7 / 38
1章 ダンジョンは稼げない
6話 階級金は激アツです。
しおりを挟む
「必要書類と登録料、確かに頂戴致しました。カムイ様、最後にこちらに触れ、魔力を流して下さい」
職員はハルから書類と登録料を受け取ると、カムイに握り拳ほどの水晶玉を手渡す。
「これは?」
「真実の水晶と呼ばれるアイテムです。魔力を通した対象の年齢と性別種族、レベルが分かるようになっています」
(魔力、だと……!?)
魔力という事は魔法が使えるのだろう。
当然異世界なのだから魔法の一個や二個くらいあるはずだと予想はしていたが、それでも実際にある分かると嬉しいものがある。
しかし一つだけ問題があり、それは魔力の流し方が分からないという単純な事であった。
(まあいいや。取り敢えずやってみて駄目だったら聞こう)
「……ふんっ」
手の平に何となく力を集めるような感じで力むと、文字が浮かんだ。
「……18?」
水晶玉で分かるのは対象の年齢、性別、種族、レベルである。
実はカムイは孤児であり、知っていた誕生日は嘘。そのため本当の年齢は十八である、何て事は当たり前だが有り得ない。となるとそこから導かれる答えは、カムイのレベルが18という事である。
(あ、あれ? ハルのレベルって確か93だったようなーーーー)
「それではレベルを転写致しますので、失礼します」
職員の女性は呆然としているカムイの手元から水晶を取ると、着物をずらして胸元を開(はだ)けさせる。
そして水晶玉を胸に押し当てデコピンの要領でぴんっ、と弾くと、水晶玉に映っていたレベルがカムイの肌に転写された。そこにある文字は18では無く81だ。
「あー、なるほど! 鏡文字だったのかー。それなら納得……いかねえよ!」
バンッ、と音を立てて受付を叩くカムイだが、そんなものは慣れているのかちらりと一瞥するだけで、職員はそのまま奥に消えた。
「な、なあハル。この世界の人間の平均レベルって何だ?」
「人間? 冒険者じゃない人たちだと50くらいが平均かな」
「ほう、一般人の一・六倍のレベルというわけか」
なら上出来か、とはならなかった。
齢十四の段階で如月家の剣術を習得し、準師範代の称号を得た平成の神童。現代最強と謳われる祖父に「五百年早く生まれていれば歴史が変わっていた」と言わせた男が如月 朔である。
祖父にはまだ負けるが、剣を使った一対一の対人戦であれば国内で五本指に入る自信はあった。
そんなカムイのレベルが、高々一般人の一・六倍程度なはずが無い。しかも隣にいる十二歳の少女のレベル以下とは考えられなかった。
「……なあ、実際のところレベルって何だ? 偉そうに聞こえるかも知れないけど、強さという指標は有り得ない。もしそうなら、俺がこの程度のはずが無い」
これを言ったのがたまたま異世界に転移してしまった高校生であればただの戯言であるが、カムイであればそれは事実となる。そしてその事はハル自身も理解していた。
「うん。レベルは強さって言うよりも、経験の蓄積だね。ーーーーそれもただの経験じゃなくて、殺しの……ね」
遥か昔、イアンパヌにとって何かを殺すと上がるレベルは忌むべきものであった。
穢れの蓄積を示す値がレベルであり、高いレベルほど殺傷の証であるから、無駄を悪と知っているイアンパヌにとって良いものでは無かった。
そのため|神送り(イヨマンテ)を行うのは決められた一人で、その役職は特別なものーー向こうの世界で言うところの巫女ーーであった。
余談であるがその巫女は皆、尾が九本あったという。
「でも最近は穢神がいるからね。レベルの上昇は忌むべきものから誇るべきものに変わったんだ」
「……そんな歴史があったわけか」
それならばカムイは自身のレベルに納得出来た。あらゆる技術も経験もあるが、それはあくまでも模擬である。祖父との試合が決して経験値の無いものだとは思わないが、木刀と真剣に天と地ほどの差があるのは理解している。もしもカムイが行ってきた試合が命をかけた文字通り真剣試合であった場合、既に数千回殺されているからだ。
「それでも五つ下の女の子に負けているって事実は悔しい。頭で理解しても心が全力で拒否する」
冒険者で当分の路銀を稼いだらあとは屋台で貯金を蓄えつつ、ゆくゆくは飲食店を開業……と少しは考えていた。やはりお金を稼ぐには自分の得意分野で、しかも異世界であれば珍しい料理を出す店として繁盛間違い無し! と勝算もあった。
あったが、やはりカムイも|男の子(おのこ)である。このままでは引き下がれなかった。
それに剣術というのも当たり前だが得意分野だ。それで稼ぐ自信は十二分にあった。
「つーわけで、お金稼ぎはもちろん大事だが、今後の最優先目標はレベル上げとしたいと思います」
どんどんぱふぱふー、とセルフSEを付けながら宣言する。
「うん、いいと思うよ! お兄ちゃんならあっという間にお金も稼げるようになると思う!」
そんなやり取りをしていると奥から職員が戻って来る。その手には白色で名刺サイズの紙らしきものを持っていた。
「こちらをどうぞ。ステータスプレートと呼ばれるもので、身分証明書になりますので失くさないで下さい。失くした場合は規約に書いてあった金額を徴収させていただきます」
「あ、どうも」
カムイはステータスプレートを受け取った。それはひんやりと冷たく、何かの金属で出来ているようだ。
============
名前:カムイ
性別:男性
種族:人間
特権:冒険者
============
日本語で書いてあるのは真実を映しているからだろうか。職員の対応を見る限り何か変わりがあるわけでも無いため、恐らく見る者によって言語が変わるのだろう。
「随分と寂しい内容だな」
ステータス、なんて名前が付いているからてっきり攻撃力とかも書かれていると思ったカムイだが、そんな事は無かった。
「青になると一部能力の可視化が出来るようになりますが、あくまでも身分証代わりですのでホワイトはこんなものです」
カムイの呟きを耳にした職員がそんな事を口にする。
「ホワイト?」
「階級の事です。ギルドでの実績やレベルに応じてプレートの色が変化していきます」
白から始まり、青・黄・緑・赤・金と続く。
自分の家を持ったり店を出したりするには、当然ながらある程度の階級が必要となる。
身近な事で言えば図書館に入館するためにもこのステータスプレートが必要で、その際は青以上のプレートが必要となる。
「全然使えねえじゃねーか」
「ステータスプレートが赤になりますと、制限はありますが王城に入れたりもしますので精進下さい」
一通り説明が終わったのか、「では」とだけ告げて職員は自分の席へと戻って行った。
「確か送還魔法が使える人たちは城仕えだから、接触するなら赤色にしないとね!」
「……先が通そうだな」
一体いつになったら帰れるんだろうな、とカムイは溜め息を吐いた。
「取り敢えず受けられそうなクエストでも受けてみるか」
カムイがそう言うと、ハルは不思議そうに首を傾げた。
「クエスト?」
「え、クエストって無いの? 何か依頼とか。で、それを受けて報酬を得ると」
「クエストはあるよ? でも、冒険者は関係無いけど」
「…………へ?」
「冒険者が出来る事って、ダンジョンに入る事くらいだよー。何々をして欲しい、なんて依頼は一階で適当な人たちに斡旋されるわけだし」
「……うそん」
冒険者ってなんだっけ、とゲシュタルト崩壊が起きそうになるカムイであった。
(……冒険者って本当に底辺の人種なんだな)
「もちろん冒険者もクエストは受けられるけど、別に冒険者の特権ってわけじゃないから一階の受付で手続きするんだ。でも白のお兄ちゃんじゃ受けられるものって無いかも」
「そうか……じゃあクエストは諦めて、ダンジョンにでも行くか……ちなみにダンジョンって、ここから行ける距離なの?」
冒険者と言えばクエストだが、受けられないものは仕方が無い。それにまだダンジョンという希望もあるし、カムイはそれに賭ける事にする。
「当然! ダンジョンはポータルが許可されているからね!」
「ポータル?」
また新しい単語が出て来る。異世界ってこんなにややこしい物だっけ? と思いながらもハルの説明に耳を傾ける。
ポータルというのは人を他の場所に転送する設置型のアイテム。それはギルドの一階に設置してあり、冒険者の特権を持っているステータスプレートを使う事で、ポータルの使用が可能になる。
「前言ってた経済がどうのこうのってのは良いのか?」
「うん。だってダンジョンはものっっすごく遠い場所にあるから、他の街で得た物資をダンジョンに持って行って……なんて言うのは、逆にお金と時間の無駄になっちゃう」
「だから許可されているわけか」
「そうそう」
話しながらのんびりと階段を降りる。
考えてみれば違和感なく会話しているが、ハルは十二歳の少女である。しかし問えば明瞭な答えが帰ってくる。その知識と頭の回転の早さは十二歳とは思えない。
(そりゃあ俺を十七とは思えないよなー)
他の人間もそうなのだろうか。それとも獣人だけが特別なのか。一番良いのはイアンパヌが特別であるという事だが、この世界で楽観的に考えるのは止めようと思うカムイであった。
「あの端にあるのがポータルだよ」
ハルが指し示した方を見れば、エレベーターくらいの大きさはある四角い箱が八つ設置してあった。
それらは遠目にも分かりやすいようにご丁寧に色付けしてある。
「あの手前の白いやつが、俺が行けるダンジョンに繋がっているわけか」
「うん、そうだよっ。ちなみにダンジョンにはすぐに行く? それともアイテムとか買って行く?」
「毒消しとか必須アイテムとかあったりするのか?」
「無いと思う。白のダンジョンはほとんどゴブリンしか出ないし」
カムイは先日の戦闘を思い出す。
緑色の小さな鬼。持っている武器はなまくらで、技も無くただ振り回すだけ。弓を扱っていたゴブリンは普通のゴブリンとは違ってかなりの技術であったが、的に当てるだけの二流だ。
そんな雑魚が何匹いようと危険な事にはならないだろう。
カムイはそう決断し、ハルにその考えを伝えた。
「分かった。じゃあこのまま行こっか」
真っ直ぐにポータルに向かう。エレベーターのような見た目だが自動ドアどころか扉もなかった。
「で、どうすんの?」
「そこに窪みがあるでしょ? ステータスプレートを置いてみて」
「ここか? ーーーーうぉ!?」
ハルに言われた通りステータスプレートを窪みに置いた途端、地面から青い粒子が湧き出て来た。そしてそれは上へ上へと昇って行く。見れば出入り口は真っ青で、外の様子は全く見えない。
それから十数秒ほどすると粒子の勢いは落ち着き、やがて完全に消えてなくなった。
入り口は真っ暗だ。青い粒子がかなり眩しかったためその所為なのか、本当に真っ暗なのか出てみないと分からない。
ハルは慣れているだろうから先に行かせるという選択肢もあるが、優れているとは言え十二歳の少女にそれをさせる事はカムイのプライドが許さなかった。
「よっと……お、明るいな」
ダンジョンの名が連想させる通り、人の手のかかっていなさそうな洞窟だった。
しかし光源があるように見えないのに何故かほんのりと明るかったり、天井まで二メートル、横幅も四メートル近い広さがある。天然の洞窟とは思えない大きさだった。
「そういえばダンジョンと聞いて何も考えずに来てみたものの、何をすればいいんだ? ボス撃破?」
「一応ボスと呼ばれる個体がいるダンジョンもあるけど、普通はお金稼ぎかなぁ。出て来る魔物を殺して、疲れたら帰る」
「冒険者っぽいな」
その自由奔放な感じは冒険者のイメージ通りだ。
カムイも取り敢えずは出て来た魔物を狩る事にする。
「お、早速ゴブリン発見」
数十メートル先にゴブリンの気配を感じ取り、そこまでのんびり向かう。
あんまり冒険っぽくは無いが、まあ最初のダンジョンはこんなものだろうと諦める。
「ほい」
刀を抜き、肉眼で確認出来る距離になってようやくこちらを警戒しだしたゴブリンに近付き横薙ぎに振るう。
その場にいたゴブリンは全部で四体。しかし相手になるわけもなく、呆気なくゴブリンは全滅した。
その流れは戦闘というよりも、ライン作業のような欠伸の出る単調作業であった。
「んな!?」
うん、つまらない、と早々に飽きたカムイの目の前で、死んだゴブリンが粒子となって地面に吸い込まれた。
「なんじゃこりゃ……」
突然の出来事に呆然としているカムイを尻目に、ハルはゴブリンの死体があった場所に行くと何かを拾って戻って来た。
「お兄ちゃん運がいいね! ドロップアイテムだよ」
はい、と手渡されたドロップアイテムを受け取る。それはステータスプレートの三倍ほどの大きさで、何らかの金属の塊だった。
「ここのダンジョンのゴブリンはね、五パーセントくらいの確率で鉄のインゴットを落とすんだー。ギルドで売ると大体100|s(サレム)になるよ」
「あー、そうか」
カムイは悩んだ。一体何から聞けばいいのか。
まず、何故ゴブリンの死体が消えたのか。しかもドロップアイテムを落としたのか。この二つは前回の戦闘では起こらなかった事だ。
そしてサレムとは何なのか。こちらはお金である事は分かるが、100sの価値を可能な限り正確に知りたいところだ。
だがその前に、前方から現れたゴブリン一団を倒す方が先だ。
職員はハルから書類と登録料を受け取ると、カムイに握り拳ほどの水晶玉を手渡す。
「これは?」
「真実の水晶と呼ばれるアイテムです。魔力を通した対象の年齢と性別種族、レベルが分かるようになっています」
(魔力、だと……!?)
魔力という事は魔法が使えるのだろう。
当然異世界なのだから魔法の一個や二個くらいあるはずだと予想はしていたが、それでも実際にある分かると嬉しいものがある。
しかし一つだけ問題があり、それは魔力の流し方が分からないという単純な事であった。
(まあいいや。取り敢えずやってみて駄目だったら聞こう)
「……ふんっ」
手の平に何となく力を集めるような感じで力むと、文字が浮かんだ。
「……18?」
水晶玉で分かるのは対象の年齢、性別、種族、レベルである。
実はカムイは孤児であり、知っていた誕生日は嘘。そのため本当の年齢は十八である、何て事は当たり前だが有り得ない。となるとそこから導かれる答えは、カムイのレベルが18という事である。
(あ、あれ? ハルのレベルって確か93だったようなーーーー)
「それではレベルを転写致しますので、失礼します」
職員の女性は呆然としているカムイの手元から水晶を取ると、着物をずらして胸元を開(はだ)けさせる。
そして水晶玉を胸に押し当てデコピンの要領でぴんっ、と弾くと、水晶玉に映っていたレベルがカムイの肌に転写された。そこにある文字は18では無く81だ。
「あー、なるほど! 鏡文字だったのかー。それなら納得……いかねえよ!」
バンッ、と音を立てて受付を叩くカムイだが、そんなものは慣れているのかちらりと一瞥するだけで、職員はそのまま奥に消えた。
「な、なあハル。この世界の人間の平均レベルって何だ?」
「人間? 冒険者じゃない人たちだと50くらいが平均かな」
「ほう、一般人の一・六倍のレベルというわけか」
なら上出来か、とはならなかった。
齢十四の段階で如月家の剣術を習得し、準師範代の称号を得た平成の神童。現代最強と謳われる祖父に「五百年早く生まれていれば歴史が変わっていた」と言わせた男が如月 朔である。
祖父にはまだ負けるが、剣を使った一対一の対人戦であれば国内で五本指に入る自信はあった。
そんなカムイのレベルが、高々一般人の一・六倍程度なはずが無い。しかも隣にいる十二歳の少女のレベル以下とは考えられなかった。
「……なあ、実際のところレベルって何だ? 偉そうに聞こえるかも知れないけど、強さという指標は有り得ない。もしそうなら、俺がこの程度のはずが無い」
これを言ったのがたまたま異世界に転移してしまった高校生であればただの戯言であるが、カムイであればそれは事実となる。そしてその事はハル自身も理解していた。
「うん。レベルは強さって言うよりも、経験の蓄積だね。ーーーーそれもただの経験じゃなくて、殺しの……ね」
遥か昔、イアンパヌにとって何かを殺すと上がるレベルは忌むべきものであった。
穢れの蓄積を示す値がレベルであり、高いレベルほど殺傷の証であるから、無駄を悪と知っているイアンパヌにとって良いものでは無かった。
そのため|神送り(イヨマンテ)を行うのは決められた一人で、その役職は特別なものーー向こうの世界で言うところの巫女ーーであった。
余談であるがその巫女は皆、尾が九本あったという。
「でも最近は穢神がいるからね。レベルの上昇は忌むべきものから誇るべきものに変わったんだ」
「……そんな歴史があったわけか」
それならばカムイは自身のレベルに納得出来た。あらゆる技術も経験もあるが、それはあくまでも模擬である。祖父との試合が決して経験値の無いものだとは思わないが、木刀と真剣に天と地ほどの差があるのは理解している。もしもカムイが行ってきた試合が命をかけた文字通り真剣試合であった場合、既に数千回殺されているからだ。
「それでも五つ下の女の子に負けているって事実は悔しい。頭で理解しても心が全力で拒否する」
冒険者で当分の路銀を稼いだらあとは屋台で貯金を蓄えつつ、ゆくゆくは飲食店を開業……と少しは考えていた。やはりお金を稼ぐには自分の得意分野で、しかも異世界であれば珍しい料理を出す店として繁盛間違い無し! と勝算もあった。
あったが、やはりカムイも|男の子(おのこ)である。このままでは引き下がれなかった。
それに剣術というのも当たり前だが得意分野だ。それで稼ぐ自信は十二分にあった。
「つーわけで、お金稼ぎはもちろん大事だが、今後の最優先目標はレベル上げとしたいと思います」
どんどんぱふぱふー、とセルフSEを付けながら宣言する。
「うん、いいと思うよ! お兄ちゃんならあっという間にお金も稼げるようになると思う!」
そんなやり取りをしていると奥から職員が戻って来る。その手には白色で名刺サイズの紙らしきものを持っていた。
「こちらをどうぞ。ステータスプレートと呼ばれるもので、身分証明書になりますので失くさないで下さい。失くした場合は規約に書いてあった金額を徴収させていただきます」
「あ、どうも」
カムイはステータスプレートを受け取った。それはひんやりと冷たく、何かの金属で出来ているようだ。
============
名前:カムイ
性別:男性
種族:人間
特権:冒険者
============
日本語で書いてあるのは真実を映しているからだろうか。職員の対応を見る限り何か変わりがあるわけでも無いため、恐らく見る者によって言語が変わるのだろう。
「随分と寂しい内容だな」
ステータス、なんて名前が付いているからてっきり攻撃力とかも書かれていると思ったカムイだが、そんな事は無かった。
「青になると一部能力の可視化が出来るようになりますが、あくまでも身分証代わりですのでホワイトはこんなものです」
カムイの呟きを耳にした職員がそんな事を口にする。
「ホワイト?」
「階級の事です。ギルドでの実績やレベルに応じてプレートの色が変化していきます」
白から始まり、青・黄・緑・赤・金と続く。
自分の家を持ったり店を出したりするには、当然ながらある程度の階級が必要となる。
身近な事で言えば図書館に入館するためにもこのステータスプレートが必要で、その際は青以上のプレートが必要となる。
「全然使えねえじゃねーか」
「ステータスプレートが赤になりますと、制限はありますが王城に入れたりもしますので精進下さい」
一通り説明が終わったのか、「では」とだけ告げて職員は自分の席へと戻って行った。
「確か送還魔法が使える人たちは城仕えだから、接触するなら赤色にしないとね!」
「……先が通そうだな」
一体いつになったら帰れるんだろうな、とカムイは溜め息を吐いた。
「取り敢えず受けられそうなクエストでも受けてみるか」
カムイがそう言うと、ハルは不思議そうに首を傾げた。
「クエスト?」
「え、クエストって無いの? 何か依頼とか。で、それを受けて報酬を得ると」
「クエストはあるよ? でも、冒険者は関係無いけど」
「…………へ?」
「冒険者が出来る事って、ダンジョンに入る事くらいだよー。何々をして欲しい、なんて依頼は一階で適当な人たちに斡旋されるわけだし」
「……うそん」
冒険者ってなんだっけ、とゲシュタルト崩壊が起きそうになるカムイであった。
(……冒険者って本当に底辺の人種なんだな)
「もちろん冒険者もクエストは受けられるけど、別に冒険者の特権ってわけじゃないから一階の受付で手続きするんだ。でも白のお兄ちゃんじゃ受けられるものって無いかも」
「そうか……じゃあクエストは諦めて、ダンジョンにでも行くか……ちなみにダンジョンって、ここから行ける距離なの?」
冒険者と言えばクエストだが、受けられないものは仕方が無い。それにまだダンジョンという希望もあるし、カムイはそれに賭ける事にする。
「当然! ダンジョンはポータルが許可されているからね!」
「ポータル?」
また新しい単語が出て来る。異世界ってこんなにややこしい物だっけ? と思いながらもハルの説明に耳を傾ける。
ポータルというのは人を他の場所に転送する設置型のアイテム。それはギルドの一階に設置してあり、冒険者の特権を持っているステータスプレートを使う事で、ポータルの使用が可能になる。
「前言ってた経済がどうのこうのってのは良いのか?」
「うん。だってダンジョンはものっっすごく遠い場所にあるから、他の街で得た物資をダンジョンに持って行って……なんて言うのは、逆にお金と時間の無駄になっちゃう」
「だから許可されているわけか」
「そうそう」
話しながらのんびりと階段を降りる。
考えてみれば違和感なく会話しているが、ハルは十二歳の少女である。しかし問えば明瞭な答えが帰ってくる。その知識と頭の回転の早さは十二歳とは思えない。
(そりゃあ俺を十七とは思えないよなー)
他の人間もそうなのだろうか。それとも獣人だけが特別なのか。一番良いのはイアンパヌが特別であるという事だが、この世界で楽観的に考えるのは止めようと思うカムイであった。
「あの端にあるのがポータルだよ」
ハルが指し示した方を見れば、エレベーターくらいの大きさはある四角い箱が八つ設置してあった。
それらは遠目にも分かりやすいようにご丁寧に色付けしてある。
「あの手前の白いやつが、俺が行けるダンジョンに繋がっているわけか」
「うん、そうだよっ。ちなみにダンジョンにはすぐに行く? それともアイテムとか買って行く?」
「毒消しとか必須アイテムとかあったりするのか?」
「無いと思う。白のダンジョンはほとんどゴブリンしか出ないし」
カムイは先日の戦闘を思い出す。
緑色の小さな鬼。持っている武器はなまくらで、技も無くただ振り回すだけ。弓を扱っていたゴブリンは普通のゴブリンとは違ってかなりの技術であったが、的に当てるだけの二流だ。
そんな雑魚が何匹いようと危険な事にはならないだろう。
カムイはそう決断し、ハルにその考えを伝えた。
「分かった。じゃあこのまま行こっか」
真っ直ぐにポータルに向かう。エレベーターのような見た目だが自動ドアどころか扉もなかった。
「で、どうすんの?」
「そこに窪みがあるでしょ? ステータスプレートを置いてみて」
「ここか? ーーーーうぉ!?」
ハルに言われた通りステータスプレートを窪みに置いた途端、地面から青い粒子が湧き出て来た。そしてそれは上へ上へと昇って行く。見れば出入り口は真っ青で、外の様子は全く見えない。
それから十数秒ほどすると粒子の勢いは落ち着き、やがて完全に消えてなくなった。
入り口は真っ暗だ。青い粒子がかなり眩しかったためその所為なのか、本当に真っ暗なのか出てみないと分からない。
ハルは慣れているだろうから先に行かせるという選択肢もあるが、優れているとは言え十二歳の少女にそれをさせる事はカムイのプライドが許さなかった。
「よっと……お、明るいな」
ダンジョンの名が連想させる通り、人の手のかかっていなさそうな洞窟だった。
しかし光源があるように見えないのに何故かほんのりと明るかったり、天井まで二メートル、横幅も四メートル近い広さがある。天然の洞窟とは思えない大きさだった。
「そういえばダンジョンと聞いて何も考えずに来てみたものの、何をすればいいんだ? ボス撃破?」
「一応ボスと呼ばれる個体がいるダンジョンもあるけど、普通はお金稼ぎかなぁ。出て来る魔物を殺して、疲れたら帰る」
「冒険者っぽいな」
その自由奔放な感じは冒険者のイメージ通りだ。
カムイも取り敢えずは出て来た魔物を狩る事にする。
「お、早速ゴブリン発見」
数十メートル先にゴブリンの気配を感じ取り、そこまでのんびり向かう。
あんまり冒険っぽくは無いが、まあ最初のダンジョンはこんなものだろうと諦める。
「ほい」
刀を抜き、肉眼で確認出来る距離になってようやくこちらを警戒しだしたゴブリンに近付き横薙ぎに振るう。
その場にいたゴブリンは全部で四体。しかし相手になるわけもなく、呆気なくゴブリンは全滅した。
その流れは戦闘というよりも、ライン作業のような欠伸の出る単調作業であった。
「んな!?」
うん、つまらない、と早々に飽きたカムイの目の前で、死んだゴブリンが粒子となって地面に吸い込まれた。
「なんじゃこりゃ……」
突然の出来事に呆然としているカムイを尻目に、ハルはゴブリンの死体があった場所に行くと何かを拾って戻って来た。
「お兄ちゃん運がいいね! ドロップアイテムだよ」
はい、と手渡されたドロップアイテムを受け取る。それはステータスプレートの三倍ほどの大きさで、何らかの金属の塊だった。
「ここのダンジョンのゴブリンはね、五パーセントくらいの確率で鉄のインゴットを落とすんだー。ギルドで売ると大体100|s(サレム)になるよ」
「あー、そうか」
カムイは悩んだ。一体何から聞けばいいのか。
まず、何故ゴブリンの死体が消えたのか。しかもドロップアイテムを落としたのか。この二つは前回の戦闘では起こらなかった事だ。
そしてサレムとは何なのか。こちらはお金である事は分かるが、100sの価値を可能な限り正確に知りたいところだ。
だがその前に、前方から現れたゴブリン一団を倒す方が先だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる