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俺の学園生活、そして趣味
体育祭、当日
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「おう。起きたか。」
「ん~?」
朝、マンションの寝室からリビングに移動したら、すでに起きて身支度まで準備を済ませていた碧が、お弁当まで用意していた。
「体育祭って学園時代に過ごせなかった人のために。
保護者とか配偶者とか友人とか、招待していいんだろ?」
「ああ、そうそう。家族とか身内とか呼んでいいやつな。」
何しろ定時制学園になると来る人の層も幅広いため、体育祭の見学に招待していい相手の層も幅広かった。関係者なら友人でもいいのは、学園生の数が少なく、社会人が多いから警備も確認がしやすいのだろう。そして一応、警備員と教員に武道や格闘技の心得がある人とかもいる。
「沙幹の分の朝ごはんもあるから、それ食ったら行こうぜ。」
「おお~、いつも悪いな。」
「いいよ。俺も定時制の学園の体育祭に行けるから。
カメラとかビデオとか。資料収集やれるし。
お前が学費払ってくれているからだからな。
ここまで来たら卒業まで面倒見るぜ。そんで資料作らせてくれ。」
「そだな。」
改めて思ったらお互いの関係に損得をなるべく減らそうとしてくれている碧の計らいもあったのだろう。何か説明っぽい気もしたが。俺は碧の作ってくれた朝ごはんを食べると、二人で体育祭に向かう事にした。
・・・・・。
ワアアア……ガヤガヤガヤ。
「へー。体育祭って言っても、場所は借りた市民体育館なんだな。」
「規模小さいし、運動の規模もそういうのでいいんだろ。」
「そうだなー。」
何しろイベントそのものの体験が理由となっているため、集まる年齢層や体力に合わせた競技じゃないと危険が危ないのである。練習を用意しているのも体力を見るためでもあるし。和やかな体育祭って大人向けだと用意してくれるんだな。
それに、体育祭だとやってくる、子供向けのおもちゃやゲームを用意している屋台や食べ物屋もない。そこまでの規模じゃないんだろう。
「よーっし、そんじゃ俺は見守っているから運動して来いよ!」
「おう。体力、全然、無いんだけど行ってくるわ。」
俺は見学席を確保するために別れる碧に見送られて体育祭の会場に向かう。
「お、来たっスね。宜しくお願いしまっス!」
こないだ話していた、礼儀のいい兄ちゃんに迎えられた。
「うん、お願いします。」
「っス!」
お互いに体育会系っぽい礼をしていた。
「競技は何をするんス?」
「えーっと、リレーと、仮装競争かな。」
「ああ。コスプレして走るやつっスね?」
「そうそう。ジャージの上から羽織るやつ。」
仮装競争とは、コースの所に衣装が用意してあり、それに着替えてゴールまで走るという、そういう競技である。競技というよりは、もたついたり、コスプレして走ったりするのを見る余興なのだろう。
「そっちは?」
「自分はパン食い競争と、リレーと、徒競走っス!」
「おおー、走るね。」
好青年はスポーツにも詳しいし、見た目のスポーツマン的容姿そのままからか、任せられる競技が俺より多いようだ。
「君たちは元気そうだね。私は……徒競走で走って終わりだよ。」
「それでいいんスよ。無理しないで。」
「ですね。」
この前の男の人に、また声を掛けられたが、無理はしなくていいと思う。学園生時代も不登校だったらしいし。
「そうだね……学園生気分そのものを、また感じ直せるなら。
それでもいいかもしれないね。」
男の人は、遠くを見るようだった。
「そんじゃ俺、徒競走が始まるから行ってくるっス!」
「ああ、私もだ。」
「行ってらっしゃい。」
俺は好青年と男の人が去っていくのを見ると、待機場に向かう事にした。
・・・・・。
「ッシャ! ゴールっす!」
「はあ……はあ……はあ……。」
「おお、速え~。」
好青年はあっという間に200メートル、走りきってしまったし。男の人はその前の前の、50メートル走を走りきったところでぐったりしてしまい、まだ休んでいるようだった。
「次は俺の仮装競争か。」
リレーは徒競走の最後に行う競技だから、先に仮装競争という、余興のような競争を経てから昼食、その後リレーになる。やる事と言ったら体育館の中心でみんな並んで走って着替えてゴールなのだが。
今まで全く走ってこなかった人間にはそれだけで重労働なのである。
「男の人……次は俺が行ってきます!」
俺はまだ、移動できずにへたり込んで荒い息を整えている男の人にアイコンタクトを送った後、自分の競走場へと向かったのだった。
・・・・・。
「よっしゃ走るぜ! これで体育祭イベントの資料にすっぞ!」
俺はコースに並ぶと、真ん中に見える、綺麗に折りたたまれた服に標準を合わせるが、どうやら俺のは着ぐるみのようだった。サメのオーバーみたいなのに被り物がフードで着いている。学園作品の情報更新には、こういう所のチョイスは現代的でいいようだ。俺は妙な見地が身に着いた。
「位置についてー、よーい、スタート!」
空砲も慣らさずに掛け声が係の人から言われ、ダッシュで走る俺。
「お、ズボッと行けた。」
俺は真ん中に来ると仮装も終わり、このまま何事もなくダッシュで行けそうだった。何だかんだで訓練も少しはした。碧にご飯も作って貰っていたからか体調もそこまで悪くなく、このままゴールまで行けそうだし、体育祭が終わっても定期的な運動をすれば、体力も付くかもしれない、そんな楽観的な気持ちでゴールまでたどり着くと。
「ぜい……ぜい。けぼっ。」
走り終わった瞬間に一気に疲労が来て、しかも喉がガラガラになっていて呼吸も難しい状態だった。
「あ~、大丈夫っスか?」
「あ……来てくれたの? ありがとう。」
「男の人も無事、動けそうになったところを見計らって。
送り届けたっス!」
「へ~……すごいね。」
「大丈夫っスよ。はいスポドリ。」
「あ~……ありがとう。甘さと水分が染みわたる……。」
俺は好青年にスポーツドリンクを渡されると一気にがぶがぶ飲んでいた。
「歩けるようになったっスか?」
「うん。ありがとう。こういう事しているの?」
「そっスよ。運営の人に話したら貰えたっス。スポドリ。」
「へー。」
「救護班とかもいるらしいけど、そこまでの事じゃなくて。
気づいた人に声掛けていいって言われたっす。」
「うん……普段運動とかしない人だと落とし穴、多そうだもんね。」
俺とかな。それに、スポーツドリンクを貰ったら、喋れるぐらいに回復したようだ。
「この後はリレー走か……大丈夫かな俺。」
俺はあっという間に回復したが、多分暫く筋肉痛になる事を覚悟して、碧の元に戻ったのだった。
・・・・・。
「午前の部、終わったん?」
「終わったら運営じゃないから家族席に戻っていいんだよ。」
俺は席を取って観戦していた碧の所に行くと、碧に声を掛けられていた。
「社会人で全然、運動していなかった人とかもいるんだし。
無理はしないで休んでいた方がいいよな。」
「そうそう。競技ひとつ、やって終わりの人とかもいるし。」
「沙幹はまだあんの?」
「……リレーで終わり。」
「リレーか~、リレーはやっといた方がいいよな。」
「だよな。」
俺は碧と話していると。
「昼飯食う? まだ食えない?」
昼食をお弁当で持って来てくれたからか、箱を俺に見せる。
「食べるか。食べた後、暫くしてからじゃないと動いたら。
腹とかに来そうだし。」
「おう。」
という訳で碧の弁当に手を付けようとすると。
「次は……パン食い競争、パン食い競争になります。」
好青年の競技が始まったようだ。
「体育祭で知り合った人が出るんだよ。こないだの落第から捲った人。」
「へー。いいじゃん。応援するん?」
「いや、今叫んだら喉が危ないから見るだけだな。見るのも応援だ。」
「ああ。オタクでよくあるヤツだよな。出来ない時は見るのも応援。」
「そうそう。見るのも応援。イイネ飛ばすのも応援。
閲覧数だけでも可視化されるからな~。」
「な~。」
オタクの二人組だからか雑談がどうしてもそっち寄りになる。
「お、あっという間。」
「ホントだー。スポーツマン。」
雑談をしている内に好青年の番になり、あっという間に走って取ってしまったようだった。
「こういうので要領いいやつで好青年って大人ならではだよな。」
「だよなー。子供で主人公にするとガキ大将になるよな。」
「ガキ大将のまま大人になったら困るのはそいつらだからな。
そりゃ変わらざるを得ないだろ。」
俺たちはいつの間にか雑談に戻っていた。
「それで、体育祭の様子、書けそう?」
「そのまんまにして書けそうなんだけどさ。
俺、学園が書けないのって自分の学園時代を。
思い出したくないからなんじゃないかなとかさ。」
「それな。」
今日も学園作品が書けない人同士の話になり、お互いに学園にいい思い出がない者同士の会話で捗る日になりそうだった。
「お、唐揚げとプチトマト、のり弁と卵焼きにミートボールか。」
俺は碧の弁当を開けると、美味しそうなお弁当で、体育祭の定番のようなおかずが中に入っていた。
「なあ。午後からもやる気出るだろ?
