転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

文字サイズ
特大
69 / 210
1章 幼少期編 I

57.境の森 1(Side ヨーン男爵)

 
【20年前】

ティストーム王国北方
国王直轄地にて───



トルドン王国に隣接するこの地は、国境線である「境の森」が深いおかげで、国家間の諍いは今まで一度も起きたことがない。
年老いた官人たちが代官として余生を送るような、そんな長閑な田舎であった。

騎士爵を持つ我がヨーン家は、国王からお預かりしている国境兵をまとめ、安穏な地であろうとも厳しく訓練を欠かすことはない。

俺は、ウリード・ヨーン。
親父が引退して襲爵した、なりたてほやほやのヨーン家当主である。24歳だ。

「そっちに行ったぞーっ!」
「気をつけろ!でかいぞ!」
「弓が利かん!罠の方に追い立てろ!」
「俺が囮になる! おーい、こっちだ!デカブツ!」
「やめてください、ウリードさま!」
「ウリードさまっ!うわーまたかーっ!」

訓練とは名ばかりの狩猟が、俺たちの主な活動だ。
魔獣討伐も兼ねているから立派な仕事なのだと、胸を張るよう新人の兵士には強く指導をしている。

深い落とし穴に落ち、魔獣の怒哮が重い振動と共に尽きた。
木槍を仕掛けた穴に落ちれば大型動物はひとたまりもない。

「黒猪の魔獣……雄だな。賭けはルエの勝ちだ」
「そういう賭けはするなって、奥さまに言われてるんですけど」
「堅いこと言うな。よし、引き上げるぞ!」

兵たちがわらわらと罠の周りに集まってくる。木槍をよけて縄網を敷いてあるから引き上げは簡単だ。

「三で引くぞ! 一、二、それっ!」

ブツブツ言いながら手伝う少年は、俺の従者のルエだ。
『北の針』と異名を持つほどの凄まじい突き剣の技の持ち主である。

14歳になったばかりで体が出来上がっていないせいか、いや、繊細な顔立ちのおかげで、女に間違われることが度々ある。
見た目に騙されて舐めた真似をしてくる男衆は、ことごとく容赦のないルエの細剣で撃退されているのだが、男にとって微妙な場所を突かれることでも名を轟かせている。
この技の持ち腐れは惜しいと、ここよりもっと平和な地から嫁いできた妻が連れてきた。

「鼻の肉はルエ坊のものだな」
「ルエ坊は耳のコリコリが好きじゃなかったか?」
「鼻が一番旨いのに? 変だぞルエ坊」
「どっちも好きですよっ。その3か所の肉は俺がもらいます。それから坊って呼ぶな!」

生意気だが裏表がない性格は兵士たちに気に入られ、皆から弟のようにかわいがられている。

「賭けはしないと言いながら、勝った時だけは報酬を持ってくんだよな」
「何か言いましたか、ウリードさま」

そんなわけで肉には困らず、森の恵みも豊富。土が悪くて麦は育ちにくいが何とか豊かにやっている。

帰りがけに群生した白きのこを見かけたので、明日の訓練はキノコ狩りになりそうだ。



☆…☆…☆…☆…☆



「境の森」を挟んだ隣国のトルドン側は「ノッツ伯爵領」だ。

川魚が大漁でわいたある日、そのノッツ伯爵から代官当てに書状が届いた。

「魔獣に迷惑していると書いてあるんじゃが、どうしたもんかの」

代官は困惑している。
共に茶を飲んでいた副代官と副代官補佐も困惑する。

そりゃ困惑もするだろう。境の森は誰の所有でもないのだ。にもかかわらず、その森から魔獣が領地に入り込んでいると苦情を申し立ててきたのだ。

「あの森、ティストームのだったんですか?」

文字の練習をしていたルエが顔をあげた。
代官たちの休憩時間は無学だったルエの勉強時間でもある。

「そんなわけあるか。単に討伐隊を出したくないだけだろう」

代官たちの休憩時間は俺のサボり時間でもある。茶菓子の持参が必要だが。

「ルエ坊、この間地図を見せたじゃろ? 聞いてなかったのかいな」
「坊って呼ぶなっ、じじい!」
「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ」

その爺さんは俺より身分が高いのを忘れたか?

