滅びた国の姫は元婚約者の幸せを願う

咲宮

文字の大きさ
70 / 79

69. 共に歩む未来へ

しおりを挟む


 衝撃の一目惚れに気付いているのは、どうやら私だけのようだ。

「……フローラ様」

「あ……も、申し訳ありません姫様」

 力をいれてしまったことに気付き、急いで手を離す。頬を赤くする姿からして、何かしらを抱いたのは確かである。それでも一瞬で切り替えて、挨拶を行った。

「お初にお目にかかりますわ」

 その切り替えの早さに関心しながらも、少し2人が共にいる姿を想像してみた。とてもお似合いである。もしもフローラ様にいずれその気持ちが芽生えるのならば、どうにか幸せになって欲しいと願っていた。しかしその途端私は再び衝撃的なものを見つけた。

「……あ、あぁよろしくお願いします。リフェイン公爵令嬢」

 動揺する父の姿もまた、目の前の相手に少なからず惹かれたものであった。

「…………」

 運命的な出会いとはこういうことをいうのだろうか。2人の巡り合いに、少し感激を覚えた。どうやら2人の一風変わった雰囲気に気付いたのか、リフェイン公爵はそっと離れてウィルと私にに一言告げると退室していった。

「……ヴィー、僕たちも少し出ようか。お見合い相手としては不足ないだろう?」

「えぇ、全く」

 私とウィルは2人に適当な理由をつけて部屋を後にした。2人の仲が深まることを願って。

「さて、どうしようか」

「……フィーディリアの花を見たいわ」

「わかった、そこに行こうか」

 ふと花が思い浮かべば、もう一度彼らの声が聞こえる気がした。

「ヴィー、どうぞ」

「……ありがとう」
 
 さりげなくエスコートをしてくれる姿は、私にとって未だに王子そのものに見える。
 花々の元へ向かうと、そこには散り始めた姿があった。

「……春が、終わる」

 それは人生で最も長く濃い春だった。

 ふと、ここで過ごした日々が蘇る。

「もうすぐ散るだろうけれど、また咲いてくらるよ」

「えぇ……ウィル」

「ん?」

「フィーディリアを……この花を忘れずに、ここに咲かせてくれて本当にありがとう」

 あの時言えなかった感謝の言葉を伝えた。

「……それくらいしか、なかったんだよ」

「……」

「ヴィーをいつまでも鮮明に覚えておく手段がね。忘れたくなかったんだ、最愛の君を。それ以上に、失くなったことを信じたくなくて……ヴィーはここにいると思い込ませる為に、咲かせたんだ。繋がっている決定的なものは、この花しか思い浮かばなかったから」

 それほど想われていたことが段々と目に見えて実感され、嬉しさが込み上げてくる。

「もう二度と、会えないと思っていたんだ」

「……」

 本当のことを言えば、会うつもりはなかった。それはウィルも察していた筈だ。

「ヴィー、生きていてくれてありがとう」

「……!」

 その言葉は、私が押さえていた筈の気持ちを救ってくれるのに十分なものだった。あの日生き延びたことに対してずっと持っていた罪悪感を忘れさせてくれるのに、求めていたものだった。

「……ヴィー、泣かないで」

「私は……」

「ヴィーには生きる価値は十分存在する。だから大丈夫だよ。……僕にとってヴィーは生きる意味だった。だから生きることに辛くなったら僕を思い出して。君を世界で誰よりも必要としている人間が、ここにいることを」

「ウィル……っ」

 通じ合えた想いのおかげで、2回目の抱擁は私からも腕を回すことができた。暖かな胸の中で得る幸せを噛み締めながら、苦しかった想いを涙と共に流していった。その間、ウィルはずっと優しく頭を撫でてくれていた。

「……ヴィー、改めて言わせて」

「……はい」

 落ち着いたところで、少しだけ離れる。両手を取りながら、愛おしそうな目線を向けた。

「ロゼルヴィア・フィーディリア嬢、どうかこれからも僕と共に人生を歩んでくれませんか」

「共に歩みましょう、ウィリアード・デューベルン殿下」

「ヴィー、愛してるよ。何にも変えられない程に君を」

「ありがとうウィル。……私も、ウィルを愛し続ける」

 その言葉に笑みを深めるウィル。

「もう二度と失わない……必ず、幸せにするから」

「……うん」

 それはウィルにとっての大きな誓いだった。確固たる決意を見せたウィルは、甘く微笑むと優しく口づけを落とした。
 
 フィーディリアの花は暖かく私たちを見守るようであった。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

処理中です...