花喰いの令嬢はバラを食む

九鈴小都子

文字の大きさ
8 / 11

野バラが王宮にきた理由 7

しおりを挟む
「お前!いつまで食事をしているのです⁉は、花を食べるなど汚らわしい」
「まあ、肉を食べるのは汚らわしくないと言うの?あなたたち、生き物を殺して死体を食べているのでしょう?」
「な、なんですって⁉」

これ見よがしにバラを食べながら野バラが軽口をたたくと、その女は顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。

「だいたいわたしは躾なんて頼んでないし、そんなことされるくらいなら出ていくつもりなんだけど?」
「栄えある公爵家に招かれておいて、なんと恩知らずな!いいですか、頼まれたからにはわたしがあなたの面倒を見させていただきますからね」

女は意地でも野バラを叩きなおすと決意してるのか鼻息荒く伝える。

「わたしは公爵家侍女長のサブリナ・リリス、これよりあなたはわたしが預かり貴族界にでても大丈夫なように教育を施します」

(貴族界に出る気なんかさらさらないんだけど)

本当に、いったいイルミネは何を言ったのだろうと野バラは溜息をついた。




ぞろぞろとやってきた公爵家の本家御一行は荷物を次々と運び込んだ。イルミネは自分の研究のために大量の物資を依頼していたようでほくほくとした顔でいたが、サブリナを見るとぱっと顔を輝かせた。

「サブリナ!来てくれてありがとう」
「ぼっちゃんたってのご依頼ですもの、このサブリナ身を粉にしてお勤めする所存ですわ」

イルミネの前では野バラを罵ったことなどなにもなかったかのように、サブリナは「ほほほ」と朗らかな笑顔で答えていた。イルミネはすっかり信じ切っているようで、

「さすが、サブリナだったら野バラの面倒を良くみてくれると思ってたんだ。彼女は希少な部族でね、一緒に陛下へご挨拶をしたいし王宮の研究室にも行きたいんだよね」
「おまかせください、誰もが惚れ惚れするような素晴らしいご令嬢に、このわたしが仕立ててみせます」
「やっぱり君なら安心できるね!よろしく頼むよ」

(わたしはそんな話を欠片も聞いたことがないんだけど?)

腕組みをして不愉快げにその様子を見つめていると、気づいたイルミネはまるで悪気なさそうにサブリナを連れて野バラの元にやってきた。

「野バラ、彼女はサブリナと言って君のマナー教育をお願いしたから。これで王宮にも行けるようになるよ」
「はじめまして、野バラ様」

当然のように初対面の振りをするサブリナを野バラは鼻で笑ってやった。しかしさすが公爵家の侍女長ともなれば本家の人間の前でボロは出さないのか表情を変えようとはしなかった。まあ目に力が入っているのは見て取れたのだが。

(やっぱりぼっちゃんはぼっちゃんね、こちらのことなど何も考えずに自分のやりたいことを決めるし)

野バラは二人を無視してどうしようかと指を頬にあてた。

(これ以上窮屈な思いをする必要もないのだけど……わたしの人生がこんなことになったやつら全員に仕返ししてもいいんじゃないかしら。最高の三食昼寝付き、ただ小うるさい奴と勉強が増えるくらいか、うーん)

「ちょっとあなた、ぼっちゃんを無視するなど」
「まあいいでしょう」
「は?」
「あなたの教育を、受けてあげる、わ。知識はあって無駄なことはないものね」

あまりの言いように唖然とするサブリナを、イルミネはまあまあとなだめる。

「野バラ、これから君を導いてくれる人を呼んだんだから……」
「はいはい」

肩をすくめた野バラはすいと踵を返して自室に戻るために歩き出した。サブリナはその様子を忌々しそうに睨みつけていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

メリザンドの幸福

下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。 メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。 メリザンドは公爵家で幸せになれるのか? 小説家になろう様でも投稿しています。 蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

処理中です...