学園生のお弁当っぽくした。」
「出る出る。ありがとな。お、うまいわ~。」
俺は仕切りになっていたレタスとから揚げから食べ始めたが、カロリーと塩分と肉を感じて実にうまい。若い人向けの料理だな。
「いや~、やっぱり人に作って貰う料理はうまいわ~。」
俺はミートボールとのり弁を食べながら碧に話す。
「家事はやって貰う人がいないと詰むよな。」
「詰む詰む。」
「帰りは弁当買って帰るか~。」
「そうだな。助かるわ。」
碧は本当に飯に関しては自分から作ってくれるし、買って帰るのを提案しても受けるしで、本当によくできた人なのだが、本当になんで、料理が趣味でいつもやってくれる人って聖人に見えるんだろう。男だが母と感じそうでもある。
「そんじゃ次のリレーに行ってくるわ。」
「おう。行って来いよ。」
飯を頂いている内に時間は過ぎていき、今度は最後のリレー協議に移る事となったのだった。
「最後の競技、リレー競争になります。
出場者の方はコースにお並びください……。」
場内アナウンスも鳴り、俺は外周コースへと並んでいく。
「俺は一番最初か、まあそうだよな。」
並びは遅い順から始まり、一番速い人がアンカーになり、リレー区画も距離を取っている。コースも外側に従って速い人になっているから、俺は一番最初の人だし、内側のコースな辺り、やはり運動が……である。いいんだよ社会人なんて運動する人はどんどんいなくなるんだから。
「バトン、どうぞ。」
「はい。」
係の人が配っているバトンを受け取っていき、俺で最後になる。
「それでは最後の種目、リレー競争になります。皆さん、位置について。」
係の人の言葉で俺は走る体勢になるが、これで合っているかは分からない。
「よーい、ドン!」
「うっし、行くぞ!」
また空砲を鳴らさずに、掛け声でコースを走っていく俺だが。
ズデッ!
「うぐっ。」
コースの曲がり角で思いっきりすっ転んでしまった。
ワアアア……。
歓声がずいぶん遠くに聞こえるし、多分その声は俺には向いていないと思いながらよろよろと立ち、また、コースを走っていく俺。
(学園生の頃から……運動に関してはこうだったな。)
今も学園生と言えば学園生だけど。
「うっ、いてて……。」
転んだ時に膝をやったのか、走るときにズキリとなる。
「すみません……。」
「いいよ。」
次の人にバトンを渡すころには随分と他の人たちから離れてしまっていた。が、次の人は足が速かったのか、あっという間に次の区画へ走ってしまう。
「こういうのは俺だけか……。」
みんな速い、みんな走れる。間違えるのは俺だけ……とは思わないようにしているんだが。
ドテッ。
「あっ。」
ガヤガヤ……。
他の人だって転んだようで、しかも打ちどころが悪かったらしく。立てずに救護班の人が駆けつけてくる。
「第二コース、リレーが行えなくなったため、代理をお願いします。」
代理とかあったのか。そりゃあ中止には出来ないよなと思いながら、俺は様子を見ていたが。
「うっ、うう……。」
転んだ人が苦しそうにしながら、担架で運ばれていくのを見る。
「……。」
さっきまで落ち込んでいたのだが、何と言えばいいのか分からない気持ちになっていた。
ワアアア……。
「っしゃ! 一位っス!」
それでもって、好青年がアンカーを走って、そのコースが、一位を取っていた。
・・・・・。
「おう、お疲れー。」
「ん。」
閉会式も終わって、碧に声を掛けられた俺。
「ラーメン食って帰る?」
「そうだなー。うまいもの食べて忘れようぜ。」
「あっ、お疲れ様っス!」
「やあ、お疲れ様。」
碧と帰りの話をしていたら、好青年と男の人にも声を掛けられる。
「あっ、一位、取れたんだよね、おめでとう。」
「ありがとうございまス! そっちもお疲れ様でス!」
「うん、ありがとう。」
好青年の全く変わらない態度と、挨拶に礼を言う俺。好青年の挨拶は最早、やりすぎて脊髄反射だからな。
「私もリレー、走れば良かったんだけど止められてね。」
「うん。やめた方がいいっス。そういうのじゃないんだし。」
