悪逆皇帝は来世で幸せになります!

CazuSa

文字の大きさ
140 / 339
第4章

139.美しき悪女の提案

しおりを挟む
何か彼女の目的か何かのヒントがないかと、その先の日記を読んでみる。
すると、あった。
その目的とも思われるものが、そこに。

彼女と特別な関係になってしばらく経ったある日、彼は今の関係ではもう我慢できず結婚したいと告げたようだ。
すると彼女はとある条件を彼に突き付けた。

1つは自分と肉体関係を結ばないこと。
まさか付き合っているときですらそんなことをしていなかったことに驚きだが、結婚した後も主張するとは。
なんだか彼女のプライドの一遍を垣間見たように感じ、彼女らしいと感じた。

そして、もう一つ。
それは、彼女の生んだ子供をベルヘルス家の次期当主として認めること、だった。

おばあ様から聞かされていた事とはいえ、まさか彼女との結婚の条件だったとは。
だが、文面を見るに彼はその条件に全く抵抗を覚えず、すぐに了承したようだ。

いくら彼女と結婚したいと思っていたとしても、これではベルヘルス家に何の利益ももたらされないことは明らかだ。
それでも彼女と共になることを誓うなんて、信じられない。
魔法か幻術でも受けているのではないだろうか。

こんな狂気に満ちた関係があるなんて。

彼の人生はこれで幸せだったのだろうか。
いいや、幸せなはずがない。

しかし、それから3年後の最後の日記を読んでも彼はとても幸せそうだった。
彼女と子供との暮らしは、今まで生きてきた中で一番幸せなのだと。
そう綴られていた。

日記を閉じてもまだ、私の中には彼の不気味さと彼女への恐ろしさが胸の中で渦巻く。

だめだ。
この事実は誰も幸せになどならない。
ベルヘルス家の人以外、誰も知ってはいけない。

一刻も早くこの日記を手放したくて、もとあった場所に仕舞おうと引き出しを勢いよく開けたときだった。

カラカラ、と何かが転がった音がした。

あれ? なんだろう。

日記が入っていた引き出しをギリギリまで引き出すと中から見つかったのは、ロケットペンダントだった。
ずいぶん古い物のようで、ところどころ錆びついているのか、金色の蓋が茶色く変色している。

蓋を開けると、金属の擦れる嫌な音を立てながらぎこちなくペンダントが開かれた。

「こ、これは」

中には美しい女性の絵がそこに描かれていた。。
変色しているものの、それが誰なのかすぐにわかった。

間違いない、彼女だ。
リヴェリオの妻にして、私たちの先祖。

メイリアス。
私の奥さんだった人。

色褪せた小さな肖像画でも、彼女の美しさがわかる。
こんなに綺麗な人なら、きっと誰もが心奪われたに違いない。

ただ一人。
リヴェリオを除いて。

もしかしたら、彼女が私を嫌悪していたのは、私が唯一彼女を特別な人だと思っていなかったからかもしれない。
私は他の人と彼女を平等に扱っていたはずだから。

だって私、夢の中で彼女に話掛けられたとき嬉しいと思ったのは、彼女を1人の人間として好きだったから。
彼女の事を自分の妻以前に、自分の家族、国民として扱っていたのだと思う。
だから邪険にされて悲しくなっていたのだろう。

しかし、その感情は誰に対しても抱いていた感情だった。
プライドが高く傲慢な彼女がその性質に気づかないはずがない。

だから、特別視してくれない私に彼女は苛立っていたのではないだろうか。
まぁまだ全然思い出せていない私には真相なんてわからないけれど。

「なんだそれ」

「!! びっくりした。急に話掛けないでください!」

考え込んでいた際に、突然話しかけられ必要以上に驚いてしまう。
いつの間にか背後に立っていたお兄様が私の肩越しにペンダントを覗き込んでいた。

「綺麗な人だな、その人」

美的感覚が少しおかしいお兄様でも、彼女の美しさは理解できたらしい。
まぁ、婚約者であるお姉さま以外に靡かなそうだから、そのままで良いのだろうけど。

「その引き戸、開いたんだな。俺が強請ってもおじい様もおばあ様も開けてくれなかったから、てっきり鍵を無くしていたのだと思っていたが」

「私が頼んだんです。どうしても読みたかったので」

「その、日記? をか。一体誰のものなんだ? 貸して――」

「お兄様」

伸ばされた手を静止させるための言葉は、思った以上に鋭く冷たいものだった。
お兄様もその声に驚いたのか、ビクリと体を震わせたのが見えた。

「これは、私とベルヘルス家の人間だけが知っていればよい事です。お兄様が読むべきものではないかと」

「どうしてお前がよくて、俺がダメなんだ」

私の言い方が気に障ったのか、お兄様は不機嫌そうな顔で食い下がった。
お兄様が私に対しこんなに大人げなくなるのは初めてだった。

「お兄様、これは私にとってもベルヘルス家にとっても知られたくない事実なのです。とても苦しく痛い、狂気に満ちた負の遺産」

お兄様が日記を読むのを阻止したくて言った言葉だったが、それは私に突き刺さるものだった。
それでも先ほどの嫌な感情をお兄様に抱いてほしくなかった。

「それでもお読みになりたいのなら、どうぞ受け取ってください」

私の言葉が効いたのだろう。
差し出した日記に、お兄様の手が触れることはなかった。
それを確認し、引き出しに戻そうとしたとき、お兄様がポツリと一言小さく呟いた。

「エスティ、お前はそうやって1人でなんでも背負おうとするのをどうにかした方がいいと、俺は思うよ」

「癖になってる」と、お兄様は続けた。
しかし、私が私を守る手段の一つを無くすわけにはいかず、私はその言葉を無視した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...