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追放編
転機
しおりを挟む私は前世の記憶を思い出した。
前世の私は大学生で一人暮らし、バイトをいくつか掛け持ちして学費を稼いで生活をしていた。
しかし不慮の事故で死んでしまった。
そして私は、前世の私が大好きだったゲームの世界に転生したらしい。私が転生したのは登場人物の一人。リディメリア・ロア。ゲームでは悪役令嬢としてヒロインをいじめ抜いて最終的に断罪され、国外追放されるキャラであった。
しかし実際はシナリオと異なり私はヒロインであると思われるアイリ・マクリールをイジメたりはしていない。ゲームの様に直接アイリにキツイ事を言ったり、階段から突き落としたのなんて以ての外。完全な濡れ衣を着せられて断罪されてしまった。これもシナリオの強制力というものなのだろうか…?
「それにしても国外追放ね……記憶が戻ってなかったら絶望的な状況だったわ」
貴族の令嬢が使用人もいない状態で放り出されるのは野垂れ死ねと言っているのと変わらない。
プライドの高い令嬢達が、他国で平民として生きるなんて出来るわけがない。
しかし前の世界での記憶を思い出した今は侯爵令嬢として教わることのなかった1人で生活する術を知っている。
たとえ他国で平民として生きることになっても全く問題はないだろう。
「あとは国外に出されてからどうやって生活場所を確保するかよね」
鉄格子のついた小さめの窓からは月明かりが入る。長い時間気絶してしまっていたみたいだ
外の景色は存外悪くない。ここは城でも上層階にある独房なのだろう。
目に映るのはまだ点々と明かりの残る城下町と遠くに少しだけ見える森の木々。
夜の帳の降りた静けさは今のリディメリアにはとても気持ちの良いものだった。
ふと、外から"何か"が近づいてくる気配がした。
悪意のない感じないその何かは時を置かずに鉄格子を抜けリディメリアの膝元に文字通り飛んできた。
「これは、お祖父様の使われる伝書フクロウの魔術ね」
リディメリアの祖父であるクロード・ロアは前王の宰相を務めていた人物で、現在宰相を務める父に引き継ぎをしてから隠居という名の各国放浪の旅に出ていた。
そんな祖父が家族に連絡する手段として用いているのがこの伝書鳩ならぬ伝書フクロウである
魔術を用いて編み込んだ紙を飛ばすことによってフクロウの姿になった手紙は一直線に相手の元に飛んでいく高等魔術。
リディメリアもこの術を習得するまでかなりの年月がかかってしまったが、とても便利な魔術の一つである。
リディメリアが指先で膝上にいるフクロウに触れるとフクロウは小さな光を放って手紙の形に変化した。
『親愛なるリディメリアへ
息子から話は聞いたよ、大変な事になってしまったね。お前の両親は君を既に勘当している。汚名を背負った娘を侯爵家に置いておきたくないんだろうね。でも優しいリディメリアがそんな行為を働くとは私は思えない。私はお前が無実だと信じているよ。
しかし、こうなってしまった以上結果を覆すことは出来ない。助けてやれなくてすまない。
そしてこの手紙の本題だ。罪から助けてはやれないが、その後に手助けする事は出来る。
国外追放された後、私の従者が君を馬車で拾おう。そのままその馬車に乗り、この国からとても離れた国、アスメニア王国に入国する。私の伝手で国の王には話を通してあるから心配いらない。その国のミュールという商業都市があるのだが、そこの一室を君の新しい生活の地として用意した。この場所は息子達には話していない。追ってこられることはないから安心しなさい。
しかし、一人での生活は厳しく辛いだろう、ここまでが私に出来る精一杯の手助けだ。あとはお前の好きに生きなさい。
私も、一段落したら逢いに行くよ。
クロード・ロア』
読み終わるとその手紙は小さな粒子とともに消滅してしまった。
「お祖父様、ありがとう……ございます…!」
お祖父様は私を信じてくれている。
新しい場所を与えてくださった。
私のことを誰も知らない、まっさらな場所を。
「濡れ衣を……前の言葉を借りるなら冤罪ね、冤罪で国外追放されるっていうのに」
少しだけワクワクしてしまう。
もう王妃としてのキツイ教育も。
両親からの重圧も。
周りからの嫉妬や陰口から解放される。
「私は、新しい場所で生きていきます!」
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