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1章 幼少期編 I

82.義母と義妹

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冬の社交シーズンに突入!

王城で最初に行われれる国王主催のパーティーで、アルベール第一王子とレイラ・ユエン侯爵令嬢の婚約が正式に発表された。

待ちに待ったレイラお姉さまとの初顔合わせは、その少し前───お母さまが内々のお茶会を開いてレイラお姉さまを招いてくれたのです。

着席済みのうちの家族全員と、アルベール兄さまと並んで立つレイラお姉さま。
ユエン侯爵一家の姿がないのは突っ込まないし聞かない。子供が口出しすることではないとルベール兄さまに言われているから。

「ベールとシュシューアは初めてだな。レイラ・ユエン侯爵令嬢だ」

アルベール兄さまが自慢げに紹介する。

「お招きありがとう存じます。そして、お初にお目にかかります。レイラ・ユエンでございます」

王族に対する唯一の最敬礼と淑女の礼を組み合わせた優雅なお辞儀だ。

(生の悪役令嬢……)

完璧な所作とアルカイック・スマイル、そこにが加わると氷のように冷たい人に見える……けど~、縦ロールじゃないね。つり目でもないね。ぜんぜん意地悪そうじゃないよ。

───あ、目が合った。

ひゃぁ、頬を染めて微笑まれた! 優しそう!

どどどどうしよう。お行儀は大丈夫かな。良い子に見えるかな。あいさつはどうやるんだっけ。ハロ~?

「さぁ、ふたりとも、お座りなさい」

主催のお母さまが席を勧めてお茶会が始まる……そうそう、そうだった。変なことしなくてよかった。

「万物に感謝…「無礼者! あたくしを誰だと思ってるの!?」

甲高い、若くなさそうな女の声が廊下から響いてきた。
お母さまの感謝の言葉を遮るとは、無礼者はお前だ!……とは思ったが黙っとく。

「リリも王妃さまのお茶会に出るのよ! いやっ! 触らないで!」

次いで、リリなる声の主は10代っぽい。
城人たちが数人がかりで宥め止めている様子がここからでもわかる。

「そなたたちは隣の部屋に行っていなさい」

お父さまは部屋の片隅に立つ衛兵に、続き部屋の扉を開けさせた。そして妊婦のお母さまの手をそっと取り、侍女に引き継がせる。

「申し訳ありません。ここはわたくしが……」

恐縮した様子のレイラお姉さまは座を去ろうとするも、アルベール兄さまがそれを引き留め、首を振った。

「お義姉さま! どこにいらっしゃるの!? お義姉さまばかり狡いですわ! どうしていつも私にこんな意地悪をしますの!? お義姉さまーーっ!」

───あ、察し……

一旦腰を浮かせていたルベール兄さまは、再び椅子に身を沈めた。
私も椅子を降りようとしたのをやめた。
ベール兄さまはお菓子を食べ始めていた。

「何だそなたたち、残るのか?」

動かない子供たちに、お父さまは揶揄うように笑った。

「皆さま、廊下に来ているのは義母と義妹です。猿のように暴れますので、お隣の部屋へ……」

我ら兄妹、その『猿』に興味があるのです。
……っ、猿っ。レイラお姉さまは薄幸なシンデレラではなさそうですね。あ、悪役令嬢だった。

アルベール兄さまも『猿』発言に一瞬吹き出しそうになっていたが、身を正して入口の衛兵に『猿』を通すよう指示を出した。


バンッ!(扉を開けてもらうサービスを受けていない音)


予想を裏切らない風体の母娘が現れた。



裏設定……………………………………………
レイラの母が事故死して数日後のことだった。
滅多に帰ってこなかった父親は愛人と再婚し、後妻とその娘を連れて侯爵邸に現れたのだ。

財に無頓着な父は散財を繰り返す。
性悪義母は全使用人を入れ替え、レイラを孤立させようと企む。
強欲義妹はレイラの私物を次々と奪っていく。

───外国に留学している兄が帰国するまでは……レイラはひとり侯爵領を守ることを決意する。
……………………………………………………



バトル開始!◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「酷いですわ! 酷いですわ! お義姉さまは隣国に嫁ぐのではなかったの? リリを騙したのね!」

義妹の先制『酷いですわ』───
悪役令嬢へ超音波攻撃。

「やっぱりの血を引いた娘だわ! なんてふしだらなの!?」

後妻の口癖『あの女』──
悪役令嬢へ呪綴言を放つ。

しかし、あの世からの『母の愛』で悪役令嬢への攻撃は無効化された。

「アルさま! お義姉さまに騙されないで! リリが立派な王子妃になります。どうか目を覚まして!」

「私の名を口にする許可は出していない。妙な呼び方もするな」

第一王子のターン『青筋』───
義妹の『無教養』が発動。『青筋』は無効化された。

「まぁっ! お義姉さまに何か言われたのですね? 違うの! リリは悪くないの! リリを信じて!」

義妹は魅了アイテム『涙目でキュルン』を使った───用法を誤り不発に終わる。

第一王子の黒視線攻撃『好みじゃない』───
義妹の『鈍感』が発動。『好みじゃない』攻撃が回避された。
視線攻撃を受けていない後妻に余波。ダメージ -3。

「いい加減になさい、ふたりとも!」

悪役令嬢の攻撃『窘める』───
義母義妹の『鼻を鳴らす』で回避される。

悪役令嬢の『怒りゲージ』が上昇中。

傍観者モブ王女は『状況の観察』を開始。
『レイラお姉さま、こぶし握りしめてるよ、あわわ』で混乱。
『父親にパンチをお見舞いしたとか聞いたような』の過去データを発見。

─ステージ【殿中でござる!】─

モブ王女はスタタタ…『ランド走り』を使った。

「きゃっ! なにこの子!」

モブ王女の攻撃『横切る』──効果微小。

「子供の遊び場じゃないのよ! あっちにお行き!」

後妻の超音波攻撃『怒鳴り声』──
モブ王女はビビッた。ダメージ -3。

モブ王女のダメージに触発された第二王子の『妹』プロトコルに異常。
同じく、第三王子の『妹』プロトコルに異常。

第一王子の『立腹』が追加発動。
第二王子の『論破』が待機中。
第三王子の『菓子を投げる』が待機中。
国王の『実は親バカ』常時発動中。
王妃の『見守る』常時発動中。
悪役令嬢の『怒り』が限界突破『憤怒』にチェンジ。

給仕たちの『むっ』
従者たちの『カッ』
侍女たちの『っ…つっ』←ムリあるね('◇')ゞ
護衛たちの『くっ』

城人たちの庇護心『うちの姫さまが!』───
連携が強化され『忠誠心』が2上がった。

多人数の庇護心同時発動により『守護』の地場が発生。

守護者たちによる『視線で殺す』により、義母義妹のHPが激減。レベルが2下がった。



悪役令嬢の『憤怒ゲージ』上昇中。
実力行使『拳で会話』──発動数秒前。
3,2,1……

「レイラおねえちゃま、だっこ」

モブ王女はスキル『猿芝居』を使って、悪役令嬢の『憤怒ゲージ』上昇中断に成功。
効果『毒気を抜かれる』によって、悪役令嬢の『憤怒ゲージ』が下降する。

─【殿中でござる!】から【猿 vs.猿】にステージ移行─

「だっこ~」

モブ王女の『猿芝居』に『空気を読まない』が追加された。
第一王子の遊び心『ノリ』に派生。
悪役令嬢の肩を優しく叩く『ポン』を実行。ラブゲージが0.5上がった。

「え? あ、はい。抱っこですね」

悪役令嬢のミッション『家族の仲間入り』が開始された。
おずおずと抱き上げる姿が好感を生み『輿入れ先の居心地度』が1上がった。

「わ~い、シュシュに、おねえちゃまができた~」

悪役令嬢の『輿入れ先の居心地度』が3上がった。

「なっ! 妹!? ちょっと! 姉になるのはリリよ! リリが抱っこするわ!」

義妹の『義姉のものを奪う』が発動。
悪役令嬢の『ツン』で難なく回避。

「レイラ嬢、僕も姉上とお呼びしてよろしいでしょうか?」
「俺も! 姉上って呼んでもいいか?」

第二王子と第三王子の牽制『つまはじき』でバリアー効果。
義母義妹は仲間に入れない。

「もっ、もちろんでございます」

悪役令嬢のユニークスキル『頬を薔薇色に染める』が無意識発動。美しさが2上がる。
第一王子の『恋心』が3上がる。
衛兵1名の『敬愛』が5上がる。

「子供を味方につけて! なんて恥知らずな娘なの!」
「そうよ! そうよ!」

あの世からの『母の愛』効果継続。悪役令嬢にダメージはない。


モブ王女は『状況の観察』を再始動。

(引きませんか。そうですか。ファイヤーボールっと)

モブ王女の攻撃『ゾロリ』───

「ひぃえええっ!」
「うひゃぁぁっ!」

『魔導士長の教育の賜物』
『魔導士長の100回の試練』
『魔導士長の嫌がらせ許可』

相乗効果で魔力操作がレベルアップした。

モブ王女は『指先から放出』を使えるようになった。

(うり、うり。ぐるっとな)

