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2章 幼少期編 II
5-1.余談では済まされないマジッカー
しおりを挟む「わたくしはもう、チギラ料理人が作ったミエム料理がなければ生きていけません。はぁぁ、美味しかったぁ」
アルベール兄さまにジロリと睨まれた。
「そういう軽口を言うのは止めなさい」
はぁい……ふぅ、お腹いっぱい。満足じゃ。
本日の昼食は、ロールキャベツをミエムで煮込んでもらった。
相変わらず私はミエムを毎日欠かさず食べている。
冬の間はシブメン宅の温室からお届けがあるので、もう1年中お腹の中が真っ赤っ赤だ。
──余談ですが、シブメンは自力で伯爵になった傑物です。
それだけでも凄いことなのに、領地を持たない法衣貴族なのにもかかわらず、つまり領地収入がないにもかかわらず、中級貴族層に大邸宅を持っているのです。
伯爵邸のお庭に温室を作ってもらったのだけど、どうやらその温室……魔導空調温室IIIとか名前がついているらしい( III─って何? 謎のプロジェクトが進行している!)
……直接聞かされてはいないけど、ミネバ副会長との会話が小耳に届いちゃったのだよ。
温度だけじゃなくて湿度まで調整しちゃう!…だけじゃない。日照のコントロールまでしちゃう!…だけじゃない。植物ごとに部屋分けされている!…これは知ってたな。
そんな立派な温室は、もう植物園と言ってよいのではないでしょうか。見に行きたい!…速攻で拒否られた。面倒くさいって。いや、そこまではっきりと言ってなかったけど、顔っ!
そんな子供に優しくないシブメンは、元々カルシーニ伯爵家の長男に生まれたのだという(──余談続行中)
魔導学の研究をしたいがために家を飛び出し、一旦は平民になったとか…は、まぁらしいというか何というか……前から自由人だったんだなぁと、そこは流した。
新しい貴族家を興したのに、いつまでも家名を新しくしないから、紛らわしい勘違いをさせて周囲を混乱させていた過去とか…そこも『へぇ』で流したな。でも続きを聞いたら『えぇ?』に変化しちゃったね。
なんとシブメンは、実家であるカルシーニ伯爵家に忠義を呈して『分家』に成り下がったのである。
私でもわかるよ! 何やらかしちゃってんの?
伯爵家の分家も伯爵家。シブメンがさらに出世して(可能性大)侯爵になったとしても分家のまま。
シブメンの代わりに元祖カルシーニ伯爵家を継いだ次男さんに、シブメンがやるべき『新カルシーニ伯爵家の仕事』を丸投げしたのですよ。
普通じゃありえないとアルベール兄さまは笑っているけれど、そうだね、シブメンは普通じゃないね。全てこれ──『社交が嫌い』だからだもの。
そんな悪びれていない物言いをするから、空気が読めないヤツだとベール兄さまに言われるのです。
『全然悪いと思っていないよな』……また言われてますよ。
何かと噂が絶えないカルシーニ伯爵家の評判は、それでも良いものらしい。
伯爵家を引き受けてくれた次男さんが出来た方でよかったですね。他の弟妹達も領経陣の中心となって領を盛り立ててくれているそうですね。
『弟妹全員に一流の家庭教師を付けましたからな』……何かいい事した風に聞こえますが、押し付けるためにスキルアップさせたようにしか思えないのは、気のせいでしょうか。
カルシーニ伯爵家はシブメンからの要らない助成をガンガン受けて、仕事が増やされていると聞きましたよ。いいの? 悪いの? カルシーニ蜂蜜はたくさん欲しいから、そこはいいとしましょうか。てへっ。
──余談が長くなりました。本日の主役はミエム、いえロールキャベツでしたね。
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トマト煮込みのロールキャベツの作り方
①ハンバーグの種的なものをギュッと握って、下茹でしたキャベツで巻く。芯は叩いて潰しておきましょう。
②水+コンソメ+ローリエで煮込む。
③ほかの鍋で煮込んだカットトマト+ケチャップ+甘液+塩胡椒を入れて更に煮込む。
④バターを溶かし込んで完成です。
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コクのある洋食屋さん風ですよ。旨々でした。
とっても気分がいいのです。
むふふ、歌っちゃおうかな。
「デュワ~ン、デュワ~ン。あん、あ、あ、あん♪」
ピンクレディースの、渚のシンドバッタの歌と踊りを披露してみた。
シブメンは途中から本を読み始めた。
ベール兄さまは腹を抱えて笑った。
ルベール兄さまは会議でいない。
アルベール兄さまの額に青筋が走った。
アルベール兄さまの雷が落ちた。
アルベール兄さまの踊り禁止令が出た。
「ななな、なぜですか!?」
そして──次の日には、なぜか音楽の授業が組み込まれたのだった。
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