ただ、抱きしめて。

橘 アコ

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19話 まどろみの中で

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【side.ツキ】


新年早々、千景が会いに来た。

インターホンが鳴り玄関のドアを開けると、「久しぶり!」と満面の笑みで白い息を吐きながら、肩で息をする千景が立っていた。

(──走ってきた?)


寒いので、すぐにドアを閉めて千景を部屋に上げた。


「おじゃましまーす」

「どうぞ」

部屋に入ると、千景は慣れた様子で床にあぐらをかいて座ると、部屋をキョロキョロ見回し始めた。

(久しぶりにきたと思ったら、部屋の様子の何をそんなに気にしてるんだ?)

「休みの日は何してたんだ?」

「別に……ゲームしてたよ何で?」

「いや、誰か来たりしたのか……と思って……」

「来てないけど。」

「そっか……そうか」

あぐらのまま、ゆらゆらと横に揺れてニコニコしている。


表情がコロコロ変わる千景の近くに座り、テーブルの上の飲み物を手に持った。

淹れたばかりの熱いコーヒーをフーフーと冷ましながら飲んでいると、次は穴が空きそうなくらい僕のことを見ている。

(……見過ぎだろ。もうやりたいのか)

千景からの熱い視線に、急に頬が熱くなった。


「ツキ、猫舌なのか?」

「違うけど……」

「さっきからフーフーし過ぎじゃね?」


(実は猫舌なんだよ)

頭の中で返事をして、未だ僕に向けられ続けている千景からの視線を無視した。

すると千景がクスクスと笑い出した。

笑われたタイミングでムッとして、口の中へ飲み物を勢いよく入れてしまった。

「あつっ!」

「大丈夫か?!」

心配しながらも、声を押し殺したようにまだ笑っている。


涙目になった僕を、見せ物みたいに楽しんでいる千景をギロっと睨んだ。

「何飲んでんの?コーヒー?」

「コーヒー。……飲む?」

「飲む!」

千景が来る前に自分の分のコーヒーを淹れたばかりだったので、すぐに淹れてあげた。

「甘くする?」

「ツキと同じで良いよ」

「わかった」

カップを渡してあげると、嬉しそうに受け取ってすぐに口を付けた。

「甘っ!!」

「ダメだった?」

(──やっぱり。そんなに無理しなくて良いのに)

そう聞くと、勢いよく首を横に振りながら、「いや!大丈夫!!」と答えた。


僕は元いた場所へ座り直し、横目で千景の様子を見ると、眉間に皺を寄せながらコーヒーをチビチビ飲んでいる。


(甘いのダメなんじゃん)

そう思ったけど、面白いのでそのまま放っといた。




肌と肌を重ね合わせる時間──

「入れるよ」

そう言って、千景が僕の中へゆっくりと入ってきた。

「んー……はぁ、はぁ」

千景が中にずるずると入ってくると、背中をなぞるように快感が登ってくる。


「……気持ちいい……」

千景は、僕の反応を確かめるように、ゆっくりと動き始めた。

溺れないように必死に息をしていると、千景が話しかけてきた。


「ツキ、新年の初めてのセックスは、姫初めって言うんだぞ」

「ひめ?……知らなかった……あっ、あんっ、んー!」

余裕な表情と態度で、エッチな雑学を話しかけてくる千景が憎らしい。
そんなことばっかりを覚えて、こいつはちゃんと仕事が出来ているのだろうか……

セックスの真っ最中なのに、首元に汗を光らせながら楽しそうに話している。


「今年は、ツキの中で何回出したか、数えてみようかな」

「勝手にして……あっ、もう、大きくしないで……!」

「ツキの中は温かいな」

「千景、おじさんくさい!んっ」

「ひどっ。好きなように、言って、くれ!」

────!


言葉に合わせて奥を突き上げられ、あっという間に蕩けてしまいもう千景の声も届かない。


入ってくる時とはまた違う、引き抜く快感に腰が浮いてしまう。

「ツキのコーヒー甘かったから、一緒に運動しないと。ツキもしっかり声出せよ」

そう言うと、汗で額にかかった髪を指でかき上げられた。千景の優しい仕草に、胸が一瞬だけぎゅっとした。

いつもは感じない何かが胸の中に引っかかって、少しドキっとした。

「んっ、んっ、あっ……!」


僕を求める千景の体温が心地良かった。



 
二人の呼吸と、テレビの音が聞こえる。

汗だくになった身体でまどろんでいると、背中から僕を抱きしめている千景が話しかけてきた。


「なぁ、どこか行かね?」

「……どこに」

「うーん……どうしよ」

「僕……どこが良いとか……わかんない」


荒い呼吸を整えながら返事をした。

ただついているだけのテレビを観ていると、流れていた番組も終わり、ゆったりとした映像がクラシック音楽と共に流れ始めた。

画面の中が、夜景や風景に切り替わっていく。


……もう眠い。

そう思っていると、美しい海中の映像に変わった。


「僕、雨上がりの水とか、キラキラしてるのが好き……」

ふと、自分が好きだと感じる場面に誘われるように独り言を呟いた。

僕の言葉のあと、千景がなぜか背中で笑っている。


「そうなんだ。じゃあさ、水族館とかどう?あんま行ったことないけど」

「僕も……小さい時に行ったくらいかな」

「じゃあ、行こうよ」

「……うん」


僕を見る千景の嬉しそうな顔が、やけに印象的だった。

行く場所が決まると、すでにくっついてる千景がまたやりたそうにしている。

「もう一回良い?」

耳元で囁く。

最近は律儀に僕に聞いてくるようになった。

僕は仕事以外では相手の気持ちには無頓着なことが殆どだから、素直に思っていることや考えを伝えてもらえると助かる。

「うん。いいよ……」

性欲は人並み以上にはあると思う。

一回より二回した方がよく眠れる。

もう眠い……だけど、僕を求める千景の体温にまだ包まれていたい気持ちになった。


まどろみの中、千景に優しく抱かれながら眠りについた。
 
 
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