9 / 11
野バラが王宮にきた理由 8
しおりを挟む
翌日から野バラの教育は始まった。
始まったからと言って野バラはいつもの生活習慣を改めるわけではなく、朝起きたら湯を浴びてゆっくりとフルーツや花を食べ、スアラに身支度を整えてもらっている間に読書をする。
しゃっきりとした意識になると講義を受ける部屋へ向かい、スアラが扉を開けるとこれでもかと顎をあげたサブリナが待ち構えていた。
「遅い!今日からマナーを始めると言ったはずです!」
「いつから始めるかなんて聞いてないもの、だったらいつでもいいじゃない」
「教えを乞う者であるならが敬意を見せなさい!まったくこれだから得体の知れぬ蛮族は」
ぐちぐちと文句を言いながら「そこに座りなさい」と椅子を指したサブリナは、今後の予定を話し始めた。
「今後1ヵ月、必要最低限ではありますがマナーと教養を教え込みます。一月後公爵家へ向かいご挨拶をすることが叶います、光栄に思いなさい。本来あなたのような未熟な平民が顔を合わせていい方々ではないのですがね」
じゃあ挨拶しなくてもいいじゃない、と内心文句を言いつつもこれも体験よねと野バラは気軽に考えていた。
「背筋が曲がっています!もう一度」
ひたすらにお辞儀をさせられた野バラは早々に飽き飽きしていた。サブリナの手本を見て同じようにするも違うと怒鳴ら再度させられる。このマナー教育から抜け出すことができないでいた。
「飽きた」
「無駄口を叩くんじゃありません!お前は言われた通りにすればいいのです。あなた、王宮に入るのですよ、あなたが酷い有様では公爵家が恥をかくのですからね!」
正直そこはどうでもいいと思っている野バラは話半部に聞いて、とにかく早く終わらせようと必死にやり続けた。
「よろしい、では小休憩のあと、次は歩く際の足運びについてです」
(足の動かし方まで学ぶの……)
体験とは言うが、やっぱり逃げるべきか。もんもんと迷いながらも意外と真面目に続け、1ヵ月たったころには「はぁ、このレベルでは本来表には出せませんが……」とサブリナは言いながらも一応の合格を出したのだった。
そうして王都にある公爵家へ向かう時になって、野バラはイルミネの研究室にやってきていた。
「やっと王都へ向かえるね!楽しみだなあ、あっちの仲間たちに君を紹介するの」
「……そう」
「俺はこっちを引き払う準備をするから、後で向かうからね。向こうでのんびり待っててよ」
「本当にのんびり待てるのかしら」
「君を丁重に扱うようにって伝えてあるから!大丈夫、問題ないよ」
そう言ってやってきたはずのサブリナは酷い態度だったわけだが、イルミネは気付いていない。基本的に下の者が自分に悪意を向けるはずがないと思っているのだ。
「じゃあ、あなたにはわたくしたち喰花族が抱えている最後の秘密を教えてあげるわ」
「え⁉そんなものがあるの⁉」
目を輝かせるイルミネに向かってにっこりと笑った野バラは、ぱっと両手を上に舞い上げた。
「……今、いったいなにを……!!?」
不思議そうに首をかしげていたイルミネだったが、突然目を見開いたままバタンと床に倒れ込んだ。ピクリとも動くことができない体に驚愕している様子を野バラはしゃがんで覗き込み、きゅっと前髪を握って上に引き上げた。
「わたくしたちはね、植物から毒も薬も創り出すことができるの。逃げようと思えばこれをばら撒いてあなたの前から消えることは簡単だわ。でも逃げない。なぜだかわかる?」
野バラはイルミネの顔にぐっと顔を近づけてにやりと背筋が凍るような笑みを浮かべた。
「人生を台無しにしたこと、許してないから。あなたもあなたの家族も国の中枢にいる人たちも、みんな仕返ししてやろうと思って」
前髪から手を放すとがくりとイルミネの体が落ちる。痺れ粉は全身くまなくしびれる代物で、しばらくは食事もしにくいし声も出しにくいだろう。
「心配しなくてもその症状は数日間でもとの状態に戻るわ。だからってあなたの実家や王宮に余計なことは伝えないことね、手が滑って致死毒をばら撒いてしまうかもしれないもの。いい?邪魔はせずにいることよ、そしてわたくしのようなおかしな生き物に手を出したことをせいぜい公開してなさいな」
始まったからと言って野バラはいつもの生活習慣を改めるわけではなく、朝起きたら湯を浴びてゆっくりとフルーツや花を食べ、スアラに身支度を整えてもらっている間に読書をする。
しゃっきりとした意識になると講義を受ける部屋へ向かい、スアラが扉を開けるとこれでもかと顎をあげたサブリナが待ち構えていた。
「遅い!今日からマナーを始めると言ったはずです!」
「いつから始めるかなんて聞いてないもの、だったらいつでもいいじゃない」
「教えを乞う者であるならが敬意を見せなさい!まったくこれだから得体の知れぬ蛮族は」
ぐちぐちと文句を言いながら「そこに座りなさい」と椅子を指したサブリナは、今後の予定を話し始めた。
「今後1ヵ月、必要最低限ではありますがマナーと教養を教え込みます。一月後公爵家へ向かいご挨拶をすることが叶います、光栄に思いなさい。本来あなたのような未熟な平民が顔を合わせていい方々ではないのですがね」
じゃあ挨拶しなくてもいいじゃない、と内心文句を言いつつもこれも体験よねと野バラは気軽に考えていた。
「背筋が曲がっています!もう一度」
ひたすらにお辞儀をさせられた野バラは早々に飽き飽きしていた。サブリナの手本を見て同じようにするも違うと怒鳴ら再度させられる。このマナー教育から抜け出すことができないでいた。
「飽きた」
「無駄口を叩くんじゃありません!お前は言われた通りにすればいいのです。あなた、王宮に入るのですよ、あなたが酷い有様では公爵家が恥をかくのですからね!」
正直そこはどうでもいいと思っている野バラは話半部に聞いて、とにかく早く終わらせようと必死にやり続けた。
「よろしい、では小休憩のあと、次は歩く際の足運びについてです」
(足の動かし方まで学ぶの……)
体験とは言うが、やっぱり逃げるべきか。もんもんと迷いながらも意外と真面目に続け、1ヵ月たったころには「はぁ、このレベルでは本来表には出せませんが……」とサブリナは言いながらも一応の合格を出したのだった。
そうして王都にある公爵家へ向かう時になって、野バラはイルミネの研究室にやってきていた。
「やっと王都へ向かえるね!楽しみだなあ、あっちの仲間たちに君を紹介するの」
「……そう」
「俺はこっちを引き払う準備をするから、後で向かうからね。向こうでのんびり待っててよ」
「本当にのんびり待てるのかしら」
「君を丁重に扱うようにって伝えてあるから!大丈夫、問題ないよ」
そう言ってやってきたはずのサブリナは酷い態度だったわけだが、イルミネは気付いていない。基本的に下の者が自分に悪意を向けるはずがないと思っているのだ。
「じゃあ、あなたにはわたくしたち喰花族が抱えている最後の秘密を教えてあげるわ」
「え⁉そんなものがあるの⁉」
目を輝かせるイルミネに向かってにっこりと笑った野バラは、ぱっと両手を上に舞い上げた。
「……今、いったいなにを……!!?」
不思議そうに首をかしげていたイルミネだったが、突然目を見開いたままバタンと床に倒れ込んだ。ピクリとも動くことができない体に驚愕している様子を野バラはしゃがんで覗き込み、きゅっと前髪を握って上に引き上げた。
「わたくしたちはね、植物から毒も薬も創り出すことができるの。逃げようと思えばこれをばら撒いてあなたの前から消えることは簡単だわ。でも逃げない。なぜだかわかる?」
野バラはイルミネの顔にぐっと顔を近づけてにやりと背筋が凍るような笑みを浮かべた。
「人生を台無しにしたこと、許してないから。あなたもあなたの家族も国の中枢にいる人たちも、みんな仕返ししてやろうと思って」
前髪から手を放すとがくりとイルミネの体が落ちる。痺れ粉は全身くまなくしびれる代物で、しばらくは食事もしにくいし声も出しにくいだろう。
「心配しなくてもその症状は数日間でもとの状態に戻るわ。だからってあなたの実家や王宮に余計なことは伝えないことね、手が滑って致死毒をばら撒いてしまうかもしれないもの。いい?邪魔はせずにいることよ、そしてわたくしのようなおかしな生き物に手を出したことをせいぜい公開してなさいな」
0
あなたにおすすめの小説
私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ
みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。
婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。
これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。
愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。
毎日20時30分に投稿
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました
みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。
ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。
だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい……
そんなお話です。
寵愛の花嫁は毒を愛でる~いじわる義母の陰謀を華麗にスルーして、最愛の公爵様と幸せになります~
紅葉山参
恋愛
アエナは貧しい子爵家から、国の英雄と名高いルーカス公爵の元へと嫁いだ。彼との政略結婚は、彼の底なしの優しさと、情熱的な寵愛によって、アエナにとってかけがえのない幸福となった。しかし、その幸福を妬み、毎日のように粘着質ないじめを繰り返す者が一人、それは夫の継母であるユーカ夫人である。
「たかが子爵の娘が、公爵家の奥様面など」 ユーカ様はそう言って、私に次から次へと理不尽な嫌がらせを仕掛けてくる。大切な食器を隠したり、ルーカス様に嘘の告げ口をしたり、社交界で恥をかかせようとしたり。
だが、私は決して挫けない。愛する公爵様との穏やかな日々を守るため、そして何より、彼が大切な家族と信じているユーカ様を悲しませないためにも、私はこの毒を静かに受け流すことに決めたのだ。
誰も気づかないほど巧妙に、いじめを優雅にスルーするアエナ。公爵であるあなたに心配をかけまいと、彼女は今日も微笑みを絶やさない。しかし、毒は徐々に、確実に、その濃度を増していく。ついに義母は、アエナの命に関わるような、取り返しのつかない大罪に手を染めてしまう。
愛と策略、そして運命の結末。この溺愛系ヒロインが、華麗なるスルー術で、最愛の公爵様との未来を掴み取る、痛快でロマンティックな物語の幕開けです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる