ヘタレ女の料理帖

津崎鈴子

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嵐は突然やってくる5

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準備を初めて2か月。

いよいよ、準備していたちびっこ商店街が始まる。
ワークショップは空き店舗と手を挙げてくれたお店の店頭で開催するといろんなところで随時開催して、参加自由だけどチケットを買ってもらう方式になった。それぞれでやるとお金の管理やおつりが大変だからってことだった。チケットをどうやって作ろう、と思っていたら文房具屋のブンさんが、ミシン目を付けるカッターがあるからそれを使うといいよ、と提案してくれた。確かに便利。こんなものあるんだね!

商店街のご隠居さんたちも男女問わずボランティアで参加してくれる。
一番頭を悩ませたのは事故がないようにと警備をどうするかと怪我をしたり急病の時の救護のスタッフだったけど、救護は近所の内科の大先生が引き受けてくれることになり、警備は、これも子供たちの体験メニューに組み込むことにして、近くの空手道場や柔道場の先生たちが引き受けてくれることになった。助かった。これもボランティアらしい。
打ち合わせが着々と進められていると、商店街の事務所にエミさんが、とんでもない人を連れてきた。

「みんな、明日のお祭りなんだけどね、テレビ局の知り合いが取材したいって」

知り合い、というおじさんが名刺を出しだした。ローカルニュースの番組を担当しているという。

「楽しそうなお祭りがあるっていうのでぜひ取材させてほしいんです2,3分のコーナーなんですが」

なんか大掛かりになってきたなぁ。実行委員長のマサキさんとタカシさんがぜひ、と二つ返事で了解する。

なんか、テレビが来るってことで実行委員の人たちがすごく張り切っている。

祭りの途中でインタビューさせていただきますので、と打ち合わせをして準備は完了した。

みんなが頑張って作り上げてきたお祭りが、無事に成功するといいんだけど。


☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・

 子供向けっていうのに、やけに本格的になった職業体験だったけど、やっぱりケーキ屋さんやパン屋さんに人気が集中する。抽選で参加する人たちを厳選していくけどこれも喜ぶ顔、外れて悔しい顔、それぞれの子供たちの個性がすごくはっきりする。

リカちゃんは花屋さんで、サトル君は警備の見回りに参加するらしい。
ヘルメットがカッコよかったんだって。すごくワクワクしている。

意外というか、考えてみれば当たり前なんだけど、子供たちの雄姿をカメラに収めようとそれぞれの親や祖父母など、すごい人数が商店街にやってきて、いつにない賑わいを見せていた。

パン屋さんでの体験で作ったちびっこサンドイッチの売り上げはすさまじく、我先に買っていくジジババ達。懸命に働く子供たちの様子に歓喜のご様子だった。

おかげで商店街の喫茶店や飲食店は満席続きで嬉しい悲鳴なのだそうだ。

そして、ローカルニュースのカメラマンとレポーター、ディレクターさんが挨拶にやってきて、マサキさんとタカシさんを取材している。

中々の好青年っぷりだな、とのんきに見ていると、マサキさんがこちらを指さして何か言ってる。
するとレポーターがマイクを持って私に話しかけてきた。

「この企画の発案者のユキさんですね、ひと言お願いします」
カメラを向けられてちょっと赤面してしまった。うわっ。さっきから走り回って化粧なんか落ちてるよ。
放送に耐えられない顔になってるかも、ぜひモザイクでお願いします。

「色んな人の協力と努力で実現したので感謝の気持ちでいっぱいです」

とガチガチに固まりながらいってたら、カメラの傍でマサキさんがにっこり笑って親指を立てていた。少し、緊張が解けて笑顔になる私。
カメラが離れたすきにマサキさんが寄ってきて「おつかれさん」
と頭をポンポン叩いてねぎらってくれた。見られてないと思っていたその様子は、カメラに
偶然収められていて、ニュースの映像に映っていたらしい。後日いろんな人に冷やかされる羽目になった。恥ずかしい……

☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・

テレビカメラが撤収し、ちびっこ商店街も大盛況のうちに終わり、お疲れ様会を商店街の憩いの広場で繰り広げていると、酒瓶を片手に酒屋のシゲさんがやってきた。

「お嬢ちゃん、なかなか楽しい催しだったじゃないか」

明日雨かな?幻聴でなければ、シゲさんが私を褒めてる気がする。

「うちのばあさんがな、久々に楽しそうにしてたんだよ。子供らに囲まれて手芸を教えてた」

しみじみという。そして、持っていたプラカップを押し付けて、お酌をし始めた。

「おっとっとっと」

「みんな、楽しそうだったよ。ありがとな」

酒臭い息でシゲさんは笑った。私も受けたプラカップを掲げて、一口いただく。

おお!!これはすごくスッキリして飲みやすい!!!

「口にあったか? それは酒蔵とっときの大吟醸だよ。市場には出ねえ特別な酒だ、味わえ。こんないい酒めったに飲めねえぞ?」

そういって笑っていた。

「ありがとうございます」

「また、若いのに力貸してやってくれや」

そういって酔っぱらいは去っていく。

シゲさんが離れたとき、そっとマサキさんが傍に来た。

「シゲさんになんか言われてたの?」

マサキさんも少し酔ってるみたいで顔がほんのり赤い。

「大丈夫。なんか、祭りが成功したの嬉しかったって」

「そっか。あの人誰よりも商店街に尽くしていたからな」

「だろうね。そんなかんじだったよ」

日が落ちると、冷え込みがきつい。花冷えってやつかな。お酒で身体が温まる。

「ねえ、また手伝ってくれる?」

マサキさんが優しく甘えてくる。うわっ大人の甘える仕草、破壊力半端ないっす。どきどき。

「ええ、私でよければ……」と返事したところで後ろから思いがけない衝撃が。

思わず手に持っていたプラカップの中身が飛んだ。さよなら私の大吟醸!!

「やっと見つけた!!!!」

タックルしてきた人物に、思わず私は固まった。

「何でここにいるのよ!!」

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