「魔獣が豊猟だとは思っていたが……あちらにも流れているとなると、魔素溜りが大きくなっているかもしれないぞ。参ったな」

魔獣は魔素溜りから出現する。
現在確認されている森の魔素溜りは、海側の端にある洞穴がひとつと、今回とは関係のない小さな魔素溜りがいくつか。

「討伐隊を組むなら、俺も行きますよ」

『行きますよ』ではなく『行きたい』だろう?

「馬足の速いやつを偵察に行かせてからだ。おい、勉強道具を片付けるのはやめろ」

魔素溜りの大きさ如何では、魔導士を呼んで魔素溜まりを消失させなくてはいけなくなる。

「魔獣の狩場が無くなるのは惜しいのう」

まったくだ。




……………………………………………
【騎士爵】次代当主に騎士になる者がいない場合、爵位は返上することになる……というどうでもいもいい設定。
……………………………………………
感想 40

あなたにおすすめの小説

殺されそうになった幼女ですが、変わり者だらけの辺境伯領で大切にされています 表紙

殺されそうになった幼女ですが、変わり者だらけの辺境伯領で大切にされています

花屋で働いていた19歳の女の子、紬は異世界に転生してしまった。 しかも、転生したのは3歳の女の子。 母と助けた犬と森の中で穏やかに暮らしていたのに殺されそうになってしまって……
ファンタジー 連載中 長編
文字数:17,685
魔道師長のまかない係~身寄りのない幼児だけどがんばって美味しいご飯つくりましゅ!~ 表紙

魔道師長のまかない係~身寄りのない幼児だけどがんばって美味しいご飯つくりましゅ!~

現代社会でかけだしの料理アシスタントだったのに、気が付いたら幼児に異世界転生しちゃってた。しかも、育児放棄っぽい感じで色々と訳ありのわたし。ふとしたことで拾ってもらったお城の魔道師長様(訳ありの呪いもち)の呪いを解くために一緒に旅をしつつ、時々は王宮に戻ったり。魔道師長様と一緒にいるために、とりあえず「魔道師長のまかない係」という役職をもらって、毎日、ルーしゃま(魔道師長)のご飯を作って、お城に居場所を作ってもらってましゅ!(あ、噛んだ) 自分でもただの捨てられた幼児だと思っていたら、なんだかあれよあれよという間に、ハイスペックのスキル持ちだったらしいことが判明・・・。お城ではガチムチのストイックな騎士団長様やお姫様に囲まれて幸せに暮らしてた所に、なんと突然父様と母様が現れた!でも、ここもなんかむちゃくちゃ事情ありな感じ。どうして、みんなそんなに訳ありなんでしゅか! なろう様でも投稿中。カクヨムも近日中に投稿予定。
ファンタジー 連載中 長編
文字数:51,242
転生先で冒険者専門のお弁当屋さん始めます〜助けてくれた冒険者兄弟にお礼をしたかっただけなのに、大繁盛してしまいました〜 表紙

転生先で冒険者専門のお弁当屋さん始めます〜助けてくれた冒険者兄弟にお礼をしたかっただけなのに、大繁盛してしまいました〜

保育士として働いていた莉子は、ある日の仕事中に暴走してくる車から子どもたちを守り、死んでしまう。 しかし、目が覚めるとそこは深い森の中。 ここはどこだろうと彷徨い歩いているうちに狼のような獣に襲われかけたものの、間一髪のところで冒険者の兄弟、ベクターとゼノに助けてもらった。 家族が宿屋をやっているから、と行くあてもない莉子を拾ってくれた二人。 やってきたのは、リーベル王国の国境付近にある街、ベルン伯爵領。 そこにある人気の宿屋に身を置くことになった莉子は、様々な事情を知りながら身を寄せることへのお礼のため、ベクターとゼノにお弁当を作ろうと決意して──?
ファンタジー 完結 長編
文字数:131,843
1歳児天使の異世界生活! 表紙

1歳児天使の異世界生活!

 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
ファンタジー 連載中 長編 R15
文字数:253,580
『落とし物拾い』はEランクだけど、すごいスキルでした。 表紙

『落とし物拾い』はEランクだけど、すごいスキルでした。

10歳のスキル鑑定で授かったのは、前例のない『落とし物拾い:E』。 名門侯爵家の令嬢エルゼは「落とし物を見つけるだけのハズレスキル」と蔑まれ、冷遇されるようになる。 唯一優しかった母を亡くし、父の再婚後は継母と義妹からも虐げられる日々。 しかも義妹ロミルダがAランクスキルを授かり、エルゼの居場所は完全になくなってしまう。 そして13歳。 濡れ衣を着せられ、ついに侯爵家を追放されてしまった。 ――けれど、誰も知らなかった。 『落とし物拾い』が見つけられるのは、落とした指輪や財布だけではない。 失われた『記憶』。 失われた『魔力』。 失われた『技術』。 そして、人から失われた『生命力』さえも――。 「……これも、『落とし物』なの?」 これは「役立たず」と捨てられた少女が、誰かの失ったものをひとつずつ拾いながら、新しい仲間と居場所を見つけていく物語。 そしていつか彼女は知ることになる。 11歳のあの日――亡くなる直前の母から拾った『生命力の欠片』が、まだ自分の中に残っていることを。 〜各章の簡易説明〜 第一章 追放 第二章 成長 第三章 学園編 第四章 失われた家族 第五章 大地の落とし物編〜執筆中〜 ・ ・ ・ エルゼの成長をお楽しみに!
ファンタジー 連載中 長編
文字数:250,015
「お前は口減らしだ」と婚約破棄された私が、前世の知識で領地を最適化したら、なぜか全員に溺愛されています 表紙

「お前は口減らしだ」と婚約破棄された私が、前世の知識で領地を最適化したら、なぜか全員に溺愛されています

前世は過労死した社畜OL。 目覚めた先は、辺境伯爵家の「口減らし」末娘・リーゼロッテだった。 王太子から婚約破棄を突きつけられ、実家からも追放された私は、荒れ果てた領地へと送り込まれる。 魔力も低く、病弱で、何の力もないはずの私。 ……でも、前世の知識があれば、この領地は変えられる。 土壌改良、衛生管理、作物の改革、簡単な会計と流通。 「最適化」という不思議な力も目覚め、地道に領地を立て直していく。 最初は冷たい目で見ていた領民たち。 やがて、少しずつ変わり始めた。 「この領地を……私が変えていく」 捨てられたはずの私が、 自分の手で居場所を作り、周囲を巻き込んでいく物語。 努力と小さな奇跡が、 いつしか大きな愛と運命を変えていく。
ファンタジー 連載中 長編
文字数:237,633
貴族令嬢、転生5秒で家出します。 目指せ、ソロ活山暮らし 表紙

貴族令嬢、転生5秒で家出します。 目指せ、ソロ活山暮らし

【祝・書籍化】第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 2026年7月発売です。4万字以上エピソード追加しました。 感想もありがとうございます! なかなか返信できておりませんが、全て拝読させていただいております。 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元宮廷魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ファンタジー 連載中 長編
文字数:214,740
自分は凡人だと思っていました 〜異世界では万能らしいです〜 表紙

自分は凡人だと思っていました 〜異世界では万能らしいです〜

「自分は凡人です。」 観察・分析・再現を繰り返し、努力を積み重ねてきた転生メイド・リゼ。 「才能がない」と諦めていた公爵令嬢フィリアの専属となった彼女は、持ち前の探究心で人や魔法を学び、屋敷を少しずつ変えていく。 やがてその知識は、没落しかけた公爵家だけでなく、王国の未来にも大きな影響を与えていくことになる。 これは、自分を凡人だと思い込む万能メイドと、自信を失ったお嬢様が共に成長し、未来を切り開いていく物語。
ファンタジー 連載中 長編
文字数:61,167