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Epilogue
エピローグ
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樹々を渡る爽やかな風に白金をなびかせて、私はカインの隣に立つ。あれからどれくらい時が経ったのか、私の背は伸び彼の肩の辺りまでになった。
私達の視線の先には、子供たちが居る。四季咲きの薔薇の花の香りが馥郁と漂よう、この東屋まであの子たちの笑い声が聞こえてくる。
ここは、洞窟城の中の庭園エリア。カインが私の為に用意してくれた場所に、下級精霊のフリーデに手伝ってもらって、アルフヘイムの妖精にもらった草花の種を蒔いた。今では良い森に育っていて、中央には世界樹の子樹もある。
大樹に吊るされたブランコを、カインとよく似た小さな男の子が漕いでいる。オルグがブランコを揺らすと、「もっと、もっとだよ、爺や」とせがんだ。
「あまり漕ぐと、あぶのうございますよ、シオンさま」
お日様の光を浴びて、シオンのサラサラの銀髪が輝く。老いたオルグは、この息子が大のお気に入りで、目に入れても痛くないほど可愛がっているのだ。
よちよち歩きをしている小さな娘は、猫人族の子守役の侍女に見守られながら、芝生の上でフリーデと花を摘んで遊んでいる。ヘーゼルの瞳に白金のこの女の子は、カインが溺愛している。上の子のシオンと違って、魔力が弱いことなども一層、庇護欲を掻き立てられるのかもしれない。
「とぉたまと、かぁたまに。ちゅんだ、おはにゃを、あげる、のっ」
妹の言葉を聞いて、シオンが「ぼくもっ、ぼくも母さまに、お花を差し上げる」と、大きく揺れているブランコから、急に飛び降りた。
「シオンっ!」
普通の人族の子供なら、大怪我をしてしまうような高さから勢いよく空を舞い、ヒヤリとさせられる。身体能力の高いシオンが難なく着地したのを見て、ホッと胸をなでおろした。カインが私の背中をさすり、気遣ってくれる。
「子供たちには、守りの指輪を付けさせているから、心配ない」
カインに頷きながら「分かっていても、冷や冷やするのよ……。目の離せない、やんちゃな年頃ですもの」と溜息をついた。
シオンは、小言を言うオルグを聞き流して「リリス、一緒に花束を作ろう」と妹の側に駆け寄っていた。
そして二人であれこれ工夫して、満足のいく花束が完成すると、こちらにトコトコとやって来た。
「母さま、お花どうぞ?」
「とぉたま、どうじょ!」
「ありがとう、綺麗ね」
「ありがとう、リリス」
ちいさな手で摘んだ、可愛らしい花束を私達に渡してくれる。私はシオンを抱きしめ、カインはリリスを頭上へ高く抱き上げた。キャッキャッと、リリスのはしゃぐ声が響く。
兄妹は私達の嬉しそうな顔を見て満足し、またオルグや侍女の元に戻って行った。
花束の中にある薄紫色の花をみて、前世で裏庭に咲いていた紫苑を思い出す。お祖母ちゃんと同じ名前のこの花言葉は4つ。「あなたを忘れない」「追憶」「遠くにいる人を思う」「思い出」。最初に生まれたシオンに、この花の名前を付けさせてもらった。
初めての子、シオンが生まれた朝、真っ赤な顔で泣いている赤ちゃんが、その紅葉のような可愛らしい手で、私の人差し指をぎゅっと握った。その瞬間、この小さな命を、絶対に守らなければ……そんな使命感が、ふつふつと湧いて来たのだった。カインのご両親が、自らの命に代えて小さな命を守ったように。
カインが生まれた日に、勇者たちと戦って亡くなったという彼のご両親。生まれたばかりの我が子と死に別れなければならなかった二人は、どれほど無念で、心残りだったことだろう。こうして今、二人の子を持つ親になったからこそ、カインのご両親の気持ちを慮るようになった。
そして、リリスが生まれた時は――そのヘーゼルの瞳を覗き込み……少年のカインとメイだった私達の所に来てくれた、あのお腹の赤ちゃんが再び戻って来てくれたような気がした。カインも、きっと私と同じことを思っただろう。リリスの魔力の乏しささえも、メイだった時の私を想い出させるための神の采配のような気がして、すべてが愛おしく感じた。私達でリリスを、守ってやらなくては――。
「ナギサのお陰で俺は、自分の家族を持つことが出来た。――ありがとう」
改まってカインにお礼を言われると、胸が一杯になってしまう。なんて答えたらいいのかも、分からなくて。
そんな私を、優しく包み込むように彼の手が腰にまわり、端正な顔が近づいて、私の唇にそっとキスを落とした。
この幸せな日々が、ずっと続きますように……。
もし未来に、困難が待ち受けているとしても、カインと洞窟城のみんなで、きっと乗り越えてみせる。私はそう心に、誓った――。
―― 完 ――
◆◇後書き◆◇
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
ブックマーク・ご感想等に励ましを頂き、完結させることが出来ました。
この作品は「転生エルフ姫はドSの魔王に溺愛される」の改訂版として書きました。
(ムーンライトノベルズにて掲載完結済・本日アルファポリスにも外部リンクを付けました)
物語の内容はかなり変わっています。大幅改稿、書下ろし多数、新エピも多数入れました。
特に第6章は大きな変更がありました。
そして、原作の72話「旅立ち」の辺りでこちらの物語は〆させていただきました。
原作(完結済)ではこの後、まだ物語は93話まで続きます。
アルフヘイムを発った後、ユリウス王子達と戦闘があったり、
オークの砦でセレーネ王女と再会したり、洞窟城に帰還後、アグラットの聖典を使い少年カインと再会したり、
オルグとまたひと悶着起きたりします。
もし興味がありましたら、お読みください。
R18については、原作の方がよりファンタジーのオブラートに包んだSMチックな内容になっています。
また、連載中の全年齢対象のポップな物語「ウチのダンジョンに男装勇者がやって来た!」は、
エルフ姫のパラレルワールドで、カインとナギサの息子シオンや大人になった火竜のフラウ、
アヴァロンの魔女モーガンが、わき役として登場しています。こちらもよろしければご覧ください。
このエルフ姫の物語の続きまたは番外編についてですが、勇者の国や狂信的な教団との抗争や、
カインとナギサの子供たちの物語(魔力がほとんどないリリス姫が成長したらどうなるの?!とか)、
女悪魔公爵アグラット・バット・マハラドの魔界の覇権争いから脱落して地上に堕ちた物語、
他の竜が守る迷宮の物語など――構想はあれこれあるのですが、
今は静かにこの物語の筆を置きたいと思います。
私達の視線の先には、子供たちが居る。四季咲きの薔薇の花の香りが馥郁と漂よう、この東屋まであの子たちの笑い声が聞こえてくる。
ここは、洞窟城の中の庭園エリア。カインが私の為に用意してくれた場所に、下級精霊のフリーデに手伝ってもらって、アルフヘイムの妖精にもらった草花の種を蒔いた。今では良い森に育っていて、中央には世界樹の子樹もある。
大樹に吊るされたブランコを、カインとよく似た小さな男の子が漕いでいる。オルグがブランコを揺らすと、「もっと、もっとだよ、爺や」とせがんだ。
「あまり漕ぐと、あぶのうございますよ、シオンさま」
お日様の光を浴びて、シオンのサラサラの銀髪が輝く。老いたオルグは、この息子が大のお気に入りで、目に入れても痛くないほど可愛がっているのだ。
よちよち歩きをしている小さな娘は、猫人族の子守役の侍女に見守られながら、芝生の上でフリーデと花を摘んで遊んでいる。ヘーゼルの瞳に白金のこの女の子は、カインが溺愛している。上の子のシオンと違って、魔力が弱いことなども一層、庇護欲を掻き立てられるのかもしれない。
「とぉたまと、かぁたまに。ちゅんだ、おはにゃを、あげる、のっ」
妹の言葉を聞いて、シオンが「ぼくもっ、ぼくも母さまに、お花を差し上げる」と、大きく揺れているブランコから、急に飛び降りた。
「シオンっ!」
普通の人族の子供なら、大怪我をしてしまうような高さから勢いよく空を舞い、ヒヤリとさせられる。身体能力の高いシオンが難なく着地したのを見て、ホッと胸をなでおろした。カインが私の背中をさすり、気遣ってくれる。
「子供たちには、守りの指輪を付けさせているから、心配ない」
カインに頷きながら「分かっていても、冷や冷やするのよ……。目の離せない、やんちゃな年頃ですもの」と溜息をついた。
シオンは、小言を言うオルグを聞き流して「リリス、一緒に花束を作ろう」と妹の側に駆け寄っていた。
そして二人であれこれ工夫して、満足のいく花束が完成すると、こちらにトコトコとやって来た。
「母さま、お花どうぞ?」
「とぉたま、どうじょ!」
「ありがとう、綺麗ね」
「ありがとう、リリス」
ちいさな手で摘んだ、可愛らしい花束を私達に渡してくれる。私はシオンを抱きしめ、カインはリリスを頭上へ高く抱き上げた。キャッキャッと、リリスのはしゃぐ声が響く。
兄妹は私達の嬉しそうな顔を見て満足し、またオルグや侍女の元に戻って行った。
花束の中にある薄紫色の花をみて、前世で裏庭に咲いていた紫苑を思い出す。お祖母ちゃんと同じ名前のこの花言葉は4つ。「あなたを忘れない」「追憶」「遠くにいる人を思う」「思い出」。最初に生まれたシオンに、この花の名前を付けさせてもらった。
初めての子、シオンが生まれた朝、真っ赤な顔で泣いている赤ちゃんが、その紅葉のような可愛らしい手で、私の人差し指をぎゅっと握った。その瞬間、この小さな命を、絶対に守らなければ……そんな使命感が、ふつふつと湧いて来たのだった。カインのご両親が、自らの命に代えて小さな命を守ったように。
カインが生まれた日に、勇者たちと戦って亡くなったという彼のご両親。生まれたばかりの我が子と死に別れなければならなかった二人は、どれほど無念で、心残りだったことだろう。こうして今、二人の子を持つ親になったからこそ、カインのご両親の気持ちを慮るようになった。
