亡国の女王は月夜に甘い夢を見る

森いちほ

文字の大きさ
4 / 5

4

しおりを挟む
「は、いえ・・・。将軍が、明日の講和会議の前にぜひお話したいことがあると・・・」
「まぁ、大事なお話かしら。それでしたら今からでもうかがいますのに」
「いえ、今日はもう夜も遅いですから、明日の早朝、将軍の方からこちらにいらっしゃるそうです」
「そうね。分かりました」
 アリーシャはすぐに了解して頷いた。
 本来であれば、侍女もいない深夜の女王の自室に男性であるランスエルが一人で立ち入るなど許されないことだ。
だが、もうそれを咎めるような人間はこの城には誰もいない。
城に仕える者たちも、王家に仕えた貴族たちも大部分がとうの昔に王都から去っていた。
 今城に残っている僅かな者たちは、先祖代々ヴァノワ家に仕えてきた忠臣たちばかりだ。
逆に言い換えれば、それ以外の生き方を知らない者たちとも言える。
「緊張されてますか?」
 返答して黙り込んでしまったアリーシャに、ランスエルは気遣うように問いかけた。
 明日は、同盟軍とファルディア側との講和会議が開かれることになっている。
だが、講和会議とは名ばかりで、それがファルディアへの絶対恭順、全面降伏を促すためのものだということは、アリーシャは嫌というほど理解していた。
そうでなければ、今 王都の擁壁の向こうに広がる平原に展開する同盟軍が容赦なく侵攻を開始するはずだ。
 しかし、恭順の意志を示したとしても結果は変わらないとアリーシャは思う。
国家としてのファルディアは解体され、アリーシャは捕らえられ捕虜としての扱いを受けるはずだ。
先に捕らえられたはずの母親の行方はいまだ擁として知れない。
虜囚としての辱しめを受けるくらいならばいっそ講和会議の前に自ら命を絶ってしまいたいとアリーシャは切に願っていた。
「そうね、少し・・・」
 そんな自身の心を悟られないよう、アリーシャは微笑みながらランスエルに答えた。
「大丈夫です。きっと上手くいきますよ」
 ランスエルは破顔して力強くそう言ってのける。
何を根拠に――とは思ったが、アリーシャはその言葉に小さく点頭した。
「それでは、私はこれで失礼します。陛下もなるべくお早めにお休みください」
 アリーシャが頷いたのを確認すると、ランスエルはその場を辞すために優雅に騎士風のお辞儀をした。そして、アリーシャに背を向けて歩き出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

幸せになれると思っていた

里見知美
恋愛
18歳になったら結婚しよう、と約束をしていたのに。 ある事故から目を覚ますと、誰もが私をいないものとして扱った。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

処理中です...