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結局、その後も葬儀は続いた。
というのも、今回の襲撃で亡くなったのはタンザの娘だけではない。他にも村を守るために戦い、散っていった若い衆がいたからだということだ。
一人一人を綺麗に土葬というわけにはいかないが、それでも全員を埋めて送りたいという村人たちの頼みを聞き入れた結果だ。
「……良いのか? もうすぐオークが来るというのに、葬儀を続けさせて」
平原から少し離れた場所に生えていた大木。
それに背中を預けて葬儀を見ていると、ゾイトがいつの間にか傍にやって来ていたゾイトがそう聞いてくる。
「良いんだ。あの人達の意思だしな。それに、殺されたまま村に放置されてたんじゃ、死んだ人も浮かばれないだろうし」
「だから、あぁしてフィーリネに浄化魔法を使わせてるのか?」
「村人たちも、自分たちを守って死んだ奴に殺されたくないだろうしな」
この世界での死者は蘇る。
いや、正式には魔物に生まれ変わるといった感じだろうか。
魔物や病によって倒れ伏した者は、満足のいく生を全うできなかったことに対して、悔しさや寂しさを覚える。
そして、その感情が自分より長く生を受けている者たちへの妬みや、憎しみへと変貌し、死した身体が生者を襲うアンデットと呼ばれる魔物へと生まれ変わってしまうのだそうだ。
死者の魔物化を防ぐ方法はただ一つ。
この世への未練を無くさせて、無事にあの世へと送り届けてやるだけ。それが、今フィーリネがやっている浄化魔法だ。
「オークと戦う前に敵を増やすわけにもいかない。かといって、コーラルに頼んで遺体を全部焼き払わせるわけにもいかない。だから、フィーリネちゃんには悪いけど、少し頑張って貰わないと」
「……それだけか?」
「……」
片目を開けてこちらをジト目で見据えるゾイト。
そんな彼女に肩をすくめ、苦笑して見せると
「あそこに埋まってるのは、親より先に死んでしまった子供達だ。中には成人しているやつもいるだろうが、大半は親より歳は下だと思う」
「そうだな……」
「そんな子供達を見送ってあげたいって、親心を尊重してあげたかっただけだ。知らない美少女に送られるのは良いが、親が全く顔を見せないんじゃ浮かばれないだろうし」
「ふん。貴様は甘いな」
「そういう甘い考えの人達が住む場所が故郷なもんでね。そればっかりは仕方ない」
そう言って、俺は視線を葬儀を行う村人の方へと向けた。
穴を見下ろし涙を流す者。膝をついて泣き崩れる者。親の膝に抱き付いてブルブルと震える年端もいかない子供の姿。
視界に映る全ての人に共通するのは、亡くなった若い衆たちの死を嘆き悲しんでいるということだ。
「俺が死んだ時も、母さんや父さんは泣いてくれたのかな……」
思い出すのは、独り立ちする前に俺を見送ってくれた両親の顔。
一人で生きていくことを心底心配してくれた母さん。そんな妻に対して『暁人は大丈夫だ』と信じて疑わず背中を押してくれた父さん。
そんな二人は俺が死んだ時、どんな顔をしていただろう。
あの村人たちのように涙を流してくれたのだろうか。それとも、子供を救って死んだ息子のことを誇りに思ってくれたのだろうか。
少なくとも悲しませはしただろうが、両親は俺の死をどう思ってくれたのだろう。
そんなことを考えていると、辛く悲しい気分になった。
「どうした?」
「いや、なんでもない……」
どうやら思考の渦に浸っていたらしい。
ゾイトの声に短く答えて誤魔化すと、流れ出ていた涙を拭うと前を見据える。
そこには、フィーリネが神妙な表情を浮かべて立っていた。
「暁人さん。大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だよ……。ちょっと、あの人達を見てるとさ、自分の親のことを思い出してしまって……。それより、フィーリネちゃんは大丈夫か? 結構魔力を消費したろ?」
ワザと明るめに言ってみれば、彼女は胸に抱いたコーラルを強く抱き締める。
瞬間、コーラルから『グェ!?』という何ともおかしな悲鳴が聞こえてきたが、彼女はそれに気づかないままに
「すごく……辛いです……」
「悪かったな、無理を言って……」
「いえ、魔力は全然残ってるんです。だから、身体は大丈夫、なんですけど……心が……辛いです」
「そっか……」
苦しげに口にするフィーリネ。
浄化魔法は言ってしまえば、死者に語りかけてあの世への道を示す魔法だ。言葉ではなく、心を使って……。
そして、おそらくフィーリネは心を通して死者の声を聞いたのだろう。
辛さ、苦しさ、怖さ。そして、親と別れる悲しさを……。
「皆さん凄くあっさりと逝ってしまったんです……。まだ、生きたがっていたのに……やりたいことだってたくさんあったのに……。自分の死を簡単に受け入れていきました……」
「そうか……」
彼らは、おそらく自分たちの行動に後悔などしていないのだろう。
例え自分が死んだとしても、親を悲しませたとしても。自分の選択が間違っていたとは思わない。
だからこそ、彼らは本当にあっさりと逝ったんじゃないだろうか。
「暁人さん。今回の依頼、絶対に達成しましょう……。初依頼だからというわけではなく、あの人達の想いを無駄にしないためにも!」
「あぁ。そのつもりさ」
目端に涙を浮かばせた彼女は、強い眼差しでそう口にする。
俺はそんな彼女に強く答えると、それから苦笑して指先を彼女の胸元へ。
「それより、コーラルを放してあげたら? 凄く苦しそうだけど?」
「……あぁっ!?」
それまで強く抱きしめられていたコーラルは、豊富に実ったフィーリネの胸に締められ泡を吹いていた。
というのも、今回の襲撃で亡くなったのはタンザの娘だけではない。他にも村を守るために戦い、散っていった若い衆がいたからだということだ。
一人一人を綺麗に土葬というわけにはいかないが、それでも全員を埋めて送りたいという村人たちの頼みを聞き入れた結果だ。
「……良いのか? もうすぐオークが来るというのに、葬儀を続けさせて」
平原から少し離れた場所に生えていた大木。
それに背中を預けて葬儀を見ていると、ゾイトがいつの間にか傍にやって来ていたゾイトがそう聞いてくる。
「良いんだ。あの人達の意思だしな。それに、殺されたまま村に放置されてたんじゃ、死んだ人も浮かばれないだろうし」
「だから、あぁしてフィーリネに浄化魔法を使わせてるのか?」
「村人たちも、自分たちを守って死んだ奴に殺されたくないだろうしな」
この世界での死者は蘇る。
いや、正式には魔物に生まれ変わるといった感じだろうか。
魔物や病によって倒れ伏した者は、満足のいく生を全うできなかったことに対して、悔しさや寂しさを覚える。
そして、その感情が自分より長く生を受けている者たちへの妬みや、憎しみへと変貌し、死した身体が生者を襲うアンデットと呼ばれる魔物へと生まれ変わってしまうのだそうだ。
死者の魔物化を防ぐ方法はただ一つ。
この世への未練を無くさせて、無事にあの世へと送り届けてやるだけ。それが、今フィーリネがやっている浄化魔法だ。
「オークと戦う前に敵を増やすわけにもいかない。かといって、コーラルに頼んで遺体を全部焼き払わせるわけにもいかない。だから、フィーリネちゃんには悪いけど、少し頑張って貰わないと」
「……それだけか?」
「……」
片目を開けてこちらをジト目で見据えるゾイト。
そんな彼女に肩をすくめ、苦笑して見せると
「あそこに埋まってるのは、親より先に死んでしまった子供達だ。中には成人しているやつもいるだろうが、大半は親より歳は下だと思う」
「そうだな……」
「そんな子供達を見送ってあげたいって、親心を尊重してあげたかっただけだ。知らない美少女に送られるのは良いが、親が全く顔を見せないんじゃ浮かばれないだろうし」
「ふん。貴様は甘いな」
「そういう甘い考えの人達が住む場所が故郷なもんでね。そればっかりは仕方ない」
そう言って、俺は視線を葬儀を行う村人の方へと向けた。
穴を見下ろし涙を流す者。膝をついて泣き崩れる者。親の膝に抱き付いてブルブルと震える年端もいかない子供の姿。
視界に映る全ての人に共通するのは、亡くなった若い衆たちの死を嘆き悲しんでいるということだ。
「俺が死んだ時も、母さんや父さんは泣いてくれたのかな……」
思い出すのは、独り立ちする前に俺を見送ってくれた両親の顔。
一人で生きていくことを心底心配してくれた母さん。そんな妻に対して『暁人は大丈夫だ』と信じて疑わず背中を押してくれた父さん。
そんな二人は俺が死んだ時、どんな顔をしていただろう。
あの村人たちのように涙を流してくれたのだろうか。それとも、子供を救って死んだ息子のことを誇りに思ってくれたのだろうか。
少なくとも悲しませはしただろうが、両親は俺の死をどう思ってくれたのだろう。
そんなことを考えていると、辛く悲しい気分になった。
「どうした?」
「いや、なんでもない……」
どうやら思考の渦に浸っていたらしい。
ゾイトの声に短く答えて誤魔化すと、流れ出ていた涙を拭うと前を見据える。
そこには、フィーリネが神妙な表情を浮かべて立っていた。
「暁人さん。大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫だよ……。ちょっと、あの人達を見てるとさ、自分の親のことを思い出してしまって……。それより、フィーリネちゃんは大丈夫か? 結構魔力を消費したろ?」
ワザと明るめに言ってみれば、彼女は胸に抱いたコーラルを強く抱き締める。
瞬間、コーラルから『グェ!?』という何ともおかしな悲鳴が聞こえてきたが、彼女はそれに気づかないままに
「すごく……辛いです……」
「悪かったな、無理を言って……」
「いえ、魔力は全然残ってるんです。だから、身体は大丈夫、なんですけど……心が……辛いです」
「そっか……」
苦しげに口にするフィーリネ。
浄化魔法は言ってしまえば、死者に語りかけてあの世への道を示す魔法だ。言葉ではなく、心を使って……。
そして、おそらくフィーリネは心を通して死者の声を聞いたのだろう。
辛さ、苦しさ、怖さ。そして、親と別れる悲しさを……。
「皆さん凄くあっさりと逝ってしまったんです……。まだ、生きたがっていたのに……やりたいことだってたくさんあったのに……。自分の死を簡単に受け入れていきました……」
「そうか……」
彼らは、おそらく自分たちの行動に後悔などしていないのだろう。
例え自分が死んだとしても、親を悲しませたとしても。自分の選択が間違っていたとは思わない。
だからこそ、彼らは本当にあっさりと逝ったんじゃないだろうか。
「暁人さん。今回の依頼、絶対に達成しましょう……。初依頼だからというわけではなく、あの人達の想いを無駄にしないためにも!」
「あぁ。そのつもりさ」
目端に涙を浮かばせた彼女は、強い眼差しでそう口にする。
俺はそんな彼女に強く答えると、それから苦笑して指先を彼女の胸元へ。
「それより、コーラルを放してあげたら? 凄く苦しそうだけど?」
「……あぁっ!?」
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