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1章 幼少期編 I
18-2.お芋 2
しおりを挟む残りのお芋も蒸かし終えて全員にじっくりと味わってもらい、小腹が満たされた後の感想はおおむね良好だった。
もちろん、厨房にいるふたりにも意見を聞いてみた。
ランド職人長は何の抵抗もなくパクついて『旨いですね~』としか言わなかったから、あまり参考にはならなかった。
チギラ料理人は、丸い芋のみ、赤い芋のみを口に運び、料理人らしくしっかりと味の確認をしたあと、私の言った作法を守って『じゃがバター』を食べた。
ため息とは違う大きな息をつき、彼も『旨いです』としか言わなかった……もう。
☆…☆…☆…☆…☆
「よしっ、黄ヤギだな。確保してあるからいけるぞ。ミネバ、バターの特許申請の準備を頼む。商業ギルドの試食はアルベノールでいいな。焼きたてのパンに添えて出そう。チギラ、厨房の器具を本格的にそろえろ。シュシューア、バターを使った料理をいくつかチギラに伝えるように」
出た。即断即決。
「アルベールにいさま。バターのことより、おイモのことを、きめてください」
これはお芋の試食会なのです。
「あ~、家畜の餌のままでは広められないのだ。ルベール、お前から説明してやってくれ」
託されたルベール兄さまは一度私の顔を見て、どう説明するか頭の中でまとめるように目を閉じた。そして首をかしげながら目を開けると外の畑に視線を移す……難しい話しかな?
「あのね。赤いお花と青いお花が結婚すると、紫のきれいなお花が生まれたりするのだけど、それを品種改良というんだ。お芋でも同じ事をしてから食べてもらうんだよ」
「ヒンシュカイリョウ……わかります。おいもを、もっとおおきくして、おいしくするのですね」
「今のままでも美味しいけれど、家畜の餌の芋のままだと、みんな嫌がると思うんだ。だから、ちょっと品種改良して新しい野菜の名前で登録するんだよ。以前にマナロという実を品種改良したら人気が出たから、今回もきっとそうなるはずだ」
マナロの実は甘酸っぱくて美味しいのだが、毒々しい色のせいで魔物の化身と言われて忌避されているらしい。それを品種改良して色味を変えたのがシプードだ。自分が好きな果物の話題に、ベール兄さまがドヤ顔で教えてくれた。
「どのくらいで、ひんしゅかいりょう、できるのですか?」
早くしないと北方の大飢饉に間に合わなくなっちゃう。
「植物成長の補助魔法を使えば結果は早く出るよ。薬草課の主な仕事だね」
植物成長? 成長……補助……まほう……
サーリちゃんがマハリークしちゃうアレか!!
魔導士って魔法が使えたのか。
厄払いする神主さんみたいなことする人たちだと思ってたよ。
「しょくぶつせいちょうのまほうで、だいほうさくに、なる?」
「残念。作用はごく狭い範囲だけなんだ」
「あ~ん、そんなぁ」
そりゃそうかぁ~。
じゃなきゃ飢饉なんておきないものな~。
「そういうことだから、シュシューア、芋の件はもうしばらく待ちなさい。まずは家畜甘液を完成させてからだ」
「アルベールにいさま……」
家畜甘液とはあんまりな。
「薬用の甘液として完全提供する代わりに、商会が薬草課の協力を得られるよう契約を進めるつもりだ。芋の品種改良だけではないぞ。保温魔導具も使えるようにしてやる。他にも使えそうな備品があったら、遠慮などせずに借りてしまえ」
あぁ、黒い黒い。
「アルベールにいさま。あと、れいぞうこはどうなりましたか? ベールにいさまが、シャーベットをまっています。それから、ゼルドラまどうしちょうの、はちみつは?」
ベール兄さまがシャーベットの言葉に反応して『よく言った!』と可愛い顔をしている。
「ふっ。その魔導士長が自作の魔導冷蔵庫を作っている最中だ。しばし待て」
まぁ! シブメン! イケメン!
