286 / 708
可哀想な発明課
しおりを挟む
『本日昼過ぎに全員集合』と告げられた時から嫌な予感はしていた。シフト制が採用された完全週休二日制は今まで破られたことはない。しかしそれが今日、破られた。今日休みの者がいたが領主命令と言われ、出勤になったのだ。
職員達は思った。“領主様が泣き暮らし、王妃様が来られた今、この時期に集合がかけられた……録な事がないぞ。”
領主に対して甚だしい事だが、間違ってる訳ではない。どちらかと言えば合ってる。
「皆さんに集まっていただいたのは他でもありません。緊急性が非常に高い事です。ですが今日は別として完成まで休み返上とか残業を強いる事もありません。疲れは集中力を乱し閃きを無くしますからね。集中力の乱れは事故にも繋がりかねませんから、決して無理の無い範囲で進めて下さい。」
このような注意をしたあと本題の説明がされた。この説明が進むにつれ真剣な領主に対して開発者達にはなんともいえない生暖かい笑顔が広がっていった。
「(シモンがグリフウッドに行くと言った経緯)……という訳で、非常に差し迫った事態です!そこで僕は思いつきました。皆さんも母様が此方によく来てる事は知ってますね?」
……嫌な予感が開発者達を襲う。チラチラと横の者同士で視線を交わし、“どうする…親バカを拗らせて厄介な事になりそうだ。”となんとかこれ以上厄介な事を言わせまいと次々に慰めの言葉を言う。
「親なら心配してしまうでしょうが、シモン様なら大丈夫ですよ。」
「そうですよ、シモン様ならお年のわりにしっかりしてらっしゃいます。」
「いや、流石はノエル様のお子ですなぁ。」
「彼方にはアーノルド様もいらっしゃるのです。安心して大丈夫ですよ。」
口々に言われ、うん。うん。と頷くノエルに一同はちょっと気を抜いた。Ωは周りに流されやすい性質を持っているからだ。
「……皆さん、ありがとう。やっぱりシモンの事も見ていてくれてたんですね。うん。安心しました。だから皆さんにコレを作ってもらいたいのです。」
うっすらと涙を浮かべて安心したと笑うノエルに対して発明課一同は“え?”という表情で固まった。
隣同士でまた視線が飛び会う。今の流れなら安心したノエルは当初の目的を忘れるか無くても良いと考え、発明課を去っていくと思われていたからだ。
でもそこはノエル。ΩなのにΩじゃない。発明課の者達はすっかり忘れていたらしいがこの領のなかで一番忘れてはいけない事だった。
壁に紙を次々と張っていく。
「この気球を元に考えて下さい。プロペラや船の舵のような物をつけて思う方向に素早く、風向きの関係なく進むために飛行船を作れませんか?」
発明課の者達は考えた……飛行船の設計の事ではなく、“シモン様がグリフウッドに行く事からの流れだとこの人は自分で操縦して好きなときに子供に会いにかってに行くつもりだ。” そして、作り上げてしまった場合、面倒が増えるばかりか下手をすれば首が飛びかねないと結論した。
……では、どうやってこの目の前の異様に希望に充ちた人にダメだと言えばいい?そして皆が皆、人に押しつけあっていた。
職員達は思った。“領主様が泣き暮らし、王妃様が来られた今、この時期に集合がかけられた……録な事がないぞ。”
領主に対して甚だしい事だが、間違ってる訳ではない。どちらかと言えば合ってる。
「皆さんに集まっていただいたのは他でもありません。緊急性が非常に高い事です。ですが今日は別として完成まで休み返上とか残業を強いる事もありません。疲れは集中力を乱し閃きを無くしますからね。集中力の乱れは事故にも繋がりかねませんから、決して無理の無い範囲で進めて下さい。」
このような注意をしたあと本題の説明がされた。この説明が進むにつれ真剣な領主に対して開発者達にはなんともいえない生暖かい笑顔が広がっていった。
「(シモンがグリフウッドに行くと言った経緯)……という訳で、非常に差し迫った事態です!そこで僕は思いつきました。皆さんも母様が此方によく来てる事は知ってますね?」
……嫌な予感が開発者達を襲う。チラチラと横の者同士で視線を交わし、“どうする…親バカを拗らせて厄介な事になりそうだ。”となんとかこれ以上厄介な事を言わせまいと次々に慰めの言葉を言う。
「親なら心配してしまうでしょうが、シモン様なら大丈夫ですよ。」
「そうですよ、シモン様ならお年のわりにしっかりしてらっしゃいます。」
「いや、流石はノエル様のお子ですなぁ。」
「彼方にはアーノルド様もいらっしゃるのです。安心して大丈夫ですよ。」
口々に言われ、うん。うん。と頷くノエルに一同はちょっと気を抜いた。Ωは周りに流されやすい性質を持っているからだ。
「……皆さん、ありがとう。やっぱりシモンの事も見ていてくれてたんですね。うん。安心しました。だから皆さんにコレを作ってもらいたいのです。」
うっすらと涙を浮かべて安心したと笑うノエルに対して発明課一同は“え?”という表情で固まった。
隣同士でまた視線が飛び会う。今の流れなら安心したノエルは当初の目的を忘れるか無くても良いと考え、発明課を去っていくと思われていたからだ。
でもそこはノエル。ΩなのにΩじゃない。発明課の者達はすっかり忘れていたらしいがこの領のなかで一番忘れてはいけない事だった。
壁に紙を次々と張っていく。
「この気球を元に考えて下さい。プロペラや船の舵のような物をつけて思う方向に素早く、風向きの関係なく進むために飛行船を作れませんか?」
発明課の者達は考えた……飛行船の設計の事ではなく、“シモン様がグリフウッドに行く事からの流れだとこの人は自分で操縦して好きなときに子供に会いにかってに行くつもりだ。” そして、作り上げてしまった場合、面倒が増えるばかりか下手をすれば首が飛びかねないと結論した。
……では、どうやってこの目の前の異様に希望に充ちた人にダメだと言えばいい?そして皆が皆、人に押しつけあっていた。
72
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる