終わる恋と知っていても

早桃 氷魚(さもも ひお)

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第4話 幸せじゃない恋

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だから、もっと笑ってほしい。
アイドルになりたいって思ったとき、背中を押してくれたのはシキだから。
今度は、オレがシキの夢とか、生きがいを見つけてあげたいなって思ってる。
「たっちゃんさ。ほんっと、下手くそだよね」
「ええっ! マジで!?」
「マジだよ。何であんな下手なの? 振り付けも間違ってるし」
「いや~、だって今回の難しくてさ。覚えるの、ちょー必死だったんだよ!」
「必死にやって、あの程度?」
「だ、だってさ~」
「速水さんの足を引っぱるなよ」
「引っぱってないよ~!」
「この前の生放送で、立ち位置を間違えてたよね?」
「うぐッ……よく見てるね」
「たっちゃんじゃなくて、速水さんを見てるからだよ」
「……ごめんなさい」
シキに睨まれて、大人しく謝る。
オレ達がデビューした頃からずっと彗星を応援してくれるけど、シキは景の大ファンだから、オレにはきびしいんだよね。
でも新曲を出したら、いつもメールくれるし……まあ、だいたいオレの評価は辛口だけど。
「あ、次はオレだ~!」
「まだ歌うんだ……」
「シキも、どんどん歌って~!」
「僕は、もういいよ」
シキはウーロン茶を飲みながら備え付けのタブレットを触っている。
あまり歌わないけど、シキは歌が上手なんだ。
たぶん、オレより……。
だから、音やテンポが外れてるとすぐつっこまれるし、指摘が鋭いから、ときどきメンバーの天馬に怒られてる気分になる。
それにシキは、歌のことだけじゃなくて、テレビの仕事だって……彗星としての仕事はたくさんあるのに、ほとんど全部チェックしてるんだ。
まあ景目当てだってのは分かってるけど、よかったところもダメなところも、オレにはストレートに言ってくれるから、けっこうありがたいんだよね。
でも、シキ自身は……あまり外に出たがらないとか、ずっとフリーターしてることとか、心配は色々あるんだけど。
オレがいちばん心配なのは、シキの恋人のこと。
いつ、そういう人ができたのかは知らないけど、気がついたら、シキは幸せじゃない恋をしてた。
恋人のことが大好きだから、邪魔になりたくないって。
会いたいときに会えなくてもガマンして、相手が会いたいって思ってくれたときだけ、会うんだって。
相手の都合にだけ合わせるなんて、そんなの恋じゃない。
そんな相手やめなよって言ったけど、シキは首を横に振った。
『僕の勝手だろ?』
笑いながらそう言って、それきり何も話してくれなくなった。
ねえシキ。
今でも、その人と続いてるの?
聞きたいけど、きっとシキは答えてくれない。
こうやって、時々シキに会いに行くのは、シキが心配だからなんだよ。
こんなこと言ったらシキは怒るから、言わないけど。
「……たっちゃん、僕、帰るね」
急に、シキがソファーから立ち上がる。
素早くポケットにスマホを押しこんだのを、見逃さなかった。
「え? 何で帰るの?」
「用事ができた」
答えながら、カバンを持って出ていこうとする。
「シキ! ちょっと待ってよ!」
「あ、おごりだよね?」
「それはいいけど! ねえ、何の用事なの!?」
「バイト先でトラブルがあったの。じゃあね」
オレが呼び止める間もなく、シキは出て行っちゃった。
バイト先で、なんてウソに決まってる。
あのスマホ……そういやシキ、メール打ってたような気がするし。
もしかして、例の恋人?
会いたいってメールが来たのかな?
「……シキのバカっ」
どうして、すぐに行っちゃうんだろう。
相手の都合に振りまわされて。
幸せじゃない恋なんて、恋じゃないよシキ。
一人になったら、ぜったい泣いちゃうくせに……。
だけどオレは、シキのために何もしてあげられない。
オレはシキから、たくさん助けてもらってるのにね。
「……ごめんね」
天馬みたいに気の利く性格だったら、シキの話、もっと上手に聞いてあげられるのかな。
友達のワタちゃんみたいに、もっとたくさん言葉を知っていたら……シキがつらい恋をしてるのを、止めてあげられるのかな。
オレにできるのは、こうやって、シキを外に連れ出すことだけ。
いつか、シキが……つらい恋なんか忘れられるように、祈ることしかできないんだ。



◆ 詩季 ◆



急いでマンションに戻ったけど、部屋の中を片付ける前に速水さんが来てしまった。
今日は会う予定がなかったから散らかしたままだ。
ちゃんと掃除しておけばよかった。
後悔しても、もう遅い。
「ごめんね、速水さん。散らかってて……」
「それはいいけど、詩季、どっか出かけてたの?」
「あっ、……ちょっと、買い物に」
「こんな時間に、買い物?」
「うん。必要な物があったから」
笑顔で頷いたら、速水さんは「そっか」とだけ言って何も聞かなかった。
ホッと胸をなで下ろす。
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