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3. 妖精王の宮殿と新たな指輪

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 馬車を降りるとそこには急造したような如何にも安普請の2階建て住宅で屋根には雪が少し残る
 その前には「妖精王さまの宮殿」と大書した場違いな看板が立ち、妖精と王冠を組み合わせた旗が高々と掲揚されている

 家の正面には石垣に似せた薄いタイルが張りつけられ、大きな門がペンキで描いてあったが本当の入口は片隅にある小さな木戸だった
 トランプのような制服を着た門衛に招待状を見せ狭い木戸をくぐるが途中でお尻が引っかかり抜けなくなる
 案内の女の子に引っ張ってもらいようやく脱出したが彼女に鈍臭いと笑われる、本当は隠しポケットに武器をたくさん仕込んでいたせいなのに悔しい

 門を抜けると広い厨房だった、ポップコーンマシーンから溢れる出来立てのポップコーン、型抜きされては焼かれる香ばしいクッキー、ホールケーキの山に各種の菓子パン、そこは甘い匂いの溢れる天国
 彼女は平然とつまみ食いしながら私を案内する
 やっと立派な廊下に出たがたくさんの部屋が並び先が見えない、安普請の2階建てにしては明らかに広さがおかしい、魔法で内部を拡張してあるにしても広すぎる

 それから大分歩いて「妖精王さまの玉座の間」と書いた部屋についた、また正面の大きな扉ではなく右端にある小さな扉をくぐる
 すると歓迎のアーチがありゴールデンボールの紐が引かれボールが割れて紙吹雪が舞い
 「ようこそ指輪の姫さま」と書いた幟旗が落ちて来て、端が私の額に当たりたんこぶをこしらえた

 私はびっくりして目まいを起こしそのまま座り込んだために大騒ぎになり、医務室へ担ぎ込まれ治癒魔法をかけられて念のためオデコに絆創膏を貼られた
 そのまま元の玉座の間にもどると、待ちくたびれた妖精王オリバーが玉座から円筒の筒を投げつけて来たのでハッシと受け止めて中を見ると長年の友情に感謝すると記された表彰状か入っている
 オリバーは懲りずに再びピッチャーみたいに足を振り上げ手を大きく振りかぶって小さな箱を投げつけて来やがるので
 服のポケットからキャッチャーミットを取り出してバシッと余裕をもって受け取り箱を開けてみると中身は指輪だった

「会ったこともないあんたから表彰される覚えはないし、この指輪を受け取れば結婚しなければならなくなるから表彰状も指輪も返すわ~!」

「分かった、本当はそのつもりだったけれど、君が嫌なら両方とも再会の記念品として受け取って欲しい~!」

 偉い人には直答や人を介さない物の受け渡しをしてはいけないが
 この部屋にいた人たちがほとんどいなくなってしまったので妖精王も感謝状や指輪を投げてよこし、私も仕方なく友達口調で話しかけてしまう
 後で事情を詳しく話すから控え室で会おうと言われさっさと部屋を出ようとしたら
 衛兵が両脇から押さえ付けて控え室まで連行され問答無用で椅子に縛り付けられてしまった。

 腹が立ち少しだけ自由になる足を支えに椅子を持ち上げて移動しようとしたら
 バランスを崩し扉に激突して扉が開いてしまい、廊下に椅子ごと投げ出されて藻掻いていたら、黒服の侍従が椅子を私ごと持ち上げて部屋の中に戻してくれる
 扉を黒服の侍従が丁寧に閉め拘束を解いてくれると、目の前に私を嗤う妖精王がいたので殴ってやろうとしたら
 後ろから侍従に肩を押さえられ動けなくなり、そのまま頭を撫でられるとたちまち怒りが収まる、黒服侍従はアンガーマネジメントの天才らしい。

(続く)
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