宿題の先とあなたの人生

未月

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一章

あなたとの出会い

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   衣替えも中間テストも終わったあとの教室。みんなテストあとのせいで少しだらけた雰囲気を感じ取れる。当たり前だと思う。だって、一学期の最初のテストでこの一年間の自身のテストの順位はほぼ決まるに等しいからみんな必死だったのだ。それにこの授業は先生も注意をしないので教室にいる生徒の三分の一は夢の世界にいるだろう。
   私はもう高校ニ年生、進路を考えなくてはいけない時期のはずなのに何も思いつかない。クラスメイト達も焦りの声をあげては会話のネタにするくらいで何も調べようとはしないしきっとみんなもそうだ。もちろんちゃんと考えてる人もいるだろう。
  私だって四月の頃は自分のしたいことが出来そうな大学を調べたりしたがあまりしっくりこないし、そもそも自分のしたいことを職業にできるなんて思ってない。そうなってしまえばもう考える気力なんてなくなってしまうのだ。
   ……最終手段として先生がおすすめの大学でも教えてくれるだろうと適当に今を過ごしている。
   私の唯一の取り柄は「普通」なこと。成績は普通で運動も平均的。先生からの評価も普通。それすらほっぽり出してもうグレてやろうかと思ったりもする。もうそれくらいには気持ちが限界だ。でも反抗して怒られたら怖いから、だからずっと普通なままだ。ただ少し…疲れた。漠然と疲れた。こんなことに労力を使うべきじゃないはずなのに。
   どこか休める場所が欲しい。家じゃお母さんとお父さんがいるから1人になれないしないし。どこだろう一人になれる場所って…。
   放課後の美術室ならいいんじゃないか。私は美術部員だし、先生になにか言われたら「絵を描こうと思いました。」と言えばきっと怒られない。それに今日は部活動がある日じゃないから誰もいないはずだ。

「はい、じゃあ五十二ページの三行目から蒼井さん音読して下さい。」
 今日行ってみよう。それで心を休めよう。ちょっと休めばきっとちゃんと進路について向き合えるはずだ。向き合えなかったとしても気持ちは楽になるはず…だ。
「蒼井さん?」
「あ、はい!」

 クラスで少し笑いが起きる。ちょっと…いや大分恥ずかしい。授業中に考え事なんてするんじゃ無かった。



   七限まで授業が終わってHRも終わった。未所属の子はそのまま帰るし、運動部の子はグラウンドに行く。寄り道をしようなんて会話も聞こえてほんの少し羨ましく感じるけど、今日は美術室で精神統一するって決めたから。私は荷物を持って目的地に向かう。
  美術室に着けば鍵は空いていて、やっぱり誰もいなかった。適当な席に座って机に寝そべって目を閉じる。私がしたいことはなんなのか。何を目指したいのか。それをちゃんと思い出す。
  小さい頃から絵が好きだった。だから美術部に入ったけど未だ受賞したことはないので絵に関係する職業は無しだな。なりたかったけど。それじゃあなんだろう?OL?名前は聞いた事あるけど一体何をするのか正直よくわかってない。次は…教師?誰かに物事を教えるなんて私に出来るのかな。向いてなさそうだなぁ。あとは何が…

「おやや~!そこに寝てるの子は二年生の蒼井奏《あおい  かなで》ちゃんじゃないですか~!今日は部活動ないぞ~。」
私は驚いて上半身を起こして後ろを振り返る。すると扉にもたれかかって話しかけてきた美術部長だ。
「朝陽《あさひ》先輩。驚かさないで下さいよ。」
「いや~ごめんね~!びっくりしちゃって!だって部活動がないのに生徒がいる!と思ったら奏ちゃんなんだもん。意外の意外よ。それでどうしたのさ?こんな場所にひとりで。」
先輩が私の前の席の椅子に座る。
「えっと…特に何も。ただ一人になりたいなって…。」
半分は合っているだって三年の先輩に進路で悩んで一人になりたいだなんて言えるわけが無い。絶対に先輩の方が大変なんだから。
「今飲み込んだでしょ、自分の悩み事。いいんだよアタシのこと気にしなくて。こちとら成績優秀よ?君の悩み事なんてすぐに解決してあげるから。」
確かに朝陽先輩は、成績優秀で運動神経抜群でモテる。という本当に漫画から出てきたんじゃないかと思うぐらい完璧な人だ。その上部長ときた。…少しぐらいなら相談してもいいよね。…我ながら自分に甘いな。
「えっと…進路に迷っちゃって。自分がしたいことはあるんですけど、それを職業にするのは厳しいかなって思ってて。」
「あれま。進路の悩みときたか。正直文系理系で選べばいいと思うよ。あとは偏差値とか。高校でしたいこと決めるのもいいけど、大学に行って猶予を作るのもいいんじゃないかなってアタシは思うよ。」
「ん~…でもなんかそれじゃあしっくりこなくて…。相談にのってもらっているのにごめんなさい。」
「いいよいいよぜーんぜん(笑)。そうだなぁ…ねぇ一学期の期末テストまであとどんくらいある?」
「え?最近中間テストが終わったのであと一ヶ月くらいじゃないですね。」
「一ヶ月か。奏ちゃんだから多分二週間前くらいから勉強しだすでしょ?ねぇこれから一週間アタシに奏ちゃんの時間くれない?そしたら絶対後悔させないくらいいい決断出来るようにしてあげる!」
朝陽先輩は私の方に右手を差し出してくれた
「へ?…それじゃあお願いします?」
私はその手に自身の手を乗せた。
「よしきた!それじゃあ明日のお昼休みお弁当持ってここに集合ね!」
…だいぶ急だな。
「…はい分かりました。」
私は笑顔を取り繕って返事を返す。

  その後、少し気まずくて私の方から美術室をあとにした。まぁ先に入ったんだから先に出るのは別に変じゃないだろう。これから先輩と一週間一緒にいるのか、疲れるだろうな。
  そもそも私と先輩では生きている世界が違うのだ。運動も勉強も出来てコミュ力も高くて友達も多い先輩と、運動は人並みで勉強は普通。友達は数える程度しかいない私。そして何よりも絵だ。先輩は絵のコンクールがあると毎回入賞するし最優秀をとることだってある。なのに私は一度も入賞したことが無い。先輩はそれを自慢げにしないからきっと人気があるんだろうなぁ。
  帰りの連絡を親に入れてから電車に乗り込む。このまま誰も知らない場所へ行ってみたいなんて思う。こんなに恵まれているのに。人間は貪欲だな。そんな事を考えてればもう最寄り駅に着く。明日の予定を忘れないよう私は電車から降りる。

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