花喰いの令嬢はバラを食む

九鈴小都子

文字の大きさ
3 / 11

野バラが王宮にきた理由 2

しおりを挟む
「君、絶対喰花族だよね!?うわあー、王宮の伝承で見たことがあるけど実際に会うのははじめてだ。ちょっと一緒にきてくれないか?話を聞かせて欲しいんだ」

話を聞かせて欲しいと言いながら、その男は嫌だと言っても腕を離さない雰囲気だ。一応無言の抵抗を試みた野バラだが、全く意に介した様子もないためフードをかぶり直し腕を引かれて歩き出した。
近くの食堂に入ると、イスに野バラを座らせ注文をとりにきた女将へ上機嫌に声をかけた。

「やあ、ちょっと気分がいいから酒を飲もうかな、あと牛の煮込みも。あ、きみはどうする?お酒は飲めるかい?」
「いりません」

取り付く島もないほどそっけなく言ったにもかかわらず、男はまったく意に介した様子もみせずに笑顔でうなずいた。

「じゃあなにかジュースでも。ここの南国はフルーツが豊富だからおいしいジュースがあるんだよ」

(そんなこと知ってますけど?こいつ人の話も聞けなければわたしがこの町にいる理由も予想をつけることができないの?)

なにもかも受け入れられない男、と思いながらぴくりとも表情を変えずに黙っていると、さすがにまずいと思ったのか男はちょっと焦ったように話し出した。

「あの、君になにかしようと思って声をかけたわけじゃないんだ。ただちょっと話を、そう話を聞きたいと思って」
「そもそもあなた誰」
「あ……」

自分が自己紹介をしていないことにやっと気づき、男は慌てて自己紹介を始めた。

「すまない、俺はイルミネ・スベトって言うんだ。ギブラン王国の王宮で歴史研究をしていて、君たち喰花族の資料を読んでずっと会いたいと思っていたんだ。名前を教えてもらえるかい?」
「……野バラ」
「野バラちゃん!可愛い名前だね、王宮の歴史書には喰花族は植物から名前をつけるのが伝統と言っていたけれどそうなった由来はわかってる?あ、そういえば君どこに住んでるのかな、ここらへんに住んでるの?もしかして喰花族が住んでる村とかある?もしよかったらお邪魔させてもらえたら嬉しいんだけど」

運ばれてきた食事をにこにこと食べながら、またもお願いのように見せかけて強制的な命令をするイルミネ。きっと今までお願いを聞き入れてもらえないことはなかったのだろう、すでに行く気満々のようだった。

「わたしは旅でここに寄っただけですので……」
「嘘だね」

野バラが適当に誤魔化そうとしたら、にこにことした目を今度はぎらぎらさせてイルミネは断定した。

「君のその荷物は明らかにどこか定住していて買い出しにでてきたものでしょ。どこなの、教えてよ」

まったく引く気のない男に、野バラは目の前で盛大に舌打ちをした。そんな態度をとられたことがなかったのか、イルミネは目を丸くして野バラを見つめた。

「お前らみたいなのがいるから言わないんだよ」
「え?ええと」
「もう一回言いますね、お前らみたいなのがいるから居場所を教えないんだよ!」

店内に響き渡る大声で怒鳴りつけると、当然周囲の客たちは何事かとこちらを見るがかまわず野バラは続ける。

「いい?あんた自分が何してるかわかってるの?わかってないわよね、行っとくけど勝手に手を掴んで嫌がってる私を引っ張って店に連れ込んだあげく住む場所教えろなんて犯罪者と同じなんですけど!?ねぇいてる意味わかる?」

ぽかんとするイルミネにジュースを思いっきりぶっかけて、「お前みたいなやつには死んでも教えないから」と伝えるとやっと頭が回り始めたのかおろおろとしはじめたが、彼が何かを言う前に数人の男たちが駆け込んできて野バラをテーブルに押さえつけた。

「この方に暴行を働いたようだな、本来お前のような者が口をきいていい相手ではないのだ」
「ちょ、おい君たち穏便に」
「若、こいつを研究したいなら連れ帰って閉じ込めておけばいいでしょう。ここは目立ちます」

そう言われ、イルミネの様子が明らかに揺らいだ。その案に抗い難い魅力を感じたのだろう。

「……乱暴に扱うのはやめてくれ、丁重に」
「なにが丁重によクズ、誘拐犯、私を解体でもするつもり?」
「おい!」
「いいから、やめるんだ。野バラ、これは貴重な種族である君を保護するための措置なんだ、どうかわかってくれ」

ふざけんなよ、とその綺麗な顔に唾でも吐きかけてやりたい衝動にかられながら、野バラは連れていかれることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~

紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。 「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。 だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。 誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。 愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...