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69. 共に歩む未来へ
しおりを挟む衝撃の一目惚れに気付いているのは、どうやら私だけのようだ。
「……フローラ様」
「あ……も、申し訳ありません姫様」
力をいれてしまったことに気付き、急いで手を離す。頬を赤くする姿からして、何かしらを抱いたのは確かである。それでも一瞬で切り替えて、挨拶を行った。
「お初にお目にかかりますわ」
その切り替えの早さに関心しながらも、少し2人が共にいる姿を想像してみた。とてもお似合いである。もしもフローラ様にいずれその気持ちが芽生えるのならば、どうにか幸せになって欲しいと願っていた。しかしその途端私は再び衝撃的なものを見つけた。
「……あ、あぁよろしくお願いします。リフェイン公爵令嬢」
動揺する父の姿もまた、目の前の相手に少なからず惹かれたものであった。
「…………」
運命的な出会いとはこういうことをいうのだろうか。2人の巡り合いに、少し感激を覚えた。どうやら2人の一風変わった雰囲気に気付いたのか、リフェイン公爵はそっと離れてウィルと私にに一言告げると退室していった。
「……ヴィー、僕たちも少し出ようか。お見合い相手としては不足ないだろう?」
「えぇ、全く」
私とウィルは2人に適当な理由をつけて部屋を後にした。2人の仲が深まることを願って。
「さて、どうしようか」
「……フィーディリアの花を見たいわ」
「わかった、そこに行こうか」
ふと花が思い浮かべば、もう一度彼らの声が聞こえる気がした。
「ヴィー、どうぞ」
「……ありがとう」
さりげなくエスコートをしてくれる姿は、私にとって未だに王子そのものに見える。
花々の元へ向かうと、そこには散り始めた姿があった。
「……春が、終わる」
それは人生で最も長く濃い春だった。
ふと、ここで過ごした日々が蘇る。
「もうすぐ散るだろうけれど、また咲いてくらるよ」
「えぇ……ウィル」
「ん?」
「フィーディリアを……この花を忘れずに、ここに咲かせてくれて本当にありがとう」
あの時言えなかった感謝の言葉を伝えた。
「……それくらいしか、なかったんだよ」
「……」
「ヴィーをいつまでも鮮明に覚えておく手段がね。忘れたくなかったんだ、最愛の君を。それ以上に、失くなったことを信じたくなくて……ヴィーはここにいると思い込ませる為に、咲かせたんだ。繋がっている決定的なものは、この花しか思い浮かばなかったから」
それほど想われていたことが段々と目に見えて実感され、嬉しさが込み上げてくる。
「もう二度と、会えないと思っていたんだ」
「……」
本当のことを言えば、会うつもりはなかった。それはウィルも察していた筈だ。
「ヴィー、生きていてくれてありがとう」
「……!」
その言葉は、私が押さえていた筈の気持ちを救ってくれるのに十分なものだった。あの日生き延びたことに対してずっと持っていた罪悪感を忘れさせてくれるのに、求めていたものだった。
「……ヴィー、泣かないで」
「私は……」
「ヴィーには生きる価値は十分存在する。だから大丈夫だよ。……僕にとってヴィーは生きる意味だった。だから生きることに辛くなったら僕を思い出して。君を世界で誰よりも必要としている人間が、ここにいることを」
「ウィル……っ」
通じ合えた想いのおかげで、2回目の抱擁は私からも腕を回すことができた。暖かな胸の中で得る幸せを噛み締めながら、苦しかった想いを涙と共に流していった。その間、ウィルはずっと優しく頭を撫でてくれていた。
「……ヴィー、改めて言わせて」
「……はい」
落ち着いたところで、少しだけ離れる。両手を取りながら、愛おしそうな目線を向けた。
「ロゼルヴィア・フィーディリア嬢、どうかこれからも僕と共に人生を歩んでくれませんか」
「共に歩みましょう、ウィリアード・デューベルン殿下」
「ヴィー、愛してるよ。何にも変えられない程に君を」
「ありがとうウィル。……私も、ウィルを愛し続ける」
その言葉に笑みを深めるウィル。
「もう二度と失わない……必ず、幸せにするから」
「……うん」
それはウィルにとっての大きな誓いだった。確固たる決意を見せたウィルは、甘く微笑むと優しく口づけを落とした。
フィーディリアの花は暖かく私たちを見守るようであった。
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