滅びた国の姫は元婚約者の幸せを願う

咲宮

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34. 追憶する姫君①

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 ロゼルヴィア時代の回想編です。少し続きます。

△▼△▼△▼



 私───ロゼルヴィアとウィリアード殿下の婚約が決まったのは、私が10歳で彼が12歳だった。

 エルフィールド国の姫として生まれた上に兄弟がいなかった為、将来この国を背負うための教育を幼い頃から始めていた。10歳を迎えるまでは一切婚約話を聞かなかった。だから初めて聞いた時は少し動揺した。てっきり、国内の有力貴族の子息が相手だとばかり思っていたからだ。

 婚約話を告げられて1ヶ月が経つと、初対面の場が設けられることになった。わざわざ相手であるデューハイトン帝国の王子が来てくれるようだった。

 エルフィールド国とデューハイトン帝国は少し離れた場所に位置している。同じ大陸にあるものの、互いの国に行こうとすれば4日はかかるだろう。とは言えエルフィールド国の者は移動魔法を使えば一瞬で着けるので、基本はこちらからお邪魔する。だが、今回の顔合わせはデューハイトンの王子が自らの足で来てくれるのだった。

 王城の自室で人に会うために準備を始めるも、初めて会う国外の人かつ婚約者ということで緊張をしていた。

「……変ではないかしら」

「大丈夫ですよ姫様」

「完璧にございます」

 周りに控える侍女達は微笑ましく見守っているが、私の内心だけは穏やかではなかった。

「どのような人なのかしら」

 あまり外の情報に触れる機会が少ない私にとって、デューハイトンの王子というのが唯一知っていることだった。

「私たちも知りかねますね。デューハイトン帝国とエルフィールド国そのものの仲は良いものですが」

 長年に渡る交流で、デューハイトンとの親交は深まっていった。この婚約は双方にとって満を持したタイミングのものなのだろう。

「情報は少ないですから、取り敢えず会うしかありませんね」

「楽しみですね、ようやくお会いできるのですから」

「……そういうものなのかしら」

「そうですよ」

 特段会ってみたいと感じたことはない。いずれ会うことになり、それが近いうちであることは予測できた。多少誤差はあったが。

「……一緒にエルフィールドを守ってくれる人がいいな」

 求めるのはそれだけだ。
 王族として生まれて課せられた唯一の使命。それを共にやり遂げてくれる人であれば、後は多くは望まない。

 呟きが消え去るように、無理矢理に緊張をかき消した。

「……行きましょう」

 準備を済ませて部屋を出る。
 小さな体に覚悟を抱えて、対面を迎えた。











 
 どうやら丁度到着したようで、すぐにでも挨拶は可能とのことだった。先ずは国王である父に謁見を兼ねた挨拶を済ませているようで、隣室でそれが終わるのを待っていた。終わり次第、こちらに来るようだった。

 おさめた筈の緊張が少しずつ戻ってきてしまう中、顔に出さないように葛藤していた。
 淑女教育は絶賛学び中で、まだ綺麗な笑顔を張り付け続けるのは上手くできない。どうにか視点を定めて心を落ち着ける。顔も不自然にひきつらないようにするが、どうも上手くいかない。両手で頬をマッサージして表情筋をほぐす。

「……姫様」

 それに少し夢中になっている間に、どうやら謁見を終えた王子が部屋に来ていたようだ。慌てて席から立ち上がる。近づいてきた王子に挨拶をする。

「遠路はるばるご苦労様でした。お初にお目にかかります。エルフィールド国王女、ロゼルヴィアにございます」

 動揺と焦りを一切見せずに挨拶をこなす。

「ご丁寧にありがとうございます。では僕も。お初にお目にかかりますロゼルヴィア王女。デューハイトン帝国第2王子、ウィリアードです」

 12歳にしてはとても大人びた声色と雰囲気を持ち合わせる王子。柔らかな笑みで挨拶を交わす姿はかなりの余裕を感じられる。

「座りましょうか」

「そうですね」

 私の心情もあいまって固い雰囲気になってしまう。それでも穏やかな雰囲気にしようという心がけを相手ウィリアード殿下から感じられる。

「…………」
 
 そう言えば、話す内容を事前に何も考えてこなかった。こういう二人だけの場は初めてなこともあり、どういった話題から入るのが正しいのかわからない。頭を悩ませながら最適な話題を急ぎ見つけようとする中、思いやりを乗せた言葉が届いた。

「顔合わせと称していますが、気楽に話したいことを話せればと思っています。最初ですから。まずは、ゆっくりと距離を近づける方向でいきませんか」

「……はい、そうしましょう」

「良かった」

 優しそうに微笑む姿さえも幼さを感じず、立派な紳士に見えた。

「実はこちらエルフィールド国に数日滞在させていただくんです」

「そうでしたか」

「はい。ですので時間は思っているよりはあるかと。そして、できれば毎日少しの時間で構わないのでお会いできればと」
 
 それを含めてゆっくりと距離を縮めたいとのことだった。

「もちろんです」

「ありがとうございます」

 初情報に少し戸惑うものの、特に断る理由もないことから提案を受け入れる。

「何かロゼルヴィア姫からはありますか」

「私から……そう、ですね」

 一瞬悩んで、正直な胸の内を話した。

「実は、どのような話題をあげればよいかわからなくて。何分、このような場は初めてなもので」

「では、初めは僕から色々とお聞きしても良いですか」

「もちろんです、お願いします」

「それでは初歩的なことから……」

 好きな食べ物や色、最近の変わった出来事、お互いの国について等を話した。

 そして話題は魔法について。

「ウィリアード殿下は魔法をご覧になったことはあるのですか」

「はい。と言っても機会は数少なく、しっかりと間近で見たことはありませんが」

「何か見てみたい魔法はありますか」

「そうですね……面白い魔法ですかね」

 何とも範囲の広い答えだ。
 今私が身に付けているものの中で変わった現象を起こせるか……と思案してみる。

「……では、こういうのは如何でしょうか」

 そう言うと、立ち上がる。

「……?」

 立ち上がり殿下の方を向くとくるりと一回転をした。

「……えっ」

 行ったのは本当に簡易的な魔法。認識阻害魔法の一つで、着ているドレスの色を回った瞬間に変えたのだ。

「とっても簡易的なものですけれど」

「凄いですね……近くで見ても?」

「構いませんよ」

 言葉通りゆっくりと縮むと思っていた距離は、予想よりも早く狭まった。会話の最後には魔法を見せるほど、少し気が置けない仲に近づいたのである。
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