転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ

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2章 幼少期編 II

48.遠慮なくお姫さまをお慕い申し上げてもよろしくてよ

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──…観察中。





「……あぁ」

シブメンが帰港した。

「魔導士でもある楽士が歌うのなら、噂の対象は私ではなく君だな。よろしい、作りなさい」

なんか結論を出したシブメンは、清々した顔で背もたれに体を預けた。

歌っても良いと許可が出たのに、イマイチ喜びが足らないマガルタル楽士は「あの……?」と首をかしげてシブメンから目を離さずにいる。

「魔導士が想い人を守る歌を広めて、困るのは君だと言っている。身分違いだの、年の差だの、悲恋歌の常道ではないかね?」

あらん、そういう、こ・と♡

美しい姫君を慕う楽士の淡い恋心(姫君はまだ5歳です)…乙女の勲章になりそう(なりません)…よいではないの(よくありません)

「マガルタル楽士、熱く熱く歌ってもよろしくてよ」

「私の恋歌ではないので熱は入りません」

「そこは創作なのですから想像力を働かせましょうよ」

マガルタル楽士の顔からスゥと艶が減った……おい。

ゆっくり視線を落として私を見る。次に天井を見上げてしばらく考え込み、もう一度ゆっくりと私を見た。

「なんですかその顔は。かわいいお姫さまを素直にお慕い申しあげてよろしいのですよ」

軽く頭を振りおった! 大きなため息までつきおった! そのまま無言で楽士仲間のもとに戻って行きおった!

(紳士教育が必要な残念レベル!)

シブメンの鼻息がもれる音がした。

(残念レベルはこっちにもいた!)

「私と関係ないところでやるならば、良い娯楽になりそうだったのですが……やらないようですな」

キッ!…と睨んだが効果は皆無。ぐやじい! 早く大人になりたい! マガルタル楽士はどうでもいいけど!

「── !」

あれっ? プリッチがない!

あっ、最後の一本がシブメンの口に!


ポリン。


──手が震えた。


ポリ、ポリ。


──唇も震えた。


ポリ……ごくん。


──体がわなわなと震えだした。


「おや、早い者勝ちだと、王女殿下はいつも言っておられてはいませんでしたかな?」

笑ってくださいましたよ、このおっさんは!

「ぅう……う、うわぁぁぁん! チギラ料理人ーーーっ! シブメンが全部食べちゃったーーーっ!」

ヘルプです! レスキューです! 私のミエム棒がぁーーーっ!

はいはいはい…と、チギラ料理人はエプロンで手を拭いながら、いつものように駆けつけてくださいました。おかん~。

「…ずびぃっ、ティギリャりょ~……、シブ……ジェルドリャまろーしちょうがぁぁ」

「あ~、全部食べられちゃいましたねぇ……明日また作りますから。ほら、泣かないで」

彼は慣れた様子で私の椅子の前に膝をつくと、困ったように笑いながら私の頭をなでる。
そのまま乱れた髪を手櫛で整えてくれて、イティゴ味の飴玉を「あ~ん」と言って口の中に入れてくれた。エプロンのポケットに常備してあるのだ。私のために……もごっ、甘酸っぱい優しさが染みるぅ~。

「魔導士長、こういうことは離宮だけにしてくださいとお願いしたのに……」

シブメンはチギラ料理人からジト目を送られ、口を閉じて「そうだった」という顔を浮かべた。今さら遅いよ。

美味しい甘味を作る者に彼が弱いことを私は知っている。王宮の料理人Aと懇意にしているのもそう。シブメンと対峙したときは彼らを味方につけるといいのだ。他力本願である。それでいいのだ。

しかしチギラ料理人が言うように、これは離宮ではよくあることなのだ。
悔しいことに、私はお菓子争奪戦にもシブメンに勝ったためしがない。この人は「譲る」という事を子供の私にもしないのだ。



『子供のおやつを横取り……』

『甘党と聞いたのに……』

『塩菓子もいけたんだ……』



いきなりコミカルなメロディが流れ出した。

ちょっと!

笑い話で終わらせる気ですか?!

「うはははは」

チギラ料理人がウケちゃった。

「そうそう、そういう音楽はいくらでも作りなさい」

涼しい顔をしたシブメンは、飴玉さえチギラ料理人に要求して自分の口に放り込んでいた。

「………」

むむっ、私をイメージした曲だと思ってますね?
違うと思いますけどね。例えそうだとしても絶対捻じ曲げますけどね。
タイトルをつけてしまえばこちらのものなのです。

ええと、男の代名詞を入れればいいわよね。う~ん──……あ、ピンときちゃった! ぶはーーーっ! でもこのギャグは昭和の日本人にしかわからないかしらーーーっ?!


「もっと単純に」


傑作の命名にひとり悦に入っていたら、頭の上からアルベール兄さまの声が降って来た。

「自動演奏機で繰り返し流せるよう、短く」

ミネバ副会長もいた。

「子供が無意識に口ずさむような」

コミカルなメロディーを奏でていた楽士の顔が、仕事モードに切り替わった。

「その曲を聞いたら移動販売車が来たとわかるような」

──…移動販売車! 

「今の曲は氷菓子用に使えるな」

──…アイスキャンディー屋さん?!

アルベール商会の二人が出す指示に、楽士たちは次々と答えていく。

ここで口を出すと叱られるので、私は黙ってグッと我慢だ。



以前ルベール兄さまに連れて行ってもらったフードコートを思い出す。

テイクアウトが出来るということもあって客層も何もなく、常に雑多な行列をなしてした商品館の1階。
兄が笑いながら言っていた「暴動が起きそう」という冗談は、実はその通りで、行列客の中にトラブルを起こすやからがちらほらと出始めてきているそうなのだ。

そうなるであろうことを予測していたアルベール商会は、フランチャイズに乗り出す企画をずっと練っていたのだが、店舗はやめて屋台運営に舵を切ったらしい。まぁ、その方が早いですものね。

──…もしかして客寄せの音楽案は「石焼きいもの歌」「ラーメン屋台のチャルメラ」「ホットドックの大○堂の歌」からきてる? ウハハ。

人力屋台の企画書(…の絵だけ)はチラッと見たことがある。
私がずっと前に描いたポップコーンワゴンもどきが、素敵にお洒落にデザインされていたのだ。
その横に描かれていた販売員は、トラブル回避のために男性一択だった。
制服は絶対に私服に見えない強烈なストライプ柄。屋台と同じ色だから間違いなく店員に見えるはず。

──…あのポップワゴンに軽快な音楽。いいなぁ、食べに行きたいなぁ……あ、曲が完成したみたい。

ポン、ポポン、ポーン、ポポポーン……♪

うんうん、いい感じ、耳に残るよ。

商品販売に音楽を使う企画は、以前から楽師たちに伝えられていた。
自動演奏機と呼ばれるオルゴールも、手回しオルガンも、完成品が楽士たちの手元にある。
全てを心得ているプロ集団ですものね。さすが仕事が早い……でも、タイトルは私が付けますからね。誰か言い出す前に……そろそろしゃべってもいいかな。

「もう口を開いてもいいぞ」

ジレジレしている私の頭に、アルベール兄さまの手がポンと乗った。

「〈食いしん坊将軍〉です! 曲の題名も移動販売車も〈食いしん坊将軍〉です!〈食いしん坊将軍〉が来たーって、お客さんが群がるのです!」

よし言った! 言ったもの勝ちです!

〈食いしん坊将軍=シブメン〉のエピソードは……後でいいか。

「ほぅ……」

アルベール兄さまが一考の顔を見せた。

──…おっ、まんざらでもない様子。むふふ。

「会長、確かに印象に残る店名ですが、ひとりで決めないでくださいね」

ミネバ副会長の邪魔が入った。

「う~む」

迷っている王子。


※……が、企画段階で現役の将軍からクレームが来て、あえなく没箱行きの未来が待っている。


「アルベール兄上! ルエ団長が待ちくたびれてるぞ!」

ベール兄さまもやってきた。

「あぁ、そうだった。シュシューアを呼びに来たのだった。卿も一緒に来てくれ」

私とシブメンに用事?

目線で問おうとしたら、アルベール兄さまはもう背を向けて入口に向かっていた。

代わりにベール兄さまに首をかしげて見せると、トトッと近づいてきて私の耳元でこそっと教えてくれた。





「………ピンクが出たんだ」

















───────…へ?







………………………………………………
どうでもいい設定………………
使われていない時のシブメンのMy椅子は、練習室の楽器置き場に片づけてあります。
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