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「ここが神会か……」
街の中央に位置する場所に建てられた大きな建築物。
白を基調とした壁面に沢山の窓。上部中央には、大時計を想像させる巨大な丸窓がある。
一種の芸術作品とも言えなくないレトロな雰囲気を感じるその建物が、神会と呼ばれるものだった。
一見すれば塔と教会を合体させたような建築物。他の家々に比べて一回りも二回りも大きなそれは、見上げるだけで首が痛くなりそうだ。
そんな巨大な建造物の傍に見知った顔を見つけた。
濃い青色の短髪と、性別に合っていない男物のような動きやすい服装を身に着けた少女。
小さな唇を不機嫌そうに尖らせ、神会から離れたところで佇んでいたのはゾイトだった。
「よっ、何してるんだ?」
軽い調子で手を上げ声をかけてみれば、見るからに顔をしかめて機嫌を悪くするゾイト。
見るからに絡んでくるなって雰囲気を醸し出した彼女に、気にせず詰め寄ってみれば小さく舌打ち。どうやら、俺は随分と嫌われているようだ。
そのまま無視を決め込もうとしていたゾイトだが、俺の隣にフィーリネがいることに気づいたらしい。
嘆息してからやっとこちらを見ると
「朝食前の祈りを捧げに来ただけだ」
「祈りを捧げる? 誰にだよ?」
「創造神――ネフラ様にですよ」
質問に答えてくれたのは隣のフィーリネだ。
「今日一日を健やかに過ごせますようにって、朝食前にお祈りするんです。本当は屋内からでもいいんですけど、貴族の生まれはみんなこの神会にやってきて祈りを捧げるのが決まりなんですよ」
「随分面倒くさいことやってるんだな」
本当に存在するかも分からない神に祈りを捧げて、その日を幸福に過ごせるのかは人それぞれな気がするけどな。
まぁ、そういう教えなのなら仕方ないだろうけど。
「ふんっ、貴様じゃあるまいし。ボクは大して気にしていない」
「そういう割には随分ご立腹だったけどな」
「うるさい!」
怒号を上げてきたゾイト。
フィーリネの手前暴力に走ることのでいない彼女は、ぶつけるあてを失った拳を緩めて腕組み。
それからそっぽを向くと、横目にこちらを睨みつけてきて
「――それで? 貴様はどうしてここに来たんだ? 目新しい服になんか着替えて。どうせフィーリネにでも用意してもらったんだろう?」
「そうだよ、悪いか?」
ゾイトの指摘通り、俺が身につけているのはこちらの世界の服だ。
昔ながらの毛織で作られた上下の服は、現代の衣服に比べれば着心地はあまり良くないと言える。
だが、動きやすさ重視で作られたそれは、まるで少し厚めのジャージでも来ているかのように動きやすかった。
当然、そんな服を買う資金など俺が持ってるわけもないから、買ってくれたのはフィーリネである。
本人は見返りなんて求めてないみたいだが、金を稼げるようになったら必ず恩は返すつもりだ。
そんなことを考えつつワザとらしく咳払い。
話を元に戻すつもりで口を開くと
「ちょっと、解呪してもらいにな」
「解呪だと?」
怪訝な表情を浮かべ、ゾイトは聞き返してくる。
「今朝からドゥルドゥー関連で不幸が続いているみたいなの。昨日、ドゥルドゥーをたくさん吹っ飛ばしちゃったから、その時に呪いを受けちゃったんじゃないかって気にしているみたいで」
「なるほどな。だから、司祭様に解呪を願いに来たわけか。滑稽だな」
肩をすくめて鼻で笑ってくるゾイト。
何も知らないコイツからすれば、俺がドゥルドゥーを怖がっているようにでも見えたんだろう。
だが、ゾイトは知らないんだ。悪夢の中で迫ってきた大軍を。真夜中に俺を起こした奇妙な文字と鳴き声を。
この恐怖は体験した者にしか分からない。
「たかがドゥルドゥーごときを恐れるとは、無様だな!」
「死にかけた時に、女の子らしく悲鳴を上げた奴がよく言う」
「――っ!? あ、あの時は仕方ないだろう!」
