24 / 33
chapter 3
3話 マスケット銃
しおりを挟む2
長い旅だった……と言っても、安全な道を安全な時間帯に通っただけだ。確かに約一ヶ月の道のりは長かったものの、野宿をして魔物に怯える事もなければ、そもそも道中魔物とエンカウントする事も無かった。教科書通りの模範的な旅だ。
もちろんただ馬に乗り、宿駅で泊まっただけでは無い。自身の魔法の限界や、『神の座』についての情報も精力的に集めた。俺は傭兵であり冒険者では無いため、これからダンジョンに向かうのに何の知識も無いのは死活問題…………と考えての事だが、色々と気になる噂を耳にした。
例えば、南の国が我が国を攻め入ったのは全て『神の座』が原因である、などなど。確かに目的は分からないままだし、時期的にもそう考えられない事も無い。だが、一国の王が一万の民を犠牲にしてまで得ようとする価値は果たしてあるのか。
あとは……冒険者として基本的な知識も習得した。正確に言うとお喋りな人間に酒を奢ってテキトーによいしょしただけだが。
……しかし自分で言うのもなんだが、そもそもダンジョンの種類すら知らない状態で『神の座』に挑もうなんて馬鹿じゃないのかと。っていうか、ダンジョンに種類なんてあったんだなというのが本音。
ちなみにダンジョンは大きく分けて四つあるらしい。
一つ目が黒のダンジョンと呼ばれるもので、溶岩の流れで生まれたもの。三次元的に入り組んでいるためマッピング技術が必要となる。
二つ目は白のダンジョンで、これは俗に言う鍾乳洞だ。石灰岩地層に地下水が流れて生まれるため、基本的に下へと道が続く。基本的に一本道だが、水が流れて出来るダンジョンであるため水の対策が必要となる。
三つ目は蒼のダンジョンで、近場ではまず見つからない。そもそも海岸際の崖に出来るダンジョンであるため、内陸部では見られない。潮の満ち引きで最悪水没するため、ダンジョンの中では難易度が高い部類に入る。
四つ目がその他のダンジョンで、主に人工のものと魔物が作るものがある。この二つは天然のダンジョンとは違い、高確率で罠がある。それも警報が鳴り響くものから、即死級のものまで。その代わりに宝もかなり価値があるものだったりするそうだ。
こうやってダンジョンについて勉強して思ったが、中々に奥が深い。冒険者は傭兵より死亡率は高い上、全体の平均収入はかなり低い。しかしその分リターンもかなりなもので、なるほどその人気の高さも分かる。
男なら冒険とかダンジョンとかの単語を聞くと、それだけでわくわくする。…………まぁ、俺は名誉も要らないし、堅実に金が入る傭兵家業で十分だ。傭兵だったらソロでもやっていけるし…………って言うと、何故か悲しいやつみたいだ。
「ミサ、着いたぜ」
身体を預けて眠るミサを揺り起こす。流石に毎日同じような景色を眺め続けるのは苦痛だったのか、ミサは意外と早い段階で覚醒を放棄していた。馴れない乗馬は体力を酷く消耗するのか、移動中は大抵寝ている。
前世での運転する父親の気持ちが少し分かった気がする。もしも戻れるのなら、俺は眠くても起きていようと思う。
美少女とはいえ、退屈な移動時間をひたすら馬の制御に宛てる俺を嘲笑うかのような姿は、軽く殺意さえ抱く。寝られるなら俺も寝たい。
ちなみにミサは、俺に自らの身体を預けるのを厭う事は無いようだ。どうやらフィーの一見でホモと認定されているらしい。このアマ、一度犯してやろうかと何度も思ったがギリギリで自重している。
「…………んー」
ミサは低血圧なのか単純に朝が苦手なのか、寝起きは悪い。現在も唸るような返事はしているものの目を開ける事はなく、声もフェードアウトしていっている。また寝る気だ。
一応着いたと言っても『神の座』に到着したわけではないため、まだ寝ていても問題は無い。
正確には『神の座』を中心に生まれた村に着いた、が正しい。人が集まれば色々な需要が生まれるため、それに応える形であらゆる商人がやって来た結果、街とは言わないまでもかなり大規模な村にはなっている。一帯は簡易ながらも柵で覆われ、内部は多くのテント群が散見される。近いうちに宿屋も出来そうだ。
そういえば西だか東の国に、大規模ダンジョンを中心に生まれた城郭都市があった気がする。その都市も最初はただダンジョンがあるだけで、徐々にこんな感じで人が集まって出来たと聞く。ここもそこまで大きくなる可能性を秘めている。
「マッピング出来ます! 日給あたり銀貨七枚で!」
「二十二層までの地図あります。一層につき銀貨一枚。十層までは銅貨五枚で」
「空きテントあるよ! 荷物の預り金込みで一ヶ月金貨一枚から!!」
入口付近はかなりうるさ……活気がある。荷物持ちとしてお零れに与ろうとするやつや、マッピング済みの地図を売るやつなど様々だ。
地図は後で買うとして、取り敢えず馬を預けられる場所は――――ん?
視界の端に、何かが写り込んだ。それは俗に言う銃というもので、南の国で試験的に使われる武器だ。かくいう俺も種子島と名をつけた銃を腰に差しており、最先端の武器ではあるものの珍しくは無い。…………それが火縄の付いているものであるならば。
「某国で開発されたフリントロック式のマスケット! 鎧もぶち抜くこいつの威力を、城郭で試したいって輩はいねェのか!?」
「なん……だと?」
フリントロック式っていうのがどういった構造なのかも、そもそもどんなものかも分からない。しかし、火縄に着火するタイプじゃないのは一目で分かる。魔法で弾丸を飛ばす俺には火縄が有ろうと無かろうと変わりはないが、しかし最新式であろうその姿に心が揺さぶられる。
ちらっと値段を見る。値段を見ただけで買う気なんて更々無い。欠片も無いが、あまりにも安かったら懐が緩むかも知れない。やはり、この場で売られているのはフリントロック式だし、悪目立ちしないためにも購入する必要があるかも知れない。
値段:金貨七千枚。
「高えよッ!?」
諦める。いや、そもそも買う気など無かったのだからそれは正しくないか。……っていうか馬鹿じゃねえの? 何だよ金貨七千枚って。国家予算かよ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~
ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」
魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。
本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。
ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。
スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる