幻獣士の王と呼ばれた男

瑠璃垣玲緒

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第9章

皇女

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 帝国では継承権争いで何人かの皇子や皇女が不慮の事故での大怪我や病気などで後宮や離宮を去る事態になっていた。王国や皇国と違い、血筋より能力主義のため継承権は能力順となっており、皇后の子といえど優先される事はない。

 ある時まだ皇妃の元にいる皇女が原因不明の病に罹った。その皇女は薬や毒が効きにくいという能力があり、自ら進んで家族の食事の毒見をしていた。
「僕達の毒見のせいで!」
「この前僕が目立ってしまったせいだ」
普段は別の宮にいる兄皇子との久しぶりの食事の際に長兄の食事の毒見をし、無味無臭の遅効性だが体内に入ってからしか分からない特殊な毒だったため、解毒剤も存在するか分からず、治療の甲斐なく数日経つと始めは手の甲だけだったのが両腕の一部も変色しだした。
「お兄さま達、どうぞ気になさらないで。手の変色以外には異常はないとお医者さまが」
「だが、これでは一生長手袋を外せないじゃないか!」
「そうだよ!このまま治らなければ2年後の学園でずっと手袋をしなきゃいけないよ」
皇女は哀しげに「大丈夫です、お兄さま」と微笑んでだ。
学園に入るまでに内密に治す方法を見つけようと思っていたのに、その時の犯人だったメイドが皇女の状態を漏らしたために、他の皇族に知られてしまった。そのため忌むべきものとされた。皇帝の命により医師や薬師も、国教の大司教にも匙を投げられ、不吉な症状の感染を疑われ恐れられ王都の外れの離宮の一つ隔離が決まった。
この兄妹共に優秀で優しく、兵士や侍女達にも支持されていた。
「皇妃さま、お嬢様のお世話に我々一家がこちらを辞して赴きたくお願いにあがりました」
老執事とその妻であり兄妹の乳母と、乳兄妹の息子と娘が頭を下げていた。
「…代わりの者が来るまでは待って欲しい。その後はどうかあの子を頼みます」
 だが離宮に隔離した翌日には、放棄された地である鋼の森の南部の領土を与える形で幽閉される事が決まり、数日後に鎧を来た騎士に気絶させられて強制的に連れて行かれた。

 森の外縁の跡地に建てられた小屋はベットのある部屋と、テーブルと椅子2つだけがあるだけの二間の小さな物だった。離宮に持ち込んだ衣服の入った鞄2つと、食料品だと思われる木箱以外には何もなかった。テーブルに置かれた手紙と書類を見て絶望し泣き崩れた。
カリカリと扉を引っ掻く音がし、しばらくして大きな鳴き声がした。
「アンバーなの?」
「ニャー」
ペットの猫の変異種が主人の拉致に気付いて探して駆けつけて来てくれたのだ。成獣になったばかりのため追い付けず傷だらけになっていた。
 翌日猫と小屋の周辺を調べて歩き周っている時に、拠点の調査のために訪れていた第二部隊分隊に遭遇した。すぐにキャンプにいる幻獣士が呼ばれ、その間に幻獣用の傷薬を皇女に渡し猫を治療した。愛猫を愛おしそうに撫で、隊員にお礼を言って薬瓶を返した。到着した幻獣士と一緒に小屋へ移動し状況を聞いた。
「ここでは不便でしょう。よろしければ我々のキャンプに来ませんか?」
「いえ、ここが私の家みたいですから」とやんわりと断られた。
皇女を尊重し小屋の補強とうさぎ獣人の女の子を世話係として派遣した。
 幻獣士に付いている精霊が、森の精霊達を呼んで『可哀想な子だから守ってあげて』と頼んだため、張り切って妖精達まで集めて翌日から皇女が歩いた場所の周辺の制限を解除しまくった。
 後日幻獣士が分隊長を連れて小屋を訪れた。皇女に領民として元帝国民の孤児を数人引き受けられないかと提案するために。その見返りに最低限の開墾と建築の手伝いと、開墾などに必要な道具を用立てると。
「宜しいのですか?何のメリットもないのでしょう」
「いえ、元とはいえ帝国孤児の受け入れ先に困っていたので助かったのはこちらの方です」
最低限の教育と幻獣術は習得させてあること、親は罪人でないことを伝え、しばらくは数人の分隊を常駐させ、軌道に乗ったら世話係の派遣を止めることで合意。しばらくして皇女に忠誠している元執事長と乳母の一家と使用人が荷物を載せた馬車と共に到着し、翌日1台の荷馬車を残し一家以外の使用人が帰っていった。

こうして帝国内の元鋼の森の比較的浅い場所にまた小さな村が誕生した。
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