「可愛い声だったな? ゾイトちゃん」
「~~ッ! お、覚えてろよ……」
忌々しそうにつぶやくと、ゾイトはフンっと不機嫌さを隠さず反転すると、そのままズカズカと去っていった。
静かにしていれば可愛いのに、なんとも勿体ない女の子だ。
そんな彼女を見送っていると、隣からフィーリネの笑い声が聞こえてきた。
「ん? どうした?」
「ううん、やっぱり二人は仲良いなと思って……」
「まっ、死地を乗り切った間柄だしな」
おそらくはあの時ゾイトと一緒に平原にいなければこんな関係にはなっていなかっただろう。
互いにけなしあい、最悪殺し合いに発展していたかもしれない。
そういう意味では、俺をゾイトに任せていったフィーリネのおかげかもしれない。
「色々、ありがとうな」
自然と俺はお礼を口にしていた。
「――えっ? ど、どうしたの、いきなり……」
「いいや、何でもないよ。――それより、猫剥がれてるぞ?」
そう言って、鼻を小突けば赤面するフィーリネ。
恥ずかしさなのか、それとも敬語を忘れた焦りなのか。あわあわと腕をしきりに動かしたあと、これでもかという勢いで頭を下げる。
「す、すいません!」
「いや、気にしてないよ。むしろ、そのままでもいいけど?」
「え、えっと……暁人さんが、軽い方がいいのなら……そうする、ですよ……?」
「あー、悪い。無理に直そうとしなくていいよ。また、フィーリネちゃんがそうしたくなった時でいいから」
無理にため口に変えなくてもいい。
そう言ってみれば、彼女は再度『すいません』と静かに口にする。
ゾイトと仲が良いと言ってくれるのは嬉しい限りだ。
だが、俺としてはフィーリネとも打ち解けていたいとも思っている。
今は敬語を止めることは出来ないだろうが、いつかは俺にも親しみのある口調で会話してくれるといいな。
「さっ、とりあえずこっちの要件を済ませようぜ?」
「は、はい!」
そんなことを考えながら、俺はフィーリネを連れて神会の中へと入っていくのだった。
街の中央に位置する場所に建てられた大きな建築物。
白を基調とした壁面に沢山の窓。上部中央には、大時計を想像させる巨大な丸窓がある。
一種の芸術作品とも言えなくないレトロな雰囲気を感じるその建物が、神会と呼ばれるものだった。
一見すれば塔と教会を合体させたような建築物。他の家々に比べて一回りも二回りも大きなそれは、見上げるだけで首が痛くなりそうだ。
そんな巨大な建造物の傍に見知った顔を見つけた。
濃い青色の短髪と、性別に合っていない男物のような動きやすい服装を身に着けた少女。
小さな唇を不機嫌そうに尖らせ、神会から離れたところで佇んでいたのはゾイトだった。
「よっ、何してるんだ?」
軽い調子で手を上げ声をかけてみれば、見るからに顔をしかめて機嫌を悪くするゾイト。
見るからに絡んでくるなって雰囲気を醸し出した彼女に、気にせず詰め寄ってみれば小さく舌打ち。どうやら、俺は随分と嫌われているようだ。
そのまま無視を決め込もうとしていたゾイトだが、俺の隣にフィーリネがいることに気づいたらしい。
嘆息してからやっとこちらを見ると
「朝食前の祈りを捧げに来ただけだ」
「祈りを捧げる? 誰にだよ?」
「創造神――ネフラ様にですよ」
質問に答えてくれたのは隣のフィーリネだ。
「今日一日を健やかに過ごせますようにって、朝食前にお祈りするんです。本当は屋内からでもいいんですけど、貴族の生まれはみんなこの神会にやってきて祈りを捧げるのが決まりなんですよ」
「随分面倒くさいことやってるんだな」
本当に存在するかも分からない神に祈りを捧げて、その日を幸福に過ごせるのかは人それぞれな気がするけどな。
まぁ、そういう教えなのなら仕方ないだろうけど。
「ふんっ、貴様じゃあるまいし。ボクは大して気にしていない」
「そういう割には随分ご立腹だったけどな」
「うるさい!」
怒号を上げてきたゾイト。
フィーリネの手前暴力に走ることのでいない彼女は、ぶつけるあてを失った拳を緩めて腕組み。
それからそっぽを向くと、横目にこちらを睨みつけてきて
「――それで? 貴様はどうしてここに来たんだ? 目新しい服になんか着替えて。どうせフィーリネにでも用意してもらったんだろう?」
「そうだよ、悪いか?」
ゾイトの指摘通り、俺が身につけているのはこちらの世界の服だ。
昔ながらの毛織で作られた上下の服は、現代の衣服に比べれば着心地はあまり良くないと言える。
だが、動きやすさ重視で作られたそれは、まるで少し厚めのジャージでも来ているかのように動きやすかった。
当然、そんな服を買う資金など俺が持ってるわけもないから、買ってくれたのはフィーリネである。
本人は見返りなんて求めてないみたいだが、金を稼げるようになったら必ず恩は返すつもりだ。
そんなことを考えつつワザとらしく咳払い。
話を元に戻すつもりで口を開くと
「ちょっと、解呪してもらいにな」
「解呪だと?」
怪訝な表情を浮かべ、ゾイトは聞き返してくる。
「今朝からドゥルドゥー関連で不幸が続いているみたいなの。昨日、ドゥルドゥーをたくさん吹っ飛ばしちゃったから、その時に呪いを受けちゃったんじゃないかって気にしているみたいで」
「なるほどな。だから、司祭様に解呪を願いに来たわけか。滑稽だな」
肩をすくめて鼻で笑ってくるゾイト。
何も知らないコイツからすれば、俺がドゥルドゥーを怖がっているようにでも見えたんだろう。
だが、ゾイトは知らないんだ。悪夢の中で迫ってきた大軍を。真夜中に俺を起こした奇妙な文字と鳴き声を。
この恐怖は体験した者にしか分からない。
「たかがドゥルドゥーごときを恐れるとは、無様だな!」
「死にかけた時に、女の子らしく悲鳴を上げた奴がよく言う」
「――っ!? あ、あの時は仕方ないだろう!」
「可愛い声だったな? ゾイトちゃん」
「~~ッ! お、覚えてろよ……」
忌々しそうにつぶやくと、ゾイトはフンっと不機嫌さを隠さず反転すると、そのままズカズカと去っていった。
静かにしていれば可愛いのに、なんとも勿体ない女の子だ。
そんな彼女を見送っていると、隣からフィーリネの笑い声が聞こえてきた。
「ん? どうした?」
「ううん、やっぱり二人は仲良いなと思って……」
「まっ、死地を乗り切った間柄だしな」
おそらくはあの時ゾイトと一緒に平原にいなければこんな関係にはなっていなかっただろう。
互いにけなしあい、最悪殺し合いに発展していたかもしれない。
そういう意味では、俺をゾイトに任せていったフィーリネのおかげかもしれない。
「色々、ありがとうな」
自然と俺はお礼を口にしていた。
「――えっ? ど、どうしたの、いきなり……」
「いいや、何でもないよ。――それより、猫剥がれてるぞ?」
そう言って、鼻を小突けば赤面するフィーリネ。
恥ずかしさなのか、それとも敬語を忘れた焦りなのか。あわあわと腕をしきりに動かしたあと、これでもかという勢いで頭を下げる。
「す、すいません!」
「いや、気にしてないよ。むしろ、そのままでもいいけど?」
「え、えっと……暁人さんが、軽い方がいいのなら……そうする、ですよ……?」
「あー、悪い。無理に直そうとしなくていいよ。また、フィーリネちゃんがそうしたくなった時でいいから」
無理にため口に変えなくてもいい。
そう言ってみれば、彼女は再度『すいません』と静かに口にする。
ゾイトと仲が良いと言ってくれるのは嬉しい限りだ。
だが、俺としてはフィーリネとも打ち解けていたいとも思っている。
今は敬語を止めることは出来ないだろうが、いつかは俺にも親しみのある口調で会話してくれるといいな。
「さっ、とりあえずこっちの要件を済ませようぜ?」
「は、はい!」
そんなことを考えながら、俺はフィーリネを連れて神会の中へと入っていくのだった。
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