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最終章 ~夢からの脱出~

#32.ラストゲーム ~敗北~

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 私は思う…

 現状を察するにナイフを持って襲いかからん勢いだが何故
 何もしてこないのか…これも観察の一環なのか?
 とりあえず起き上がらないと…

 私は立ち上がろうとしたが足に激痛を感じた…
 どうやら足を挫いたようだ…即座に行動にうつせない

 床に座り込んだ状態で這いつくばりながら《那由他》に向った…
 男は静止したまま私を見ている…

『あなたの目的は何?殺すなら殺せばいいじゃない、そのナイフで』

 半ば挑発する様な言動で男を観察する…
 やはり追ってこないし襲って来る気配もない…

 私は挑発を続けながら《那由他》すり寄っていった…
 目的は《那由他》ではなく他にあった

『答えましょう私はウイルスなんですよ♪貴女限定に猛威を振るう』
『まさか私が動かないの良い事に勝った!とか思ってませんよね?』

 私は《那由他》の目の前までの移動に成功した

『別に動けない訳ではなく…動かなかっただけです観察の為にね』
『もはや既に記憶が無い状況でしょうが私と会ってましてねぇ』
『私が近付く法則なんて模索してたんですよ…滑稽でしたがね』
『正直その法則に何の意味も無かったのです。ほらこんな風に』

 次の瞬間、目の前に男がしゃがんでいた

『この美しいナイフで全て削って終わらせてもいいのですが…』
『両目をくり抜いたらどうでしょう?虹彩認証は不可能ですね』
『まぁ心臓一突きって決めてますけど』
『まぁ最後なので貴女の寿命20:25丁度まで観察を続けましょう』

 そういう事か…結局、私死ぬんだ…
 だから20:25以降の記憶が無かったのか…

 現在20:25

 27年間鼓動した私の心臓は
 見た事も無い様な美しいナイフによって貫かれた…

『私はウイルス』だと言う岸根の目的は私の
【死】と言う結末で達成された

 *:・゚✧*:・゚✧ *:・゚✧*:・゚✧ *:・゚✧*:・゚✧

 私はこの先の未来を知る術を絶たれた…しかし
【目的達成】という意味では私の方が岸根より先に達成していた…

 私の目的は《那由他》の入り口で岸根を挑発する事ではなく
 《那由他》に入る事でもなかったのだ…

 仮に《那由他》への入室が成功してたとして再起動には
 数段階の手順があり、それを岸根が黙って見過ごす事は無いはず…

 挑発は単なる時間稼ぎだった

 私は自分のデスクに接触し転倒した際その衝撃で床に落ちた
 タブレットを見逃さなかった…遠隔操作での再起動…

 《那由他》への直接入力での再起動より少々手順は増えるが
 遠隔でも再起動は可能だった…その為の時間稼ぎが目的達成へと導いた

 結果、私の死と引き換えに目的は達成された…心残りは岸根の
 悔しがる顔が見れない事と再起動の果てに何が起こるのか?
 それを見届けられない事が心残りだった

 一体、全ては何の為に……

 間もなくして私の未来は闇に包まれ
 削り取られた私の過去も闇に飲まれた

 私の27年間の想い出はもう…0.1秒すら存在しない

 あぁ…今度生まれ変わったら…

 私の不可思議な人生は20:25にて終了した…


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