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善意で舗装された「ヘルGBT」への道。

1.究極の女性差別――「性自認主義」。

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二〇二一年・十二月二十日――『三省堂国語辞典』第八版が発売される。

この辞典では、「女」の意味はこう記されていた。

「おんな[女]をんな⦅名⦆
①人間のうち、子供を産むための器官を持って生まれた人(の性別)。女性。〔生まれたときの身体的特徴と関係なく、自分は この性別だと感じている人も ふくむ。☞トランスジェンダー〕②成人女性。」

一方、「男」の説明は「子種を作るための器官を持って生まれた人」である。「自分はこの性別だと感じている人もふくむ」という説明は「女」と同じだ。

三省堂まで生物学を無視するようになった。

そもそもの話、「子種を作るための器官を持って生まれた人」で「自分を女だと感じている人」は、三省堂国語辞典の説明ではどうなるのだろう?

「自分を女だと感じたら女」――今までは、こんなことを言う人は笑い飛ばされていた。しかし、それが国語辞典に載るようになったのだ。

以前から、ネット上では工作が行なわれていた。

この辞書が発売される前のこと、「ウィキペディアの『女性』の項目が書き換えられている」と、ある人が私に教えてくれた。二〇二一年六月九日の時点で、ウィキペディアの「女性」の概要はこうなっていたのだ。


目次を見てみると、「社会的な女性」の項目がトップに来ていて、「生物学的な女性」が次に来ていた。


なお、「男性」の項目では書き換えがされていない。「多様な見方が存在する」とも書かれていない。項目も「生物学的な男性」が先に来て、「社会的な男性」が後に来ていた。

その人は、知人に頼んでウィキペディアを編集してもらったという。

――この項目を書き換えたのは、恐らく男性ではないだろうか?

女性なら、男女平等に書き換えるだろう。また、ツイッターなどで「トランス女性は女性だ」と言って暴れている者はほぼ男性だ。

彼らは、「差別に反対している」というより、「暴れたい」だけのように見える。特に相手が女性だと、激しく執着・粘着する傾向にある。

LGBT活動家やネット左翼たちは、本当に、越境性差トランスジェンダーという少数者マイノリティを救おうとしているのだろうか? もしそうならば、なぜ、女性の権利を最大限尊重し、できるだけ反撥のない形で運動を進めようとしないのだろう?

だが、やがて私は結論せざるを得なかった――性自認主義の根底には極端な女性蔑視があると。

越境性差トランスジェンダーの端くれとして様々なゲイに私は会ってきた。

ゲイに女嫌いが多いことは何度か述べた。特に、女装した男性に好感を持つ両性愛男性には、凄まじい女性嫌悪のある人が多い。様々な背景はあれど、著しい不信感やトラウマを女性に抱いている人が多いのだ。しかし、相手が男性ならば安心するという。

加えて言えば、差別をしない人間はいない。

それは、「差別と鬪う」運動をしている人も同じだ。人間として自然な感情――様々な差別心が湧き上がってきたとき、反差別の活動家は理知的に抑えられるだろうか。

もし抑えられるなら、そんなにも理知的な人が、女性スペースを無制限に開放すればどうなるか本気で分からないのだろうか?

男性社会は厳しい。また、社会的・文化的な性差ジェンダーや、様々な制度によって「女性が守られている」と感じる男性は多い。一方、女性の権利を向上させるためには、男性の持っていた特権も削らねばならない。フェミニストたちの言葉も、時としてきついものがある。

加えて、「反差別」の活動家には「権力勾配論」に陥っている人も多い。つまり、社会的に弱いとされる「属性」の人が言うことは、無条件で尊重しなければならないという考え方だ。

例えば、フェミニストの女性が男女差別の問題で何か変なことを言ったとしよう。普通の男性ならば「それは変だ」と反論するかもしれない。しかし「権力勾配論」に陥っていると、「男より女は弱い」ので、「弱い方の言うことに賛成しなければならない」のだ。

権力勾配論とは、「どのような理屈が正しいか」ではなく、「どのような『属性』の人が言うことが正しいか」という理論なのである。

それに恨みを抱いている「反差別」の男性も多いはずだ。

権力勾配論に陥りつつ、女性への(フェミニストへの)恨みを発散させる方法は一つ――「女性よりも弱い」存在を作り出して女性を攻撃するしかない。

フェミニストに心の底では恨みを抱いている人が、「あらゆる差別に反対する」という建前のもと、性自認主義に反対するフェミニストを「TERF」と罵る――気分がいいのかもしれない。

性自認主義とは、言葉の意味を変えることで女性を抹消する究極の女性差別だ。

イギリスでは、「女性の地位を向上させるために」、取締役など重役の四割を女性にすることが上場企業に要求された。ところが、この「女性」とは「女性を自認する者」も含むという。

先に述べた通り、女装した男性を受け入れるべきは男性社会である。ところが、そのような男性を受け入れたくない男性は多いらしい。「女性社会が受け入れるべきだ」と言う。自認が女性ならば女子トイレに入るべきだと言い、女性は我慢しろと言う。

なお、社会的地位の高いフェミニストの中には、性自認主義に賛成する人もいる。それを不思議がる女性も多い。それは、「どんな理屈が正しいか」ではなく「どんな『属性』の人が正しいか」という魔法に彼らも罹っているからだ。

しかし、性別の概念を破壊することはLGBT運動の自殺だ。

例えば、「トランスレズビアン」や「トランスゲイ」という人がいる。つまり、「トランス女性」なのに女性が好きな人や、「トランス男性」なのに男性が好きな人だ。

性別が自己認識のものならば、恋愛対象となる性別まで「自認」でなければならない。

だからこそ、「レズビアンとは、女性を自認していて、かつ、女性を自認する人に惹かれる人のこと」だの、「ゲイとは、男性を自認していて、かつ、男性を自認する人に惹かれる人のこと」だのと言う人まで出始めた。

法務省が作った資料もそうだった。すなわち、「レズビアン=心が女性で女性に惹かれる人」「ゲイ=心が男性で男性に惹かれる人」と定義されていたのだ。


このノンフィクションを読み始めるまで、「LGBT=同性愛者」だと思っていた人も多いのではないだろうか。しかし、このように、「LGBT」には以前から異性愛者が紛れ込んでいたのだ。

結果的に、それが「レズビアン」という別のマイノリティを抹殺することとなった。
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