異世界チートで遠距離最強~銃は運命すらも撃ち抜く~

佐々木 篠

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chapter 3

3話 マスケット銃

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 2

 長い旅だった……と言っても、安全な道を安全な時間帯に通っただけだ。確かに約一ヶ月の道のりは長かったものの、野宿をして魔物に怯える事もなければ、そもそも道中魔物とエンカウントする事も無かった。教科書通りの模範的な旅だ。

 もちろんただ馬に乗り、宿駅で泊まっただけでは無い。自身の魔法の限界や、『神の座』についての情報も精力的に集めた。俺は傭兵であり冒険者では無いため、これからダンジョンに向かうのに何の知識も無いのは死活問題…………と考えての事だが、色々と気になる噂を耳にした。

 例えば、南の国が我が国を攻め入ったのは全て『神の座』が原因である、などなど。確かに目的は分からないままだし、時期的にもそう考えられない事も無い。だが、一国の王が一万の民を犠牲にしてまで得ようとする価値は果たしてあるのか。

 あとは……冒険者として基本的な知識も習得した。正確に言うとお喋りな人間に酒を奢ってテキトーによいしょしただけだが。

 ……しかし自分で言うのもなんだが、そもそもダンジョンの種類すら知らない状態で『神の座』に挑もうなんて馬鹿じゃないのかと。っていうか、ダンジョンに種類なんてあったんだなというのが本音。

 ちなみにダンジョンは大きく分けて四つあるらしい。

 一つ目が黒のダンジョンと呼ばれるもので、溶岩の流れで生まれたもの。三次元的に入り組んでいるためマッピング技術が必要となる。

 二つ目は白のダンジョンで、これは俗に言う鍾乳洞だ。石灰岩地層に地下水が流れて生まれるため、基本的に下へと道が続く。基本的に一本道だが、水が流れて出来るダンジョンであるため水の対策が必要となる。

 三つ目は蒼のダンジョンで、近場ではまず見つからない。そもそも海岸際の崖に出来るダンジョンであるため、内陸部では見られない。潮の満ち引きで最悪水没するため、ダンジョンの中では難易度が高い部類に入る。

 四つ目がその他のダンジョンで、主に人工のものと魔物が作るものがある。この二つは天然のダンジョンとは違い、高確率で罠がある。それも警報が鳴り響くものから、即死級のものまで。その代わりに宝もかなり価値があるものだったりするそうだ。

 こうやってダンジョンについて勉強して思ったが、中々に奥が深い。冒険者は傭兵より死亡率は高い上、全体の平均収入はかなり低い。しかしその分リターンもかなりなもので、なるほどその人気の高さも分かる。

 男なら冒険とかダンジョンとかの単語を聞くと、それだけでわくわくする。…………まぁ、俺は名誉も要らないし、堅実に金が入る傭兵家業で十分だ。傭兵だったらソロでもやっていけるし…………って言うと、何故か悲しいやつみたいだ。

「ミサ、着いたぜ」

 身体を預けて眠るミサを揺り起こす。流石に毎日同じような景色を眺め続けるのは苦痛だったのか、ミサは意外と早い段階で覚醒を放棄していた。馴れない乗馬は体力を酷く消耗するのか、移動中は大抵寝ている。

 前世での運転する父親の気持ちが少し分かった気がする。もしも戻れるのなら、俺は眠くても起きていようと思う。

 美少女とはいえ、退屈な移動時間をひたすら馬の制御に宛てる俺を嘲笑うかのような姿は、軽く殺意さえ抱く。寝られるなら俺も寝たい。

 ちなみにミサは、俺に自らの身体を預けるのを厭う事は無いようだ。どうやらフィーの一見でホモと認定されているらしい。このアマ、一度犯してやろうかと何度も思ったがギリギリで自重している。

「…………んー」

 ミサは低血圧なのか単純に朝が苦手なのか、寝起きは悪い。現在も唸るような返事はしているものの目を開ける事はなく、声もフェードアウトしていっている。また寝る気だ。

 一応着いたと言っても『神の座』に到着したわけではないため、まだ寝ていても問題は無い。

 正確には『神の座』を中心に生まれた村に着いた、が正しい。人が集まれば色々な需要が生まれるため、それに応える形であらゆる商人がやって来た結果、街とは言わないまでもかなり大規模な村にはなっている。一帯は簡易ながらも柵で覆われ、内部は多くのテント群が散見される。近いうちに宿屋も出来そうだ。

 そういえば西だか東の国に、大規模ダンジョンを中心に生まれた城郭都市があった気がする。その都市も最初はただダンジョンがあるだけで、徐々にこんな感じで人が集まって出来たと聞く。ここもそこまで大きくなる可能性を秘めている。

「マッピング出来ます! 日給あたり銀貨七枚で!」

「二十二層までの地図あります。一層につき銀貨一枚。十層までは銅貨五枚で」

「空きテントあるよ! 荷物の預り金込みで一ヶ月金貨一枚から!!」
 入口付近はかなりうるさ……活気がある。荷物持ちとしてお零れに与ろうとするやつや、マッピング済みの地図を売るやつなど様々だ。

 地図は後で買うとして、取り敢えず馬を預けられる場所は――――ん?

 視界の端に、何かが写り込んだ。それは俗に言う銃というもので、南の国で試験的に使われる武器だ。かくいう俺も種子島と名をつけた銃を腰に差しており、最先端の武器ではあるものの珍しくは無い。…………それが火縄の付いているものであるならば。



「某国で開発されたフリントロック式のマスケット! 鎧もぶち抜くこいつの威力を、城郭で試したいって輩はいねェのか!?」



「なん……だと?」

 フリントロック式っていうのがどういった構造なのかも、そもそもどんなものかも分からない。しかし、火縄に着火するタイプじゃないのは一目で分かる。魔法で弾丸を飛ばす俺には火縄が有ろうと無かろうと変わりはないが、しかし最新式であろうその姿に心が揺さぶられる。

 ちらっと値段を見る。値段を見ただけで買う気なんて更々無い。欠片も無いが、あまりにも安かったら懐が緩むかも知れない。やはり、この場で売られているのはフリントロック式だし、悪目立ちしないためにも購入する必要があるかも知れない。



 値段:金貨七千枚。



「高えよッ!?」

 諦める。いや、そもそも買う気など無かったのだからそれは正しくないか。……っていうか馬鹿じゃねえの? 何だよ金貨七千枚って。国家予算かよ。
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