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 時間は過ぎ去り、太陽が東へと沈み切った頃。
 オークの襲来は村人の一人によって伝えられた。

「……西の森の奥から、多数のオークです……」

「ありがとうございます。あなたは広場中央にいてください。あそこにいれば、コーラルが守ってくれますから」

 初老の男性に感謝を述べると、俺はフィーリネらを連れて村の西へと向かう。

「なぁ、ゾイト。良かったのか? 村人の護衛をコーラルに任せて」

「あぁ。コーラルが傍にいればデカい図体と威圧のおかげでオークも寄り付かん。そうなれば、ボクたちのような奴を積極的に狙ってくるだろう」

 我がパーティの司令塔、ゾイトが考えた作戦。
 それは、村人の安全をコーラルが確保し、俺たちがそろってオークを迎え撃つというなんとも単純なものだった。

 別に全勢力を使って戦ってもいいのではとも思ったんだが、実は今回の戦いはただの討伐だけには終わらない。

「良いか? 貴様の仕事は、できるだけオークの数を減らすことだ。限界まで減らし、連中が逃げ始めたら攻撃の手を止めろ。わかったか?」

「オークの巣を見つけるためだろ? 分かってるって」

 やってくるオークだけを根絶やしにするのは簡単だ。
 しかし、奴らの繁殖力や執念深さはゴキブリ並みにしぶとい。根っこをどうにかしないことには、このルスランは何度だって襲われていくだろう。

 だからこそ、連中の巣を見つけて潰す。
 それが、今回の作戦だった。

「フィーリネも良いな? 決して……殺しすぎるなよ?」

「……!」

 ゾイトの言葉に、フィーリネは親指を立てて答える。
 自分は大丈夫とでも言いたげな様子だが、俺は知っている。コーラルと出会う以前の彼女の暴れっぷりを……。

 ある意味、彼女を護衛に任せた方が良かったのではないか。
 そう視線をゾイトに向ければ、彼女は軽く嘆息。額に手を当てると

「心配するな。フィーリネは、アレを身に着けている間は寡黙なだけで、声が聞こえていないわけじゃない。いざというときは、身体を張って止めれば問題ない」

「つまり、俺がどうにかしろってことか?」

「婚約者の暴走を止めるのは、その婚約者の務めだろうが……」

 フィーリネに対して過保護な素振りを見せるゾイトだが、やはり狂戦士状態の彼女の面倒までは見切れないらしい。

 分かりやすく彼女のことは任せたと言って、前を歩いて行った。

「……フィーリネちゃん。君って、結構ゾイトを困らせただろ?」

「……」

 指で作った輪っか。その繋ぎ目である人差し指と親指の間を少しだけ開けて見せたフィーリネ。
 おそらくは『少し』とでも言いたいんだろう。

 自覚があるなら、どうにかしてほしいものだ。
 まぁ、変に完璧人間であるよりは、少しでも欠点があったほうが付き合いやすい。

 何より、なんでもかんでも治せと言って心の狭い奴とは思われたくないからな。
 俺は若干落ち込み気味の彼女の肩に手を添えて引き寄せる。それから、兜越しに彼女の空色の瞳を見据えると

「心配するな。君がやりすぎるようなら俺が止めてやる。それまで好きなように動けばいいさ」

「……!」

 少しだけ元気になった。
 そんな雰囲気の彼女の頭を人撫ですると、俺はフィーリネの手を引いてゾイトを追っていく。

 随分先を行っていたのか、彼女は村の隅の方で仁王立ち。
 先に見える森を睨みつけるようにして見据えていた。

「……何をイチャイチャしていたんだ? 奴らが来るぞ……」

「悪かったよ」

「……」

「フィーリネのせいじゃないよ。悪いのは、すべてこの男だ」

「……俺が何をしたと?」

 何気にゾイトは寡黙状態のフィーリネと意思疎通可能なんだな。
 それもそうだ。彼女らは幼馴染。俺とフィーリネのように、出会って一月も経っていない関係ではないのだ。

 ゾイトは俺以上にフィーリネを知ってるわけだし、彼女の扱い方から接し方を心得ていても不思議じゃない。
 できれば色々とご教授したいところだが、きっと彼女は俺には何も教えてはくれないだろうな。

 考えながら苦笑。
 それから前を見据えた俺は、一気に顔を引き締めた。

「どうやら……来たみたいだな」

 短い言葉にゾイトとフィーリネの雰囲気も引き締まる。
 ゾイトは手を開いて様々な色の光を発生させ、フィーリネは背中に担いだ大剣を抜刀した。

 そうして臨戦態勢の整った俺たちの視界に映ったのは、森の奥からやってくる黒い影。
 木々の間を縫うように移動し、少しずつ近づいてくる影の群れ。真っ暗闇の中に光る赤い瞳がギラリと怪しく輝き、熊のような荒々しい吐息がいくつも聞こえる。

「結構、小さいな……」

 それらとの距離が狭まるにつれて鮮明に見えてくる身体。
 想像していたよりも小さな体格だ。俺の腰辺りにも届かないんじゃないかというほど低い身長ではあるが、代わりに横に広い姿は小太りな幼稚園児といった感じだろうか。

「……離れた場所からでも届く殺気と威圧感。化け物だな」

「……」

 そんな見るからに弱そうなオークたちを睨みつけるゾイトとフィーリネの反応は、強大な敵を前にした戦士のような雰囲気だ。

 額から流れ落ちる汗を拭ったり、剣を握りなおしたりと心穏やかじゃなさそうに見える。

 そんなに警戒するような相手なのか?
 俺にはとてもそうは思えないんだが……。

 そのようなことを考えている間にも近づいてくるオークたち。空に登った月によって照らされたその姿は……

「こんばんはっ!」

 簡単に説明するなら、二足歩行のウリ坊だった。
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