転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

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2章 幼少期編 II

7.泡々

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ワーナー先生の授業が終わって離宮に来ると、庭の方から木を叩く不規則な音がしてきた。

ルベール兄さまとベール兄さまが、約束していた手合わせをしているのだ。
木剣でカンカンカンと、凄く楽しそうに打ち合っている。

「はぁーっ!」「ふんっ!」「やーっ!」

あの覇気声って本当に出るんだね。

う~む、何が楽しいのか理解できない……あ、チャンバラごっこ?…にしては熱く燃えている。

ヌディに手を取られてキュッと握られた。飛び込んでいくと思われている……まぁ、ちょっとはそうしたいかなぁなんて、思わくもないけど、しないよ。

「うわっ」

ルベール兄さまが弟の足を軽く払う。

剣道の試合とかだったら、とんだ卑怯技だ。
でもこれはスポーツではない……そうか、だから真剣にカンカンカンなのだ。楽しいのはオプションだったのね。

ここは日本よりもずっと命の危険が近い世界だ。
ベール兄さまのお尻に矢が刺さったと聞いてから、My危機意識をレベル3に引き上げたのだったっけ。普段はどうしても忘れちゃう。反省反省。
ちなみに今まではレベル1…嘘です、0.2くらいだったかな。それもヒロインに対してだけ。いかんね。たぶん忘れちゃうけど今は反省。


カンカンカン!


──がんばれ。お兄ちゃんたち。


心の中で応援しながら、私は雲ひとつない青空を見上げる。

今日は天気がいいし、気温も上がってきている。
手合わせが終わる頃には、二人とも汗だくになっていることだろう。

「ヌディ、お兄様たちの着替えをお城から持ってきてくれる? わたくしはこのまま食堂に行きますので……寄り道なんてしませんよ。大丈夫、約束します…(だめ?)…じゃぁ、ほら、あそこにランド職人長がいます」

こちらに気付いたランド職人長においでおいですると、スタタタ…と素早く駆けつけてくれる。

「ランド職人長、食堂までエスコートをお願いします」

「いいですよ……ヌディ様、お預かりします」

ランド職人長は手のひらをズボンの脇で拭い、気持ち綺麗になった所でその手をこちらに向けた。
ヌディの手から、ランド職人長の手に私の手が移って引継ぎは完了。

「それでは、よろしくお願いします」

去り際にちらっとヌディが私を見たから、ランド職人長と繋いだ手を掲げてニッコリ返しておく。

(①心配性 ②信用がない どっちかな?)…正解:②



「おっふろ~、おっふろ~、チャプ~ン、チャプ~ン♪」

スキップ、スキップ。



なぜ浮かれているのか説明しよう。

ティストームの浴槽は、他で沸かした湯を足していく置き型タイプのものである。
髪と体を洗うのも浴槽の中で全部済ませる。

体が小さい今はいい……けど、けど、けど~。

私はジャパニーズスタイルのお風呂が欲しいのだ。
温かい湯にゆっくりと浸かりたいのだ。
洗い場は別に欲しいのだ。
シャワーも必須なのだ。

発表します!

魔導給湯器を作ってもらったのだ! ジャーン♪
離宮の裏庭を拡張して浴場を作ったのだ! ジャジャーン♪


……ここで衝撃的な事実が発覚。

離宮の井戸の手押しポンプが不要になってしまったのだ。
ガーーーン!

貯水タンクヘ水を送るための魔導ポンプが作られたからだ。
ワーーーッ!

ろ過装置と殺菌装置が貯水タンクの下にあるのだ。
すごーーい!


そういう訳で、厨房の洗い場も水くみが必要無くなっていた。
よかったね、チギラ料理人。

離宮の天井と壁の中にはどんどん配管が埋め込まれている最中だ。
もっともっと便利になる予定だ。

………すごいね。
うん、わかった。それはちょっと置いておこう。


追い焚き機能なんて贅沢は言わない、いや、言ったら付けてくれた。シャワーの温度調節は当然か。厨房も調整摘まみがついていたよ。お風呂にも換気扇は必要よね。冬用の床暖房も付けっちゃったりして。大きな鏡と、ガラス窓…は曇らないように二重にね。そうだ、窓からの景色もこだわりたいね。坪庭を作ったらどうだろう。だったら夢の露天風の岩風呂にしてもらえないかな。旅館みたいに脱衣所も広くして、お風呂あがりにくつろげるスペースを……オールオッケーだった……本当にいいの? 試作だからいいんだって。アルベール兄さまが鬼の形相でそう言った。


ひゃぁぁぁ、出来ちゃったよ~、理想のカッポ~ンが!


諸々の試運転が終わり、一番乗りはモニターとしてミネバ副会長が、二番乗りはアルベール兄さまが。
もちろん私を含めて離宮の面々も極楽へ旅立った……その裏で、シャワーで汚れを落とす爽快さと、好みの温度の湯にゆったり浸かる快感を堪能したアルベール商会の2トップは、もう動いていた。

高級宿泊邸ホテルと提携して『多目的浴室セパレートバス』を設置したのだ。
裕福な宿泊客に実際に使ってもらって、良さを実感させる販売方法なのです。
次は自邸にいかがですか? 販売窓口はホテル受付にございます。シャンプーとリンスの使い心地はいかがでしたか? 多目的浴室をご注文いただいたお客様限定で、定期販売を賜っております。

……そう。シャンプーとリンス。異世界転生あるあるなのだ。

……違う。その前に石鹸だった。

ワーナー先生の薬草で染まった指先が気になって、最近ではもうお馴染みなってしまった研究院へ発注したのであります。
あまりにも頻繁に依頼するので、もう正式にアルベール商会から研究費と報酬が出るようになっていました。院生のアルバイトとして人気があるようですよ。

………………………………………………
石鹸の作り方
アルカリゾンア液+オイルを同じ温度にする。
②オイルにアルカリ液を少しずつ混ぜ合わせ、泡だて器で混ぜる。
③もったりしてきたら容器に入れて、毛布などに巻いて保温しつつ寝かせる(1日)
④程よい大きさに切って乾燥させる(1ヶ月以上)
※使った容器は酸性ボセの酢などで中和してから洗うこと。
………………………………………………

肌に触れるオイルはココナッツを基本にしたいところですが、肌質によっての相性もあるので、他のオイルも使って何種類か作ってもらいました。

ココナッツはティストームの最南端にありましたよ。
王都から遠いうえに販路に乗っていないので入手困難ですけど、アルベール商会がどうにかしてくれるはずです。


出来上がった石鹸を使ってみたところ、いい感じだったので次の事を考えた。

シャンプーとリンスね。

しかし、今のティストーム型浴槽では洗い流すのが超大変である。


───ここで、浴室を造る前にタイムラインを戻そう。


私はシャワーが欲しいとアルベール兄さまにねだった。
欲しい理由を聞かれたので、前世の入浴事情をまるっとお話した。
アルベール兄さまより、ミネバ副会長が食いついた。シブメンも食いついた。ランド職人長も、チギラ料理人も。あれ? みんなお風呂好き?

さいわい、厨房の洗い場用に排水溝を作ってあったので、掘り起こし作業はほとんどなく、上物の企画はとんとん拍子に進んでいった。
でも、途中から浄水場と下水処理場にまで企画が膨らんでいき、私は置いてけぼりとなってしまった。

浄水場は濾過と塩素殺菌。塩素は塩水を電気分解して……う~ん、電気。要発電。磁石のS極とN極。回転させて電気を作る方法。銅線を使うんだったかな?
横から口を出してシブメンに何とかしてくれとお願いした。シブメンはきっと研究院の院生に話を持っていくはず。よろしくお頼み申す。

下水処理場は沈殿槽、微生物処理……はい、わかりません。こっちは口を出せなかったけど、殺菌して川や海に放流する考えはこちらにもあったので一安心。

「転生者の募集をしましょうよ~」

相変わらずこれはスルーされる。


まぁ、そういうことで施工が始まり、私はシャンプーとリンスを用意して待っていた。

…………………………………………
シャンプーの作り方
①石鹸作り途中の②をお湯で薄めてクリーム状にする。
(手元にある石鹸を卸してお湯で溶くのでもいい)
②蜂蜜を混ぜて完成。
…………………………………………

アルカリ性のシャンプーで洗髪した後は、酸性のリンスで中和します。これで櫛通りが滑らかになるのだ。

…………………………………………
リンスの作り方
お湯に〈リンゴ酢orレモン汁〉を溶くだけです。
…………………………………………

髪の傷みが気になったら、コンディショナーをお勧めします。

…………………………………………
コンディショナーの作り方
A:オイル+〈リンゴ酢orレモン汁〉
B:卵黄+オイル+蜂蜜
※どちらも10分ほどおいてから洗い流しましょう。
…………………………………………

シャワーがあるので、どれもきっちり洗い流せますね。
多目的浴室の一番乗りと二番乗りふたりは、お察しの通りサラリンとした美髪になりましたとも。
魔導具課にドライヤーも作ってもらってあったので、もう完璧な風呂上がりでございました。

「シュシューアの言う通り、洗髪液を洗い流すにはシャワーが必要だな。販売は多目的浴室の購入者だけにしておこう」

アルベール兄さまは、指どおりがいい髪にご満悦です。

「日持ちしませんから、お届けはこまめにしないといけませんね。いっそのこと石鹸以外は作り方の冊子を付けますか? どうせ作るのは使用人ですし」

ミネバ副会長は、指に自分の髪をクルクル巻いて遊んでいます。
整髪料で上げていた前髪は、下すと結構長いのだと初めて知った。

「リンスとコンディショナーは簡単に作れるしな。では、湯に溶けやすい洗髪用の粉石鹸を高額に設定するか。蜂蜜は……蜂蜜も砂糖のように粉にできるな。蜂蜜入り粉石鹸……蜂蜜を表示する必要はないな、う~む」

「蜂蜜を配合した粉石鹸を『シャンプー』と呼べばいいのでは?…あぁ、それでしたら、リンゴ酢とレベ汁も粉末にして、湯に溶かして使う『リンス』にしましょう。コンディショナーも粉でいけますね」

「1回分の量がわかる匙、混ぜるヘラ、溶き湯の量がわかる容器をつける。決まりだ!」

……全部粉で解決しちゃった。順調、順調。


「……らんららんる~ん♪」

実は密かな野望があるのだ。
前世でチャレンジできなかったミルク風呂に入ってみたい。ワイン風呂というものにも興味がある。柚子湯ならぬシプード風呂もいいかも。薔薇の花びらを浮かべたらどんな気持ちになるの? 岩風呂には合わない? あぁ、そうだ、憧れのぷかぷかアヒルちゃん……ランド職人長に作ってもらおう。うふふふふ……

「シュシューア、戻ってきなさい」


◇…◇…◇


「ふぅぅぅ、さっぱりした~」

ルベール兄さまとベール兄さまが、シャワーを済ませて食堂にやって来た。

「今日の昼は何だ?」

「カニクリームコロッケです。たっぷりミエムソースで野菜もモリモリいきましょう」

食パンがあったからトーストしてバターと、この香りはコンソメスープかな? 角切りトマトが浮いてたらいいなぁ。じゅるっ。



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