世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク

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「ふふっ、ふふふ~」

「機嫌が良さそうだな、フィーリネちゃん」

「はい! だって、この子がついてきてくれるんですよ? 凄く嬉しいじゃないですか!」

 聖地アガットからの帰り道。

 パァっと、背後に花畑の幻覚が見えるほどの笑みを浮かべるのはフィーリネ。
 その腕の中にいるのは、何を隠そう先程のドラゴンだ。

 黒くゴツゴツとした身体はそのままに、ぬいぐるみ程度の大きさにまで縮小したその姿は小さなトカゲ。
 背中から生えたちっこい翼。元は鋭く凶悪な面構えだったはずの顔は、丸みを帯びて可愛らしさが目立つ雰囲気になっている。

 確かに、以前に比べればは増したが、見た目が黒いオオトカゲのような感じだから、どちらかというとまだカッコいいだ。
 そんな元ドラゴンだが、思いのほかフィーリネの腕の中は落ち着くらしい。

 つぶらな瞳を閉じて大人しくしている。

「まさか、俺たちについてきたいなんて言うとは思わなかったけどな」

『我の持ち掛けた勝負に我は負け、主殿は我に勝った。となれば、我が主殿に忠誠を誓うのも必然ではないか?』

「別に俺は主従関係を持ち掛けたくて勝負に応じたわけじゃないんだけどな……」

 見た目は禍々しい姿の黒龍だが、その正体はあの聖地アガットの守護龍なのだそうだ。

 というのも、数千年前に起きた勇者と魔の四天王の戦い。
 伝説では勇者によって悪は倒されたという話になっているのだが、実際には『討伐』したのではなく『封印』したというらしい。

 いくら女神の力を得た勇者といえど、魔の四天王を完全に倒すほどの力はなかったというのだ。

 だからこその封印。時間をかけて奴らの魔力を消していく。
 時間はかかるが最良の方法として勇者はそれを実行。魔の四天王をアガットの地に封印して、誰かがその封を解かないように、黒龍を守護龍として配置したとのことらしい。

『あれから数千年経った今では、四天王の魔力など完全に消え去った。我の使命などとうに終わっておる――となれば、新たな主を得てそのものに忠誠を誓うことこそ我の新たな使命よ』

「――で、お前を倒した俺に忠誠を、か……。まぁ、俺としても歓迎だけどな。お前がいるとフィーリネちゃんが喜ぶし」

『うむ……。しかし、我は一応龍なのだぞ? 自分で言うのもなんだが、強き力を宿した存在なのだ。それを、このような娘の腕の中でただ愛でさせるというのはどうなのだ?』

 確かにそれは俺も思うことではある。
 ドラゴンというのは幻想世界で一番有名な怪物であり最強の存在だ。だというのに、その力を有効利用せずに美少女の腕の中で愛でさせるというのは宝の持ち腐れだろう。

 とはいえ、全くの無駄というわけでもない。

「それは俺も思うけどな。俺はお前にはフィーリネちゃんの守護を頼みたいと思っているんだ」

『守護だと?』

「あぁ。俺にとってフィーリネちゃんは……その、大切な人だ。死なれたら困る相手なんだよ」

 頬を軽く指先で掻きながらそっぽを向きつつ言ってみる。
 勘違いから始まった婚約者関係ではあるが、別に俺は彼女のことが嫌いというわけではない。むしろ、好きの部類に入るところだ。

 見ず知らずの俺のことを家に上げてくれた。
 トレーニングと評して何も言わずに家を出たあと、帰ると本当に心配したのだと怒ってくれた。

 そして、今のように俺のために危険を冒してまで聖地まで案内してくれたのだ。
 そんな子を嫌いになるはずもない。

「だから、俺の大切な人の守護をお前に任せたい……じゃ、不満か?」

『ふむ……』

 思考を巡らせるように顔を伏せる黒龍。
 そんな小さなドラゴンを見据えていると、不意に服の裾を引かれた。

 見れば、黒龍を抱えた逆の手で俺の裾を掴むフィーリネの姿。
 顔を真っ赤に染め上げて顔を伏せた彼女は、絞り出すようなか細い声で言う。

「あ、あの……そ、そんなハッキリ大切な人と言われると……その、恥ずかしいです」

「わ、悪い……」

「い、いえ……私も、その好きですから……」

 それから二人して黙り込む。

 何だろう、この桃色の空間は。
 どうしてこんな空気になったのかと考えてみれば、自分が黒龍にフィーリネが俺にとっての大切な人だと説いたからだ。

 黒龍を抱えているのはフィーリネなのだから、必然的に俺と黒龍の会話は丸聞こえだ。
 そりゃあこのような空気にもなるだろう。

「と、とにかくだ。お前には彼女の守護を頼むからな」

『理由は分かったが……』

 少し不満そうにする黒龍だが、そんな不貞腐れた表情がフィーリネの胸を貫いたのだろう。
 先程までの恥ずかしさを発散するように、黒龍を強く抱きしめた。

 当然、その豊富に実った胸の果実に顔を押さえつけられた黒龍は、酸素を得るためにジタバタ暴れるわけだが、

「うぅ、可愛いです……!」

 そんな行為も彼女からすれば可愛いものなのだろう。
 ふぁーと惚けた表情で抱きしめつつ撫でている。

 黒龍からすればたまったものじゃないのかもしれないが、フィーリネからすれば幸せのひと時だ。
 そんな羨ま辛そうな状態の黒龍は、なんとか顔をこちらに向けると、そのつぶらな瞳の端に涙を浮かべて助けを訴えてくる。
 
 だが悪いな、黒龍よ。
 幸せそうにしているフィーリネの邪魔ができるほど、俺は鬼ではないんだ。

 そして、俺もあの甘い空気で火照った頭を落ち着かせたい。

 だから、悪いが我慢してくれと親指を立ててやれば、どうやら逃げ場はないのだと悟ったのだろう。ジタバタするのを止めてなすがままになる。
 その視線は、何処か遠くを見据えていた。

 それからしばらく歩いていた俺たちだけど、ふと頭を疑問がよぎった俺は、落ち着きを取り戻してから口を開く。

「そういえば、結局連れて帰ってしまっているけど、ドラゴンなんて街に入れられるのか? これでも一応魔物の部類だよな?」

「そこのところは全く問題なしです! 可愛いは正義ですから!」

 黒龍を愛でながらフィーリネは言う。
 いや、そう思っているのは彼女だけなのではないか。

 そんな意思をもって彼女を凝視していると、フィーリネは可愛らしく舌を出して「冗談です」と口にしてから教えてくれた。

「街の中では『魔物使い』という職種で働いている人もいるんです。暁人さんはまだ見ていないかもしれませんが、街の中では魔物使いに飼いならされた穏やかな魔物もいるので、この子もギルドに申請すれば大丈夫ですよ」

「安全な魔物だと証明しておけば大丈夫ってことか」

「はい!」

 つまり問題はないということかと納得してみれば、黒龍が再びフィーリネに抱きしめられる姿が目に映る。

 反抗する気も失せたのか、なすがままの黒龍。だが、ふと何かに気が付いたように顔を上げると、先程まで俺たちがいた聖地アガットの方角を見据えた。

「どうした?」

『いや……我の気のせいのようだ』

 真っ直ぐアガットの方角を凝視していた黒龍だが、結局自分の勘違いだと結論付けたらしい。
 小さなため息を吐いてフィーリネの腕の中で固まる。

 そんな黒龍の反応に俺は首をかしげて同じようにアガットのあった方角を見るのだが、当然不可思議な点は存在しない。あるのは雲一つない快晴と、遠目に見える荒野だけだ。

「……?」

 何もないなら問題ない。
 そう考えて俺は歩き出した。――聖地アガットのから漏れだす微かな黒い瘴気にも気づかずに……。

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