「俺もそう思います。」
好青年と俺で大きく頷いた。
「うん……でもね。私も不登校をしていたんだし。
リレーの思い出が何もないよりはあった方が良かったかなって。」
「それとこれとは話は別っス。やるなら走れる距離で皆でやりまス?」
「えっ。」
「へえ。」
「え、俺もやんの?」
最後の声は碧だが、俺と男の人で声が出た。
「そっちの人……ええと、誰っス?」
「あ、ミドリです。」
「ミドリさんもやりたいなら、やっていいっスよ!」
「あ、俺、転んだから走るのは後日で。」
「大丈夫っス! そういうのにはしないっス!」
俺の言葉にアッサリ返事する好青年。
「どうすっかな、経験だけでも俺もしとくか。」
碧も考えているようだ。
「近所に公園あるっス!
そこでよければみんなで手の届く距離で並んでバトン渡すところからやるっス!
これならバトン渡しの練習になるし走らなくてもいいっス!」
こういうのって体育祭の行事から競争を奪う行為なんだが。俺は転んだ後だし、好青年以外の体力が違いすぎて素直に受け取ってしまいそうだった。走っても走らなくてもレースにならんのだな。
「そんじゃみんなでやるっス?」
「そだね、それならやれるよ。」
「私もやろうかな。」
「そんじゃ俺も経験に。」
何故かみんなで、バトンはもらえなかったから、道に落ちてた棒を拾ってバトン代わりにして公園に行くことになった。
「ん~?」
朝、マンションの寝室からリビングに移動したら、すでに起きて身支度まで準備を済ませていた碧が、お弁当まで用意していた。
「体育祭って学園時代に過ごせなかった人のために。
保護者とか配偶者とか友人とか、招待していいんだろ?」
「ああ、そうそう。家族とか身内とか呼んでいいやつな。」
何しろ定時制学園になると来る人の層も幅広いため、体育祭の見学に招待していい相手の層も幅広かった。関係者なら友人でもいいのは、学園生の数が少なく、社会人が多いから警備も確認がしやすいのだろう。そして一応、警備員と教員に武道や格闘技の心得がある人とかもいる。
「沙幹の分の朝ごはんもあるから、それ食ったら行こうぜ。」
「おお~、いつも悪いな。」
「いいよ。俺も定時制の学園の体育祭に行けるから。
カメラとかビデオとか。資料収集やれるし。
お前が学費払ってくれているからだからな。
ここまで来たら卒業まで面倒見るぜ。そんで資料作らせてくれ。」
「そだな。」
改めて思ったらお互いの関係に損得をなるべく減らそうとしてくれている碧の計らいもあったのだろう。何か説明っぽい気もしたが。俺は碧の作ってくれた朝ごはんを食べると、二人で体育祭に向かう事にした。
・・・・・。
ワアアア……ガヤガヤガヤ。
「へー。体育祭って言っても、場所は借りた市民体育館なんだな。」
「規模小さいし、運動の規模もそういうのでいいんだろ。」
「そうだなー。」
何しろイベントそのものの体験が理由となっているため、集まる年齢層や体力に合わせた競技じゃないと危険が危ないのである。練習を用意しているのも体力を見るためでもあるし。和やかな体育祭って大人向けだと用意してくれるんだな。
それに、体育祭だとやってくる、子供向けのおもちゃやゲームを用意している屋台や食べ物屋もない。そこまでの規模じゃないんだろう。
「よーっし、そんじゃ俺は見守っているから運動して来いよ!」
「おう。体力、全然、無いんだけど行ってくるわ。」
俺は見学席を確保するために別れる碧に見送られて体育祭の会場に向かう。
「お、来たっスね。宜しくお願いしまっス!」
こないだ話していた、礼儀のいい兄ちゃんに迎えられた。
「うん、お願いします。」
「っス!」
お互いに体育会系っぽい礼をしていた。
「競技は何をするんス?」
「えーっと、リレーと、仮装競争かな。」
「ああ。コスプレして走るやつっスね?」
「そうそう。ジャージの上から羽織るやつ。」
仮装競争とは、コースの所に衣装が用意してあり、それに着替えてゴールまで走るという、そういう競技である。競技というよりは、もたついたり、コスプレして走ったりするのを見る余興なのだろう。
「そっちは?」
「自分はパン食い競争と、リレーと、徒競走っス!」
「おおー、走るね。」
好青年はスポーツにも詳しいし、見た目のスポーツマン的容姿そのままからか、任せられる競技が俺より多いようだ。
「君たちは元気そうだね。私は……徒競走で走って終わりだよ。」
「それでいいんスよ。無理しないで。」
「ですね。」
この前の男の人に、また声を掛けられたが、無理はしなくていいと思う。学園生時代も不登校だったらしいし。
「そうだね……学園生気分そのものを、また感じ直せるなら。
それでもいいかもしれないね。」
男の人は、遠くを見るようだった。
「そんじゃ俺、徒競走が始まるから行ってくるっス!」
「ああ、私もだ。」
「行ってらっしゃい。」
俺は好青年と男の人が去っていくのを見ると、待機場に向かう事にした。
・・・・・。
「ッシャ! ゴールっす!」
「はあ……はあ……はあ……。」
「おお、速え~。」
好青年はあっという間に200メートル、走りきってしまったし。男の人はその前の前の、50メートル走を走りきったところでぐったりしてしまい、まだ休んでいるようだった。
「次は俺の仮装競争か。」
リレーは徒競走の最後に行う競技だから、先に仮装競争という、余興のような競争を経てから昼食、その後リレーになる。やる事と言ったら体育館の中心でみんな並んで走って着替えてゴールなのだが。
今まで全く走ってこなかった人間にはそれだけで重労働なのである。
「男の人……次は俺が行ってきます!」
俺はまだ、移動できずにへたり込んで荒い息を整えている男の人にアイコンタクトを送った後、自分の競走場へと向かったのだった。
・・・・・。
「よっしゃ走るぜ! これで体育祭イベントの資料にすっぞ!」
俺はコースに並ぶと、真ん中に見える、綺麗に折りたたまれた服に標準を合わせるが、どうやら俺のは着ぐるみのようだった。サメのオーバーみたいなのに被り物がフードで着いている。学園作品の情報更新には、こういう所のチョイスは現代的でいいようだ。俺は妙な見地が身に着いた。
「位置についてー、よーい、スタート!」
空砲も慣らさずに掛け声が係の人から言われ、ダッシュで走る俺。
「お、ズボッと行けた。」
俺は真ん中に来ると仮装も終わり、このまま何事もなくダッシュで行けそうだった。何だかんだで訓練も少しはした。碧にご飯も作って貰っていたからか体調もそこまで悪くなく、このままゴールまで行けそうだし、体育祭が終わっても定期的な運動をすれば、体力も付くかもしれない、そんな楽観的な気持ちでゴールまでたどり着くと。
「ぜい……ぜい。けぼっ。」
走り終わった瞬間に一気に疲労が来て、しかも喉がガラガラになっていて呼吸も難しい状態だった。
「あ~、大丈夫っスか?」
「あ……来てくれたの? ありがとう。」
「男の人も無事、動けそうになったところを見計らって。
送り届けたっス!」
「へ~……すごいね。」
「大丈夫っスよ。はいスポドリ。」
「あ~……ありがとう。甘さと水分が染みわたる……。」
俺は好青年にスポーツドリンクを渡されると一気にがぶがぶ飲んでいた。
「歩けるようになったっスか?」
「うん。ありがとう。こういう事しているの?」
「そっスよ。運営の人に話したら貰えたっス。スポドリ。」
「へー。」
「救護班とかもいるらしいけど、そこまでの事じゃなくて。
気づいた人に声掛けていいって言われたっす。」
「うん……普段運動とかしない人だと落とし穴、多そうだもんね。」
俺とかな。それに、スポーツドリンクを貰ったら、喋れるぐらいに回復したようだ。
「この後はリレー走か……大丈夫かな俺。」
俺はあっという間に回復したが、多分暫く筋肉痛になる事を覚悟して、碧の元に戻ったのだった。
・・・・・。
「午前の部、終わったん?」
「終わったら運営じゃないから家族席に戻っていいんだよ。」
俺は席を取って観戦していた碧の所に行くと、碧に声を掛けられていた。
「社会人で全然、運動していなかった人とかもいるんだし。
無理はしないで休んでいた方がいいよな。」
「そうそう。競技ひとつ、やって終わりの人とかもいるし。」
「沙幹はまだあんの?」
「……リレーで終わり。」
「リレーか~、リレーはやっといた方がいいよな。」
「だよな。」
俺は碧と話していると。
「昼飯食う? まだ食えない?」
昼食をお弁当で持って来てくれたからか、箱を俺に見せる。
「食べるか。食べた後、暫くしてからじゃないと動いたら。
腹とかに来そうだし。」
「おう。」
という訳で碧の弁当に手を付けようとすると。
「次は……パン食い競争、パン食い競争になります。」
好青年の競技が始まったようだ。
「体育祭で知り合った人が出るんだよ。こないだの落第から捲った人。」
「へー。いいじゃん。応援するん?」
「いや、今叫んだら喉が危ないから見るだけだな。見るのも応援だ。」
「ああ。オタクでよくあるヤツだよな。出来ない時は見るのも応援。」
「そうそう。見るのも応援。イイネ飛ばすのも応援。
閲覧数だけでも可視化されるからな~。」
「な~。」
オタクの二人組だからか雑談がどうしてもそっち寄りになる。
「お、あっという間。」
「ホントだー。スポーツマン。」
雑談をしている内に好青年の番になり、あっという間に走って取ってしまったようだった。
「こういうので要領いいやつで好青年って大人ならではだよな。」
「だよなー。子供で主人公にするとガキ大将になるよな。」
「ガキ大将のまま大人になったら困るのはそいつらだからな。
そりゃ変わらざるを得ないだろ。」
俺たちはいつの間にか雑談に戻っていた。
「それで、体育祭の様子、書けそう?」
「そのまんまにして書けそうなんだけどさ。
俺、学園が書けないのって自分の学園時代を。
思い出したくないからなんじゃないかなとかさ。」
「それな。」
今日も学園作品が書けない人同士の話になり、お互いに学園にいい思い出がない者同士の会話で捗る日になりそうだった。
「お、唐揚げとプチトマト、のり弁と卵焼きにミートボールか。」
俺は碧の弁当を開けると、美味しそうなお弁当で、体育祭の定番のようなおかずが中に入っていた。
「なあ。午後からもやる気出るだろ?
学園生のお弁当っぽくした。」
「出る出る。ありがとな。お、うまいわ~。」
俺は仕切りになっていたレタスとから揚げから食べ始めたが、カロリーと塩分と肉を感じて実にうまい。若い人向けの料理だな。
「いや~、やっぱり人に作って貰う料理はうまいわ~。」
俺はミートボールとのり弁を食べながら碧に話す。
「家事はやって貰う人がいないと詰むよな。」
「詰む詰む。」
「帰りは弁当買って帰るか~。」
「そうだな。助かるわ。」
碧は本当に飯に関しては自分から作ってくれるし、買って帰るのを提案しても受けるしで、本当によくできた人なのだが、本当になんで、料理が趣味でいつもやってくれる人って聖人に見えるんだろう。男だが母と感じそうでもある。
「そんじゃ次のリレーに行ってくるわ。」
「おう。行って来いよ。」
飯を頂いている内に時間は過ぎていき、今度は最後のリレー協議に移る事となったのだった。
「最後の競技、リレー競争になります。
出場者の方はコースにお並びください……。」
場内アナウンスも鳴り、俺は外周コースへと並んでいく。
「俺は一番最初か、まあそうだよな。」
並びは遅い順から始まり、一番速い人がアンカーになり、リレー区画も距離を取っている。コースも外側に従って速い人になっているから、俺は一番最初の人だし、内側のコースな辺り、やはり運動が……である。いいんだよ社会人なんて運動する人はどんどんいなくなるんだから。
「バトン、どうぞ。」
「はい。」
係の人が配っているバトンを受け取っていき、俺で最後になる。
「それでは最後の種目、リレー競争になります。皆さん、位置について。」
係の人の言葉で俺は走る体勢になるが、これで合っているかは分からない。
「よーい、ドン!」
「うっし、行くぞ!」
また空砲を鳴らさずに、掛け声でコースを走っていく俺だが。
ズデッ!
「うぐっ。」
コースの曲がり角で思いっきりすっ転んでしまった。
ワアアア……。
歓声がずいぶん遠くに聞こえるし、多分その声は俺には向いていないと思いながらよろよろと立ち、また、コースを走っていく俺。
(学園生の頃から……運動に関してはこうだったな。)
今も学園生と言えば学園生だけど。
「うっ、いてて……。」
転んだ時に膝をやったのか、走るときにズキリとなる。
「すみません……。」
「いいよ。」
次の人にバトンを渡すころには随分と他の人たちから離れてしまっていた。が、次の人は足が速かったのか、あっという間に次の区画へ走ってしまう。
「こういうのは俺だけか……。」
みんな速い、みんな走れる。間違えるのは俺だけ……とは思わないようにしているんだが。
ドテッ。
「あっ。」
ガヤガヤ……。
他の人だって転んだようで、しかも打ちどころが悪かったらしく。立てずに救護班の人が駆けつけてくる。
「第二コース、リレーが行えなくなったため、代理をお願いします。」
代理とかあったのか。そりゃあ中止には出来ないよなと思いながら、俺は様子を見ていたが。
「うっ、うう……。」
転んだ人が苦しそうにしながら、担架で運ばれていくのを見る。
「……。」
さっきまで落ち込んでいたのだが、何と言えばいいのか分からない気持ちになっていた。
ワアアア……。
「っしゃ! 一位っス!」
それでもって、好青年がアンカーを走って、そのコースが、一位を取っていた。
・・・・・。
「おう、お疲れー。」
「ん。」
閉会式も終わって、碧に声を掛けられた俺。
「ラーメン食って帰る?」
「そうだなー。うまいもの食べて忘れようぜ。」
「あっ、お疲れ様っス!」
「やあ、お疲れ様。」
碧と帰りの話をしていたら、好青年と男の人にも声を掛けられる。
「あっ、一位、取れたんだよね、おめでとう。」
「ありがとうございまス! そっちもお疲れ様でス!」
「うん、ありがとう。」
好青年の全く変わらない態度と、挨拶に礼を言う俺。好青年の挨拶は最早、やりすぎて脊髄反射だからな。
「私もリレー、走れば良かったんだけど止められてね。」
「うん。やめた方がいいっス。そういうのじゃないんだし。」
「俺もそう思います。」
好青年と俺で大きく頷いた。
「うん……でもね。私も不登校をしていたんだし。
リレーの思い出が何もないよりはあった方が良かったかなって。」
「それとこれとは話は別っス。やるなら走れる距離で皆でやりまス?」
「えっ。」
「へえ。」
「え、俺もやんの?」
最後の声は碧だが、俺と男の人で声が出た。
「そっちの人……ええと、誰っス?」
「あ、ミドリです。」
「ミドリさんもやりたいなら、やっていいっスよ!」
「あ、俺、転んだから走るのは後日で。」
「大丈夫っス! そういうのにはしないっス!」
俺の言葉にアッサリ返事する好青年。
「どうすっかな、経験だけでも俺もしとくか。」
碧も考えているようだ。
「近所に公園あるっス!
そこでよければみんなで手の届く距離で並んでバトン渡すところからやるっス!
これならバトン渡しの練習になるし走らなくてもいいっス!」
こういうのって体育祭の行事から競争を奪う行為なんだが。俺は転んだ後だし、好青年以外の体力が違いすぎて素直に受け取ってしまいそうだった。走っても走らなくてもレースにならんのだな。
「そんじゃみんなでやるっス?」
「そだね、それならやれるよ。」
「私もやろうかな。」
「そんじゃ俺も経験に。」
何故かみんなで、バトンはもらえなかったから、道に落ちてた棒を拾ってバトン代わりにして公園に行くことになった。
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還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
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