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第4節 巻き起こる様々な試練と それをいともたやすく乗り越える女子高生(おっさん)の日常

89.女子高生(おっさん)の始まる?伝説

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〈英傑出版社〉

「本当にごめんなさいアシュナちゃん……あたしが甘かったわ」

 久々に足を踏み入れた出版社の編集部──久しぶりに会った二三四(ふみよ)編集長は出会い頭に頭を下げた。
  
「えと……頭を上げてください編集長。別に怒ってるわけじゃないし……そもそも今日呼び出された理由もそんなにわかってないので……」
「編集長、波澄先生には先日のニュース報道の件としか伝えていません。全てお伝えしても宜しいでしょうか?」
「……そうね、こうなってはやむを得ないわ」
「……?」

 ヒマリの家でおっさん(アシュナ)が知らない間にTVで特集を組まれていたのを目にした翌々日──すぐに編集部に呼ばれた。そして……ヤコウさんと編集長が説明してくれたその内容は、少なくともTVに俺が出ていたことよりも衝撃的だった。

 なんと、現在【波澄アシュナ】への獲得戦争(アプローチ)が様々な業界の間で行われているらしい。某有名音楽プロデューサーや報道各局の取締役会長や社長──業界人じゃなくても大物だとわかる様な名だたる連中が、自社に引き抜いてデビューさせようとしたりアイドルにさせようとしたりしているとかなんだとか。
 それらをいなし、上手くコントロールしていたのがうちの編集長だった。勿論、契約を交わして英傑出版社に肖像権を置いている俺にオファーをかけるには編集長の許可が必要だった。
  
 だが、余りにも話題性を孕(はら)んでいる波澄アシュナに我慢できなくなった一部の報道局が無断で先走ってしまったのが……先日の放送。聞けば、かつてメイド喫茶にて出会ったTV局だった。

「勿論、制裁は受けてもらったわ。そのTVクルーは解雇、放送権停止、莫大な賠償金と島流しの刑に処したんだけど……」
「やりすぎじゃないですかね!?」
「一個人のプライバシーを侵害したんだからこれくらい当然よ。ただ……問題は既に放送されてしまったこと……不幸中の幸いで深夜帯だったから視聴率は35%程度だったけど……」
「私の視聴率高すぎ!!? ニュース番組なのに月9
ドラマなみなの!?」
「なーに言ってるの、アシュナのカリスマ性を以てすれば低すぎるくらいよ。本当はね……デビューさせるにも計画を練りに練っていた最中だったのよ……アシュナの誕生日に書籍発売、修学旅行が終わったら大々的にメディア露出と……それが全ておじゃんになってしまったわ……」

 編集長はそう言って落ち込む様子を見せた。
 どうやらデビュー計画に相当力を入れてくれていたようだ、一刻も早く売り出したいところを修学旅行の青春が阻害されるのを案じて待っていてくれたらしい。それが部外者に先をこされたとなれば落胆するのも無理はないのかもしれない。

「でも落ち込んでばかりはいられないわ、日本国民がアシュナを知ってしまった。ここから貴女の日常生活は一変するかも知れない……TVの力は甘くないわよ……」

 編集長達はマスメディアに取り沙汰されたこれからの日常を憂虜(ういりょ)しているようだが、あまり実感はわかなかった。
 要は俺がどう思うかだけの問題──普通の女の子の高校生なら確かに由々しき事態だが、俺の心は男であり中年男性。なんなら風呂を覗かれてもなんとも思わない……羞恥心も恥じらいも、パーソナルスペースもソーシャルディスタンスも、マナーもエチケットも失くしたおっさんだ。
 マスコミでもストーカーでもどんと来い、甘く見てると撃退するぞ。

「とりあえず、賠償金から慰謝料として二千万渡すから今日はこれで美味しいものでも食べてきて」

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・おっさんは二千万円を手に入れた!
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「……………」

 業界の力を甘く見てるのはおっさんかもしれない。
 とりあえず、貧乏性のおっさんは回転寿司に寄り、大満足して帰路についた。
  
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