二度目の異世界転移は女神と共に 〜チートを集めて世界を救うけど、オレの目的はあくまで君です〜

ワキヤク

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3.元勇者、目覚める

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「大変だったね」
「悪かったな。無理やり連れだしてさ」
「ううん。全然大丈夫。むしろ、あそこに放置されたら祟り出てあげたんだから」

 悪戯な笑みを浮かべ、姫野は言う。
 あれから学校から逃げるように飛び出したオレたちは、さきほどの騒動を話のネタに、学校近くの公園のベンチに座り休憩していた。
 割と大きな公園なのに今日は人が少ない。おかげで過ごしやすい環境である。

「それにしても、わたしと佐藤くんが恋人同士かー。ふふっ、そんな風に見えちゃうんだね」
「他人から見ればそうにしか見えないんだそうだぜ? ただ普通に喋ってるだけだっていうのになー」
「あははっ。でも佐藤くんが少しだけ他の人より特別なのは本当だしなー。ねぇ、こうするともっと恋人みたいに見えるかな?」

 そう口にして、腕にくっついてくる姫野。
 すっごい笑みである。はっきり言って、オレの反応で楽しもうという魂胆が見え見えだ。
 多分、前田あたりが同じことをされようものなら、二つ返事で了承するだろうな。そして、『冗談だよ』って笑われるのが目に浮かぶ。
 けれど、そうだとしても少しだけ嬉しいと思ってしまう自分が憎い。
 
「ど、どーだろうな……」
「あはは。顔真っ赤。佐藤くんって、考えていること分かりやすいね」

 やっぱりというか、予想通りに満面の笑みで言ってくる姫野。
 一応、勇者として異世界で活躍してきたからな。多少は感情を隠すことができると思ったんだけど、感情を完全に操り切るのは難しいものだよ。
 そう考えながら、オレは姫野の腕から抜け出すと、

「それで? 言われた通りに一緒に帰ってやってるんだ。続きを話してくれないか? 『異世界への行き方』についての話をさ」
「あははっ。信じてくれてたんだ。普通は馬鹿みたいって無視しそうな話だと思うけど」
「まぁな。でも、何だろうな……。姫野の場合は、何かが違う気がするだよ」

 その理由は分からない。
 上原や前田が同じ内容を話そうものなら絶対に信じない話。なのに、それを何故姫野が話すと信じられてしまうのかは全く見当もつかないね。
 ただ、わかること。それは、姫野は普通じゃないってことだけだ。

「ふふっ。流石は世界を一度救った勇者さまだね。わたしと同じでじゃないや」
「――普通じゃない?」

 姫野の言ってることが理解できずに凝視していと、彼女は微笑んでから

「その前に、少しだけ昔話をしよっか。世界から消えてしまった、女神さまのお話をさ……」

 悲し気な出だしから始まった姫野の昔話。それは、彼女の口にした通り一人の女神の話だった。
 その昔、全ての世界を作り出した創造神と呼ばれる女神がいたのだそうだ。
 彼女は『創造』という名を冠する神だけあって、数多の世界や生き物を作り出す役目を担っていたのだが、ある日生み出した世界とその生き物によって消されてしまったのだという。

「――殺されたってことか?」
「ちょっとだけ違うかな。力を分散させられてしまって、存在を維持できなくなったって方が正しいかも」
「……なおさら意味が分からなくなったぜ?」
「あはは……。じゃあ、粘土で作った人形を考えてみて? それを細切れにしたイメージだと思えばいいよ」
「なるほどなー。なんとなくわかったような気がする」

 指を立てて説明してくれた姫野にそう返す。
 けどさ、いくら粘土とは言っても、人型のそれを細切れって……。想像するのが少しだけ嫌だな。
 顔をしかめつつ想像をするのをやめると、オレは姫野を見据えて、

「――で? その創造神がどうしたんだよ。彼女が消えたから、実はこの世界も危険だとか言うのか?」
「大丈夫。確かに彼女は綺麗に分散しちゃったけど、完全に消えたわけじゃないの。……でも、それも時間の問題なんだよね」
「どういう意味だよ……?」
「さっき、言ったよね? 創造神を消しちゃった世界と、生き物がいるって」

 珍しく険しい表情をした姫野。
 学校では全く見れない彼女のそんな表情に面食らっていると、同時にあることにオレは気づいて冷や汗を流す。
 それまで雲一つない快晴の空が、一瞬にして紫がかった暗雲に包まれてしまったのだ。
 まるで、誰かが意図して曇らせたように。不自然極まりないのは確かだろうな。