「では、ゼルドラまどうしちょうのために、ゼルドラまどうしちょうがもってきたはちみつで、とっておきのおかしをつくって、おれいをしましょう」
「シュシュ~、僕のは~?」
「あ、ルベールにいさま。そうでしたね。え~と、あしたのしょくざいは、なにがとどくのですか?」
誰ともなく聞いてみる。
「明日も芋が届きますよ。どんな種類かはわかりませんが」
こういうことはミネバ副会長に聞けばいいのね。
「調理で必要なものがあれば、これからは直接チギラに言って揃えさせてください。報告はチギラから受け取りますので、ご自由にどうぞ」
自由に? いいの?
アルベール兄さまを見たら頷いてくれた。
王宮の厨房でやらせてもらえなかったアレコレを、離宮の厨房で全部やらせてもらえる!
バンザーーーイ!と両手を上げたら、お行儀の注意をルベール兄さまから受けたけれど、今だけは許してほしい。
だって、日本にいたら当たり前にあった味を、異世界でも味わうことができるのだ。
王族に生まれて良かった! お金持ちの兄がいて良かった! 大感謝!
「それでは、あしたも、あたらしいちょうみりょうを、つくります! チギラりょうりにん、メモのごよういは……」
あれ、いない。
「なんですか?」
呼ばれたと思って、チギラ料理人が厨房から顔を出した。
「あしたも、ぜったい、きてくださいね」
「あ、はい。何か持ってくる物はありますか?」
「たくさん!」
またやっちゃった。全員にスルーされたけど。
「私から後で書いたものを渡す。今は片づけを優先してくれ」
ミネバ副会長は再度筆記用具を手元に引き寄せ、慣れた様子で指示を出す。
チギラ料理人の方もまた「了解です」とノーマルモードな感じで引っ込んだ。
──…ふむ、上司と部下か。
前世の部下の顔が浮かんだ。
アルベール商会に関わってからというもの、よく彼を思い出すようになった。
いきなり死んじゃったからな~、残された仕事を片付けるのは大変だったろうな~。けどヤツのことだ。そつなくこなしたに違いない。
記憶持ったまま転生してこないかなぁ、佐藤くん。いや、死ねという意味ではなく……
──…あれ? もしかしてフラグ立てちゃった?……なんつって。
「シュシュ、戻ってこい!」
「いだっ!」
いつの間にか私の横に立っていたベール兄さまに、デコピンを貰ったようだ。
「俺は授業があるからもう行く。明日も旨いのがあるなら来るから、俺も人数に入れておけ」
「ルベールに~はまのためにぃ、つくるのでぇ、きょかをもあってくらさ~い」
私の鼻の頭はぐいぐい押されてブタにされている。
最近のベール兄さまの新しい遊びである。
『うきき』と笑うちい兄の顔が滅茶苦茶可愛いので、私も喉の奥を「うくっ」と鳴らしながら毎度萌えるのだった。
「ふふふ、明日は僕が付添人をするから、昼食はここで済ませようかな。ベールもおいで」
私に甘いルベール兄さまは、実は弟のことも可愛くてしょうがないことを私は知っている。
やったー!と、自分の分を確保できたとわかったとたん、ベール兄さまはミサイルのような速さで食堂を飛び出して行った。また、授業を抜け出してきていたらしい。
「明日は商会の仕事で、私とミネバは来ることが出来ない。シュシューア……」
事務的に言っているけれど、新しい味が気になる様子のアルベール兄さまであった…が、だが、しかし……
「れいぞうこがないと、とっておけません」
ストップ食中毒!
これは譲れないのだ。
明日は特に生卵を使うつもりなので、食の安全を全力で守っておきたいのだ。
「ミネバふくかいちょう、あしたひつようなものは……」
この先がちょっと長くなってしまったのは仕方がない。
なにしろ食材の名前がサクッと出てこないのだもの。
お約束のマヨネーズを作るには、あと何が必要だったかな~?
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