そして、リリスが生まれた時は――そのヘーゼルの瞳を覗き込み……少年のカインとメイだった私達の所に来てくれた、あのお腹の赤ちゃんが再び戻って来てくれたような気がした。カインも、きっと私と同じことを思っただろう。リリスの魔力の乏しささえも、メイだった時の私を想い出させるための神の采配のような気がして、すべてが愛おしく感じた。私達でリリスを、守ってやらなくては――。
「ナギサのお陰で俺は、自分の家族を持つことが出来た。――ありがとう」
改まってカインにお礼を言われると、胸が一杯になってしまう。なんて答えたらいいのかも、分からなくて。
そんな私を、優しく包み込むように彼の手が腰にまわり、端正な顔が近づいて、私の唇にそっとキスを落とした。
この幸せな日々が、ずっと続きますように……。
もし未来に、困難が待ち受けているとしても、カインと洞窟城のみんなで、きっと乗り越えてみせる。私はそう心に、誓った――。
―― 完 ――
◆◇後書き◆◇
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
ブックマーク・ご感想等に励ましを頂き、完結させることが出来ました。
この作品は「転生エルフ姫はドSの魔王に溺愛される」の改訂版として書きました。
(ムーンライトノベルズにて掲載完結済・本日アルファポリスにも外部リンクを付けました)
物語の内容はかなり変わっています。大幅改稿、書下ろし多数、新エピも多数入れました。
特に第6章は大きな変更がありました。
そして、原作の72話「旅立ち」の辺りでこちらの物語は〆させていただきました。
原作(完結済)ではこの後、まだ物語は93話まで続きます。
アルフヘイムを発った後、ユリウス王子達と戦闘があったり、
オークの砦でセレーネ王女と再会したり、洞窟城に帰還後、アグラットの聖典を使い少年カインと再会したり、
オルグとまたひと悶着起きたりします。
もし興味がありましたら、お読みください。
R18については、原作の方がよりファンタジーのオブラートに包んだSMチックな内容になっています。
また、連載中の全年齢対象のポップな物語「ウチのダンジョンに男装勇者がやって来た!」は、
エルフ姫のパラレルワールドで、カインとナギサの息子シオンや大人になった火竜のフラウ、
アヴァロンの魔女モーガンが、わき役として登場しています。こちらもよろしければご覧ください。
このエルフ姫の物語の続きまたは番外編についてですが、勇者の国や狂信的な教団との抗争や、
カインとナギサの子供たちの物語(魔力がほとんどないリリス姫が成長したらどうなるの?!とか)、
女悪魔公爵アグラット・バット・マハラドの魔界の覇権争いから脱落して地上に堕ちた物語、
他の竜が守る迷宮の物語など――構想はあれこれあるのですが、
今は静かにこの物語の筆を置きたいと思います。
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みんなの感想(2件)
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何気に読んでたはずなのに物語がすごく作り込まれてて気付いたら一気読みしちゃってました!
むちゃくちゃ面白かったです(о´∀`о)
最後もハッピーエンドでほのぼのと和みました。
やはり良作は時間が経っても色褪せない...。
素晴らしい作品をありがとうございました。
morelさま
感想ありがとうございます!
読み返していただけて、とても嬉しいです・°・(ノД`)・°・
そして感想を書いてくださって本当にありがとうございます。
作品を読んだ方から感想を頂けることは、一番うれしい事ですm(u_u*)m
とっても幸せな気持ちになれました(*´∀`*)
morelさまに感想を頂いたおかげで、お話のメモ帖に浮かんだ物語をいくつもあらすじなど書きつけていながら、書く作業まで至らないそんな日々の中、また何か書こうかな、という気持ちが芽生えてきた気がします。
ありがとうございました♡
ムーンライトノベルズでも読んでました。ランキングを確認してたら見たことある題名でびっくりしました!
お話が一部変わっていると聞いたので
もう一度楽しみたいと思います!
これから更新楽しみにしてますね!
スピカ様
コメントありがとうございます! ムーンライトノベルズでも読んで下さったのですね(n゜O゜n)
こちらも見て下さってありがとうございます!
こちらのお話は8話の「地母神の加護と灰色狼」まではムーンと一緒でその後、別のエピソードを入れたり、修正もしていくつもりです。予定は未定で、どうなることやらですが(;'∀')
今日で12話までupしましたが、9~12話まではほとんど別エピの加筆しました。13話も多分。当初の予定より加筆エピが増えました。
こちらも、楽しんでもらえたら、すごくうれしいです。読んで下さってありがとうございます。これからもよろしくお願いしますm(u_u*)m