34 / 43
4ー5
しおりを挟む
時間は過ぎ去り、太陽が東へと沈み切った頃。
オークの襲来は村人の一人によって伝えられた。
「……西の森の奥から、多数のオークです……」
「ありがとうございます。あなたは広場中央にいてください。あそこにいれば、コーラルが守ってくれますから」
初老の男性に感謝を述べると、俺はフィーリネらを連れて村の西へと向かう。
「なぁ、ゾイト。良かったのか? 村人の護衛をコーラルに任せて」
「あぁ。コーラルが傍にいればデカい図体と威圧のおかげでオークも寄り付かん。そうなれば、ボクたちのような奴を積極的に狙ってくるだろう」
我がパーティの司令塔、ゾイトが考えた作戦。
それは、村人の安全をコーラルが確保し、俺たちがそろってオークを迎え撃つというなんとも単純なものだった。
別に全勢力を使って戦ってもいいのではとも思ったんだが、実は今回の戦いはただの討伐だけには終わらない。
「良いか? 貴様の仕事は、できるだけオークの数を減らすことだ。限界まで減らし、連中が逃げ始めたら攻撃の手を止めろ。わかったか?」
「オークの巣を見つけるためだろ? 分かってるって」
やってくるオークだけを根絶やしにするのは簡単だ。
しかし、奴らの繁殖力や執念深さはゴキブリ並みにしぶとい。根っこをどうにかしないことには、このルスランは何度だって襲われていくだろう。
だからこそ、連中の巣を見つけて潰す。
それが、今回の作戦だった。
「フィーリネも良いな? 決して……殺しすぎるなよ?」
「……!」
ゾイトの言葉に、フィーリネは親指を立てて答える。
自分は大丈夫とでも言いたげな様子だが、俺は知っている。コーラルと出会う以前の彼女の暴れっぷりを……。
ある意味、彼女を護衛に任せた方が良かったのではないか。
そう視線をゾイトに向ければ、彼女は軽く嘆息。額に手を当てると
「心配するな。フィーリネは、アレを身に着けている間は寡黙なだけで、声が聞こえていないわけじゃない。いざというときは、身体を張って止めれば問題ない」
「つまり、俺がどうにかしろってことか?」
「婚約者の暴走を止めるのは、その婚約者の務めだろうが……」
フィーリネに対して過保護な素振りを見せるゾイトだが、やはり狂戦士状態の彼女の面倒までは見切れないらしい。
分かりやすく彼女のことは任せたと言って、前を歩いて行った。
「……フィーリネちゃん。君って、結構ゾイトを困らせただろ?」
「……」
指で作った輪っか。その繋ぎ目である人差し指と親指の間を少しだけ開けて見せたフィーリネ。
おそらくは『少し』とでも言いたいんだろう。
自覚があるなら、どうにかしてほしいものだ。
まぁ、変に完璧人間であるよりは、少しでも欠点があったほうが付き合いやすい。
何より、なんでもかんでも治せと言って心の狭い奴とは思われたくないからな。
俺は若干落ち込み気味の彼女の肩に手を添えて引き寄せる。それから、兜越しに彼女の空色の瞳を見据えると
「心配するな。君がやりすぎるようなら俺が止めてやる。それまで好きなように動けばいいさ」
「……!」
少しだけ元気になった。
そんな雰囲気の彼女の頭を人撫ですると、俺はフィーリネの手を引いてゾイトを追っていく。
随分先を行っていたのか、彼女は村の隅の方で仁王立ち。
先に見える森を睨みつけるようにして見据えていた。
「……何をイチャイチャしていたんだ? 奴らが来るぞ……」
「悪かったよ」
「……」
「フィーリネのせいじゃないよ。悪いのは、すべてこの男だ」
「……俺が何をしたと?」
何気にゾイトは寡黙状態のフィーリネと意思疎通可能なんだな。
それもそうだ。彼女らは幼馴染。俺とフィーリネのように、出会って一月も経っていない関係ではないのだ。
ゾイトは俺以上にフィーリネを知ってるわけだし、彼女の扱い方から接し方を心得ていても不思議じゃない。
できれば色々とご教授したいところだが、きっと彼女は俺には何も教えてはくれないだろうな。
考えながら苦笑。
それから前を見据えた俺は、一気に顔を引き締めた。
「どうやら……来たみたいだな」
短い言葉にゾイトとフィーリネの雰囲気も引き締まる。
ゾイトは手を開いて様々な色の光を発生させ、フィーリネは背中に担いだ大剣を抜刀した。
そうして臨戦態勢の整った俺たちの視界に映ったのは、森の奥からやってくる黒い影。
木々の間を縫うように移動し、少しずつ近づいてくる影の群れ。真っ暗闇の中に光る赤い瞳がギラリと怪しく輝き、熊のような荒々しい吐息がいくつも聞こえる。
「結構、小さいな……」
それらとの距離が狭まるにつれて鮮明に見えてくる身体。
想像していたよりも小さな体格だ。俺の腰辺りにも届かないんじゃないかというほど低い身長ではあるが、代わりに横に広い姿は小太りな幼稚園児といった感じだろうか。
「……離れた場所からでも届く殺気と威圧感。化け物だな」
「……」
そんな見るからに弱そうなオークたちを睨みつけるゾイトとフィーリネの反応は、強大な敵を前にした戦士のような雰囲気だ。
額から流れ落ちる汗を拭ったり、剣を握りなおしたりと心穏やかじゃなさそうに見える。
そんなに警戒するような相手なのか?
俺にはとてもそうは思えないんだが……。
そのようなことを考えている間にも近づいてくるオークたち。空に登った月によって照らされたその姿は……
「こんばんはっ!」
簡単に説明するなら、二足歩行のウリ坊だった。
オークの襲来は村人の一人によって伝えられた。
「……西の森の奥から、多数のオークです……」
「ありがとうございます。あなたは広場中央にいてください。あそこにいれば、コーラルが守ってくれますから」
初老の男性に感謝を述べると、俺はフィーリネらを連れて村の西へと向かう。
「なぁ、ゾイト。良かったのか? 村人の護衛をコーラルに任せて」
「あぁ。コーラルが傍にいればデカい図体と威圧のおかげでオークも寄り付かん。そうなれば、ボクたちのような奴を積極的に狙ってくるだろう」
我がパーティの司令塔、ゾイトが考えた作戦。
それは、村人の安全をコーラルが確保し、俺たちがそろってオークを迎え撃つというなんとも単純なものだった。
別に全勢力を使って戦ってもいいのではとも思ったんだが、実は今回の戦いはただの討伐だけには終わらない。
「良いか? 貴様の仕事は、できるだけオークの数を減らすことだ。限界まで減らし、連中が逃げ始めたら攻撃の手を止めろ。わかったか?」
「オークの巣を見つけるためだろ? 分かってるって」
やってくるオークだけを根絶やしにするのは簡単だ。
しかし、奴らの繁殖力や執念深さはゴキブリ並みにしぶとい。根っこをどうにかしないことには、このルスランは何度だって襲われていくだろう。
だからこそ、連中の巣を見つけて潰す。
それが、今回の作戦だった。
「フィーリネも良いな? 決して……殺しすぎるなよ?」
「……!」
ゾイトの言葉に、フィーリネは親指を立てて答える。
自分は大丈夫とでも言いたげな様子だが、俺は知っている。コーラルと出会う以前の彼女の暴れっぷりを……。
ある意味、彼女を護衛に任せた方が良かったのではないか。
そう視線をゾイトに向ければ、彼女は軽く嘆息。額に手を当てると
「心配するな。フィーリネは、アレを身に着けている間は寡黙なだけで、声が聞こえていないわけじゃない。いざというときは、身体を張って止めれば問題ない」
「つまり、俺がどうにかしろってことか?」
「婚約者の暴走を止めるのは、その婚約者の務めだろうが……」
フィーリネに対して過保護な素振りを見せるゾイトだが、やはり狂戦士状態の彼女の面倒までは見切れないらしい。
分かりやすく彼女のことは任せたと言って、前を歩いて行った。
「……フィーリネちゃん。君って、結構ゾイトを困らせただろ?」
「……」
指で作った輪っか。その繋ぎ目である人差し指と親指の間を少しだけ開けて見せたフィーリネ。
おそらくは『少し』とでも言いたいんだろう。
自覚があるなら、どうにかしてほしいものだ。
まぁ、変に完璧人間であるよりは、少しでも欠点があったほうが付き合いやすい。
何より、なんでもかんでも治せと言って心の狭い奴とは思われたくないからな。
俺は若干落ち込み気味の彼女の肩に手を添えて引き寄せる。それから、兜越しに彼女の空色の瞳を見据えると
「心配するな。君がやりすぎるようなら俺が止めてやる。それまで好きなように動けばいいさ」
「……!」
少しだけ元気になった。
そんな雰囲気の彼女の頭を人撫ですると、俺はフィーリネの手を引いてゾイトを追っていく。
随分先を行っていたのか、彼女は村の隅の方で仁王立ち。
先に見える森を睨みつけるようにして見据えていた。
「……何をイチャイチャしていたんだ? 奴らが来るぞ……」
「悪かったよ」
「……」
「フィーリネのせいじゃないよ。悪いのは、すべてこの男だ」
「……俺が何をしたと?」
何気にゾイトは寡黙状態のフィーリネと意思疎通可能なんだな。
それもそうだ。彼女らは幼馴染。俺とフィーリネのように、出会って一月も経っていない関係ではないのだ。
ゾイトは俺以上にフィーリネを知ってるわけだし、彼女の扱い方から接し方を心得ていても不思議じゃない。
できれば色々とご教授したいところだが、きっと彼女は俺には何も教えてはくれないだろうな。
考えながら苦笑。
それから前を見据えた俺は、一気に顔を引き締めた。
「どうやら……来たみたいだな」
短い言葉にゾイトとフィーリネの雰囲気も引き締まる。
ゾイトは手を開いて様々な色の光を発生させ、フィーリネは背中に担いだ大剣を抜刀した。
そうして臨戦態勢の整った俺たちの視界に映ったのは、森の奥からやってくる黒い影。
木々の間を縫うように移動し、少しずつ近づいてくる影の群れ。真っ暗闇の中に光る赤い瞳がギラリと怪しく輝き、熊のような荒々しい吐息がいくつも聞こえる。
「結構、小さいな……」
それらとの距離が狭まるにつれて鮮明に見えてくる身体。
想像していたよりも小さな体格だ。俺の腰辺りにも届かないんじゃないかというほど低い身長ではあるが、代わりに横に広い姿は小太りな幼稚園児といった感じだろうか。
「……離れた場所からでも届く殺気と威圧感。化け物だな」
「……」
そんな見るからに弱そうなオークたちを睨みつけるゾイトとフィーリネの反応は、強大な敵を前にした戦士のような雰囲気だ。
額から流れ落ちる汗を拭ったり、剣を握りなおしたりと心穏やかじゃなさそうに見える。
そんなに警戒するような相手なのか?
俺にはとてもそうは思えないんだが……。
そのようなことを考えている間にも近づいてくるオークたち。空に登った月によって照らされたその姿は……
「こんばんはっ!」
簡単に説明するなら、二足歩行のウリ坊だった。
3
あなたにおすすめの小説
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる