、やっぱり私にとって、オデットちゃんの手料理に勝るものはないんだ。

 好きで、好きで、大好きで。画面の向こうから恋をして。そして今、現実に彼女がここにいる。

 ごめんなさい、ジークフリーデ様。やっぱり私、オデットちゃんが、どうしようもないぐらい大好きです。

 問題は、彼女の気持ち。私たちはまだ友人止まり。

 ここから告白に持っていくのは、突飛すぎる。

 もっと、距離を縮めないと!

 でも、その前にやることがあるよね。


 ◆ ◆ ◆


「やあ、こんな夜更けに」

 寮室のドアをノックすると、ジークフリーデ様が気さくにドアを開けてくれた。

「その表情……、込み入った話。そして、察してしまったよ。ひと思いに、ズバッとやってくれるかな?」

「すみません……」

 招き入れられ、ベッドに隣同士で腰掛ける。

「ジークフリーデ様は、とても素敵な女性です。気が利いて、優しくて。でも、私はそれでも……」

 間。ジークフリーデ様は、私の言葉を待ってくれる。

「先程、オデットさん手製のアップルパイをいただきました。比喩抜きで、涙が出る程美味しかった。私、改めて自覚したんです。オデットさんが好きで好きで大好きで。どうしようもない程に大好きで。なぜ、私にこのような変化が訪れたのかは、説明しても夢物語のような話でしょうから、述べません。ジークフリーデ様も好きです。でも、愛とは違う。憧れなんです」

 一気に言葉を紡ぐ。

「そうか。すっぱり振ってくれて、ありがとう。悔しいけれど、人の気持ちばかりはしょうがないね。まだ君たちを応援できるほど吹っ切れないけど、君のことは、潔く諦めるよ」

「すみません……」

「ちょっと、一人にしてほしいな」

「はい」

 ドアを閉めると、泣き声が聞こえた気がした。ああ、あんな颯爽としたイケメンでも、悔し涙を流すのだなと、罪悪感を覚えながら立ち去る。


 ◆ ◆ ◆


 翌日、気分転換も込みで、休み時間に花壇の手入れをしていると。

「精が出るね」

 オデットちゃん!

「うん。きちん手入れをしただけ、植物は応えてくれるから」

「わたしも手伝うよ」

「そんな! これは私のやるべきことで……」

 わたわたと手を振る。

「わたしもやっちゃだめ?」

 うう、そのくりっとした瞳に見つめられると弱い……。

「じゃあ、一緒に」

「うん!」

 無心で、手入れをしていく私たち。

「ほんと変わったね、オディールさん」

 不意に、そう言われた。

「私、嫌な女の子だったから……。愛する人にふさわしくなりたいの」

 あっ、口が滑った!

「ジークフリーデ様?」

「その……ジークフリーデ様、振っちゃった」

 するとオデットちゃん、あたり一面に聞こえたであろう声で、「えーっ!?」と絶叫。

「なんで? 彼女、みんなの憧れよ?」

「私が恋い焦がれている人は、別にいるから」

 そう言って、彼女をじっと見つめるけど、不自然だったかと、頬を熱くしながら、慌てて視線を外す。

「……その恋、きっと実るよ」

 そう言うと微笑んで、あとは二人で黙々と作業を続けるのでした。


 ◆ ◆ ◆


 公演に向けて、私たちは猛特訓に励んでいた。

 相変わらず、オデットちゃんと友達以上の関係になる方法はわからない。でも、今はそういうことは頭の外に追いやる。

 オデットちゃんの邪魔ばかりしていたオディール。でも、私はそうじゃない。[[rb:お父様《理事長》には、余計なことをしないように、きつく言ってある。

 オデットちゃんの横に並んで、恥じない演者になるために!


 ◆ ◆ ◆


「配役を発表する! 王子、ジークフリーデ!」

 監督の言葉に、ぱちぱちと拍手が送られる。

「白鳥姫、オデット!」

 今度はざわめきが上がる。皆にとって、ダークホースだったのだろう。

 でも、私がまず拍手を送ると、その和が広がっていく。

「黒鳥姫、オディール」

 またもざわめき。皆、私が白鳥姫メインヒロインだと思っていたろうから。

 その後も、キャストが発表されていく。

「オディールさん、気を落とさないでください! サブヒロインだって、大したもんですよ!」

 友達ーズの一人が、慰めてくれる。

「ありがとう。でも、これは純粋な実力差。監督の目に狂いはないわ。オデットさんは、スターのもとに生まれたのよ」

 おめでとう、オデットちゃん。


 ◆ ◆ ◆


 配役も決まり、公演に向けて、さらなる猛特訓が始まった。忙しすぎて、恋だ何だを考える時間もない。結局彼女とは、友達止まりのまま。

 そして公演初日。すべての煩悩や懊悩を振り払い、役に没入する。そうしないと、お客様にも、ほかの演者にも失礼だから。

 初日のカーテンコールは拍手喝采で終了。でも、ここはまだ始まり。最高のグランドフィナーレに向けて、更に磨き上げなくてはいけない。

 公演は、計七日間。走りきらなきゃ!


 ◆ ◆ ◆


 そして、グランドフィナーレ開幕前。なんだろう。熱いのに、寒気がする。なんだか、くらくらするし。

「大丈夫ですか、オディールさん!?」

 友達ーズの一人が心配して駆け寄る。

「すごい熱!」

「まずいな、代役を立てないと……!」

 監督が、思案する。

「最後までやらせてください……! 黒鳥姫のセリフも歌も全部憶えているのは私だけ。どうか!」

 息も荒く、頭を下げる。

「一理ある。が、無茶だ!」

「それでも!」

「監督! オディールさんに演らせてあげてください!」

 意外な助け舟。それはオデットちゃん!

「わたし、彼女の練習してわかったんです。今回の公演にかける熱意を! ここで降りたら、一生後悔すると思うんです! わたしもきっと、同じ立場ならそうですから!」

「僕からもお願いします。彼女の気迫、本物です」

 ジークフリーデ様も!

 もちろん、友達ーズも加勢してくれる。

 監督、しばし逡巡した後、「きちっと演じきれよ!」と認めてくださった!

「はい! ありがとうございます!」

 深々とお辞儀。こうして、開幕を待つこととなった。

 そして、開幕。頭が朦朧とする。でも、次にどう動けばいいか、喋ればいいか、歌えばいいか、体が全て憶えてる。

 カーテンコールまで乗り切った! でも、拍手が鳴り止まない。拍手が続く限り、何度でも挨拶をする。スタンディング・オベーション。ただそれだけを頼りに、気を確かに持つ。

 そしてすべてが終わり、幕が下りると、意識が飛んだ。


 ◆ ◆ ◆


(ここは……?)

 見慣れた自室。まだ、頭がぼやんとしているけど、随分マシになった気がする。氷嚢を枕に、寝込んでいたらしい。

「よかった! 目を醒ました!」

 心底ホッとしたような様子のオデットちゃん。

「もしかして、ずっと見守っていてくれたの……?」

「うん。心配で、心配で。救急車呼ぼうかなんて話にもなりかけたのよ」

「舞台は?」

「大成功。ほんと、がんばったね!」

 ぎゅっと、手を握ってくれる。頬が、より一層熱くなる。

「ジークフリーデ様や、私の友達は……?」

「さあ? おじゃま虫はいないほうがいいとか言って、自室に帰ったよ」

 みんな、気が利くなあ。

「なにか、欲しいものある?」

「冷えた炭酸水と、軽くなにか食べたい」

「わかった! ちょっと待っててね!」

 そういうと、彼女も去ってしまった。

 心細い。舞台が大成功に終わったというのが救いかな。ほとんど、上の空だったもんね。

 うと……うと……。

 !

「あ、起こしちゃった?」

「寝てた?」

「うん。オートミールと炭酸水を持ってきたらから、起こそうかどうか迷ったんだけど」

「それなら、遠慮なく起こしてくれてよかったのに。いただきます」

「まだ無理しちゃ駄目。ふー……ふー……はーい、あーん」

 まさかの、あーん!

 照れながら、あーん。……美味しい! ほんのり甘くて。私、物心つかないうちにお母様を亡くしているから、きっとこれが、母の味というものなんだろうな。

「すごく美味しい!」

「よかった。お水もどうぞ」

 蛇腹つきストローが刺さったペットボトルを近づけてくれる。レモン風味が爽やか。

 昏倒した割には、我ながら食欲旺盛で、ぺろりと平らげてしまいました。

「おかわり、いる?」

「大丈夫。それより……」

 二人きりのシチュエーション。ここで言わずに、いつ言うか!

「私、オデットさんが好き。ラブ的な意味で。この世の誰よりも愛してる」

 告白の言葉は、案外すんなりと口から出てきた。

 両頬を手で挟み、赤面する彼女。

 でも、意外なのはその反応で。

「いいよ」

 あまりにも、素直な返事。

「えーっ!? えほっ! えほ!」

 思わずむせた。

「嘘でしょ!? 嘘でしょ嘘でしょ!?」

 つい、ほっぺたをつねるというベタなムーブをしてしまう。

「わたし、こういうことで嘘はつかないよ」

「ごめんなさい」

「責めてるわけじゃないの。最初は意地悪されたけど、本当に、人が変わったようにまっすぐになって……。そんなあなたが、好きになっていたみたい。恋心を自覚したのは、こないだの花壇かな。心を入れ替えたあなたが、とても魅力的で」

 頭痛がするけど、脳内でりんごんりんごんと、祝福の鐘が鳴る。

「元気になったら、デートしましょう?」

「そしたら、オデットちゃん・・・手作りの、モンテ・クリストが食べたいな……」

「お安い御用!」

 二の腕を、ぽんと叩く彼女。

 こうして私オディールは、ゲーム原作者も知らない、隠しハッピーENDを迎えたのでした!
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