「何だよ。あれ……」
「あれがその。彼らは数多の世界に散らばった、女神の力を狙ってるの。彼女の存在を完全に抹消することと、その力を自分たちのものにするために」
「どういう――」

 そう聞き返した瞬間だった。
 まるで、トンネル内を走る電車のようなゴーッという音とともに、オレたちの真正面に青く輝く穴が出現する。
 それを目の当たりにした瞬間、オレの脳内を一年前の記憶が走った。

「あれって……ゲートじゃないか……」
「そうだよ。魔物の通り道。佐藤くんが救った世界でも、魔物はこうして世界の隅々を行き来していたはずだよね? 懐かしい?」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇよッ! ゲートが現れたってことは、次は必ず……」

 勇者時代のオレの記憶が、大音量で危険信号を発してる。
 そして、そんな嫌な予感は見事的中。
 ゲートから重々しい雰囲気で出てきたのは、四足歩行の獣の姿をした化け物。身体全体をゴツゴツとした皮膚で守られた姿は、岩の鎧を纏った虎。
 夢なら覚めてほしいよ、まったく。

「ロッガン、かよ……。懐かしいような、会いたくなかったような複雑な気分だぜ。クソッ!」
「向こうの世界では何度も戦った相手だもんね。日本のゲームで言うところの、スライムポジションの魔物じゃない?」
「あぁ、そうだよッ! ホント、嫌になるほど戦ったさ!」

 魔王を倒すために旅立った当初から、打倒す寸前まで。
 見飽きるくらいに見てきた化け物だ。まさか、日本でお目にかかる日が来るとはな。
 なんて考えながら、オレはまるで逃げる様子を見せない姫野の手を掴むと、一緒に走り出す。

「何をボサっとしてんだッ! さっさと逃げるぞッ!」
「――どこに逃げるっていうの? 奴らはどこまでも追ってくるよ? それは、佐藤くんが一番分かってるはずだよね?」
「んなもん知ってるわッ! けどなッ、何もせずに死ぬよりはマシだろうが!」

 叫びながら全力疾走で走る。
 けれど、そんなオレの退路を防ぐように正面に二つのゲートが出現した。
 そして、そこから現れるロッガン。よだれを垂れ流しにしながら威嚇する姿は、相変わらずのようだ。――って、呑気に考えている場合じゃないッ!
 前には二匹。後ろに一匹。絶体絶命である。

「囲まれちゃったね?」
「あのなぁ。何で、お前はそんなに冷静なんだよ? 前田と上原に追われてるのとはわけが違うんだぜ?」
「うん。そーだね。――でも、ある意味、二人よりマシだよ。みんなは少なくともいけないんだもん。でも、奴らは違う……」
「その言い方だと、この状況を打破する何かがありそうだな?」

 オレの質問に姫野は笑みを浮かべて頷くと、オレの方に寄りかかってくる。
 そして、上向きにした右手の平に上で、美しく青く輝く光球を見せつけてきた。

「佐藤くん。わたしのこと、信じてくれる?」

 まるで、運命の選択肢をオレに選ばせているみたいな言動だな。
 ここから先は後戻りはできない。引き返すなら今だと言わんばかりだ。こんな危機的状況じゃなければ、彼女を胸に抱けたことに笑みが止まらなくなるところだったかもしれないってのに。
 何で、こういうシチュエーションっていうのは、危険な状況でしか生まれないのかね
 苦笑しつつ、オレは口を開くと、
 
「あぁ、良いぜ。アイツらどうにかできるのなら、姫野だろうが、悪魔だろうが信じてやるよ!」
「ふふっ。佐藤くんなら、そう言うと思った……」

 相変わらずの綺麗すぎる笑みを浮かべた姫野は右手を天に掲げ、光球を握りつぶした。
 弾け飛んだそれは、光の粒子となって空へ、地面へ。そして、オレの中や姫野の中へと消えていく。

「――目覚めの時間だよ」

 静かな声音で聞こえた姫野の言葉。
 まるで、子供を寝かしつける母親のような優し気な声は、心に安らぎを与えてくれると同時に、どこか懐かしい感覚を呼び覚ましてくれた。
 こっちに戻ってきてからは完全に消え去ってしまったと持っていた、オレの……。
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