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第2節 女子高生(おっさん)の日常といともたやすく行われるデビュー

おまけ.女子高生(おっさん)のバレンタイン〈心の溝編〉

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〈1-C組 昼休み〉

「「「アシュナ姐さん、バレンタインおめでとー。はいこれ」」」
「…………………え?」

 全校生徒の男子どころか先生たちからの監視、及び知らない先輩の女の子とか別クラスの女の子からのチョコ攻撃もようやく落ち着いてきた昼休みーーイケメン達からチョコを渡された。
 (あれ? バレンタインって何だったっけ? 男子から女子に贈るイベントだっけ?)と思考の迷路に陥って戸惑っているとイケメン達は陽気に言った。

「いや、部活の事とか世話になったしフットサルん時とか色々迷惑かけたからさ。感謝の印、まぁー俺らチョコとか作れないから市販のなんだけど」

 なるほど、確かに色々迷惑かけられた。しかし、軽い感じで重すぎない市販のチョコを渡してくるあたりはさすがイケメン。重すぎる六法全書を渡された後もあってか、後に引かない感じが気楽で良きーーこれはおっさんも見習わなければなるまい。
 これならば、お返し? も気安く返せるというものだ。一応、冗談混じりで応対する。
 
「あ、ありがとう。じゃあ、ホワイトデーは私が用意すればいいんだよねっ」
「いや、ホワイトデーは男から返すものだよ~。やっぱ冗談上手いなアシュナ姐さんは、じゃ、期待しててね」
「…………え?」

 バレンタインとホワイトデーってなんだっけ、と再び思考の迷路に陥る。やっぱり陽キャってその場のノリだけで適当言ってるだけなんじゃないかとますますイケメン達への心の溝は深まった。

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「ん?」

 昼休みが終わろうという頃、ケータイが鳴った。電話のようで……その主は、かつて痴漢騒動で出会った他校の妹系真面目お嬢様【小泉いずみ】ちゃんだ。

『あ、御姉様。お昼休み中にすみません……今、校門にいるんですけど……チョコをお渡ししたいのでお手数ですが来て頂けますか……?』
「え、うん。わかった、すぐに行くね」

 いずみちゃんとはあれ以来、電車通学の時にたまに一緒になるのとメールするくらいで特に目立ったイベントはない。ギャルゲーの攻略対象(ヒロイン)だったら好感度ゲージは全然溜まっていないだろうにも関わらず、ちゃんとバレンタインイベントしてくれるとは何て真面目で良い娘だろうか。奇妙な人達が周囲に集う中で、数少ないまともな女の子だ。

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----------

〈校門〉

 校門へ来てみるとなにか騒がしい、数名の男子が群がり……更に数名の男子生徒が地に伏している。群衆の隙間から覗いてみると、その中心にいずみちゃんがいた。いずみちゃんはすぐに俺を発見し、修羅みたいな表情から一転して嬉しさを抑えきれないといった顔になり駆け寄ってきた。

「あっ! 御姉様~!」
「ど……どうしたの一体……大丈夫?」
「はい、校門で待っていたところにこちらのクソったれどもがしつこく声をかけてきて……無理矢理に腕を掴まれたので払いのけたところです。あ、私……昔から体術は一通り習ってまして……御姉様の友人でないなら殺してもいいですかね? いいですよね? あ、そんな事より御姉様のためだけにチョコ作りましたっ! 私だと思って食べてくださいっ!」

 趣味は読書です、と言わんばかりの真面目妹系眼鏡女子から全く似合わない言葉が次々と飛び出して戦慄した。そういえば冗談かと思ってたけど『痴漢撲滅の義』とかなんとか言ってたし……あれは伏線だったのかーーと、遠い目をして思った。
 

         【現在のチョコ96個+六法全書】
 
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