「「…ひぃっ!…うひぃ…!」」

周囲の支援波動によるエクストラ効果『会心の一撃』
義母義妹は床で這いまわる『屈辱』によりHPダウン。もう立ち上がることができない。

「シュシューア」

第一王子から終了の合図がかかる。

(了解。任務完了。スポン)


─『お邪魔虫の鎮圧』ミッションクリア─

 ……………………
  Royals Win !
 ……………………



バトル終了!◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ユエン侯爵……夫人と妹令嬢は領地での蟄居を申し付けておいたはずだが?」

アルベール兄さまの視線が入口に据えられる。

ん? あ、入口に立ってる丸い人? 凄い息切らしてるね。

「ででで、殿下! ひっ、陛下! 申しわけ、申し訳ございません! お前たち! お前たちもお詫び申しあげ…「お父さまーっ!お義姉さまがリリを虐め…「あなたっ!あの女の娘はやはりあの女の娘で…「こっ、こらっ! 離さ…「酷いわーっ!リリのアルさまが取られ…「黙らんか、おま…「あなたーっ!折檻し…「やめんかっ!」

滅茶苦茶。

「アルベール・ティストームとの約束を違えた上に、このような辱めを受けるとは……覚悟は出来ているであろうな。ん? ユエン侯爵」

わぁ、長兄から怖いオーラが出ています。

「お許し…お許しくださ…「あなたーっ!…「お父さまーっ!」

煩い。ピッ。

「「「ひぃぃぃぃっ」」」

「……此度の度重なる狼藉、まっこと許し難い。よって、其処な女ふたりには不敬罪を適用し、貴族籍を剥奪の上、然る可き期間の労役を申し付ける。連れてゆけっ」

衛兵に顎で指示する、お奉行さま。

「きゃーっ!なにす…「お離しっ、わた…「いやーっ!アルさ…「きぃぃ!」

神妙にお縄につかないタイプの、わかりやすい退場。

「ユエン侯爵……貴公は長男イーデンに譲爵することを命ずる。併せ、イーデンの監督のもとで5年間の蟄居を申し付ける。異論はないな?」

「……はい」

項垂れる丸い人。

「お父さま……お世話になりましたわ。お達者にどうぞ」
「レイラ……すまなかった」
「………」

許す気はないらしい。
悲しい父娘の別れ。
丸い人は、丸い背中を向けて部屋を出て……

「ひぃぃやぁぁっ」

あ、ごめん。まだ出てたね。スポン。

侍女長に『めっ』ってされてから、静かに扉が締められた。



「これにて一件落着!」

ポンと手を打って、ルベール兄さまが幕引きをした。



「アルベール、見事であった」
「恐れ入ります」
「兄上、僕の蔵書読んだでしょう」
「あぁ、面白かった」
「兄上、格好良かったぞ!」
「プリン王子でもか?」

「プリン王子でも、素敵でしたわ……」
「……レイラ、あれで良かったのかい?」
「えぇ。これで安心してあなたのもとに来ることができます」
「レイラ……」
「アルベール殿下……」
「アルと呼んでくれないのか?」
「義妹と同じ呼び方なんて嫌ですわ」
「”さま” は要らないよ」
「ア…アル?」
「ん、なんだい?」
「呼んでみただけですわ」


「チュリ、チュリ、チュリ、チュリ、チュリッ、チュリ♪ ル・ラ・ノ・オ~リェ♪」
……【訳】好き、好き、好き、好き、好きっ、好き。あ・い・し・て~りゅっ♪


人の頭の上でイチャつき始めたので邪魔してみました(私はまだ抱っこされているのです)


「いや、参ったな……はは」
「わっ、わたくしったら……」

親のイチャイチャもアレだけど、兄のイチャイチャもアレだね。

「チュリ、チュリ、チュ…むにゅ」

アルベール兄さまに口を摘ままれダックになった。
首を振ってブルンと外す。

「即興で替え歌を作ったのです。歌わせてください。忘れてしまいます」
「構わん。忘れなさい」
「え~、せっかく閃いたのに」

休んでばかりいる小坊主のアレね。

「シュ、シュシュシュシューア様っ、後でお聞かせくだささいませっ、ね?」
「シュは2個ですよ?」
「はっ、失礼いたしました。シュッシュさまっ」


……シュッシュでもいいけど。


「……くっ」

お父さまが背中を向ける。

「くふ…っ」

ルベール兄さまは身をかがめて何とか耐えている。

「シュッシュッシュッ」

ベール兄さまは耐えていない。

「おほほほ」

お母さま?

「ははははっ! レイラ、これがうちの家族だ。よろしくな!」

アルベール兄さまは笑いながら、私ごとレイラお姉さまを抱きしめた。

「はっ、はい。はい? え? え?」

真っ赤になったレイラお姉さまのキョドる声が、異様に可愛かった。

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