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1章
異世界転生、きましたわ
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睡眠、空腹、尿と便意、不快感、そして泣く。0歳はその繰り返しで、なにかを考えるということは難しい。そんな中でもジェシカはなんとなく前世日本人の記憶があることを思い出していた。
それもどこの誰であるとはっきり覚えているわけではなく、なんだかそんな気がする程度のおんぼらとしたものだ。ごく普通の人生を送り、最後は高齢で入院をし、そのまま死んだ。
曖昧な記憶でもあることに感謝したのは、ひとえにこの世界の住人が自分とは大きく異なる見た目のせいだ。
恐らく生後数カ月を経て、だんだんと視力が上がり、ジェシカを覗き込んでは何かを楽しげに話している複数の人々を確認できるようになった。
話している言葉はよくわからないながら、自分に「ジェシカ」と話しかける声から自分がジェシカであると認識できるようになり、おっぱいをくれる乳母のような人はサラシャ、度々やってくる子供はジェロールで兄、毎日抱き上げにやってくる大きな男性が父のライガ、抱っこをしながらお話をしてくれるのが母のミュロ。
みんな優しい声で話しかけてくれる、とても優しい人たちだとわかる。
ただ、見た目が全員猫なのだ。
取り敢えずジェシカに会いにやってくる人々はみんな猫だ。
正確には猫科だ。
猫耳と尻尾があるだけ、とかではなく、二足歩行の猫及び猫科の動物が服を着ている。
大きさは人間の身長と同じくらいである。
サラシャはサビ猫だ。ちょっとふっくらとしてとても可愛い。
兄のジェロールは黒豹の子供だ。子供の猫科特有の愛らしさで尻尾をふりふりとしながらまん丸の青い目をジェシカに注ぐ。とても可愛い。
父は黒豹の成獣だ。がっしりとした体ときりっとした顔と目つき。とてもかっこいいがジェシカを抱き上げるときは尻尾をふりふりさせている。とても可愛い。
母はしろがね色のチンチラだ。もっふもふ。抱っこされると柔らかく極上の毛並みである。とても可愛い。
最初はライトノベルによくある異世界転生で、獣人がいる国に生まれたのかしらと考えた。しかし自分の手を見る。明らかに人間だ。頑張ってばんざーいをして耳に触れる。特に猫耳ではない。
自分だけが人間だった。
まったく違う種族になれないことは残念だったが、もう一度人間として生きるのは別に構わなかった。ただ、周囲とは違う種族であるのだから自分は養子か何かかもしれないと思った。
そしてこんなに優しくしてくれるジェシカの家族は、なんて愛情深いんだろうと感動した。
よってジェシカはなに不自由なくすくすくと育った。どうやらジェシカの家は公爵という身分らしく、家は未だに行ったことがない部屋があるほど広い。
前世の記憶がなければもしかしたら成長をして自分と周囲の見た目の違いに苦悩したかもしれないが、以前も今世も人間になっただけ、前からある多様性の価値観がジェシカを助けた。
今日も今日とて、ジェシカはどんな遊びをしようかと朝早くからパチリと目を覚まして起き出した。2歳となり、歩みもよちよちながらしっかりとしてきた。
広いベッドからよいしょと降りて、チリンチリンとベルを鳴らす。
ノック音のあと、侍女が1人入ってきた。
「ジェシカお嬢様、おはようございます。今日もお一人で起きることができたのですね」
そう言って微笑んだ(ように見えるが猫の顔なのではっきりとはわからない)のは、歩けるようになってからジェシカの専属となったミラだ。ほっそりとした白黒柄でお鼻周りが黒い模様、黒ワンピースと白いエプロンドレスでそそと歩いてくる。
「ミラ、おはよう」
抱っこをせがむように両手をあげると、心得たようにミラは抱き上げ大きなドレッサーの前に座らせた。
どこからどう見てもジェシカはやっぱり人間だった。プラチナの髪と輝くブルーの青い瞳、ふっくらとしたほっぺたにぷるぷるの唇、自慢であるが我ながら大変な美幼女である。
ミラは完全に猫の手であるにも関わらず、器用にブラシをもってジェシカの髪をとく。そして最近頻繁に言われるようになった言葉をかけられる。
「美しい御髪ですわ、奥様によく似ておいでです」
これである。
ジェシカが大きくなるにつれ、使用人たちから髪は母譲り、目は父譲りと言われるようになったのだ。
小さな子供であるし、たとえ種族が違っても父母に似ていると言うことでジェシカだけ人間であることに気を遣っているのではと最初は思っていた。
しかし、本当に誰も、人間であることに突っ込むものがいない。まるでまったく同じ仲間であるようにジェシカを見ているのだ。のどに小骨が刺さったような違和感は、ついに両親の会話によって決定的となる。
「ミラは健康で賢く、優しい子供だ。君は本当にいい子を生んでくれた」
「あら、みなの愛情あってのことですわ、旦那様」
これである。
ジェシカは母のミュロから生まれた。よって養子説はなくなり、みんな血の繋がった家族ということで喜ばしい限りである。では、ジェシカだけが人間であるのはいったいどういうことであろうか。
それもどこの誰であるとはっきり覚えているわけではなく、なんだかそんな気がする程度のおんぼらとしたものだ。ごく普通の人生を送り、最後は高齢で入院をし、そのまま死んだ。
曖昧な記憶でもあることに感謝したのは、ひとえにこの世界の住人が自分とは大きく異なる見た目のせいだ。
恐らく生後数カ月を経て、だんだんと視力が上がり、ジェシカを覗き込んでは何かを楽しげに話している複数の人々を確認できるようになった。
話している言葉はよくわからないながら、自分に「ジェシカ」と話しかける声から自分がジェシカであると認識できるようになり、おっぱいをくれる乳母のような人はサラシャ、度々やってくる子供はジェロールで兄、毎日抱き上げにやってくる大きな男性が父のライガ、抱っこをしながらお話をしてくれるのが母のミュロ。
みんな優しい声で話しかけてくれる、とても優しい人たちだとわかる。
ただ、見た目が全員猫なのだ。
取り敢えずジェシカに会いにやってくる人々はみんな猫だ。
正確には猫科だ。
猫耳と尻尾があるだけ、とかではなく、二足歩行の猫及び猫科の動物が服を着ている。
大きさは人間の身長と同じくらいである。
サラシャはサビ猫だ。ちょっとふっくらとしてとても可愛い。
兄のジェロールは黒豹の子供だ。子供の猫科特有の愛らしさで尻尾をふりふりとしながらまん丸の青い目をジェシカに注ぐ。とても可愛い。
父は黒豹の成獣だ。がっしりとした体ときりっとした顔と目つき。とてもかっこいいがジェシカを抱き上げるときは尻尾をふりふりさせている。とても可愛い。
母はしろがね色のチンチラだ。もっふもふ。抱っこされると柔らかく極上の毛並みである。とても可愛い。
最初はライトノベルによくある異世界転生で、獣人がいる国に生まれたのかしらと考えた。しかし自分の手を見る。明らかに人間だ。頑張ってばんざーいをして耳に触れる。特に猫耳ではない。
自分だけが人間だった。
まったく違う種族になれないことは残念だったが、もう一度人間として生きるのは別に構わなかった。ただ、周囲とは違う種族であるのだから自分は養子か何かかもしれないと思った。
そしてこんなに優しくしてくれるジェシカの家族は、なんて愛情深いんだろうと感動した。
よってジェシカはなに不自由なくすくすくと育った。どうやらジェシカの家は公爵という身分らしく、家は未だに行ったことがない部屋があるほど広い。
前世の記憶がなければもしかしたら成長をして自分と周囲の見た目の違いに苦悩したかもしれないが、以前も今世も人間になっただけ、前からある多様性の価値観がジェシカを助けた。
今日も今日とて、ジェシカはどんな遊びをしようかと朝早くからパチリと目を覚まして起き出した。2歳となり、歩みもよちよちながらしっかりとしてきた。
広いベッドからよいしょと降りて、チリンチリンとベルを鳴らす。
ノック音のあと、侍女が1人入ってきた。
「ジェシカお嬢様、おはようございます。今日もお一人で起きることができたのですね」
そう言って微笑んだ(ように見えるが猫の顔なのではっきりとはわからない)のは、歩けるようになってからジェシカの専属となったミラだ。ほっそりとした白黒柄でお鼻周りが黒い模様、黒ワンピースと白いエプロンドレスでそそと歩いてくる。
「ミラ、おはよう」
抱っこをせがむように両手をあげると、心得たようにミラは抱き上げ大きなドレッサーの前に座らせた。
どこからどう見てもジェシカはやっぱり人間だった。プラチナの髪と輝くブルーの青い瞳、ふっくらとしたほっぺたにぷるぷるの唇、自慢であるが我ながら大変な美幼女である。
ミラは完全に猫の手であるにも関わらず、器用にブラシをもってジェシカの髪をとく。そして最近頻繁に言われるようになった言葉をかけられる。
「美しい御髪ですわ、奥様によく似ておいでです」
これである。
ジェシカが大きくなるにつれ、使用人たちから髪は母譲り、目は父譲りと言われるようになったのだ。
小さな子供であるし、たとえ種族が違っても父母に似ていると言うことでジェシカだけ人間であることに気を遣っているのではと最初は思っていた。
しかし、本当に誰も、人間であることに突っ込むものがいない。まるでまったく同じ仲間であるようにジェシカを見ているのだ。のどに小骨が刺さったような違和感は、ついに両親の会話によって決定的となる。
「ミラは健康で賢く、優しい子供だ。君は本当にいい子を生んでくれた」
「あら、みなの愛情あってのことですわ、旦那様」
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