35 / 79
34. 追憶する姫君①
しおりを挟むロゼルヴィア時代の回想編です。少し続きます。
△▼△▼△▼
私───ロゼルヴィアとウィリアード殿下の婚約が決まったのは、私が10歳で彼が12歳だった。
エルフィールド国の姫として生まれた上に兄弟がいなかった為、将来この国を背負うための教育を幼い頃から始めていた。10歳を迎えるまでは一切婚約話を聞かなかった。だから初めて聞いた時は少し動揺した。てっきり、国内の有力貴族の子息が相手だとばかり思っていたからだ。
婚約話を告げられて1ヶ月が経つと、初対面の場が設けられることになった。わざわざ相手であるデューハイトン帝国の王子が来てくれるようだった。
エルフィールド国とデューハイトン帝国は少し離れた場所に位置している。同じ大陸にあるものの、互いの国に行こうとすれば4日はかかるだろう。とは言えエルフィールド国の者は移動魔法を使えば一瞬で着けるので、基本はこちらからお邪魔する。だが、今回の顔合わせはデューハイトンの王子が自らの足で来てくれるのだった。
王城の自室で人に会うために準備を始めるも、初めて会う国外の人かつ婚約者ということで緊張をしていた。
「……変ではないかしら」
「大丈夫ですよ姫様」
「完璧にございます」
周りに控える侍女達は微笑ましく見守っているが、私の内心だけは穏やかではなかった。
「どのような人なのかしら」
あまり外の情報に触れる機会が少ない私にとって、デューハイトンの王子というのが唯一知っていることだった。
「私たちも知りかねますね。デューハイトン帝国とエルフィールド国そのものの仲は良いものですが」
長年に渡る交流で、デューハイトンとの親交は深まっていった。この婚約は双方にとって満を持したタイミングのものなのだろう。
「情報は少ないですから、取り敢えず会うしかありませんね」
「楽しみですね、ようやくお会いできるのですから」
「……そういうものなのかしら」
「そうですよ」
特段会ってみたいと感じたことはない。いずれ会うことになり、それが近いうちであることは予測できた。多少誤差はあったが。
「……一緒にエルフィールドを守ってくれる人がいいな」
求めるのはそれだけだ。
王族として生まれて課せられた唯一の使命。それを共にやり遂げてくれる人であれば、後は多くは望まない。
呟きが消え去るように、無理矢理に緊張をかき消した。
「……行きましょう」
準備を済ませて部屋を出る。
小さな体に覚悟を抱えて、対面を迎えた。
どうやら丁度到着したようで、すぐにでも挨拶は可能とのことだった。先ずは国王である父に謁見を兼ねた挨拶を済ませているようで、隣室でそれが終わるのを待っていた。終わり次第、こちらに来るようだった。
おさめた筈の緊張が少しずつ戻ってきてしまう中、顔に出さないように葛藤していた。
淑女教育は絶賛学び中で、まだ綺麗な笑顔を張り付け続けるのは上手くできない。どうにか視点を定めて心を落ち着ける。顔も不自然にひきつらないようにするが、どうも上手くいかない。両手で頬をマッサージして表情筋をほぐす。
「……姫様」
それに少し夢中になっている間に、どうやら謁見を終えた王子が部屋に来ていたようだ。慌てて席から立ち上がる。近づいてきた王子に挨拶をする。
「遠路はるばるご苦労様でした。お初にお目にかかります。エルフィールド国王女、ロゼルヴィアにございます」
動揺と焦りを一切見せずに挨拶をこなす。
「ご丁寧にありがとうございます。では僕も。お初にお目にかかりますロゼルヴィア王女。デューハイトン帝国第2王子、ウィリアードです」
12歳にしてはとても大人びた声色と雰囲気を持ち合わせる王子。柔らかな笑みで挨拶を交わす姿はかなりの余裕を感じられる。
「座りましょうか」
「そうですね」
私の心情もあいまって固い雰囲気になってしまう。それでも穏やかな雰囲気にしようという心がけを相手から感じられる。
「…………」
そう言えば、話す内容を事前に何も考えてこなかった。こういう二人だけの場は初めてなこともあり、どういった話題から入るのが正しいのかわからない。頭を悩ませながら最適な話題を急ぎ見つけようとする中、思いやりを乗せた言葉が届いた。
「顔合わせと称していますが、気楽に話したいことを話せればと思っています。最初ですから。まずは、ゆっくりと距離を近づける方向でいきませんか」
「……はい、そうしましょう」
「良かった」
優しそうに微笑む姿さえも幼さを感じず、立派な紳士に見えた。
「実はこちらに数日滞在させていただくんです」
「そうでしたか」
「はい。ですので時間は思っているよりはあるかと。そして、できれば毎日少しの時間で構わないのでお会いできればと」
それを含めてゆっくりと距離を縮めたいとのことだった。
「もちろんです」
「ありがとうございます」
初情報に少し戸惑うものの、特に断る理由もないことから提案を受け入れる。
「何かロゼルヴィア姫からはありますか」
「私から……そう、ですね」
一瞬悩んで、正直な胸の内を話した。
「実は、どのような話題をあげればよいかわからなくて。何分、このような場は初めてなもので」
「では、初めは僕から色々とお聞きしても良いですか」
「もちろんです、お願いします」
「それでは初歩的なことから……」
好きな食べ物や色、最近の変わった出来事、お互いの国について等を話した。
そして話題は魔法について。
「ウィリアード殿下は魔法をご覧になったことはあるのですか」
「はい。と言っても機会は数少なく、しっかりと間近で見たことはありませんが」
「何か見てみたい魔法はありますか」
「そうですね……面白い魔法ですかね」
何とも範囲の広い答えだ。
今私が身に付けているものの中で変わった現象を起こせるか……と思案してみる。
「……では、こういうのは如何でしょうか」
そう言うと、立ち上がる。
「……?」
立ち上がり殿下の方を向くとくるりと一回転をした。
「……えっ」
行ったのは本当に簡易的な魔法。認識阻害魔法の一つで、着ているドレスの色を回った瞬間に変えたのだ。
「とっても簡易的なものですけれど」
「凄いですね……近くで見ても?」
「構いませんよ」
言葉通りゆっくりと縮むと思っていた距離は、予想よりも早く狭まった。会話の最後には魔法を見せるほど、少し気が置けない仲に近づいたのである。
4
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】ご期待に、お応えいたします
楽歩
恋愛
王太子妃教育を予定より早く修了した公爵令嬢フェリシアは、残りの学園生活を友人のオリヴィア、ライラと穏やかに過ごせると喜んでいた。ところが、その友人から思いもよらぬ噂を耳にする。
ーー私たちは、学院内で“悪役令嬢”と呼ばれているらしいーー
ヒロインをいじめる高慢で意地悪な令嬢。オリヴィアは婚約者に近づく男爵令嬢を、ライラは突然侯爵家に迎えられた庶子の妹を、そしてフェリシアは平民出身の“精霊姫”をそれぞれ思い浮かべる。
小説の筋書きのような、婚約破棄や破滅の結末を思い浮かべながらも、三人は皮肉を交えて笑い合う。
そんな役どころに仕立て上げられていたなんて。しかも、当の“ヒロイン”たちはそれを承知のうえで、あくまで“純真”に振る舞っているというのだから、たちが悪い。
けれど、そう望むのなら――さあ、ご期待にお応えして、見事に演じきって見せますわ。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる