59 / 203
1章 幼少期編 I
47.醤油仕込み
しおりを挟むジャガ料理が落ち着いて余裕ができたと思ったのに……
増築要因がたんと増えたおかげで、チギラ料理人は賄い作りでてんてこ舞いになってしまった。
とても手が回らないので、パンだけはランド職人長が街で購入してくるのだが、大食いしそうな男たちの腹を満たすには……と腕を組んで考えていたチギラ料理人に、私はそっとアドバイスをした。
「大皿に料理を盛って、自分で取るようにすると、楽ですよ」
バイキング方式である。
前世の夢のような食事スタイルである。大好きだった。人の3倍は食べた記憶がある。
取り皿はパンだ! 具は勝手に乗せろ! 飲み物はポットから勝手に注げ!
まぁ、それでも忙しそうだったけど。
私と付添人も、食堂にてご相伴にあずからせていただいております。
代わりと言っては何ですが、丸かじりできる果物を城からくすねてまいりました。
どうぞ、ご賞味くださいませ。
☆…☆…☆…☆…☆
増築の一方、片手間に建てられた醤油小屋が完成した。
醤油造りの長い道のりが始まります。
チギラ料理人よろしいですか? 忙しくても待ちませんよ。
まずは一番重要な「麹菌」から着手します。
醤油造りに使われる麹菌とは、稲穂に付いている黒い粒のことを言います。
……………………………………………………
麹菌の増やし方
①玄米を水につけて吸水させ、蒸します。
②70度くらいに冷めたら草木灰を混ぜる。
③35度くらいになったら麹菌を混ぜ、布でくるんで保温する。
④発酵が進むと熱を持ち始めるので、定期的にかき混ぜて放熱します。
(内容物:40度以下に保つ)
⑤1週間ほどで麹菌は緑色の胞子を出すようになります。こうやって麹菌が増えてゆくのです。
⑥微妙に乾燥させてカビ玉を作って完成です。
……………………………………………………
しかし、この野生菌はアフラトキシンという『毒物を作り出す種』があるのを忘れてはいけません。
①『毒を作らない種』を地道に探す?
②薬草課で改良してもらう?
③シブメンに鑑定してもらう?
「……③で、薬草課で増やしてもらおう」
シブメンには個人的に即OKをもらえた。
だが、薬草課がカビを増やすなんてこと、請け負ってくれるだろうか。
シブメン個人はよくても、王国魔導士長としては……う~ん、こういう時はアルベール兄さまに泣きつこう。
「アルベール兄さま! おねがいします。薬草課にさし入れを作りますので、カビのばいようを依頼してくださいませ。あ~ん、そこをなんとか、なんとか~」
足にしがみついて懇願した。
私の得意技だ。
そして粘り勝ちした。
何とかなった……ふぅ。
…………………………………………………
麹菌の増やし方〈テイク2〉
①薬草課で培養して増やしてもらう。終了。
…………………………………………………
よかったですね、チギラ料理人。あなたの仕事が減りましたよ。
さぁ、今のうちに作り置きを仕込むのです! 薬草課の差し入れも忘れずにね。
………そして
厨房の増築も終わりそうな頃、忘れていたカビちゃんがやってきた。
粉末状の立派な姿で……気が利きすぎる薬草課でありました。これは更なる差入れを考えねばいけませんね。
………………………………………………
醤油の作り方
★煮沸消毒した布と容器を準備しておく。
【大豆】
①大豆をよく洗い、水に1日漬ける。
②漬けておいた水ごと煮る(指で摘まんで潰れるくらいまで)
③網にあけて水気を切りつつ冷ます。
【小麦】
①小麦をふっくらしてくるまで炒る。
②ミキサーで3割砕く。
③砕いた小麦に麹菌をまんべんなく混ぜる。
【発酵】
①大豆と小麦を混ぜたものを布で包み、容器に入れる。
(内容物:30度以下 室温:30度を維持)
②6時間ほどすると発酵が進み熱を持ち始めるので、保温から放熱に切り替える。
(内容物:30度以下 室温:32度を維持)
③18時間後、かき混ぜて酸素を麹に取り込みます。
(内容物:28~30度 室温:32度を維持)
④平容器に小分けにして、2cmほどの厚さに広げる。
(ここからは28度を維持する)
⑤21時間後、かき混ぜて酸素を麹に取り込みます。
(ここからは26度を維持する)
⑥16時間後、容器に移し替え、塩水を混ぜる。
⑦なるべく空気に触れないように密封し、冷所で保管。
(~3週間)
⑧3ヶ月おきに、かき混ぜて酸素を取り込み、再び密封。
(~1年)
⑨漉す。湯煎して殺菌。完成。
………………………………………………
…………以上。
異世界で醤油に飢えないように覚えた……無理です。半分以上覚えていない怪しい記憶です。
がんばれチギラ料理人! 造るのは君だ! すべては君の根気にかかっている!
一度シブメンに、発酵を促進する魔法はないのかと尋ねたら『禁忌とされています』とキッパリと言われた。
……確かに、悪用されたら恐ろしいことになりそう。
後に、腐敗する大豆を見た私とチギラ料理人は、納得しすぎるくらい納得したのだった。臭すぎた。
醤油が出来るのが早いか。
ヒロインが来るのが早いか。
乞うご期待!
209
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
モンド家の、香麗なギフトは『ルゥ』でした。~家族一緒にこの異世界で美味しいスローライフを送ります~
みちのあかり
ファンタジー
10歳で『ルゥ』というギフトを得た僕。
どんなギフトかわからないまま、義理の兄たちとダンジョンに潜ったけど、役立たずと言われ取り残されてしまった。
一人きりで動くこともできない僕を助けてくれたのは一匹のフェンリルだった。僕のギルト『ルゥ』で出来たスープは、フェンリルの古傷を直すほどのとんでもないギフトだった。
その頃、母も僕のせいで離婚をされた。僕のギフトを理解できない義兄たちの報告のせいだった。
これは、母と僕と妹が、そこから幸せになるまでの、大切な人々との出会いのファンタジーです。
カクヨムにもサブタイ違いで載せています。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
【完結】大魔術師は庶民の味方です2
枇杷水月
ファンタジー
元侯爵令嬢は薬師となり、疫病から民を守った。
『救国の乙女』と持て囃されるが、本人はただ薬師としての職務を全うしただけだと、称賛を受け入れようとはしなかった。
結婚祝いにと、国王陛下から贈られた旅行を利用して、薬師ミュリエルと恋人のフィンは、双方の家族をバカンスに招待し、婚約式を計画。
顔合わせも無事に遂行し、結婚を許された2人は幸せの絶頂にいた。
しかし、幸せな2人を妬むかのように暗雲が漂う。襲いかかる魔の手から家族を守るため、2人は戦いに挑む。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる