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2章 幼少期編 II
38.建設現場見学ツアー12
しおりを挟む「足痒病は、靴の中の蒸れが原因です」
「カビですな」
さすがシブメン、わかっていらっしゃる。
「まずその場しのぎですが、痒くて痒くて苦しんでいる方の足は冷やしてあげてください。ガモで袋を作って、中に氷水を入れると便利です。こんな形で口の部分を金具で挟んで閉じると水が漏れません。この金具はバネでこんな感じでパッコンとなります」
前世の子供の頃にはまだ使われていた水枕のことである。
「予防は靴下をこまめに取り換えるのと、靴の中敷きに竹炭の……はっ! アルベール兄さま、ここに不織布を使います。ザクザクする時に竹炭の粒を混ぜ込むのです。このくらいの厚みにして……あ~、そのまま敷いたら靴下が真っ黒になっちゃいますね。え~と、薄い布で挟みましょうか……」
侍従さんがうんうん頷きながら記録していく。
おや? もしかしてあなたも……
「洗った靴下はお日様に当てて乾かしましょう。陽の光で殺菌されるのです。靴も強いお酒で綺麗に拭いて、こまめに干しましょう。収納する時は竹炭を入れておきましょう。一日中靴を履いた生活も改善しましょう。寮に帰ったらすぐに室内履きに履き替えましょう。でも、間違えて他の人の物を履かないように、自分で管理しましょう。え~と、他には……」
「寮の連中はなぁ、横着だからなぁ、武器の整備はちゃんとやるんだがなぁ」
ルエ団長が遠い目をしている。
むぅぅ、寮に住む独身男たち……部屋にキノコとか生えてないでしょうね?
「足の裏は虫刺されでも痒くて辛いもんな。シュシュ、直せないのか?」
足の裏チクンされたの?……ちい兄にそんな可愛いエピソードが。萌えっ。
「わたくしには治せませんが、お医者様なら完治できましたよ。塗り薬と飲み薬があったのです……ねぇ、アルベール兄さま。やっぱり転生者の募集をしましょうよ。医療の専門家がいるかもしれません」
没箱入りだった『転生者大募集!Welcome大作戦』……看板出すだけだけど。
アルベール兄さまは唸るだけで『うん』と言ってくれない。
今回も良い返事を頂けないのでしょうか。
「王女殿下、転生者を自称した詐欺が多いのですよ。適当な物や知識を売って、効果が出る前に行方をくらませる……昔からいなくなりませんな」
あら、まぁ。
「わたくしと同じ世界の転生者でしたら、いくつかの質問だけで事前に確認できますよ」
『先進国名』とか『主要動力資源』を述べよ、で済みそう。
「ふぅ、商会で企画してみるか……気は進まんが」
「損害が出ましたら、出資額を増やしても構いませんぞ」
相変わらず気前がいいですね、シブメン。
「私は詐欺などに引っかからん」
「自分は絶対に騙されないと言う人の方が、引っかかるそうですよ」
「……何か言ったか?」
おっと、藪蛇。話題をシフト。
「こほん。足痒病になってしまった人は、5本指の編み靴下を履いて、他の指にうつらないように気を付けなければいけません。理由は忘れましたが予防にもなったはずです……あ、予防……靴下…靴下……」
──しばらくお待ちください──
「……んと、竹から繊維を取り出して糸を作ることが出来ます。手間はかかりますが特別な素材です。将来、紙の大量生産のために必要な木を細かくした、えと、何て言ったっけ…「"ちっぷ"だな?」…あ、はい…「それから"ぱるぷ"だな?」…はいっ!」
木材を…この場合は竹を、カンナのように削って更に細かくしたチップを、強アルカリ液で煮る。紙の制作と同じでそこに残った繊維がパルプになります。
「竹は万能だな。成長も早いし。タケノコも旨いし。放地に植林を考えるか」
……あ、即断即決が始まりそう。
「パルプ製造の計画書は未完成だが、竹だけならいけるな。試作は……メンデルとパルバッハにやらせよう…「誰ですか?」…研究院の院生だ。今は不織布の織り機製作を任せている。ほぼ完成しているから、続けて竹炭の何だったか?…「靴の中敷きです」…それの試作も作らせればいい。次は竹のパルプ…糸紡…わからんな。取りあえずランドに回そう────で、ルエ団長」
タケノコと聞いてピクッと反応していたルエ団長に、アルベール兄さまの久しぶりの黒い微笑みが向けられた。
「騎士団で予算を組んで、アルベール商会に投資してはどうか?」
「は? 投資? 金か?」
……経費運営とか苦手そう。表情で分かります。仲間ですね。
「足痒病だけに関わらず、騎士団には衛生用品が必要だ。今後開発される不織布の製品は優先して騎士団に納めよう。販売された後の収益は定期的に還元するし、投資分を超えたら契約終了にしてもいい。継続して…「う、あ?」……いや、騎士団の医療班に話を持っていこう。打ち合わせ可能な日を後日連絡してほしい」
察したアルベール兄さま、素早くコースを変更。
「医療班長の予定は暫く空いている。王子の予定に合わせよう。俺は行かないぞ」
「(スルー)では明日午後、私が医療室に出向くとしよう。では、話題を主軸に戻そうか」
いつもながら切り替えが上手な王子さまですね。
「………」
───?
「………」
───つづきは?
「どうした、シュシューア」
「え!? わたくしですか?」
ななな何だっけ?
「……………現場作業員の装備についてだ」
──そうび? あ、装備。軍手とか……
「………ん~…さっき紙に描いた絵で、終わり?…です。他は、う~ん」
作業員と、それを通り越して空中街道を眺めてみる。
「わたくしは石の建築には詳しくありません。でも、この空中街道は数千年残るものではないですか?」
「劣化したら魔力を通して再構築すれば済むことだ。魔導士さえいれば永遠に崩れることはない」
そうですよね。
シブメンを見たら、彼も頷いていた。
「でしたら、石の建設はこちらの方がずっと進んでいます。わたくしがいた世界の空中街道は、鉄の骨組みに石灰と砂と砂利などを混ぜた素材を、型に流して固める建築方法で建てられていました。寿命は50年ほどと聞いています」
修繕ラッシュの頃の私は……ギリ存命だったかな? 無関心な所の記憶は朧気なのだ。
「50年とは短いな。石そのものの建築物はなかったのか?」
短すぎて驚いたようだ。
皆もそう思ったようで、私の答えを待っている。
「大昔のものは観光用に残っていましたが、わたくしの生きた時代はコンクリートの方が安価だったのかもしれません。でも、コンクリートに使われる砂が不足して、世界中で奪い合いが始まっていると情報記事を読んだことがあります。次の世代の建築物が気になるところですね」
砂漠の砂が使えればよかったのだろうが、残念ながらコンクリートには適していないのだそうだ。
そんな世に”砂マフィア”というものが誕生したニュース特集を見て、盛大に吹き出したのを覚えてる。
…………失礼。たまには賢く語ってみたかっただけであります。キリッ。
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